ありふれた勇者と正義の味方   作:海・海

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大変お待たせしました。申し訳ありません。




光輝の夢~エミヤの過去~3

ついに、この時が来た。

 

 

 

衛宮士郎(過去の自分)英霊エミヤ(未来の自分)の戦い。

 

 

この戦いは待ち望んだようにも思えるし、できれば見たくなかったような気もする。複雑な気持ちだ。

だが、この戦いの結果は目に見えている。衛宮士郎の相手は英霊となった未来の自分。人間がサーヴァントに勝てるはずもないし、過去の自分が未来の自分に勝てるはずもない。ましてや、エミヤさんは本気で衛宮士郎を憎み、殺そうとしている。

セイバーと対峙したときエミヤさんはこう口にした。

 

 

 

俺は英雄になどならなければよかった

 

 

 

……と。

 

そんなエミヤさんが衛宮士郎に手心を加えるはずもない。間違いなく、衛宮士郎は負ける。

 

 

 

「……自害しろ。衛宮士郎」

 

 

 

エミヤさんは投影した大剣を投げて、衛宮士郎に自害を命令した。衛宮士郎の未来(エミヤの過去)を教えた上で。

 

 

 

俺は、自害すると思った。自分の理想が、真の意味で叶えられることは無いのだと知って、それでも生きる理由は衛宮士郎にはないのだから、だから……

 

 

 

「俺は何があっても、後悔はしない。お前が俺の理想だって言うのなら、そんな間違った理想は俺自身の手で叩き出す!」

 

 

 

そう返答した衛宮士郎に驚愕した。未来の自分に、自分の理想がどういうものかを伝えられて、それでもなおその理想を貫き続けるのかと。

 

 

 

「その考えがそもそもの原因だ。お前もいずれ、俺に追いつく時が来る」

 

 

 

そういったエミヤさんの眼は、忌々しいものを見るような、それでいて衛宮士郎を憐れんでいるような、そんな眼をしていた。

 

 

 

「来ない。そんなもの絶対に来るもんか」

「そうか、確かに来ないな。ここで逃げないのなら、どうあれ貴様に未来はない」

 

 

互いに足を進めながら、同時に魔術を発動させる。一言一句(たが)わず、同じ言葉で。

 

 

「「投影、開始(トレース・オン)」」

 

投影された剣は干将・莫邪。英霊エミヤが使う数多くの剣の中で最も使用頻度の高い剣。

 

互いに間合いに入る。

 

そして二人同時に、同じ動作で、同じ剣筋で剣が振るわれ、衝突した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

始まった戦いは、最初は一方的なものだった。

 

エミヤさんの猛攻に防戦一方の衛宮士郎。反応はできていたが、反撃の(すべ)などなかった。だが、徐々にそれが変わっていった。力も速度も技術も反応速度も何もかもが上昇し、ついには反撃さえしたのだ。エミヤさんと、同じ動作で。成長にしては、あまりにも速すぎる実力の向上。

 

「前世の自分を降霊、憑依させることでかつての技術を習得する魔術があると聞くが、俺と打ち合うたびに、お前の技術は鍛えられているようだな」

 

そうか、剣を通して吸収しているのか。未来の自分の技術を。

 

「ふん。余裕ぶってろ。すぐお前に追いついてやる」

 

確かに、この調子で行けば衛宮士郎の剣術は英霊エミヤに追いつくかもしれない。

 

 

 

だが違う。おそらく、衛宮士郎(過去の自分)英霊エミヤ(未来の自分)に追いつくというのは、そんな軽いのもじゃない。

 

「俺に追いつく?ひどい勘違いだ。やはりお前は何も分かっていない」

 

瞬間、空気が変わった。英霊エミヤが発する圧によって、周囲の空気が何倍にも重くなったように感じられた。

 

 

 

ああ、ついに見せるのか。それを……

 

 

 

「I am the bone of my sword.

 

 

 

Unknown to Death.Nor known to Life.

 

 

 

Unlimited Blade Works.」

 

 

 

その詠唱が終わった瞬間、世界が塗りつぶされた。

 

 

 

一人の男が、たった一つの理想を目指して、足掻いて足掻いて足掻き続け、人にも、世界にも、ついには叶えたかった理想にすら裏切られ続けた男の、歩みの果て。

 

 

 

その世界に草木はなく、あるのは墓標のように突き立てられた無限の剣。そして、空には巨大な歯車が、虚しく音を鳴らして回るような、そんな世界。

 

 

 

固有結界、無限の剣製。

 

英霊エミヤの宝具にして、衛宮士郎に許された唯一つの魔術。

 

そして、その伽藍洞な世界は、英霊エミヤの心そのものだ。

 

 

 

「うぉおおおお!」

 

 

 

この世界の本質を理解してもなお立ち向かう衛宮士郎。だが、そこに先程のような迫力はない。剣には碌に力が入っておらず、受け止められた。

 

「お前は本当に英雄になりたいのか?」

 

そんな世界を出した後にエミヤさんが衛宮士郎に問うたのは、衛宮士郎にとっては聞くまでもない当たり前のことだった。

 

「なりたいじゃない。絶対になるんだよ!」

 

そう、それは衛宮士郎にとって当たり前のことだ。幼い日に、父の理想を受け継いだあの時から衛宮士郎は正義の味方を目指したのだから。

それが、衛宮士郎が持つ唯一の感情(呪い)なのだから。

 

「それは自身の(うち)から出たものではない。衛宮切嗣の自分を助けたときの顔が、あまりにも嬉しそうだったから、自分もそうなりたいと思っただけ」

 

「正義の味方だと?誰かのためになろうと、そう繰り返し続けたお前の思いは、決して自ら生み出したものではない」

「そんな男が誰かの助けになるなどと、思い上がりも甚だしい!」

「ぐがぁぁ!!」

 

エミヤさんの振るう剣が、衛宮士郎の肌を傷つける。もうすでに衛宮士郎の体はボロボロだ。だが、それでもエミヤさんは剣を振るう。その剣に憎しみを載せて。

 

剣とともに言葉が放たれる。

 

お前の正義は偽物だと。

 

お前はあってはならない偽物だと。

 

その醜悪な正義の体現者が、おまえの馴れの果てだと。

 

衛宮士郎を一番傷つけたのは、剣よりもその言葉なのだろう。俺の目から見ても、どちらが正しいかは明白だ。エミヤさんの言っていることは全て正しい。その発言はすべてが事実で、真実で、正論だ。他ならない彼の人生が、それを証明している。

 

そして、衛宮士郎はそれを受け入れる心を持っていない。

 

 

 

ああ、これで終わりかと、衛宮士郎の死を確信した時だった。

 

 

 

 

 

「体は……剣で出来ている」

 

 

 

 

 

 

全身の傷が治り、立ち上がり、瞳に光を宿した衛宮士郎がそこにいた。

 

 

 

「ようやく入り口に至ったか。だがそれでどうなる?実力差は、嫌というほど理解したはずだが?」

「手も足もまだ動く。負けていたのは俺の心だ。お前を正しいと受け入れていた、俺の心が弱かった」

 

 

 

 

 

…………………………は?

 

 

 

 

 

「お前の正しさは、ただ正しいだけのものだ。そんなもの俺はいらない。俺は正義の味方になる。お前が俺を否定するように、俺も死力を尽くして、おまえという自分を打ち負かす」

 

 

 

意味が……分からない!

 

 

 

ただ正しいだけのもの?それの何が悪い!何でそれを分かっていながら受け入れないんだ衛宮士郎。確かに真実は残酷だ。けどそれは、受け入れなければいけない現実だ。それを理解していながらも否定する。そんな考えは理解できない。

 

だが滅茶苦茶なようでいて、本人は真面目だ。心は折れない。本気で英霊エミヤ(正しさ)を否定しようとしている。なぜ?なぜ?なぜ?

 

 

 

混乱しているとき、衛宮士郎の瞳が視界に入り、気づく。その眼を、俺は知っている。

 

エミヤさんが世界と契約する前の、ただがむしゃらに人を救い続けたときの、あの時の眼だ。

 

だが、今はそんな眼をしていられるのかもしれないが……未来では絶望するかもしれない。エミヤさんも同じことを考えたみたいだ。

 

 

 

「お前も同じように、絶望する」

 

剣が放たれる。そして、それをすべて受け切った衛宮士郎は、尻もちをついた。

 

「限界のようだな。衛宮士郎の戦いは、これで終わりだ」

 

 

 

ついに終わるのか。この悲しい戦いが。

 

 

 

「ああ、おまえは正しい。俺の思いは偽物だ」

 

 

 

衛宮士郎は肯定する。今まで否定しようとした英霊エミヤを。

 

 

 

「けど、美しいと感じたんだ」

 

 

 

その言葉を聞いたとき、俺が思い浮かべたのは、この世界に来て一番最初に見た夢の光景だった。助けられた子供は無表情なのに、助けた側が涙しながら喜んだ、助けた側が救われたような、歪ながらも、美しい光景。

 

 

 

「自分より他人が大切なんてのは、偽善だと分かっている。それでも、そう生きられたのなら、どんなにいいだろうと憧れた」

 

確かに、その生き方は、偽物でも、正しくなくても、美しい。

 

「俺は無くさない。愚かでも引き返すことなんてしない。この夢は、俺が最後まで偽物であっても、決して……間違いなんかじゃないんだから!」

 

 

 

自分は愚かでも間違っていないと、そう言いながら突っ込んでいった衛宮士郎の剣を、英霊エミヤは受け入れた。

 

そして、戦いが終わる。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「そして、座に帰った後、俺の霊格に分霊を押し付けられたわけですね。抑止力に無理やり」

「まあ、あの戦いの後にもいろいろ奔走した末に座に帰ったわけだが、そこはどうでもいいか。所詮は記録だ。俺自身が体験したという実感も薄い。長々と語るべきことでもないだろう。それよりも、この戦いを見て、君はこれからどうするのか、その答えを知りたい」

「俺は……」

「無論、今すぐにとは言わん。君はまだ若い。結論を急ぐべきではない。なに、時間はたっぷりある。自分のペースで解を導き出せばいい」

「はい」

 

 

 

あの戦いを見た後だと、なおさら易々と答えを出すわけにはいかなくなった。

 

 

 

だけど、衛宮士郎の言葉を聞いたとき、こう思ったんだ。

 

 

 

 

 

正しくはなくても、間違ってはいない。だから、偽物でも進み続ける。そんな生き方もあるんだなって。それは、とても美しいことなんだなって。

 

 

 

その事実に、少し救われた気がした。

 

 

 

 

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