ありふれた勇者と正義の味方   作:海・海

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会談

 香織が目覚めた翌日、俺は、今王宮の広間にいる。それも、国王、王妃、王女、王子、教皇、騎士団長、クラスメイト、貴族等、このハイリヒ王国の重要人物を集めてもらってだ。

 

 「勇者殿、大事な話があると聞きましたが、どのようなご用件で我らを集めたのか、お聞かせ願えますかな?」

 

 始めに口を開いたのは、教皇イシュタルさんだ。この国では国王ではなく神が国を動かしている。従って、神に使えるものの中でも一番地位の高い教皇であるイシュタルさんが、この場ではトップに立っている。今この会談の主導権を握っているのは、間違いなくこの人だ。

 

 俺は緊張しながらも、それを表情に出さないよう意識しながら、発言する。

 

 「一昨日の迷宮で奈落に落ちた勇者、南雲ハジメの生存が判明しました。なので、その救出の許可をいただこうと思いました。それが、皆さんを集めた理由です」

 

 俺の言葉に驚かなかったのは、すでにこの事実を知っている雫と香織だけだろう。檜山は憎々しい表情になっており、あのイシュタルさんですら、いつもの好々爺(こうこうや)じみた笑みを崩し、その眼を驚きに見開いていた。

だが、それも一瞬のこと。すぐさま表情を戻し、俺に問いかけてくる。

 

 「勇者殿、聞けば今回の遠征、皆さんはべヒモスに歯が立たなかったと聞きましたが、そのような危険な場所へ、たった一人を救うために、全員行かせると?もしかしたら、勇者が全員死ぬかもしれませんぞ?」

 

 「いいえ、行くのは俺一人です。他の皆には、王宮に残ってもらいます」

 

俺のこの発言に、周りの人は南雲の生存が判明した時以上に驚いた。

 

 「勇者が束になっても敵わなかった相手にお一人とは、これは、面白い冗談ですな」

 

 「前提からして間違っています。他の皆はともかく、俺は決してべヒモスに歯が立たなかったわけではありません」

 

 俺はメルド団長にアイコンタクトを送る。事前に打ち合わせしたわけではないが、それでも俺の意思をくみ取ってくれたようで、俺の望む発言をしてくれた。

 

 「確かに、天之河殿が戦いの途中で初めて見せた力、あれはべヒモスの力に劣っていなかった。他の勇者たちによる魔法の一斉攻撃がなかったら、確実にべヒモスを倒していたでしょう」

 

 さすがのメルド団長も、国の重鎮がそろっているこの場では硬く丁寧な言葉使いになっている。けど、その眼は俺にこう告げていた。

 絶対にあの小僧を救出しろ。協力はする。……と。

 

 メルドさんは、こちら側だ。南雲の救出を望む側。だが、問題はそれ以外の人達だ。表情を見たところ、メルドさん率いる騎士達は救出派。国王、王妃、女王、王子は流れに身を任せる中立派。だが、雫と香織、そして熱血な性格の龍太郎は救出派だが、それ以外のクラスメイトは反対派だろう。イシュタルさんや神官、貴族達は表情からは読み取れなかったが、状況からして反対派だ。

 

 こちらは数が圧倒的に少ない上に、発言力の高い勇者と教皇が反対に回っている。その次に発言力の高い国王様達は味方とは言えない。貴族たちだって発言力はあまりないとは言え無視できる勢力ではない。こちらの味方は雫、香織、龍太郎、そしてメルドさん率いる騎士達のみ。……正直なところかなり厳しいな。

 

 「天之河君、あなたがいなかったら私達はどうすればいいの?」

 

 「天之河、リーダーがいなくなったら俺達はどうすりゃいいのか分かんねぇよ」

 

まずは、発言力が高いが、一番簡単に説得できそうなクラスメイト達からだな。

 

 「皆、俺はまず、皆に言っておきたいことがあるんだ。この世界に召喚されたとき、勇者になることがどれだけ危険や責任を伴うかも知らず、軽々しく勧めたこと、本当にすまない」

 

 「「「!?」」」

 

 「俺は、南雲を含めた皆が勇者になった一因だ。だから、その責任を取るためにも、皆を生きて元の世界に帰さないといけないと思ってる。もちろん南雲もだ。だから俺は、クラスメイトを誰一人死なせない。それを叶えるために、俺に南雲を助けさせてくれ!」

 

 俺のその言葉に、クラスメイト達は肯定の言葉を投げかけた。

 

 「さすが天之河君、南雲君すら見捨てないなんて、カッコいい」

 

 「ぜって~南雲を助けろよ!そんで、クラス全員で帰ろうぜ!」

 

 唯一檜山だけが不満そうな顔をしていたが、クラスの大半が救出派になった状態では発言もし辛いだろう。次は……

 

 「待ってください!無能の勇者のために天之河殿が危険を犯す必要はありません!」

 

 「そうです!無能のことなど放っておいて、あなたには他の勇者の引率と、対魔人族の訓練に尽力していただかなくては……」

 

 貴族達だな。しかし、好き勝手言ってくれる。南雲は決して無能じゃないというのに。

 

 「………確かに南雲は、他のクラスメイトと違い力こそ一般人と大差ありませんでしたが、その知識と錬成師ならではの戦い方、咄嗟(とっさ)の機転で俺達の危機を救ってくれました。それに、たとえ南雲が無能だとしても、力が劣ると分かっていながらも人間族のために勇者として戦った南雲を侮辱する発言は人として見過ごせません」

 

 「そうですな。同じ戦場に立った者として、戦友が侮辱されるのは我慢なりません。人間族のために戦った一人の尊い命を侮辱など、よくそんな恥ずかしい真似ができますな」

 

 メルドさんから思わぬ援護がきた。後ろの騎士達もメルドさんと同じことを思っているようだ。やはり、同じ戦場で命を賭けた仲間として、貴族たちの物言いは許せなかったようだ。

 

 「別に我々はそのようなつもりはありません。大変失礼しました」

 

 顔には不満そうな表情が浮かんでいたが、メルドさん率いる騎士達全員に睨まれては閉口せざるおえなかったようだ。騎士の発言だって、優先度は権力の関係で貴族にすら劣るものの、決して無視していいわけじゃない。

 

 (ありがとうございます)

 

 (気にするな。それより問題はこの後だ。必ず小僧を助けろよ)

 

 俺とメルドさんは目だけでこのやり取りを行った(いつの間にこんなことができるほど仲良くなったんだろう?)。

 そして、メルドさんの言う通り、この次は最難関の相手、イシュタルさん率いる神官達だ。今まではただの前座、ここからが本番と言っていい。いつもの好々爺(こうこうや)じみた笑みが、まるで悪魔の笑みに見えてしまう。戦場に立っているわけでもないのに恐怖を感じてしまう。いや、弁舌の場も一種の戦場ということだろうか?なんにしろ、俺のやることは変わらない。全力を尽くすだけだ。

 

 「勇者達のまとめ役のあなたがいなくなればどのようなことが起こるかわかりません。その責任はどうとるおつもりで?」

 

 「俺がまとめなくても戦場での指揮はメルドさんがとってくれます。メンタルケアの方は雫と香織に任せています。何も心配はいりません」

 

 「では実力が一番上のあなたが抜けることによって起こる損失についてはどうお考えで?」

 

 「メルドさんは俺と変わらない実力を持っています。雫や龍太郎だって負けていません。これほどの戦力があれば十分では?」

 

 「それでもあなたが初めて見せた、べヒモスを圧倒した力に比べれば劣るでしょうな。あなたほどの力があっても、迷宮では何が起こるかわかりません。もし万が一があれば、その損失は計り知れない。考え直してください勇者殿。この決断には、我々人類の未来がかかっているかもしれないのです」

 

 

 

 ……わかっていたが、一筋縄ではいかないな。いつもは優しい雰囲気のおじいちゃんにしか見えなかったけど、立場次第でここまで化けるなんて。けど、俺は諦めるわけにはいかないんだ。

 ……誓ったんだ。皆を助けるって。そのためなら、できることは何でもするって。だから、俺の考えは変わらない。

 

 とにかく足掻(あが)こうと口を開いたが、それは思わぬ人物に遮られた。

 

 

 

 遮った人物は、急に扉から入ってきた下っ端の神官だった。

 

 

 

 「ほ、報告します。エヒト様から神託が降りました!」

 

 「「「!?」」」

 

 これにはこの場にいる全員が例外なく驚いた。特に神官、その中でもイシュタルさんの反応は劇的だ。口を大きく開き、その顔は狂喜に歪んでいるように見えた。もしかしたら、この人は狂信者と呼ばれる類なのかもしれない。これから発言には気を付けよう。間違って神を冒涜するようなことを言ったら、何をされるかわからない。

 

 「それで、エヒト様は何と?」

 

 「……勇者を迷宮に向かわせろ。さすればその勇者、奈落の底で絶大なる力を得て帰ってくるだろう。……と」

 

 神託の内容を吟味し、しばらく考え込んだイシュタルさんだが、その答えは、俺の予想通りだった。

 

 「神は私たちを見捨てていなかったか。もしかしたらあの錬成師はこのためだけにこの世界に呼ばれたのかも知れぬな。勇者殿、必ずエヒト様の言う絶大なる力を得て帰ってくるのです。決して救出した後すぐ帰るような真似はしてはいけませんぞ」

 

 「……わかりました」

 

 思わぬ横やりが入ったが、これは好都合だ。待っていてくれ南雲。必ず助け出す。

 

 

 

 

 

 こうして会談は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~神域~

 

 

 

 「神託は降した。あの勇者は奈落でイレギュラーと会合を果たし、魔物の肉を喰らい、力をつけるだろう。しかし、この我に頼み事とはな。貴様が我の使い魔であることと、その頼み事の結果が面白そうではなかったら、切って捨てているところだ」

 

 「…………」

 

 「感謝などいらん。そのかわり、必ず我が満足する結末を作り出せ」

 

 「…………」

 

 「よほど憎いようだな。あの偽善者の皮を被った醜悪なエゴイストが、本来正義の味方が使うべき力を、我が物顔で使っていることが。だがセイバー。タイミングというものは重要だ。あの勇者を殺すのは、勇者が我の所に偽善者面でたどり着いたその時だ。すぐに殺すことは許さん」

 

 「…………」

 

 「わかっているならいい。さて、では我は夢幻召喚(インストール)の技術を再現する研究を続けるとしよう。しかし、英霊の力を人形に置換するとは、面白い技術だな」

 

 

 

 こうして、神は裏で暗躍する。神が望むのはバッドエンド。人間族を守る勇者の凄惨(せいさん)な死。それに向けて着々と準備を進めていく。それはまるで、ハッピーエンドに向けて異世界に干渉した魔術師に対抗するかのように。

 

 

 

 

 

 

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