ゾンビが人間を守って何が悪い   作:セイント14.5

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レベル32.別れ

 

 

 

その戦いは凄絶を極めた。たった一人のガーディアンに群がり襲いかかる、何十、何百もの敵。それは海の上に浮かぶ木片を、大波が呑み込むようにして彼を押し潰した。

 

 

何度も、何度も、雷鳴が轟いた。一撃、また一撃と、光を、命を削り、稲妻が走った。敵の陣形を破壊すべく、また彼の防衛線を抜け出そうとする狡猾な敵に向けて。しかしそれは、圧倒的な数に対してあまりにも無力だった。

 

 

彼の戦いはなんの記録にも残らなかった。だが、彼の引いた防衛線は、最後までドレッグ一体すら通すこともなく、ついには敵に二度目の撤退を強いた。

彼の戦いの目撃者はいない。彼の最後の戦いを知るものはいない。彼は誰知れず勇敢に、果敢に戦った。それだけが事実だった。

 

 

………………………

 

 

「隣のブロックは立て直しが完了したぜ!待たせたなダン……ナ…?」

 

 

隣のブロックの救援を済ませ、急いで戻ってきたらしいザナリー3がキョロキョロと辺りを見回す。

 

 

「………」

 

 

ケイも少しだけ何かを探すようにしたが、遠くへ退いていく敵を見つけると、得心したように黙りこんだ。

 

 

「アレ?どうして誰もいないんだ…?行く道間違えたか?」

 

 

ザナリー3が歩き回って彼を探す。土嚢の影、岩場の裏、段差の下…

 

 

「………」

 

 

ケイは黙っている。

 

 

「違うよな。来た道そのまま戻ってきたし…うん、俺はあの岩の上から撃ってた。間違えてねえ。ダンナは確かに、ここで増援と一緒に…あ、先に帰っちまったのかな?」

 

 

どうしても目的の人物が発見できないことに、ザナリー3は頭を抱えて考えこんでしまった。

 

 

『ザナリー3』

 

 

そうした矢先、ザナリー3達が来た方角から見慣れたゴーストが現れた。

 

 

「ライフ…ということは、やはり…」

 

 

「ライフ君!いたのか!なあ、ダンナはどこ行ったんだ?」

 

 

ザナリー3が駆け寄る。

 

 

『私はあなたを追っていましたが、どうやらすれ違いになってしまったようですね』

 

 

「俺を?なんで?」

 

 

ゴーストは俯き、少しだけ考える素振りを見せたが、すぐにザナリー3に向き直った。

 

 

『説明は後にしましょう。彼が作った時間ももうすぐ終わります。やがて敵の第3波が来ます。…今度はあなた達でここを守って下さい』

 

 

ゴーストがザナリー3の正面に回る。彼のシェルが展開を始めると、淡い光がザナリー3を包んだ。

 

 

『唐突ですが、これからは私があなたのゴーストになります。少しじっとしていて下さい…』

 

 

「…オイオイ、なんか言ってる意味が…」

 

 

ザナリー3は状況に理解が追いつかないようで、あたふたしている。

 

 

『ガーディアンは死にました』

 

 

そんな彼に向けて、ゴーストは極めて無感情に、ただ事実を述べた。

 

 

「………はっ?」

 

 

ザナリー3は動きを止めた。

 

 

「………」

 

 

ケイは俯き黙っている。

しばらくの静寂があたりを支配した。

 

 

『ガーディアンは…彼は、ガンドールは死にました。増援は嘘でした。彼はあなた方を見送り、一人でここを守りました』

 

 

「な、えっ?ハハ、何を言ってるんだ?」

 

 

『ザナリー3。全てはこれが終わってから話します。今は戦って下さい。時間がありません』

 

 

「……いや無理だ」

 

 

ザナリー3が一歩後ずさる。

 

 

『ザナリー3』

 

 

「無理だ」

 

 

二歩、三歩後ずさり、ついにはその場にしゃがみこんだ。

 

 

「無理だ!ムリムリムリ!知ってるだろ!?なんで俺がいっつもダンナの背中に隠れて撃ってたか!なんで俺が他のハンターみたいに前でショットガンやナイフを振り回さないのか!」

 

 

『………』

 

 

ゴーストはザナリー3を見つめて動かない。

 

 

「…【臆病者】なんだよ!俺は!ダンナが守ってくれるとこからしか銃を持つこともできない、出来損ないの…」

 

 

『ザナリー3、あなたは…』

 

 

「ダンナが死んだって?もしそれがホントなら、俺はもうダメだ!戦えない!誰が俺を守ってくれる?誰が俺に戦い方を教えてくれるんだ!?」

 

 

「ハ、見てくれよ…脚が震えてる!ホラ!…情けないって笑ってくれよ!臆病者だって!ああ、もうダメだ…これから俺はどうやって戦えばいいんだ…?いや、そもそも戦えるわけない!」

 

 

「戦えないなら、もう前に戻るだけだ…隠れて暮らそう…敵も味方もいない…俺一人に戻って、静かに…」

 

 

頭を抱えうずくまるザナリー3。そこへザリ、という砂利がこすれる音が鳴り、見覚えのあるブーツが視界に入った。見上げると、ケイがザナリー3を覗き込んでいた。

 

 

「それで?」

 

 

「ケイ、止めないでくれよ…俺は今から逃げるからな。ライフ君も、俺なんかより他のもっといいガーディアンを新しく見つける方がいい」

 

 

ケイはため息をつく。やれやれ、とでも言いたげに肩をすくめてみせた。

 

 

「前は敵の大軍勢、隙間なんてないな。後ろは言わずもがな、敵の占領地だ。まさかそこに、今から独りで隠れる場所を探しに行くなんて言わないよな?」

 

 

「いや、それはそうだけど…でも、じゃあ戦えって言うのか?死ぬかもしれないのに!」

 

 

「いいかザナリー3。私は今から君につらい事を言う」

 

 

「…ゾンビ君は死んだ。だがね」

 

 

「だがそんなもの、今の君には関係ないことなんだ」

 

 

ケイの口から放たれた言葉に、ザナリー3は一瞬たじろいだ。だが次の瞬間には、ケイに掴みかかっていた。

 

 

「…なっ何だよそれ!ケイ!お前は…!」

 

 

興奮するザナリー3を掴み返し、ケイは畳みかける。

 

 

「聞け!今さっき私達は何をしてきた?隣のブロックの増援に入って、戦って、敵を倒した。そうだろう?」

 

 

「そりゃ、ダンナが生きてるって思って!早く助けに戻らないとって!」

 

 

「ゾンビ君はいなかったのにか?」

 

 

「…な」

 

 

「事実だ!…私は客観的事実を述べる。ザナリー3。君はもう、【彼がいなくても、自分の力で戦っている】んだ」

 

 

「へ、ヘリクツだ!そんなの思い込みだ!そんなこと言ったって、現に今、俺は戦えてないじゃないか!」

 

 

「いいや、戦えるとも」

 

 

「…なんっ、なんでそんなにハッキリ言えるんだよ!?」

 

 

中々心の決まらないザナリー3に、ケイは更に言葉を続けようとしたが、敵がもうすぐそこまで迫ってきていることに気がついた。

ケイはザナリー3を掴んでいた手を放し、腰の銃を取り出し構える。

 

 

「…どうやら時間切れだ。ザナリー3。あとは君自身で気がつくしかない…私が死ぬ前に答えを出してくれると助かる」

 

 

そう言い残し、彼女は走り出してしまった。

 

 

「ま、待ってくれ!そんな…俺はまだ何も分かってないんだ!教えてくれよ!オイ!」

 

 

「くそっ…何だってんだ!一人で戦えないから、ずっとダンナの背中に隠れてたんだぞ?…そのダンナがいなくなったのに、今までと同じように戦えるわけないじゃないか…」

 

 

「自分で気がつく?もう戦えてる?…ダメだ、なんにもわかんねえ!」

 

 

再びうずくまろうとした時、背後から衝撃を受け転倒した。驚いて振り向くと、2体のカバルがこちらへ銃を構え前進してきていた。

 

 

「うっ…!カバル!?なんで!?本隊はどうしたんだよ!」

 

 

咄嗟に逃げる。少し離れた岩陰に身を隠した時、胸元で何やら作業をしていたゴーストが浮き上がり、目の前に姿を見せた。

 

 

『はぐれ部隊のようです』

 

 

「ライフ君!なあ今大変なんだ、どうすれば…」

 

 

『ザナリー3。いえ、これからはガーディアンと呼びましょう。今、私とあなたの接続は完了し、あなたは再び光を取り戻しました。ただ、光はまだ【彼】の残滓だけですが…』

 

 

ゴーストは淡々と語りかける。

 

 

「俺が…ガーディアンだって!?」

 

 

『ガーディアン。あなたをガーディアンとするのは、前のガーディアン…ガンドールたっての希望でした。私は彼の意思に従っているだけです』

 

 

「ダンナの…?」

 

 

『ガンドールはあなたへのメッセージは特に残していません。ですが、あなたがガーディアンなら、誰に言われずとも分かっているハズです。あなたが…ガーディアンがすべきことは何か』

 

 

「ガーディアンが…ガーディアンは、トラベラーと市民を守る…?そういうことか…?ダンナならそう言うのか?」

 

 

『彼なら、ではありません、ガーディアン。あなたは、あなたの意志で、ガーディアンとしての責務を全うして下さい』

 

 

「俺、俺の…意志で…」

 

 

「俺が…ガーディアンになって……」

 

 

『………』

 

 

両手を見つめる。握って、開いても、何も変わらない。

【臆病者】。そう蔑まれた、銃もマトモに持てなかった手。

無愛想で、大きな背中に隠れて、やっと役に立てた。

こんな自分でも戦えた。ガーディアンになれた。そう思ったのに。

 

 

その背中は、今はもうない。

 

 

「…やっぱ難しいよライフ君…俺が戦うなんて…怖くて怖くて…ホラ脚が震えてる。いやこれはさっきも言ったかな…」

 

 

『………』

 

 

ゴーストは、じっとこちらを見つめている。

 

 

「うん。慰めてくれって訳じゃない…ライフ君は優しいな。分かってる…ダンナは俺を信じてくれたんだ。俺はもう戦えるって。それも分かってる……でも……」

 

 

震える脚をなんとか動かし、片膝を立てる。腰のハンドキャノンを取り出す。

 

 

「俺は物語の主人公じゃない。いきなりスゲー力に目覚めたり、気の持ちようで全部が上手くいったりしない」

 

 

弾を込める。

 

 

『…ガーディアン』

 

 

「だから」

 

 

「…だから、今だけだ!この1回だけ、今だけ、俺は俺じゃなくなる…おバカで臆病者のザナリー3はどっかにしまう。強いガーディアンのザナリー3が、ダンナの信じたザナリー3が、1回だけ、ここに立つ」

 

 

「やっぱり死ぬのは怖いけど、正直逃げたくてしょうがないけど!今だけ戦う!!それからのことは、それから考える!」

 

 

1、2、3。勢いよく岩陰から身を乗り出し、カバルの頭を狙って、ハンドキャノンの引き金を引いた。

彼の放った2発の銃弾は、見事に2体のカバルの頭を吹き飛ばしてみせた。

 

 

『…ありがとうございます。ザナリー3。あなたは立派なガーディアンです…彼の判断は間違いじゃなかったと思います』

 

 

カバルが動かないことに確認して、ケイが向かった方を振り向く。

ケイはなんとか敵を押しとどめているが、かなり苦戦している様子だった。すぐに助けないと、彼女も新たな犠牲者となってしまうだろう。

 

 

「うん。ありがとう…さ、さあ行くぞ!待ってろ暗黒ども!ダンナの仇討ちだ!ここからは、この俺!ザナリー3が相手をしてやるぜ!!」

 

 

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