ありふれた勇者と正義の味方   作:海・海

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香織の夢/蝶の羽ばたき

 ~香織Side~

 

 

 

 夢を見ている。南雲君の夢の後に見た、暗い世界、ただ、その世界で行われていることは前見たときとは別だった。前見たときはいき場のない世界を彷徨っているだけだった。

 

 

 

 戦っている。

 

 

 

 自分と同い年くらいの少年と、二十代前半くらいの青年が、同じ武器、同じ技で戦っている。

 

 剣、双剣、刀、長刀、弓、石斧。それらすべてが青年には通用しなかった。

 

 

 

 その戦いは一方的だった。

 

 

 

 「やめて!その剣を離して!」

 

 

 

 自分の声はこの二人には届かないだろう。何せここは夢の世界なのだから。自分の声が届くわけない。

 それでも、この二人の戦いを見るのは、なんとなく辛かった。心が張り裂けるかと思うほどに。

 

 

 

 その二人に、自分は見覚えなどないというのに。

 

 

 

 「ふむ、なるほど。予知夢か。昏睡状態にあったからたまたま君の夢に出て面白そうなことを聞こうと思ったわけだけど、その夢が予知夢なんて、なんて面白い偶然だ」

 

 

 

 いつの間にか私の横には、白いフードを深くかぶった長身の白ローブの男性が立っていた。

 

 

 

 「え!?あの!?ここは夢なのに、なんで私に話しかけれるんですか!?というか誰ですか!?」

 

 「何で君に話しかけれるか、それは私が夢魔と人間のハーフだからだよ。夢の世界は私の世界でもある。私の名前はマーリン。気軽にマーリンお兄さんと呼んでもいいよ」

 

 「は、はぁ」

 

 

 

 マーリン、どこかで聞いたことがあるような気がする。確か南雲君と会話がしたくて集めたオタク関連の情報にそんな名前があったような……。

 

 

 

 「まあ、私のことなんてこの夢に比べれば些細なことさ。すごいね予知夢なんて。特殊な家系でもないのにこんな力を持っているなんて、君はすごく貴重な存在だ」

 

 「予知夢ってことは……この戦いはこれから起こることなんですか!?」

 

 「そうだよ」

 

 「ど、どうすれば止められるんですか!?」

 

 「慌てない慌てない。呪文噛むからね。結論から言うと、この戦いを止めることは不可能だ」

 

 「え?」

 

 どうゆうことなの?まだ起こる前の事象なら、止められてもいいはずなのに。

 

 「君の夢はこれから起こる可能性のある事象を夢に見るんじゃなくて、これから確実に起こることを夢としてみるものみたいだ。夢で戦いが起こっている以上、この戦いは現実で必ず起こる」

 

 

 

 そんな会話をしている間にも、少年はやられていく。そして膝をついた。

 青年はそんな少年にとどめを刺そうと近づいていく。

 

 

 

 「早く逃げて!」

 

 「無理だね。私の治療魔術であの少年の体は回復しているはずだ。私は夢魔だから、この夢にもある程度干渉できる。体は回復しても動けないってことは、問題は心かな?」

 

 

 

 青年が少年ののど元に剣を突きつける。その時に少年が何を言ったのか、不思議と理解できた。

 

 

 

 

 

 ああ、俺は生きているべきじゃなかった。

 

 

 

 

 

 少年は確かにそう言った。

 

 

 

 「だめぇえええええ」

 

 

 

 夢はそこで終わった。あとは真っ暗な空間に、私とマーリンさんが立っているだけ。

 

 

 

 「君に頼みたいことがある。どうか、夢に出てきた少年を助けてはくれないだろうか。異世界召喚、勇者対魔族。ああ、なんて素晴らしい刺激の少ない現代では貴重な戦い。そんな面白そうな物語にこんなバッドエンドがあるなんて、私には耐えられない。あの少年には個人的に死んでほしくないんだよね」

 

 

 

 返事なんて決まっている。

 

 

 

 「言われなくても助けます。私も、あの少年には死んでほしくないです」

 

 「うん。私の我が儘を聞いてくれてありがとう。お礼に、君が一番知りたい情報を教えてあげるよ。南雲君は生きている」

 

 「ホントですか!?」

 

 「うん。パワーアップもしてるみたいだし、あと数日もすれば封印されている美少女吸血鬼の封印といてフラグでも建てるんじゃないかな?」

 

 

 

 よしちょっとその吸血鬼と南雲君にOHANASIしなきゃ。

 

 

 

 「そろそろお目覚めみたいだ。頑張ってね。君達の物語が祝福に満ちていることを祈るよ」

 

 「はい。ありがとうございます」

 

 

 

 あの夢では青年が少年にとどめを刺す前に夢が終わった。つまり、あの少年が死ぬ未来は確定していない。

 

 

 

 「絶対に助けてみせる。南雲君も、あの少年も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バタフライエフェクトという言葉がある。

 小さな蝶の羽ばたきが、もしかすると遠くの地域に竜巻を起こすかもしれない。そんな疑問から創られた言葉だ。日本語訳すると蝶の影響。

 

 さて、蝶の羽ばたきですら遠くで竜巻を起こす可能性があるのに、世界と契約した勇者や予知夢に干渉した魔術師の影響が干渉した本人だけで済むなんてことがありえるのだろうか?

 

 そんなことはありえない。

 

 

 

 

 

 ここは神域と呼ばれる、文字通り神の領域。神が住まう場所。

 

 そこに描かれた魔法陣の前に立つのは一人の人物……いや神物。

 

 その名はエヒトルジュエ。人間族、魔人族を騙し争わせている争いの元凶。この世界においては最も罪深い詐称の罪神。

 

 今その神が発動させる()()は……

 

 

 

 

 英霊召喚。エヒトルジュエからした異世界から一クラス分の人間を召喚したこの神にとって、異世界に存在する既存の術式を応用すれば英霊の召喚は容易ではないが、十分に可能なことだった。

 

 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 

 もうこの神は器を求める必要はない。異世界の魔法、第三魔法魂の物質化。そしてこの世界の魔法、魂魄魔法。この二つの知識があれば、器がなくても簡単に肉体を得ることができる。というか、すでに肉体は得ている。わざわざ神域に引きこもる必要などない。

 

 

 

 「―――Anfang(セット)

 

 「――――告げる」

 

 

 

 だがこの神は止まらない。人を騙し、魔人を騙し、戦争を起こさせたその動機は()()。快楽を求めるこの神は、戦争(ゲーム)のパワーバランスを調整するために、この英霊召喚を行っているのだ。世界と契約した勇者に対抗するために。

 

 

 

 「―――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成るもの、

 我は常世総ての悪を敷くもの。

 

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 

 

 

 

 

 詠唱が終わり、魔法陣の上に立っていたのは一体の英霊。

 

 

 

 

 

 「まさか貴様が召喚されるとはな。いや、あの守護者との縁を考えれば当然か?セイバー」

 

 英霊は何も言わない。

 

 「応えよ。貴様の真名は何だ?」

 

 「…………」

 

 「成程。ア■■■■か。では、これからは我に従ってもらうぞ」

 

 「……」

 

 「何?条件だと?」

 

 「…………」

 

 エヒトルジュエは、その条件の内容を吟味する。

 

 「クッ、ククッ、アハハハハハッ。いいだろう。その条件をのんでやる。我にとってもその方が都合がいいし、何より、面白そうだ」

 

 

 

 

 

 この神の悪意は、何があっても止まらない、止められない。たとえ本神が望んだとしても。その悪意は止まらず進む。神殺しの英雄が現れるまで。

 

 

 

 




アから始まる5文字のセイバー。一体何者なんだ?
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