ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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レベル29.地球

 

 

 

『ランディング完了。周囲に敵影なし。目的地との誤差もわずかです。優秀な船で良かった。……帰ってきましたね』

 

 

二機のゴーストがせかせかと動き回り、周囲の状況をデータとして収集していく。

 

 

「ああ」

 

 

青々と茂る植物、苔むした岩、水を含み湿った地面…。火星の赤錆色の砂漠とも、衛生タイタンの明るいグリーンの海とも似つかない、地球の風景。今再び馴染みある大地を踏みしめ、その実感を得る。

 

 

「やっと、やっと…光を取り戻せるんだな!」

 

 

拳を握り、ザナリー3が歓喜に震える。

 

 

「そうと決まった訳じゃない。あまり期待しすぎると、痛い目を見るぞ」

 

 

そんな彼を見たケイが咎める。

 

 

「期待するなって!?そんなの無理だぜ!それで、どこにトラベラーがいるんだ!?」

 

 

『場所は聞いてありますが、まずは尽きかけているゾンビさんのエネルギーを確保を優先すべきだと思います。幸いなことに、ここはフォールンの勢力圏に近いので、近辺のフォールンからエーテルを奪えるでしょう』

 

 

「目的地へのルートを少し外れたあたりにフォールンの小さなキャンプがあるようだ。そこなら大した敵もいないだろう」

 

 

「決まりだな。フォールンからエーテルを奪って、そしたら光だ!」

 

 

『…ルート修正完了。では、行きましょう』

 

 

各々がスパローを呼び出す。ヘルメットにウェイポイントが表示された。

 

 

………………………

 

 

しばらく進むと、目の前にフォールンのキャンプが見えた。岩場とコンテナの間でドレッグやバンダルが忙しなく働き、また喧嘩などに興じていた。

 

 

「作戦はいつも通りだ。俺は突っ込む。お前は死なない所で適当に撃て。気が向いたら突っ込め。ケイは間に立ってうまくやれ」

 

 

スパローを降り、歩いて移動しながら適当な作戦を述べると、ケイがすかさず口を挟んできた。

 

 

「シンプルというか、私個人の見解を言わせてもらえば、それは…何も決めていのないのと同義だな」

 

 

ケイがため息がちに肩をすくめる。

 

 

「元々俺はリーダーをやるような性格じゃ無いんだ。だったらお前が考えろ」

 

 

巨体が不満げに喉を鳴らすのを後目に、ケイは指を顎に当てて思考する。

 

 

「そうだな。では…君はやはりその図体と耐久力を活かして陽動役だ。目立つからな。正面から派手にオートライフルをばら撒きながら前進してくれ。なるべく大きな音が立てられるといい。命を最優先としたうえで、敵を倒すより目立ち続けることを優先してくれ」

 

 

「ザナリー3。君は…あの高台からハンドキャノンかスナイパーライフルで、敵の指揮官や幹部級を優先して狙ってくれ。高所ならではの視野を活かして、必要があればゾンビ君のサポートも頼む」

 

 

「そして私はその間に立って前線を維持しながら、主にゾンビ君の撃ち漏らしの処理や全体の指示を出そう。どうだろうか?」

 

 

「俺と同じじゃないか」

 

 

「違う。君のは作戦ではない。例え方針が一致したとしても、論理性の欠片もない単なる『こうなったらいいな』という願望だぞ。しかも相当に乱暴なものだ」

 

 

「…どっちでもいいけどさ、俺は高い所から撃てばいいんだよな?」

 

 

「ああ「そうだ」」

 

 

「了解…先に行ってるぜ!始まったら教えてくれ!」

 

 

『我々も行きましょう』

 

 

「仕方ないな。私の作戦が最適だ。必ず従ってくれよ」

 

 

「俺のやることは同じだ。同じ作戦だ」

 

 

右腕に力を入れる。エーテルが流れを早めるのを感じる。やはり流れる量が物足りないが、やるしかない。

 

 

「決して!同じじゃない…!このことについては戦いが終わった後徹底的に議論させてもらうぞ」

 

 

「断る」

 

 

言うや否や駆けだした。

 

 

「あっ!まだ話は終わって…ああ、全く!」

 

 

一拍遅れてケイも走り出した。

 

 

「始まったか!?始まったな!!よっしゃ!撃ちまくるぜ〜!」

 

 

座ってハンドキャノンを弄っていたザナリー3も作戦の始まりを感じ取り戦闘態勢を取った。

 

 

「うぉぉおおおおお!!」

 

 

ケイの作戦通り、あるいは自身のイメージ通りに巨体が暴れ出す。

もはやフォールンの肉体を動かすことに躊躇はない。まずは奥にフラッシュグレネードを投げ込み、敵の襲来に驚く近場のドレッグ達をオートライフルで蜂の巣にする。このあたりの雑兵はどうせ大したエーテルも持っていないので、バラバラにしても問題ない。

 

 

「ザナリー!奥だ!ケッチから降りてくる!」

 

 

少し後ろで撃ち漏らしを処理していたケイが指さす先には、援軍か、キャンプの本隊か。敵が今まさに輸送艦から降りてくるのが見えた。

 

 

「…了解〜!」

 

 

ザナリー3がハンドキャノンをホルスターに戻し、背中のスナイパーライフルを取り出した。適当なカウントとともに、仕留めるのに最適なタイミングをはかる。

 

 

「3…2…あ、ちょっと早い!〜っこなくそ!」

 

 

敵の降下は彼の予測より少しだけ早かったようだが、咄嗟にライフルを構え直し、落下中のキャプテンの頭を撃ち抜いた。

 

 

「え?あ、当たった……っイエース!よおフォールンども!このザナリー3様を覚えとけ!お前達のリーダーを登場前に一撃で倒した男だ!容量のちっせえデータベースに刻んどけ!ハッハー!」

 

 

「相変わらず、遠当てなら恐ろしい腕前だな」

 

 

「遠当てだけならな」

 

 

ケイが素直に賞賛の言葉を送り、ゾンビが悪態をついた。リーダーが突然やられたことで、こちらには余裕が、敵の中には明らかに動揺の波が広がりつつあった。

 

 

「…よし!統制が崩れるぞ!グレネード再投擲!反撃に注意して前進!押し込め!」

 

 

「おおおおおおおおおおおお!!」

 

 

指示を受け、今まで以上に派手な咆哮を上げながら前進する。苦し紛れのドレッグのナイフやバンダルのピストルを右腕で弾き、左手のグレネードを無理矢理押し込んでやると、爆発音とともに数体のフォールンがバラバラになった。

直後、四本の腕にブレードを構えたバンダルの小隊が正面に躍り出る。

出会い頭に巨体を活かしてタックルをかまし、一体を弾き飛ばした。動揺の隙に数歩分後退し、バンダル達に向け、腰のマシンガンを取り出し撃ち込んだ。

 

 

『まずい、後ろです!』

 

 

直後、背後に伏せていたバンダルが透明化を解除し、こちらへ斬りかかってくる。

間に合わない。そう思った矢先、バンダルの頭が弾けた。見上げると、ザナリー3が得意げにハンドキャノンを構えていた。

 

 

「気合い入ってんなあダンナ!やっぱ楽しみだよなあ!?」

 

 

「やかましい!まだ終わってないぞ!!」

 

 

「分かってるって〜!」

 

 

「このままのペースならあと少しだな…いや、これで最後か?ゴースト。このあたりを探ってみてくれ」

 

 

『周囲に敵影なし。援軍はありません』

 

 

「よし…ならあとは目の前のコイツだけだな」

 

 

どこかしこに煙が上がり、バチバチと故障した機械が音を立てる。もはやフォールンは負傷し動けなくなった目の前のキャプテン一体のみとなっていた。手足が動かなくなっても、目だけでこちらを睨みつけ、唸りを上げて威嚇してくる。

 

 

「巨体により多少の怪我では死なないのだろうが、この状況に至っては、それは幸か不幸か…悪いが、ここでお前を逃がしてやるほど慈悲深くないのでな」

 

 

「アバヨ!ガーディアンに生まれ変わったら、俺の渾身のジョークも聞かせてやるよ!」

 

 

乾いた音が響き、キャプテンは動かなくなった。

 

 

「…終わったか」

 

 

『では、エーテルの補給をします。しばらくじっとして下さい』

 

 

ライフがキャプテンのエーテルタンクを自分の背中に取り付けられた装置と接続する。

 

 

「難儀な身体だな…全く」

 

 

『ですが、それで助かっています』

 

 

「そうだろうとも…さあ、光を取り戻すための作戦を考えるぞ。決まったらすぐに行動を開始する」

 

 

「エッ?作戦?なんで?もうあとはトラベラーの所に行くだけだろ?」

 

 

『…【彼】が言うには、落下したトラベラーの破片の周辺には、邪神の軍勢…宿られた兵達が待ち構えていたそうです』

 

 

「邪神…!?まさか、あの真っ黒で、キモチワルくて、ガクガクしてるアイツらのことか!?」

 

 

「ああ。ハイヴの邪神オリックスが、息子の復讐のために送り込んできた軍団だ」

 

 

「ただ…」

 

 

『ええ。オリックスは既に打倒されているハズです。出どころが分からない敵…構成も規模も、予想がつきません。正直、かなり危険です』

 

 

「ああ。だが朗報もある。私は以前その点についてイコラと話をしたんだ。彼女によると、実はオリックス打倒後、シティ崩壊前にも宿られた兵の目撃例が複数回あったようだ」

 

 

「でもアイツらはオリックスが生み出してたんだろ?ならただの生き残りなんじゃないのか?」

 

 

「私もそう考えていた。だが、その他いくつかの研究データから見出したイコラの見解は違った。彼女は、宿られた兵はオリックスが一から生み出したものではなく、ハイヴとは無関係な異空間の力を利用したものだというのだ」

 

 

「つまり、オリックスは宿られた兵を利用し我々を攻撃したが、そもそも宿られた兵はオリックスがいなくても存在する。オリックスがいなくなっても、彼らが消滅するワケではない」

 

 

「結論。オリックスは死んだが、宿られた兵はいてもおかしくない。…可能性がある」

 

 

「フーン…?倒せるから大丈夫ってことか?」

 

 

「それは不明だ。そもそも先の話でさえ微細な資料から立てた予測に過ぎず、結論を出すには不十分なのだ。宿られた兵はオリックス自身の力ではないかもしれない。だとすればオリックスがもういなくても宿られた兵は継続して存在できるかもしれない。そして今までは攻撃すれば倒せたから、これから先も同じように倒せるかもしれない。そんな希望的観測を多分に含む」

 

 

「…細かいことはもういい」

 

 

「長話は後で俺のいない所でやれ。ここまで来て今更後戻りはできない。敵がいれば倒す。それだけだ」

 

 

「そうだそうだ!ムズカシイ話と長い話ハンターイ!!」

 

 

「ううん…はあ…全く。衛星タイタンにいた頃は、生き残った研究者達の議論のレベルの低さに失望したものだが…それでも話を聞いて、返事をもらえるだけマシだったのかもしれないな。ゾンビ君などは、出会った頃はまだ話ができたハズなのだが」

 

 

『お気持ちは、お察しします』

 

 

「お前の長い上につまらん話に飽きただけだ」

 

 

「あ!ところでダンナ、さっきのフォールンなんだけどさ、なんか銃にストラップつけてんの!あ、ドレッグだったんだけどさ、あの最初に出てきたヤツ!あ、ダンナ視点でね!最初って行っても俺とダンナじゃ見てる場所が違うもんな!そこを忘れる俺じゃないぜ?そんでえっと、何だっけ…そうそう!そのドレッグの持ってた銃にストラップがついてたことなんだけどこれがケッサクでさあ!個人的には最近の中でもトップくらいに面白い話しだなぁウン、もちろん聞くだろ?なあダンナ、気になるだろ?でもなぁ〜、こんな所で聞かせるよりもっと溜めた方がいいかなぁ?どう思うダンナ!?アレ、ところで何の話だったっけ!?」

 

 

「お前が一番やかましい!黙ってろこのポンコツ!」

 

 

ザナリー3の顔面を右手で鷲掴みにする。エーテルの量は十分。素晴らしいパワーが出力された。ザナリー3が右手の下で暴れる。

 

 

「ガガー!ガガガ!(壊れる!ついに壊れる!)」

 

 

『…すみません。エーテルが回って、少し元気になりすぎたようで』

 

 

「ザナリー君はあまり変わらないがね。さっきまで割と静かだったのは、ゾンビ君の元気がなかったせいだったのだろうか。なら、彼の憎まれ口も合わせて復活、ということか…」

 

 

ケイは二人のやりとりをひとしきり眺めると、ため息をついた。

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