ヒーロー『デク』   作:ジョン・スミス

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お久しぶりです。
バレンタイン間近ですね。
今年はチョコ貰えそうですか? ………そうですか。
私はたくさん貰えました。ソシャゲで。
私は想いだけもらって、マスター君には代わりにたくさん食べてもらいましょう。



第10話

 ぶっ壊れた。ぶっ壊れた! ぶっ壊れた!!

 

 ヴィランだけじゃない腕も、脚も!!

 

 オールマイトならお茶の子さいさいなんだろうけど、僕の場合はお茶の子砕砕(さいさい)だ。シャレにもなんない!!

 

 風になびく腕と脚を目視してしまって、遅れてやってくる痛みに悲鳴を上げながら僕は落ちる、落ちる。重力に従って、地面に向かって。

 

 痛みなんかよりもシャレにならない命の危機に、脳内麻薬が間欠泉のように出始めたらしく痛みが引いていく。

 

 なぜか走馬燈はやってこない。ここのところ頻度が多かったからかもしれない。

 

 流石に命の危機だ。オールマイトも許してくれるだろう。

 

 もう『ヘドロ』の個性を使ってしまおうか。汚い地上絵になるだろうけど、死ぬよりマシ。他に流体の異形型個性があれば良かったんだけど、今無いものをねだっても仕方がない。

 

 ―――あ。

 

 今朝助けてもらったように、あの人の個性を使えば良いんじゃないか!

 

 でも全然分かんないや! 考察してない! どうやって使うんだ! 女の子と喋ったからって舞い上がり過ぎてた!(喋ってない)

 

 あと15m! もう『ヘドロ』の個性を―――

 

「ぶっ―――!?」

 

 バチンと落ちる僕の頬を引っ叩く誰か。破壊された3ptヴィランの部品に掴まるその人の姿を見て、使いかけていた個性を引っ込める。

 

 そして浮遊感。重力による慣性は消失していって、僕は赤色かヘドロ色のアートにならずに直前で止まった。

 

「解、除!」

 

「ぶへぇ!」

 

 ―――。跳び箱から落ちた時みたいな衝撃に、一瞬息が出来なくなる。でも、ありがとう朝の人。助けられて良かった。助かった。

 

 痛覚無くなってんじゃないだろうかってくらい、粉砕骨折の痛みが分からない状態で、一緒に落ちてきたであろう命の恩人の姿を探す。まだ意識があるうちにお礼、言わないと。怪我、してないかな。助けた筈が助けられて、それで怪我してたら、申し訳ない。

 

「………うぷ―――」

 

 見つけたけど目を逸らす。………なるほど、あれがあの強個性のデメリット。

 

 音を聞くのも申し訳なくて、朦朧としながら痛みを自覚して―――

 

 

 

 気絶してる間に試験は終わっていた。口の中は砂っぽかった。

 

 何か大事なものを失くしてしまった気がするけど、多分気のせいだろう。起きたら腕と脚が治っていたことと何か関係があるのは確かだ。………いや、知ってるけど。マウストゥーマウスされてないと信じたい。

 

『回眠』のお蔭か、体力的にも回復した状態だ。それから腕も治ってる。あんな試験を敢行して病院送りの人間が一人もいないというんだから、雄英はやっぱり普通じゃない。左腕を痛めて、右腕と両足複雑骨折したというのにこうして自力で帰れるんだから。

 

 僕の目指しているのはそんなところ。だからこそ落ちたんじゃないかなぁ、と不安になる。後半僕は気絶して時間を大幅にロスしてしまった。あんな調子じゃヒーローになんてなれっこない。

 

 

 

 ………でもやれるだけの事はやったんだ。

 

 そう自分に言い聞かせて帰路に着く。地下鉄を乗り継ぎ、40分。不安に揺られながら家を目指した。

 

 

 

 □-□-□

 

 

 

「出久………出久?」

 

 ―――………。

 

「―――出久!? ちょっと大丈夫!? 何、魚と微笑み合ってんの!?」

 

「ああ………ごめん。大丈夫………!」

 

 ぼーっとしすぎてた。なんで僕魚持ったままなんだ。身を齧って、白米をかきこむ。

 

 ここ1週間こんな調子だ。

 

 筆記は自己採点でギリギリ合格ラインを越えていた。ホントにギリギリだ。もうちょっと勉強をしてればと終わってから思ったけどしょうがない。かといって実技に自信があるかというとそうでもなかった。

 

 むしろ一番不安なのは実技で。40体以上は倒してたはずだから、40ptはある筈で。………ほんとに40体も倒せたのか日に日に自信がなくなってくる。そんな風に気がつけば1週間だ。

 

 行動不能にするってのが、中々判断難しくてオーバーキル気味に倒してた筈だから。大丈夫、大丈夫のはずなんだ………。

 

 少なくとも3ptヴィランを5体以上は倒せたはずだ。だから15ポイントはあると思う。ああ、それでも不安は拭えない。

 

 

 

 ………気がかりがもう一つあって。

 

 入試以降オールマイトと連絡がつかなくなった。あの日以来パッタリと。

 

 どうしてなんだろ。入試の日まで会えなかったことと何か関係があるんだろうか。

 

「………通知、今日明日くらいだっけ!」

 

「んん」

 

 物思いにふけっていると食事の片付けをしていた母さんに言われて。カレンダーを見てそうだったと思い出す。ここのところ心ここにあらずだったからすっかり抜けてた。

 

「もう! 雄英受けるってだけでも凄いことだと思うよ、お母さん!」

 

「んー………」

 

 別に受けるだけだったら無個性だった頃でも―――いや、母さんの中ではまだ僕は無個性なんだ。無個性の僕にとっては凄いことなんだ。それでも我ながら気の抜けた返事だった。

 

 母さんは郵便物をとりにいったらしく、玄関扉のきしむ音がした。

 

 ………オールマイトの超パワーであるOFA。その一端だけとはいえ、入試のために使った個性はそれだけだ。オールマイトに言われたように。そして一回きりだけどNo.1ヒーロー足る所以を身をもって知った。

 

 不安だけど、合格したら無個性の筈の僕がどうして受かったのか、となりかねない。それは避けられない話題だ。無個性でいけるほど雄英は甘くない。

 

 ―――個性のこと話さないと。その時がきたんだ。明日、また明日と今日まで中々言い出せなかった話を。僕には『無個性(がくしゅう)』って個性があって、無個性じゃないってことを。

 

 母さんが帰ってきたら言おう。そうだよ。明日って今さ。

 

 そんな風に決意していると母さんが丁度帰ってきた。

 

「お母さ」

 

「出いずいずく、出久!!」

 

 慌てて、這うようにして部屋に入ってきた母の姿に言葉がつまる。

 

「来た!! 来てた!! ―――来てたよ!!」

 

 手に持っている封筒の雄英高等学校の文字を見て。合否の結果を知ってからでも遅くないと、………僕はまた個性の話を先延ばしにした。

 

 

 

 □-□-□

 

 

 

 散々睨みあって。書類が入っているような厚みじゃない。覚悟を決めて封を切る。

 

 ゴト、と何かが机の上に落ちた音がして。

 

「んっんん゛~~~!!」

 

 机の上に転がったビデオレターから聞こえる聞き慣れた声にハッとする。

 

「私が投影された!!」

 

 !? お、オールマイトぉ!?

 

「どうして!? なんで!?」

 

 雄英からだよな!? どうしてオールマイトが!?

 

「諸々手続きに時間かかってなかなか連絡が取れなくてね。ゲホッ………いや、すまない!」

 

 姿勢を正す姿に自然と自分も背筋が伸びる。

 

「私がこの街に来たのはね、他でもない。雄英に勤めることになったからなんだ」

 

 今明かされる驚愕の真実! それで多忙なはずのオールマイトが僕を鍛えることができたのか!

 

 それにしても雄英に! オールマイトが!!

 

 後がつかえているのか、巻きの指示が出たらしい。長話はできないようだ。

 

「さて、そういうことだ本題に入るとしよう。結果から言うと合格だ、緑谷少年」

 

 へ、っとあっけない声が漏れた。

 

「筆記はもとより、自信はなかっただろう実技試験は文句なしの―――合格だ!」

 

 聞き間違えじゃない。聞き間違えじゃない!

 

「まあそう興奮するなよ! まだ話には続きがある! 話を聞くんだ!」

 

 ………。心が読まれてる。

 

「録画だよねコレ」

 

「念のため言っとくが録画だぜ」

 

 やっぱり心が読まれてる。僕ってそんなにわかりやすいんだろうか。

 

「コホン、いいかい緑谷少年。落ち着いて聞いてくれ。筆記試験ではギリギリ合格ラインを超えるぐらいだった。そして実技なんだが………え! マジで時間がない!? いや、でも彼には本当に色々と話さなきゃならないことが!」

 

「ははは………」

 

 初めて会った時も時間がないって焦ってた。そんなことを思い出してしまった。

 

「仕方がない! この映像だけは見せておこう!」

 

 画面が切り替わって映されたのは、何かと助けてもらった例の女の子だ。プレゼントマイクもいる。

 

『~~~分かりますか………? っと地味目の』

 

 僕のことを話しているようだった。

 

『その人にポイント、分けるってできませんか!? あの人、腕怪我してて! だからまだ全然ポイント稼げてないんじゃないかって………! だからせめて私のせいでロスした分………!!』

 

 映像はそのまま、オールマイトの声がする。

 

「………覚えているかい。ヘドロ事件の時だ。私が動かされたのは無個性の君の勇気。それは勘違いだったわけだけどね。―――だが、個性を使うようになって尚、君の行動は人を動かした!!」

 

『あの人、助けてくれたんです!!』

 

「先の入試、見ていたのはヴィランptのみにあらず!」

 

 寝間着の裾を僕は握りしめていた。

 

『分けらんねぇし、そもそも分ける必要がないと思うぜ、女子リスナー!!』

 

人救(ひとだす)けした人間を排斥しちまうヒーロー科なんてあってたまるかって話だよ―――!!」

 

 武者震いがとまらない。僕は間違えてなんかいなかった。

 

「きれい事、上等さ!! 命を賭してきれい事実践する仕事だ!! レスキューpt!! しかも審査制!! 我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力!!」

 

「緑谷出久62pt!! ついでに麗日お茶子28pt!!」

 

 ………。はい!? そんなに!?

 

「そういうわけだ緑谷少年。つまりヴィランptに合わせて134pt―――合格は合格でも、主席合格だよ!! おめでとう!!」

 

 ………。はあああああああああ!?!?

 

 

 

「来いよ、ここが君のヒーローアカデミアだ!!」

 

 

 

 




the・補足!!
デク君の『学習』は()()()()の「理解」によってなされます。
今後の話の展開に差し障るので深くは説明できませんので小話を。
1+1が2であることを誰もが理解できるのは1+1が2であると知っているからです。しかし、1+x=yとなってしまえばyの数値はわかりません。(結果)
仮に1+1が2であることを知らなければ仮にyの数値が2であったとしてもxの値は求められないわけです。(過程)
デク君の場合は結果を見て過程を考察、理解することで学習………使えるようになると言うわけです。

以上! これ以上は無理!!



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