ヒーロー『デク』   作:ジョン・スミス

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(この名義では)初投稿です。


第1話

「どーよ、でく! 俺がいっちゃんつえーんだ!」

 

「すごいなぁ、かっちゃん! 僕もはやく個性出ないかなぁ!」

 

 幼い頃、緑谷出久は爆豪勝己に憬れた。

 

 強い個性を持つ彼を僕は羨望の眼差しで見ていた。

 

 

 

 個性とは何か。

 

 そんなことを考えていた時期がある。

 

 超常が日常となった近年の超人社会においては、個性という言葉はその人の持つ超能力を意味する。

 

 逆にその能力の無い者は無個性と呼ばれ、僕のように蔑まれているのが今のこの社会だ。

 

 この特異な能力があるために、悪者(ヴィラン)が現れ、正義の味方(ヒーロー)が必要とされた。

 

 故に、能力(こせい)のない者にヒーローになる資格はない。

 

 4歳児でも分かる簡単なことだ。個性を持て余すこともないのだから、ヴィランにもなれないだろう。

 

 ………そう、誰もが知っている公然の事実で、常識。

 

 でも僕はヒーローになりたくて、なりたくて、なりたくて………。諦められず、母を困らせたこともあった。母は泣いていた。………あの日、あの時のことは今でも覚えている。

 

 でも、僕は中学2年の時個性が発現して、世間一般でいう無個性ではなくなったのだ。自分の部屋でヒーローになれると、喜び、はしゃいだ。―――でも誰にも言わないでいるのだ。理性がその個性を周知させるのは危険だと警告を発している。

 

 ………母さんにもまだ黙っているけど、いずれは言わなきゃならない。僕はもう無個性じゃないって安心させたい。僕はヒーローになれるんだって。お母さんは何も悪くないんだって。

 

 ―――僕の名付けたその個性の名は『学習』。

 

 学習すれば個性という能力を使えるようになる個性。

 

 直接目で見た他人の個性を観察し、考察し、自分のものにする。

 

 この時代、生まれこそが全て。誰もが平等じゃないこの世界の常識を覆すような個性。人生の在り方を決めてしまうほどの、個性という単一の能力を身体能力の一部にまで貶める個性。

 

「そんな個性、個性って呼んで良いのか………?」

 

 中学3年にあがる春休み、その明朝。海浜公園のゴミ山の中で呟く。

 

 ………あるいは、今まで発現しなかった遅咲きの個性への当てつけとして、

 

 ―――僕はこの個性を『無個性』と呼んでいる。

 

 

 

 □-□-□

 

 

 

 僕はもう無個性のデクじゃない。でもそれは僕の中だけの話で。

 

 相変わらずかっちゃんに虐められていた。

 

「かっちゃんの奴め、自殺教唆だぞ………」

 

 餌じゃないぞ、と焦げたノートに群がる鯉に八つ当たりをしながらぼやく。

 

 ………仕方が無いこと。わかってる。僕の個性のことは誰にも言っていない。雄英に通えるようになったその時、みんなに打ち明けようと思う。

 

 そもそも生半に鍛えているだけの現状じゃ、個性を使わず入学試験に合格するのは無理だろうから。

 

 多分かっちゃんのことだ。『今まで俺のこと騙してやがったのかッ! ああ?!』って無茶苦茶怒りそうだ。

 

 ついてないなぁ、と宙を眺めてぼやいた。

 

 

 

 13冊目の『将来のためのヒーロー分析ノート』は僕の個性を補強してくれる。「考察」には時間を要するけど、ノートへまとめ終わる頃にはわずかだけど使えるようになっている。

 

 今朝の事件で活躍した『Mt.レディ』の巨大化も今夜にはある程度使えるだろう。多分素っ裸になるから使わないけど。

 

 汗を拭うためのタオルをびしょ濡れノートに巻き付けて鞄に突っ込み、僕は学校の敷地を出る。

 

 

 

 見慣れた道を行く。

 

 かっちゃんの鼻を明かせるようなヒーローに、憧れの()()()のようなヒーローになるんだと何度目かの決意をする。

 

 そんな時だった。

 

「………Mサイズの隠れミノ」

 

「!?」

 

 ついてない。僕はヘドロ状のヴィランに襲われる最中、つくづくと今日の運の悪さを恨んだ。

 

 

 

 ―――藻掻く振りをしながら、冷え切った頭の中でどう対処するか考える。こんなところで知られてもいけない。ましてやヴィラン相手に、素顔を見られた状態で使い慣れた『個性』を使えば僕の素性がバレてしまう。

 

 窒息しかけ。意識がおちそうになりながら、無個性の中学生を演じるのは楽じゃないや、と―――諦めかけたその時。

 

 顔にへばりついていたヘドロが引き剥がされた。

 

 風圧。否、暴風。

 

「もう、大丈夫だ少年!!」

 

 聞きなれた声。何度も繰り返し見た、あの動画。

 

 昔起きた大災害直後の………一人のヒーローのデビュー動画。

 

 ―――『見えるか!!?』

 

 ―――『もう100人は救い出してる!! やべえって!!』

 

 ―――『まだ10分も経ってねーって!! やべえって!!』

 

 

 

 ―――『もう大丈夫! 何故って!?』

 

 

 

「私が来た!!」

 

 画面の向こう側だった存在。No.1ヒーロー『オールマイト』に僕は助けられた。

 

 それが、僕の意識を失う最後の記憶だ。

 

 

 

 □-□-□

 

 

 

 ―――ヘイ! ヘイ!!

 

 頬を叩かれる。呼びかけられる声に、目を開けた。

 

「へッ………あ、よかった―――!!」

 

「お、おおお、オールマイトォォォォオオォォあああ!?!?」

 

「いやー元気そうで何よりだ!」

 

 他でもないオールマイトに起こされた、と僕の心臓はバクバクと早鐘を打つ。

 

 本物だ。間違いない。―――画風が、全然違う!!

 

「いつもはこんなミスしないのだが、オフだったのと慣れない土地でウカれちゃったかな!?」

 

「しかし、君のおかげさありがとう!! 無事、詰められた!!」

 

 矢継ぎ早に言うオールマイト。手にはペットボトルに詰められたヴィラン。

 

 生で見れたことに過呼吸気味になりながらもサインを貰おうとした。

 

「してあるー!!」

 

 流石、No.1ヒーロー。ファンサービスに抜かりない。

 

「わああ、ありっありがとうございます!! 家宝に! 家の宝に!!」

 

「じゃあ、私はコイツを警察に届けるので! また、液晶越しに会おう!!」

 

「え! そんな、もう………? まだ」

 

 まだ聞きたいことが、ある。

 

 そんな思いで、跳び立とうと力を溜めているオールマイトの足に、僕はしがみついた。

 

 

 

 マンションの屋上に下ろされて、ようやっとまともに吸える空気を荒い呼吸で味わった。

 

 一分にも満たない飛行。否、跳躍。風圧で、死ぬ思いになりながらも手を離さなかった僕を誰か褒めてほしい。

 

 マジか、オールマイト。No.1ヒーローの所以の、その一端を体感した僕の頭の中はそんな感想で埋め尽くされている。

 

「全く! 階下の方に話せば下ろしてもらえるだろう! 私は、マジで、時間がないので本当にこれで!!」

 

 言わなきゃ。聞かなきゃ。

 

「待って!」

 

「NO!! 待たない」

 

 ―――個性がなくても、ヒーローはできますか!?

 

「個性のない人間でも、あなたみたいになれますか?」

 

 足を止めたオールマイトに、畳みかけるように言う。

 

 ………これは、けじめだ。嘗ての僕でも、それが可能だったのか。

 

 時間のないNo.1ヒーローに聞くような話ではないかもしれない。でも、彼の言葉だからこそ、僕は決心できる。

 

 皆に自分の隠している秘密を話してもいいのか、どうか。

 

「個性がないせいで、そのせいだけじゃないかもしれないけど、ずっと馬鹿にされてきて―――」

 

 だからこそ、年々その思いは強くなった。

 

「恐れ知らずの笑顔で助けてくれる! あなたみたいな最高なヒーローに………」

 

 なれたかどうか。と。聞こうとして。

 

 煙。

 

 オールマイトのいた場所を取り巻く煙幕に、そして、中から現れた人物に、僕は言葉を失った。

 

 

 




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