ヒーロー『デク』   作:ジョン・スミス

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第4話

 ―――君はヒーローになれる。

 

 初めてそう言ってくれたのはNo.1ヒーロー。オールマイトだった。

 

 登場以来、犯罪の発生率は年々減っていき、一気にNo.1の座に躍り出たトップヒーロー。

 

 名実ともに平和の象徴である男が、『ヒーローになれる』と言ってくれたのだ。

 

 ヒーローになれないと自分の夢を否定してきた人たちの声と顔を思い出しては、消えていく。

 

 憧れのヒーローが言ってくれたのだ。―――これ以上の激励があるか!

 

「オーr「君なら私の力、受け継ぐに値する!!」―――………へ?」

 

 ………なんて言った?

 

「なんて顔しているんだ!? 『提案』だよ! 本番は此処からさ!」

 

 いいかい少年! そう言ってすこしオールマイトは勿体つけて言う。少しテンションが高い。

 

 

 

「私の力を! 君が受け取ってみないか!?(喀血)」

 

 

 

 ―――。………チカラヲ?

 

 少しばかり思考が停止する。何を言っているんだ、オールマイトは。あと血が凄い。

 

「私の、個性の話だ少年―――」

 

 週刊誌などで幾度も『怪力』だ。『ブースト』だ、と囁かれてきた。決まってインタビューでは常に爆笑ジョークで茶を濁し、オールマイトは自分の個性の話を煙に巻いてきた。

 

 今日、実際に会えて、自分が使おうとして分かったことでもある。単なる増強系の個性じゃないと。

 

「平和の象徴は、オールマイトはナチュラルボーンヒーローでなければならないからね」

 

 オールマイトの力が誰かからの借りものだとしたら、それは確かに問題というか。なんというか。ファンとしてもちょっと嫌かもしれない。

 

 風で靡く、しなびたトレードマークの髪が鬱陶しいのか、掻き上げるオールマイト。

 

「―――私の個性は聖火の如く引き継がれてきたものなんだ」

 

「引き継がれてきた………もの!?」

 

「………そう、そして次は君の番だということさ」

 

「ちょっ! ちょっ待っ………待ってください!?」

 

 オールマイトの個性は確かに世界七不思議の一つとして喧々囂々と議論されてきた。ネットじゃ見かけない日はないくらいにでも、個性を引き継ぐってそれはちょっと意味がわからないというかそんな話今まで聞いた事も無いし議論の中でも推測されていないわけでソレは何故ってつまり有史以来そんな個性は確認されてないからっていうかそもそもアレです生まれつきの固有の身体的特徴であって自己を確立する要素だからこその()()なわけで―――いや、でも、有り得るのか?」

 

「お、おう………い、一応信じて貰えたかな………?」

 

 たじたじとするオールマイトに、考えが口から洩れていたことを悟った。

 

「私は、隠し事は多いが嘘はつかん。個性(ちから)を譲渡する個性(ちから)! それが私の受け継いだ個性! 冠された名は―――」

 

 

 

『ワン・フォー・オール』

 

 

 

「ワン・フォー………オール」

 

 一人はみんなの為に。

 

 あまり聞かなくなった、チームワークが大切だというスローガンの一部。確か元は外国の小説だった気がする。

 

「一人が力を培い、その力を一人へ渡し、また培い、次へ。そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた―――力の結晶!!」

 

「そんな大層なもの何で………なんで僕に、そこまで―――」

 

「無個性で只のヒーロー好きな君はあの場で誰よりもヒーローだった! ………元々後継は探していたのだ。そして君になら渡して良いと思ったのさ!! ………まあ、しかし君次第だけどさ! どうする?」

 

 また出そうになった涙を拭う。

 

 ―――ここまで言ってもらえて。僕なんかに大事な秘密まで晒してくれて。………あるか? 断る理由なんて………。

 

 

 

 ある。

 

 

 

 とびきりの理由が。

 

 僕の、個性の話だ。

 

 

 

 □-□-□

 

 

 

 きっと、即答して受けてくれるだろう。

 

 オールマイトはそう思っていた。

 

「………すみません、オールマイト。その個性は。無個性でないと引き継げなかったり、しますか?」

 

 まだ名前を知らない少年の口からでたのは快諾の言葉ではなく。話の真意を問うような質問だった。

 

「いや、そんなことはないが………もしかして嫌だったかな」

 

「いや! そんなことはないんです! 僕が選ばれたっていうのは光栄なことですし、僕なんかが断ってもいいのかってぐらいで!! むしろこっちからお願いしたいくらいで………!」

 

「じゃあ何故少年はそんなことを?」

 

「それは………」

 

 膝をついている少年は自分の両手を見た。自然とオールマイトもその手に視線を寄せられた。

 

「おいおい噓だろ………!!」

 

 片手からは爆発が。片手はヘドロに変わり形が保てなくなる。

 

 先程のタフネスな少年とヴィランを彷彿とさせる力に思わず口を押さえる。

 

「………勘違いさせてしまうようなことを言いました。いや、まるっきり勘違いってわけじゃないんですけど!! ………半年前ようやっと僕にも個性が発現したんです。それまではずっと無個性で。ずっと馬鹿にされ続けてて………」

 

 それはわかる。自身も経験があったからだ。今ほどではないにしても、無個性であるというだけでその夢を語ることも、見ることも許されない世界をオールマイトは知っている。

 

「やっと、個性が発現したって思ったらこんな強個性で。今まで誰にも言えなかった。………オールマイト。あなたの話を信じられたのはこれが理由なんです。………名付けた個性の名は『学習』。直接見て、考察さえすれば、大体の個性が使えるようになってしまう。個性を、本来の意味で『無個性』にしてしまう個性」

 

 ―――だから僕は『無個性』って呼んでます。

 

 そう自虐的に笑う少年に何と反応したら良いのか。まるで()()個性(ちから)じゃないかと。目の前に居る少年に言うことはならない。あってはいけない。………ヤツはあの時死んだ。もう居ない。―――いや、まさか。

 

 オールマイトは無意識のうちに傷跡を押さえていた。

 

「君は、その個性(ちから)が発現する前に、怪しい人物に会わなかったか………?」

 

「い、いえ。………えっと、部屋でそのヒーローの真似事をしていたら、その。………使えちゃって」

 

 恥ずかしがるのは、成る程とオールマイトは思った。自身も経験があったからだ。人はそれを中二病と呼ぶ。

 

「………」

 

 でも有り得るだろうか、そんなことが。中学2年生の年齢と言えば14才。個性が発現するのには遅すぎる年齢だ。それこそ何者かの関与を疑わないことには。記憶を改竄する個性(ちから)もヤツなら持っていてもおかしくない。

 

「オールマイト?」

 

「………すまない、考え事をしていた」

 

 いや、そう、あり得ない。こんなにも臆病で、あんなにもヒーローだった少年がヤツの関係者だとは到底思えない。

 

 オールマイトが考え事をしている間に、少年はヘドロ状になった手を元に戻していた。

 

「オーケー。………それで、話しておきたい事はそれだけかい?」

 

 そうだ。信じよう。単なる偶然だと。何せ個性とは突然変異。与える個性や奪う個性もあるんだ。何があってもおかしくないのだから。オールマイトは、自分を安心させるように言い聞かせる。

 

 それに半年とはいえ、今までの反動からヴィランになってもおかしくなかったのだ。よく()()ずにいたなと感心した。

 

「あ、はい………―――いやもう一つだけ」

 

「おいおい、まだあるのかい!」

 

「………う、いや。でも言って良いかなぁ―――」

 

 言い淀む少年に、なんだ、何があるんだと身構えてしまう。この少年に継いで貰おうと決心したものが、揺らいでしまいそうだ。

 

 ―――こんな強個性持ってるんだから、要らないんじゃないかと。

 

 いや、まて。オールマイトは自制する。隠していることは自分にもまだまだあるのだ。少年の隠し事の一つや二つぐらい受け入れられなくてどうする。

 

 

 

「最近この近所で噂のヴィジランテはご存じですか」

 

「………おいおいマジか」

 

 その言葉だけで何となく話したいことを悟ってしまったオールマイトは、詳しい話を聞いてなんてことしてんだ少年!! と叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 少し時間を置こう、と。オールマイトは2日後また直接会う約束をして少年と別れた。その間に少年―――緑谷出久の身辺調査を友達の警察官に頼み。このあたりで噂になってるというヴィジランテの事を聞き。

 

 友達の警察官は何となく事情を察しながらも少年の関係者を1日で調べ上げた。

 

 結果、緑谷少年は白。父親が単身赴任で海外に、実質母親に女手一つで真っ当に育てられたと。そして到底褒められる事じゃないが、件のヴィジランテの活躍は目覚ましいものだった。これは継がせなければと、オールマイトは使命感が湧く。

 

 翌日、緑谷少年の素行調査が終わった夜。ほっと一息をつくオールマイトは、恐々としているだろう少年の電話に着信を入れる。………案の定情緒不安定だったが、無事伝えられた。

 

 ―――明日の朝6時。多古場海浜公園で会おう。

 

 

 




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