ありふれた勇者と正義の味方   作:海・海

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香織の目覚め

 「そろそろ香織のところへ行きましょう」

 

 俺が改めて雫を含めた皆を救う決意を固めた後、雫はそう提案してきた。

 

 「香織はまだ眠ったままだったな。もう目覚めているといいんだが……」

 

 「……厳しいでしょうね。クラスメイトが死んだってだけでをかなりショックなはずなのに、ましてやそれが南雲君なら、香織の精神的負担は計り知れないわ」

 

 今思えば、香織は南雲に気を遣っていたわけじゃなく、本当にただ仲良くしたかっただけなのだろう。それに気付かず俺は、無自覚に香織の邪魔をしていたのか。

 ……もし過去に戻ることができたら、過去の俺を助走をつけてぶん殴った後に、エミヤさんの夢の内容を聞かせてやりたい。

 

 いや、しかし香織はどうも南雲と二人で一緒にいることにこだわってた気がする。友達として仲良くなりたいのなら俺達のグループに南雲を混ぜてもいいはずなのに。確かに俺と南雲は気が合わないところもあるが、香織なら気にせず「皆で仲良くしたほうがいいよ~。光輝君も、南雲君も、あまり喧嘩しないで」とか言いながら強引にグループに入れそうなものだが、もしかして……

 

 「もしかして、香織は南雲のことが異性として好きなのか?」

 

 「……あんた、自分への好意には鈍いけど他人の恋愛には敏感なタイプ?いや、そういうわけでもなさそうね。あんなにあからさまな香織の態度に今まで気づかなかったし。もしかして、たった今そんなタイプになった感じ?」

 

 改めて冷静になって考えると、友達だからって弁当をわけるのは少しいきすぎかもしれないな。それに友達の俺達より先に南雲に挨拶してたし、あと表情だって俺や雫より南雲といる方が嬉しそうだったような……じゃああれはそういうことで……えっとこれも……う~ん、あっ!?あの時のあれもそういう事だったのか!えっ!?じゃああれも……

 

 そして、しばらく過去を振り返った結果、俺は自分がどんな最低な行為をしていたか見直すことができた。

 

 「もしかしなくても、俺、かなりのお邪魔虫だったんだな」

 

 「ええ、傍から見てる方は面白かったけど、当事者からしたらたまったもんじゃないでしょうね。香織じゃなかったらブチギレられてたわよ」

 

 「……目を覚ましたら、勇者云々の前にまずそっちを謝らないとな」

 

 そのような会話を、香織の部屋に着くまで続けていると、ちょうど区切りのいいところで、扉の前に着いた。

雫がドアノブに手をかける。

 

 

 

 ギィィ―――という古臭い音とともに開かれた扉の先には、ベットの上で、上半身を起こしながら、こちらに視線を向ける香織の姿があった。

 

 

 

 「香織!」

 

 「雫ちゃん!」

 

 

 

 目が合った途端、お互いの存在を確かめるかのようにお互いを抱き合う二人。香織の方は思いっきり抱きしめているが、雫の方は目覚めたばかりの香織の体を気遣って、優しく抱きしめている。それを眺めている俺は、自分だけ取り残されたような感じがして、一人だけ男ということもあり、いたたまれない感じになっていた。

 

 (なんだろうこの俺はいちゃいけないような感じ。エミヤさん、何とかしてください!)

 

 『なぜそこで今まで全く発言しなかった私に振るのだ!?そも、女性のことに関しては専門外だ。生憎勝てたためしがない。諦めろ。こちらが悪くなくても女性相手だと悪い感じになってしまう。……理不尽の塊だ』

 

 (なんか、その疲れ切った声だけで何となくあなたの女性関係が分かった気がします)

 

 表情を見ることができたら、きっとその顔は悟りを開いたような、そしてこの世全ての労働を押し付けられたような、疲れ切った表情になっているだろう。

 

 『特に我が強い人には注意しろ。あれこそまさに理不尽の権化。やることなすことハチャメチャなくせに、なぜかいい感じに働き、被害者の方も怒るに怒れないような、そんな感じになるからな!そして、その被害者は大体俺だったからな!』

 

 主にあかいあくまとか冬木の虎とか。

 

 (なんというか、ご愁傷さまです)

 

 

 

 俺とエミヤさんがそんな会話をしている間に、香織は俺に気付いたらしく、「あっ、光輝君」と声をかけてくる。

 

 そして、雫を抱きしめていた腕を離して、こちらに向かって歩き出す。雫は、目覚めたばかりで足取りがおぼつかない香織を支えながらも、どこか名残惜しそうな表情をしていた。心なしかこちらを睨んでいるような気がする。被害妄想なのかもしれないが。

 

 これは……俺が悪いのだろうか?もしそうなら、女が理不尽の権化というのは、あながち誇張ではないのかもしれない。

 

 

 

 「香織、体は大丈夫なのか?痛いところはないか?」

 

 「うん。特に痛いところはないよ。体は大丈夫。それやり、早く南雲君を助けに行かないと」

 

 瞬間、雫の表情が痛ましそうに歪むのが見えた。おそらく俺も似たような表情をしているだろう。明らかに死んだ確率の方が高いのに、それでも生存を信じる。それは、どれほど辛いことなのだろう。

 

 「香織、その、言い辛いけど……」

 

 「香織、南雲は死んだよ。君も見ただろ。南雲が奈落に落ちるのを」

 

 雫が言いよどむ中、俺ははっきりと、その事実を口にした。雫から咎めるような視線を受けるが、それを受け流しながら、淡々と続きを話す……ことはできなかった。

 

 「ううん。南雲君は死んでないよ。マーリンさんがそう言ってたもん」

 

 「は?」

 

 「『はぁっ!?』」

 

 俺、雫、エミヤさんが同時に声を上げる。雫は完全に疑問の声だが、俺とエミヤさんは驚愕の感情の方が強く声に出てしまっている。なぜなら俺達は、マーリンという言葉が誰を指すのかを知っているのだから。

 

 「香織、マーリンっていうのはあの人か?古代ブリテンの宮廷魔術師で夢魔と人間のハーフの、あのマーリンなのか!?」

 

 「えっと、それはちょっと良く分からないけど、マーリンって名乗った人が、夢の中に出てきたの」

 

 念のため聞いてみたが、夢の中に出てきたというあたり、俺達の知るマーリンで間違いなさそうだ。

 

 (けど、なんで異世界にそんな昔の人が干渉できたんだ?)

 

 『マーリンの逸話によれば、マーリンは塔に閉じ込められてはいるが、死亡したわけではない。生きているなら、夢に干渉することはできるのだろう。だが、異世界にも干渉してくるとは、どうやらキャスターの英霊を基準に考えても相当規格外の実力の持ち主らしいな』

 

 まあ、その本人は呪文噛むからと言ってエクスカリバーを振り回す物理攻撃系のなんちゃってキャスターだったりするのだが。

 

 「マーリンさんが、南雲君は生きてるって確かに言った。だからきっと生きてるよ!」

 

 (どう思いますか?エミヤさん)

 

 『アルトリアの話を聞く限り、マーリンはかなりの曲者だ。信用しすぎるのは良くないだろう。だが、わざわざ異世界に干渉してまで嘘を教える意味も無いはずだ。南雲君が生きているというのは、本当だと思っていいだろうな』

 

 「……そうか。生きているのか。南雲は……」

 

 今まで死んだと思っていたクラスメイトの生存を知り、安堵にも似た気持ちを抱いていると……

 

 「ちょっと!なんで夢の話なんか信じてるのよ!光輝!しっかりして!南雲君が死んだのがショックなのはわかるけど、そんな妄想信じないでよ!」

 

 (ああ、確かにマーリンのことを知らなかったら、至極当然の反応だよな)

 

 俺は二人に、俺が知る限りのマーリンの情報を伝えた。

 

 

 

 

 

 「へ~、マーリンさんってそんなすごい人なんだ」

 

 「アーサー王?楽園の塔?それらがすべて実在する?」

 

 香織の方は実際に会っているからだろうか?それとも本人の性格か、あるいは両方か。この話をある程度受け入れてくれた。しかし、雫の方はいまだに困惑しているようだ。

 

 「え~っと、マーリンって言うのは、この世界のものすごい魔法使いってことでいいのかしら?」

 

 「異世界にはすごい魔法使いがいるんだね~」

 

 どうやら雫も香織も俺達の世界にも魔術があるなんて受け入れられず、この世界にに登場する伝説の魔法使いと解釈されてしまったようだ。まあ、話が進みやすいからそう思ってもらおう。

 

 「まあ、そういう事だ。そんなすごい魔法使いの言うことだから、南雲の生存は信じてもいいと思う」

 

 俺がそう言うと、二人共もほっとした表情になった。どうやら、香織も夢で見たというあいまいな情報だったので、100%無条件に信じていたわけではないらしい。

 

 「よかった。じゃあさっそく皆で南雲君を助けに行かないと!」 

 

 「待って香織。南雲君は私達の中で無能の扱いを受けていたわ。その南雲君を助けることを王国が簡単に許可してくれるとは思えない。それにみんな遠征で疲れている上に、べヒモスや南雲君のことはトラウマになってる。そんな状態で助けに行こうなんて無茶だわ」

 

 !……それもそうだ。南雲を助けられると分かって冷静さを欠いてしまったが、よくよく考えれば俺達は精神的に追い詰められているんだ。皆のメンタルケアのことも考えないと。

 それにしても、それにいち早く気づくなんて、雫は冷静で、皆のこともよく見ていて、本当に頼りになる。自分のことで精一杯な俺とは大違いだ。

 

 「なら私一人でも行く!」

 

 「「何考えてる(の)(んだ)!?」」

 

 香織、まさか南雲のために命を捨てるような凶行に走るなんて……これが恋は盲目という奴なのだろうか?

 

 「あなた治癒師じゃない!非戦闘職のあなたが、迷宮で一人生き残れると思ってるの!?」

 

 「でも誰も南雲君を助けてくれないのなら、私が行くしかないじゃん!」

 

 ……誰も助けてくれないなら……か。

 

 『光輝、どうする?』

 

 エミヤさん、あなたも人が悪い。俺がどうするか分かった上で、あえて聞いてくるのだから。

 

 「俺が一人で助けに行く」

 

 「「!?」」

 

 俺がそう言うと、二人とも驚いた表情になった後、急に俺を心配し始めた。

 

 「光輝、落ち着いて。南雲君のために後先考えられなくなるのは香織だけで十分よ!」

 

 「光輝君、一人なんて無茶だよ!一人で突っ込んでいくなんてだめ!」

 

 雫、俺は別に後先見えなくなったわけじゃない。あと香織、君にだけは言われたくない。数秒前の自分の発言を思い出してほしい。

 

 「別に何も考えていないわけじゃない。俺がべヒモスと戦ったときに見せた力、夢幻召喚(インストール)なら迷宮でも一人で活動できる。皆の精神的負担を考えたら、俺が一人で行ったほうがいい」

 

 「待って!皆のまとめ役の光輝がいなくなったら、皆の不安は増えるばかりよ」

 

 「いいや、香織が目覚めたことは皆の心に希望を与えてくれるはずだ。それに、周りを見るのが得意とは言えない俺より、冷静で周りがよく見える雫や、治癒師の香織の方が負担を和らげるのに適任だ」

 

 「それでも他の皆は納得しないかも……」

 

 「そこは俺が口八丁手八丁で何とかするさ。俺の口は皆を勇者にすることができたんだ。たった一人の人間を助けることくらい、許可してくれるさ。王国の方もそれで何とかしてみせる」

 

 雫が提示してくる問題点に対し解決法を提示する。正直俺の解決法は確実にうまくいくわけじゃない。どれも希望的観測だ。だけど、その可能性にすがってでも、南雲を助ける理由が俺にはある。

 

 誰も助けてくれない。見捨てられる人達。冬木の大火災の被害者達。正義の味方(エミヤさん)が殺した人達。無能の勇者(南雲ハジメ)。俺も、そういう人達を見捨てたくない。

 例え全てを救うことが不可能だとしても、自分の手に届く範囲の人は……その中に南雲が入っているのなら、俺は、救いたい。

 

 「だから、南雲のことは、俺に任せてくれないか?」

 

 「「…………」」

 

 二人はしばらく考え込むような動作をしたが……

 

 

 

 「そこまで言うんだったら、何とかしてみなさい。ただし、やるんだったら絶対に助けなきゃだめよ。だからクラスの皆のことは私達に任せて、あんたはそっちに集中しなさい」

 

 「光輝君だったら南雲君のことを任せられるよ。お願い、南雲君も光輝君も、二人とも無事に帰ってきてね。あまり怪我しないようにね」

 

 

 

 俺を快く送り出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、南雲救出はこれでいいとして、今残っている問題点は……檜山のことだな。

 

 

 

 早いうちに解決しないとな。それが多少強引な解決法になったとしても。

 

 

 

 

 

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