また、夢の中だ。
夢の中でエミヤさんは、殺して、殺して、殺し続ける。まるで、命なんてどうでもいいかのように。
「なんで……エミヤさんは、死んだはずじゃ……」
昨日の夢で、エミヤさんは死んだ。あの人の最後は終わったはずだ。なのに、なんで殺戮は続いているのか?
「それが、守護者の役割だからだ」
「え?」
守護者は、世界を救うために、世界と契約した人のことじゃないのか?これじゃむしろ加害者じゃないか!
「生前、抑止力と契約した俺は死後、英霊となり、霊長の抑止力として、世界のバランスを崩すものと戦った」
「これが、その結果なんですか?生前のあなたと何が違うんですか。いや、むしろひどくなってる」
生前より多くの人を殺し、生前より多くの人を救っている。規模が違うだけで、何も変わっていない。なにも救えていない。
「守護者は人など救わない。すでに起きてしまったこと、創られてしまった人間の業を、その力で、無にするだけの存在だった。霊長の世に害を与える人々を、善悪関係なく処理する殺戮者。それが守護者だ。君の未来だ」
俺は、世界と契約すれば、皆を、窮地にある仲間を救えると思ったから契約した。そしてその力が、クラスメイトだけでなく世界を救えると思って、本当に嬉しかった。世界の力なら、俺は正義になれると。
自分が間違えていると知って泣きながら笑っていた時、頭の片隅で考えたことがある。もしここで俺が死んで守護者になれば、檜山のことも、南雲のことも、この世界のことも、全てを救えるのかと。生前は間違い続けてきたけど、死後、守護者になれば、正しく在れるのではないかと。けど……これは……
「これはないだろ。俺は、俺はこんなことをするために世界と契約したんじゃない!俺は、誰かを助ける力が欲しかったから世界と契約したんだ!こんな、こんな殺戮を行うために力を求めたわけじゃない!」
エミヤは思った。光輝と自分は似ている。自分もそうだった。本来救われない人々。例えば、冬木の大火災で死んだ自分以外の人のような者を救うために、自分は守護者になった。自分が契約することで、誰も泣かずに済むのなら、それでいいと思った。そのためなら、死後の安らぎなどどうでもよかった。
けど、そんな願いは叶わない。何を代償に払おうと、誰もが幸福だという結果は手に入らない。借り物の理想は叶わない。
その現実を夢という形で見せることを、心苦しく思う。けど、これは紛れもなく自分の過去であり、光輝の未来でもある。決して避けられない未来。
ならせめて、この夢を最後まで見て、あの時の自分のように、答えを得てほしいと思う。
エミヤは願う。その答えが後悔を生まないものであることを。
光輝には、衛宮士郎を憎んだ自分のようになってほしくない。かつての自分の所業、思想を後悔し、呪い、自分自身を消そうなんて考えてほしくない。
場面が変わった。
「また、聖杯戦争」
どうやら今度は、昨日の夢で見た聖杯戦争とは違うらしい。エミヤさんが衛宮士郎を背後から切りつけた。
おそらくこの二人は戦うことになるのだろう。英霊エミヤと衛宮士郎は決して相容れない存在。過去を否定する男と、その男が否定した理想を進む男。ぶつかり合わないはずがない。
「理想を抱いて溺死しろ。あれはどういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ。付け加えるものなどないが?」
衛宮士郎の問。エミヤさんに言われた言葉の意味。俺には分かる。間違った、借り物の理想を抱いて生き続けるなら、いっそその理想を抱いたことを後悔する前に死んでしまえと、そういう事なのだろう。
「じゃあお前は、なんのために戦ってるんだ!?」
「知れたこと。私の戦う意義は、ただ己の為のみだ」
それはおそらく違うだろう。この人は、どこまで行ってもその借り物の理想のためにしか戦えない。自分の為になんか戦えない。悲しい生き方しかできない。
それでも自分の為に戦うと言うのは、自分の為に戦いたいという願望からなのか、本当に自分の為に戦えていると思い込んでいるからなのか。
「自分の意思で戦うというのなら、その罪も罰もすべて自分が生み出したもの。背負うことすら理想のうちだ」
そうだ。南雲のことも檜山のことも、他の生徒達のことも、俺の意思で巻き込んだ結果なのだから、その罪も罰も俺のものだ。
ただ、世界を救うと宣言した時の俺は、その罪も罰も背負う覚悟がなかった。全てが正しいと思っていた俺は、自分が受ける罪や罰があるなんて思っていなかった。
「戦いには理由がいる。だがそれは理想であってはならない。理想のために戦うのなら、救えるのは理想だけだ。そこに、人を助ける道はない」
その通りだ。俺は、俺が正しいと思ったから、勇者になった。自分の正義を貫くという理想のために。だが、それで何が起こった?南雲は奈落から落ちた。檜山は暴走した。香織は眠った。理想は貫けたが、救えたものは何もない。
そして、そうまでして貫いた
「他者による救いは救いではない。そんなものは金貨と同じだよ。使えば他人の手にまわってしまう。確かに、誰かを救うという望みは達成できるだろう。だがそこに、お前自身を救うという望みがない。お前はお前のものでない、借り物の理想を抱いて、おそらくは死ぬまで繰り返す」
幻想の理想。俺はもうそれを抱いてはいない。いつまでも存在しないものに固執しても無意味なだけだ。たとえその幻想が、俺自身のものだとしても。
「だから無意味なんだ。お前の理想は」
自身の幻想が無意味なら、借り物の理想はそれ以上に無意味なのだろう。
「人助けの果てには何もない。結局、他人も自分も救えない。偽りのような人生だ」
「違う。……違う。それは……」
違わない。幻想の果てには絶望があった。借り物の果てには殺戮があった。そして……正義の果てには、犠牲があった。
誰も犠牲にならないようにと願いながら、結局、犠牲者を殺すしかできなかった。そしてその結果は自分に何のプラスにもなっていない。傷ついて傷ついて、傷ついた果てには借り物の理想すら叶えられず、守護者として永遠に殺戮を続ける未来だけ。これを無意味と言わずなんと言う。
無意味な幻想を抱いた俺と、借り物の理想を抱いた衛宮士郎。
ああ…………本当に俺達は、よく似ている。