ありふれた勇者と正義の味方   作:海・海

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光輝の夢~エミヤの過去~2

 また、夢の中だ。

 

 夢の中でエミヤさんは、殺して、殺して、殺し続ける。まるで、命なんてどうでもいいかのように。

 

 

 

 「なんで……エミヤさんは、死んだはずじゃ……」

 

 

 

 昨日の夢で、エミヤさんは死んだ。あの人の最後は終わったはずだ。なのに、なんで殺戮は続いているのか?

 

 

 

 「それが、守護者の役割だからだ」

 

 「え?」

 

 

 

 守護者は、世界を救うために、世界と契約した人のことじゃないのか?これじゃむしろ加害者じゃないか!

 

 「生前、抑止力と契約した俺は死後、英霊となり、霊長の抑止力として、世界のバランスを崩すものと戦った」

 

 「これが、その結果なんですか?生前のあなたと何が違うんですか。いや、むしろひどくなってる」

 

 生前より多くの人を殺し、生前より多くの人を救っている。規模が違うだけで、何も変わっていない。なにも救えていない。

 

 「守護者は人など救わない。すでに起きてしまったこと、創られてしまった人間の業を、その力で、無にするだけの存在だった。霊長の世に害を与える人々を、善悪関係なく処理する殺戮者。それが守護者だ。君の未来だ」

 

 

 

 俺は、世界と契約すれば、皆を、窮地にある仲間を救えると思ったから契約した。そしてその力が、クラスメイトだけでなく世界を救えると思って、本当に嬉しかった。世界の力なら、俺は正義になれると。

 

 自分が間違えていると知って泣きながら笑っていた時、頭の片隅で考えたことがある。もしここで俺が死んで守護者になれば、檜山のことも、南雲のことも、この世界のことも、全てを救えるのかと。生前は間違い続けてきたけど、死後、守護者になれば、正しく在れるのではないかと。けど……これは……

 

 

 

 「これはないだろ。俺は、俺はこんなことをするために世界と契約したんじゃない!俺は、誰かを助ける力が欲しかったから世界と契約したんだ!こんな、こんな殺戮を行うために力を求めたわけじゃない!」

 

 エミヤは思った。光輝と自分は似ている。自分もそうだった。本来救われない人々。例えば、冬木の大火災で死んだ自分以外の人のような者を救うために、自分は守護者になった。自分が契約することで、誰も泣かずに済むのなら、それでいいと思った。そのためなら、死後の安らぎなどどうでもよかった。

 

 けど、そんな願いは叶わない。何を代償に払おうと、誰もが幸福だという結果は手に入らない。借り物の理想は叶わない。

 

 その現実を夢という形で見せることを、心苦しく思う。けど、これは紛れもなく自分の過去であり、光輝の未来でもある。決して避けられない未来。

 

 ならせめて、この夢を最後まで見て、あの時の自分のように、答えを得てほしいと思う。

 

 エミヤは願う。その答えが後悔を生まないものであることを。

 

 光輝には、衛宮士郎を憎んだ自分のようになってほしくない。かつての自分の所業、思想を後悔し、呪い、自分自身を消そうなんて考えてほしくない。

 

 

 

 

 場面が変わった。

 

 

 

 

 「また、聖杯戦争」

 

 どうやら今度は、昨日の夢で見た聖杯戦争とは違うらしい。エミヤさんが衛宮士郎を背後から切りつけた。

 おそらくこの二人は戦うことになるのだろう。英霊エミヤと衛宮士郎は決して相容れない存在。過去を否定する男と、その男が否定した理想を進む男。ぶつかり合わないはずがない。

 

 

 

 「理想を抱いて溺死しろ。あれはどういう意味だ?」

 

 「言葉通りの意味だ。付け加えるものなどないが?」

 

 衛宮士郎の問。エミヤさんに言われた言葉の意味。俺には分かる。間違った、借り物の理想を抱いて生き続けるなら、いっそその理想を抱いたことを後悔する前に死んでしまえと、そういう事なのだろう。

 

 「じゃあお前は、なんのために戦ってるんだ!?」

 

 「知れたこと。私の戦う意義は、ただ己の為のみだ」

 

 それはおそらく違うだろう。この人は、どこまで行ってもその借り物の理想のためにしか戦えない。自分の為になんか戦えない。悲しい生き方しかできない。

それでも自分の為に戦うと言うのは、自分の為に戦いたいという願望からなのか、本当に自分の為に戦えていると思い込んでいるからなのか。

 

 「自分の意思で戦うというのなら、その罪も罰もすべて自分が生み出したもの。背負うことすら理想のうちだ」

 

 そうだ。南雲のことも檜山のことも、他の生徒達のことも、俺の意思で巻き込んだ結果なのだから、その罪も罰も俺のものだ。

 ただ、世界を救うと宣言した時の俺は、その罪も罰も背負う覚悟がなかった。全てが正しいと思っていた俺は、自分が受ける罪や罰があるなんて思っていなかった。

 

 「戦いには理由がいる。だがそれは理想であってはならない。理想のために戦うのなら、救えるのは理想だけだ。そこに、人を助ける道はない」

 

 その通りだ。俺は、俺が正しいと思ったから、勇者になった。自分の正義を貫くという理想のために。だが、それで何が起こった?南雲は奈落から落ちた。檜山は暴走した。香織は眠った。理想は貫けたが、救えたものは何もない。

 そして、そうまでして貫いた理想(正義)は、叶えられない幻想だった。

 

 「他者による救いは救いではない。そんなものは金貨と同じだよ。使えば他人の手にまわってしまう。確かに、誰かを救うという望みは達成できるだろう。だがそこに、お前自身を救うという望みがない。お前はお前のものでない、借り物の理想を抱いて、おそらくは死ぬまで繰り返す」

 

 幻想の理想。俺はもうそれを抱いてはいない。いつまでも存在しないものに固執しても無意味なだけだ。たとえその幻想が、俺自身のものだとしても。

 

 「だから無意味なんだ。お前の理想は」

 

 自身の幻想が無意味なら、借り物の理想はそれ以上に無意味なのだろう。

 

 「人助けの果てには何もない。結局、他人も自分も救えない。偽りのような人生だ」

 

 「違う。……違う。それは……」

 

 違わない。幻想の果てには絶望があった。借り物の果てには殺戮があった。そして……正義の果てには、犠牲があった。

 誰も犠牲にならないようにと願いながら、結局、犠牲者を殺すしかできなかった。そしてその結果は自分に何のプラスにもなっていない。傷ついて傷ついて、傷ついた果てには借り物の理想すら叶えられず、守護者として永遠に殺戮を続ける未来だけ。これを無意味と言わずなんと言う。

 

 

 

 無意味な幻想を抱いた俺と、借り物の理想を抱いた衛宮士郎。

 

 

 

 

 

 ああ…………本当に俺達は、よく似ている。

 

 

 

 

 

 

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