フォールンの援軍。まさしくピンチだ。正直に言うと、勝てる気がしない。
「フォールン…!詳しく分かるか?」
『ドレッグ5、バンダル3!それと…キャプテンがいます!サービターを連れています!』
「一部隊丸々来てんじゃねえか!一体何したんだ!?」
『何かしたのはあなたでしょう!?バンダルを取り逃したなら、仲間を呼んでくるのは当たり前です!』
「…確かにそうだが!ワイヤーライフルで全部倒すのは無理が…」
『ああ!もう来ます!構えて!』
「っ!」
キャプテンの雄叫びが洞窟内を反響する。どうやら怒っているらしい。同調したのか、他のフォールン達もそれぞれに声を上げる。
「…まさか、フォールンの大声に恐怖する日が来るとはな」
今までは、煩わしいとしか思っていなかった。慣れた頃には、もう意に介さなかった。自らの無力がどこまでも恨めしい。
「………ライフ。考えがある」
ドレッグから剥ぎ取った電磁ナイフを見つめる。エーテルも補給した今、身体は動く。
状況は、さっきとは違う。絶望ではない。むしろ…
……………
「いいぞ…そのまま来い…」
身をかがめ、フォールンを待つ。
『フォールン、曲がり角の向こう側に到達』
『…本当にやるのですか?あなたは元タイタンなのに…』
「だが、今はタイタンじゃない。なら、やることだって変わる」
『慣れの話をしているんですよ』
「やらなきゃ死ぬのは変わらんだろう」
『そうですか……来ますよ』
「よし…そのままだ…」
ドレッグが部屋に入ってくる。キョロキョロと辺りを見回す。
『…気づかないものですね』
「生き物は上下の動きに弱いのさ。フォールンもそうかは知らんが…」
俺は、柱を伝って天井の梁に登っていた。ハンターのマネだ。かつての俺はタイタンだったが、一度としてこんな卑怯なマネはしなかった。今回は仕方なく…だ。そうやって勝手に納得して、作戦通りワイヤーライフルを構える。
「ドレッグは後だ。次…」
続いて入ってきたバンダルに狙いを定める。
呼吸を整え、引き金を握る。エーテルを補給したおかげで、支えが無くても持ち上げられるようになっていた。
「…ふっ!」
特徴的な発砲音。何度聞いても慣れないな、なんてのんきなことを考えながら、リロードする。
弾丸はうまくバンダルの頭を撃ち抜いたようだ。プシュー、という音を立ててバンダルが倒れる。
「アレは、パイプからエーテルが漏れる音だったんだな」
続けてバンダルを撃つ。今度は肩に命中した。ドレッグの一体がこちらを指して叫んでいる。場所がハッキリとバレたようだ。
「やれると思うか?」
電磁ナイフを取り出し、強く握る。刀身はバチバチと音を立てている。
『やるしかありません。それに、これはあなたが考えたんです…残りはドレッグ5、バンダル1、キャプテンとサービターです』
部屋にキャプテンが入ってくる。榴弾ランチャーを構えている。アレはワイヤーライフルより痛い。いや、今は痛いじゃ済まないだろう。当たればどこかは確実に吹っ飛ぶ。
「行くぞ…行くぞ、クソ…行くぞ!」
ワイヤーライフルを適当に投げつけると、踏ん切りのつかない足を殴りつけ、不格好にジャンプしてキャプテンの頭に飛びかかった。
頭の装飾を掴んで張り付くと、キャプテンのやたら大きい叫び声が頭に響いた。
「ぅわあああああああああ!!」
ナイフをむちゃくちゃにキャプテンに向かって突き立てる。傍目に見れば、大人に駄々をこねる子供にも見える体格差だった。
「ぐっ…クソ!死ね!死ね!死んでくれ!死ねぇぇえ!!」
ナイフがひときわ深く突き刺さる。キャプテンが榴弾ランチャーを天井に向けて撃ち込む。金属片や氷が砕け落ち、俺の頭に当たる。
「づっ…このっ!」
「グオ…オ…ォ…!」
キャプテンのエーテル供給パイプが千切れる。首元から吹き出る血が顔にかかる。
「っーーー!ぐ、わ…!」
瞬間。背中に衝撃。
『バンダル!』
混乱から回復したバンダルが、俺に殴りかかってきていた。
「く、このやろ…!」
ナイフを振り回す。バンダルは身体を後ろに逸らして回避する。
「クソ!あともう少しなのに…!」
俺と電磁ナイフによる涙ぐましい努力により、キャプテンはもう死に体だ。だが、その周りがこれで終わらせることを許さなかった。
『【ガーディアン】!これを!』
「っ!【ゴースト】!」
放り投げられたドレッグのピストルを右手で掴む。
倒れていくキャプテンから飛び降り、そのままの勢いでドレッグをピストルの柄で殴りつけた。
『銃なんですから撃ってください!』
「うるさい!こっちの方が早い!」
飛びかかってくるドレッグを足で払うと、そのまま脳天に向けてピストルを撃つ。
「ほら!撃っただろ!」
『後ろ!』
「っぐお…!」
背後に鋭い痛みと温かい感触がする。バンダルが背中を切りつけたようだった。出血もしている。
『このままでは…!』
「先にこっちだ!」
バンダルを正面から蹴りつけ、姿勢を崩す。そのままナイフを肩に突き立てて倒し、今度は首を切りつける。吹き出る血で、視界が塞がれる。
「次!どこだ!ライフ!」
血を拭いながら叫ぶ。
『右手!三時の方向です!』
「こっちか!」
ピストルを撃つ。
『違います!そっちは九時です!』
「九時か!こっちだな!」
後ろ蹴り。ドレッグの腹に当たったらしい。
『違っ……納得いきません!』
「倒したんだからいいだろう!」
血が落ちてだんだん視界がクリアになる。残るは…
「ドレッグが2体。それと…」
『サービターです。今頃入ってきました』
ドレッグに対して応戦する。光も装備がないとはいえ、身体が動くなら遅れはとらない。1体は頭を殴りつけ、2体目はナイフを投げつけて殺す。
「さて…」
大きな黒の球体に、蛍光色の紫で縁どりされた円状の機械がいくつか埋め込まれた…一言で例えるならば目玉のような形をしたサービターがゆらゆらと浮いたまま移動している。こちらを見ているようにも見える。
「できればそのまま撃たないで欲しいんだが…」
サービターが動きを止め、機械的な甲高い音を立てる。装備されている砲を構えた合図だ。
『来ます!』
「やっぱりダメか!」
サービターはフォールンの中では一際装甲が厚い。ドレッグのピストルでは歯が立たないだろう。
「何か、何かあったか…」
ボイド…宇宙的な(実のところ俺にはよく分かっていない)…エネルギーを纏ったサービターの砲弾を転がってかわし、周りを見渡す。
『これを!』
ライフが、キャプテンの持っていた榴弾ランチャーを投げる。確かにこれなら十分なダメージが望めるだろう。
「くっ…重い!」
何とかランチャーを持ち上げ、サービターに向けて撃つ。一発撃つごとに身体がきしみ、後ろに吹っ飛びそうになる。
5発も撃つ頃には、俺の肩が外れかかる代わりにサービターは小さなクレーターだらけになっていた。
「これで…終わりだ!」
爆発音。榴弾ランチャーがサービターの中心に命中すると、サービターが高速で回転しはじめる。サービターは一定以上のダメージを追うと、形を保てなくなって自壊するようになっている…そう俺は思っている。
とにかくしばらく撃っているとサービターはみんなこうなるので、あながち間違いではない…ハズだ。
ひときわ甲高い音を立てると、サービターは爆発した。辺り一面に破片が飛び散る。
『終わり…ました。生きてます!』
「ハァ…ハァ…フー…」
ランチャーを床に落として息を整える。そういえば…
「お前…さっき俺のこと、ガーディアンって呼ばなかったか?」
『…いえ、気のせいでは?』
「………」
ライフを見つめる。
『………』
『…呼びました。いけませんか?それにあなたも私のことをゴーストと呼びました』
観念して白状したが、開き直るつもりのようだ。
『ガーディアン。やはりあなたはガーディアンとして動いた時の方が…』
「それ以上言うな。握りつぶすぞ」
『そんな力もないくせに。私がいなければあなたはここで凍死していました』
「それとこれとは話が別だ」
『…そうですか。では今は、とりあえずゾンビとライフ。それでいいでしょう』
「とりあえずじゃない。これからずっとだ」
『………』
『…とりあえず、エーテルを集めましょう。首尾よくサービターも倒せました。上手くいけばエーテルを生産する方法も見つかるかも…』
「ああ…後は頼む。俺は疲れたよ…少し眠る。何かあったら起こしてくれ」
『ええ。ええ。わかりました…【ゾンビさん】』
硬い地面に横になる。天井の氷壁は太陽の光を少しも通さないほど分厚いようだ。今後のことを何となく想像しているうちに、意識は薄らいでいった。
あとがき
Destinyをプレイしている、もしくは知っている方には説明ばかりでストレスのないように。未プレイの方(読んでるか分からないけど)には置いてけぼりにならないように…両方やらなくちゃあいけないのが難しいですね。
分かりにくい所とかは教えて下さるとモチベーションにもなります。感想下さい(直球)