「…ううん、イヤになるほど静かだぜ隊長?」
ザナリー3がキョロキョロと辺りを見回す。
実際、トラベラーの破片があったという場所への道中、ほとんど敵に出会うことはなかった。
「そうだな。かなり遠くでフォールンとハイヴの小競り合いが聞こえるが、そのくらいか」
『周囲に敵影なし。ですが、場所を間違えてはいません』
「いいことじゃないか。このまま光を取り戻して、無傷で反攻作戦に参加する。俺達はシティを取り戻し、あの頃のガーディアンに戻る」
「ダンナ、その見た目で元のガーディアンってのは流石にムリがあるぜ!まあ俺もだけどな」
「………」
「アレ、怒らないのか?」
ザナリー3の方へは振り返らない。それよりも気になる物が目の前にあったからだ。
「……ライフ」
『ええ。ここ…でしょう。この先に、夥しい数の宿られた兵がいます。景観や他の状況も、【彼】の報告と一致しています。まず間違いありません』
錆びた廃屋を抜けていった道の隙間、獣道とも呼べない単なる暗い森の中へと、事前に設定されたルートは続いている。そして、その奥には宿られた兵の黒々とした痕跡が至る所に残されていた。
「慎重に進もう。我々が一人も欠けることのないように」
ケイが身構える。
「ああ。そうだな…」
腰のライフルに手をかけた。ここからは、銃を取り出しておいた方がいいだろう…
………………………
「かなり暗いな。宿られた兵はまだ見当たらないか?それらしい痕跡はよく見るんだが…ケイ、そっちはどうだ」
森を奥へと進んでいく。静かすぎることに違和感を覚え、仲間に話しかけた。だが返事はなく、沈黙が辺りを支配する…
「ケイ?どうした?」
やはり返事はない。振り返ると、ここには自分以外に誰もいないことに気がついた。
「……ケイ?ザナリー?……ライフ!」
「ライフ!何を黙ってる!すぐに周囲を探れ!敵がいる!」
敵が自分達を分断したことを想定し、ゴーストに警戒を求める。だがそのゴーストすらも、自分の元から居なくなっていた。
「ライフ!!」
「ライフ!どこへ行った…クソ!何だというんだ!」
とりあえず、設定しておいたルートを進むことにした。もしこのルートが正しいなら、ゴール地点で合流できるはずだ。
しばらく歩いていると、浮かび上がるホログラムのようなものを見つけた。薄ぼんやりとしたそれは人の形をしており、かつての自分達と似たような装備を身につけているように見える。
「……なんだこれは……ガーディアンか?」
『誰よりも強くありたいと望め。暗黒に挑め。そして何よりも硬くなれ…タイタンは鉄だ。叩けば叩くほど強くなる…自分のガントレットとヘルメットを信じろ。己の強さを信じ、一歩も退かない強い決意があれば、タイタンに負けはない』
どこからともなく声が聞こえる。かつてよく聞いた声…もう聞くことのない声。かつてのファイアチームの仲間、その内の一人の声だった。
「アイリーン…!?お前なのか!?どうしてこんな所にいる!!あの日俺が…殺したハズなのに!」
『ナイフは切れ味が全てだ。本当にいいナイフなら、カバルのヘルメットなんか紙きれみたいに切り裂ける。ちょうどさっき見せたみたいにな…ガーディアンなら、暗黒を最もよく切り裂くナイフであるべきだ…お前はどうだ?ナイフを持ったことはあるか?』
また別の所から声が聞こえる。そちらへ振り向くと、また別のホログラムが映し出されていた。
「ダカート76!何だ!何が起きてる!?」
『常に方法を模索しろ。最善を尽くせ。死を克服した我々にとって、もはや死は失敗ではない。冷酷に命を使い捨て、最も効率的に暗黒を打倒するのだ。ガーディアンはそのためにある。私はその答えが永劫の苦しみであったとしても、躊躇しない』
「リンドーズ…!」
ホログラムに向かって手を伸ばした。手は、そのまま映像をすり抜けていく…
「触れられない…映像なのか…?ライフか?それともトラベラーが見せる幻覚か?」
『恐れるな。そして忘れるな。我々の戦いを、トラベラーが見ている…守るべきシティと市民達。ガーディアンの役割を忘れるな。我々は死んでいった英雄達と、打ち倒した敵の死体の上にのみ立つことができる。ガーディアンに平穏はない。暗黒を打倒するまで、我々の戦いは終わらない』
聡明そうなウォーロック。腕には、見覚えのあるリストバンド。
「エイ、リークっ…!!」
自らの罪を見せつけられるような、おぞましい感覚に襲われる。いても立ってもいられず走り出した。
………………………
しばらく走っていると、開けた場所に出た。
「…ここは…」
広場の中央に、大きな白い金属の塊が見える。恐らく、アレが目的のものだろう。
「アレは…!見つけたぞ!」
「ライフ!どこにいる!トラベラーの破片だ!」
『…見つけました!ああ、どこへ行っていたのですか!』
広場の片隅から小さな光がふらふらと浮上してきた。ずいぶんと久しぶりに会ったような気がする。
「ライフ!…それはこっちの台詞だ!突然いなくなって、妙な映像まで見せやがって!」
あのホログラムは恐らくライフのイタズラだろうと勝手に決めつける。もちろんそんな無駄なことをしても仕方ないのだが、他に心当たりがないのだ。
『突然いなくなったのは…いえ、映像ですって?』
「あのファイアチームのメンバーのことを知ってるのはお前だけだろう!」
『…まさか、彼らを見たのですか?』
「惚けるのもいい加減に…」
『違います!私も見ました。いくつかの映像が、ところどころに投影されて、そして道標のように…それに従って、ここへ来たのです!』
ライブがくるくる回って自身の体験を説明する。どうやら彼も似たような体験をしたらしかった。
「何だと?なら誰が?いや、何のために…」
『…トラベラーが、ガーディアンをここへ誘導した、というのはどうですか?』
「…いかにもお前が好きそうな答えだ。まあ、気にしても仕方ない。結果としてここへたどり着いたのならそれでいいだろう」
『そうですね。トラベラーの破片…まさか本当にあったとは』
「光はどうやって手に入れる?」
歩いてトラベラーの破片に近づく。想像していたよりも大きく、言葉にできないが、何か迫力のようなものがある。そう感じた。
『私に任せて下さい。破片に残された光を、私がバイパスします』
ライフが自身の元から離れ、破片と自身の間に位置取った。
「そうか。なら頼む」
『ええ。行きますよ…!』
ライフのシェルが大きく開く……
………………………
「…これは」
両手を見る。じんわりと、体に今までにない感覚が広がっていく。不快ではない。むしろ暖かく、懐かしく。心が満たされ、勇気を得られるような…
『成功…しました。やりました。今やあなたはエーテルを身体に宿しながら、光を扱うことができます』
「いい感じだ。身体が軽い。それに…」
バチッ、と、体からアークエネルギーを発する。フォールンの機械からではなく、自分に流れる【光】から発生させた、正真正銘のガーディアンの力。
『ええ。本当に久しぶりでしょう。ちょうど、あなたの光に誘われて宿られた兵達が集まってきています。試運転には最適です』
見れば、光に引き寄せられたのか、ずっと見なかった宿られた兵達が集まってきていた。
「ああ。行くぞ!」
光を伴う戦闘。それはずいぶん久しぶりのハズなのに、身体は驚くほど自然に動いた。
強く拳を握る。腰を落とし、全身にアークエネルギーを纏う。目前の敵を見据え、それを一撃のもとに打ち倒す様をイメージする。…タイタンの中で、最も激しい力。
ハボックフィスト。かつて自らが最も得意としたその技は、まるで彼の帰りを待っていたかのように…それは無敵と見まごう威力でもって、その猛威をふるった。
………………………
「開けた所に出たな。いや、入口に戻ったのか」
宿られた兵を蹴散らし、入口まで戻った。今度はゴーストと分断されることも、妙なホログラムを見せられることもなかった。
「やあ…どうやら君は成功したようだ」
「ケイ」
入口ではケイとザナリー3が待っていた。口ぶりから見るに、どうやら自分より先に用事を済ませたらしかった。
「光を取り戻した気分はどうかな?私は普段通りだ。無闇に力を振るう趣味も無いことだしね」
ケイが手の上にソーラーの光を浮かび上がらせる。彼女も光を取り戻せたようだ。
「俺はハボックフィストを撃ち込む気分を思い出した。中々悪くない」
「フ…そうか」
『あの…』
ライフがザナリー3に注意を向ける。彼は座り込んで、珍しく静かに俯いていた。
「……まあな。分かってたよ………ゴースト無くして光無しってとこかな」
「ザナリー」
彼は光を取り戻すことができなかったようだった。自分がゴースト経由で破片から光を得たことを考えるに、ゴーストがいないのが影響したのだろうか。
「俺もトラベラーにたどり着いたんだ。はぐれた後に…走り回って。ほぼ偶然。っていうかラッキー。でもその後は……」
ザナリー3は深いため息をついた。
「何をしても、トラベラーの破片は反応しなかったそうだ」
「そうか」
「そうか。じゃねえよ!!チクショー!光を取り戻してさぞ気分が良いだろうな!この……えっと、ダメ男!モヤシ肌!実はインドア派!…ちょっと待ってろ、良いのがもうすぐ出てきそうなんだが…」
ザナリー3はひとしきり騒いだあと、何やら考えこんでしまった。情緒がいつにも増して不安定に見える。どうやらショックを受けているのは本当のようだ。
「フン…それで、お前はどうする?」
様子を見かねて、これからのことに話題を変える。
「どうって…」
「光を取り戻したらシティ奪還作戦の援護に向かう予定だった。だが、光を取り戻せなくても向かうつもりだった。違うか?」
元々、光を取り戻せる確信などなかった。いわば寄り道で、シティ奪還作戦に参加することは決まっていた。運良く自分ともう一人は光を取り戻したが、どちらにせよ作戦には参加するつもりだったのだ。
「ああ?あー、そりゃあ、まあ…そうだ。でも…」
「だが、ここでお前に選択肢を用意してやる。お前は俺達と共に戦い、シティを取り戻すか…どこか遠くへ逃げて、いつか来る死に怯えながら…【臆病者】として暮らすのか」
「…言い方ってもんがあるぜダンナ」
ザナリー3が立ち上がる。その声色には、明らかな苛立ちが感じられる。
「ああ。お前がそう言われるのが嫌いなのは知っている。…ザナリー3。確かに俺達と共に来れば、お前は死ぬかもしれない。お前のリスクは俺達より高い。だが生きるか死ぬかの崖っぷちにいる…それは逃げたところで同じだろう。だったらガーディアンとして、勇敢に死ぬべきだ」
「それに、光があろうと無かろうと、死ぬ時は死ぬことに変わりないしな」
「何より…あー……つまりだ。お前の狙撃の腕は、シティ奪還に必要だと、俺は思う」
「……〜〜〜!!それ褒めてんのかワカンネーよ!ああもう!分かったよ!俺も行くよ!!………まあ、元々半分くらいは諦めてたことだしな。分かってはいたんだ…」
「死人がガーディアンとして光をもらって生き返る。そのキッカケはゴーストだ。なら、光を取り戻す時も、きっと…なんてな。薄々な」
「そうか」
「…ザナリー。私や彼に、君の気持ち全てを分かってやることはできない。だが…」
「ああ。いいよ。なんで俺だけ、とか、気にしてないとは言えないけど…まあ、割り切るし、戦うさ。俺だって心はガーディアンだ」
「…君の勇敢さに敬意を表する」
「よせよくすぐったい!…いややっぱりもっと言ってくれ!」
『お話の途中ですが、そろそろ移動しましょう。作戦開始時刻も迫っています』
「そうか。なら移動だ。…話によると、ガーディアン以外の民間人も作戦に協力するらしい。彼らとは顔を合わせないようにしないとな」
「なんで…って、ああ、そういやフォールンに間違えられて捕まったこともあったな」
「そうだ。今回の協力者は勘違いで俺を捕えた節穴男の仲間だそうだ。だから信用ならんし、向こうから信用されもしないだろう」
「まあ、そりゃあな」
「疑われるに足る見た目だという自覚はある。自分で選んだものだが…今更戻れもせん。この力も利用してシティを取り戻す」
「その意気だ。さあ行こう。バンガードが我々の到着を心待ちにしているはずだ」
寄り道は終わった。3人は船に向けて歩き出した。
………………………
『作戦予定エリアに入りました。ザヴァラに通信を繋ぎます』
ライフがザヴァラの映像を出力する。
「分かった。…ザヴァラ。言われていた場所に着いた。どうすればいい」
「ガンドール。そこに仲間の二人もいるか?」
ザヴァラが話し始めた。いつも通りの無表情だ。
「ああ」
「…ガンドールと呼んでも、何も言わないのか。心境の変化か?それとも、もしや光を取り戻したか?」
「そうだ」
「そうか…それは素晴らしい。この作戦において君達のバックアップが不十分であることが懸念事項だったのだが、それも君たち自身のパワーアップという形で解消された」
「そうか。それで作戦は」
「ああ、そうだな。本題に入ろう。…端的に言えば、君達の仕事は陽動だ」
「陽動?囮になれということか?」
「そうだ。今回、我々は電撃的に敵の大将のところへ【彼】を送り込み、単独でガウルの首を取ってもらうことにした」
「大胆だな。成功するのか?」
「議論は重ねた上で、もう決まったことだ。後は【彼】に全てを託す…それだけの力量があると、我々は見込んでいる」
「………」
【彼】。今までも何度か話には出ていたが、実際に関わるのは初めてだ。同じく光を失ったガーディアンでありながら、すぐさま光を取り戻し、バンガード再建やカバルの作戦妨害のため様々な功績を上げたとか…
バンガードがその【彼】に賭けると言うのなら、個人として否応はない。ただ、会って話がしてみたいと、少しだけ思った。
「そして、シティは今や敵の本陣と化した。どこかしこをリージョナリーがうろつき警戒している。入口には厳重にガードされ、一時的にでもポイントを確保しないとシティに侵入すらできない。つまり…端的に言えば、彼らが邪魔なのだ」
「それで、我々が派手に暴れて巡回のリージョナリーどもの気を引けと?」
「いや、それは別の部隊が行う。君達にやってもらいたいのは、戦火に引かれて集まってくるシティ周辺の敵の排除だ」
「知ってのとおり、シティを一歩出れば、そこはフォールンやハイヴの巣窟だ。我々がカバルと戦闘を始めれば、これ幸いにと便乗してシティを狙ってくるに違いない」
「カバルを打倒して疲弊したところへ、新手が来るのは避けたい。だがそれを防ごうにも、そちらに戦力を割いていてはそもそもカバルを倒せない」
「そこで、我々というわけか」
「そうだ。エリスの報告を信じるならば、君達は光を失ってなお、数多くのフォールンやカバルを撃破した実績がある。そして、主戦力には加えられない事情もある」
「そうだな」
ガーディアンならともかく、市民の協力があるともなれば、この身は晒せないだろう。完全な別働隊として動かすのは妥当な判断と言える。
「結論として、バンガードは君達をシティ外縁に配置し、シティ外から来るであろう敵の哨戒、および撃破を担当してもらいたい」
「………」
「危険な役割だ。できないと言うのなら、それでもいい」
「あ、降りてもいいの?」
ザナリー3がとぼけた声を出す。無視した。
「いや、やるさ」
「…そうか。では作戦の更に詳しい説明については、別のものからさせる。私はもう別の所へ行かなくてはならないからな。少し待っていてくれ」
そこまで言うと、ザヴァラはその場を去った。少しだけ空いた時間に、ケイが耳打ちしてきた。どうもザナリーには聞かせたくない話があるらしい。
「…ゾンビ君。いや、もうガンドールと呼ぶべきかな」
「好きに呼べ。光は取り戻したが、身体は変わっていない」
「ではゾンビ君と呼ぼう。…単刀直入に言って、君は死ぬ気だな?」
「………」
「事ここに至り、皆命をかけているのは同じだ。最早作戦に反対はすまいが…」
「ケイ。俺は死ぬ気などない」
「慣れない嘘などつくものではないぞ」
ケイが諭すように続ける。
「私は心配なんだ」
「………」
「…私もザナリー3も、君を起点としてここまで来た。この3人のファイアチーム。そのリーダーは君だ……自ら死ににいくような真似だけはしないでくれ」
そこまで言うと、ケイは離れた。自分が言ったことは事実だ。自分から死ぬつもりなどない。だが、死んでも構わないと思っている部分もあるのは確かだった。
どうも自分が気がつかない所まで見透かされたようで、居心地が悪かった。
「フン…」
思いもよらなかったことだが、確かに自分はこの2人と協力してここまで来た。即席とはいえ、チームと言って差し支えないだろう。
…仲間が死ぬのは堪える。自分のような後悔をさせないためにも、死なないためにできる限りのことはしよう。
そう思った矢先、ライフが再度映像を受信する。
『……こんにちは。私はガルダ62。ザヴァラから聞いている通り、ここからは私が作戦の詳細を説明します。話の途中と最後に質問タイムを設けますので……