ヒーロー『デク』   作:ジョン・スミス

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ソシャゲのイベントが一段落したので投稿。

前回私頑張ったからね。ちょっと間が長くなっちゃったけど、しょうがないよね。
ジョンって奴はまったくしょうがないなぁ!


第6話

 雨にも負けず、風にも負けず。

 

 流石に夏の厳しい暑さには参って、走り込みの代わりに半分の距離の水泳を毎日した。

 

 受験勉強とトレーニングと。両立しながらの課題(ゴミそうじ)もこなし。

 

 くたくたの中、深夜の海で個性(ちから)の練習………。

 

 明らかなオーバーワーク。でも、無個性の僕と同じようにいじめられてた彼の個性(ちから)を覚えたおかげで、ここ4ヵ月は翌日に響かせることはなかった。

 

 

 

「緑谷少年! ちょっとペース速くない!? スピード落とさない!?」

 

「全然! まだいけます!」

 

 少し塩気のある唇を舐めて、スピードを上げる。

 

 セグウェイに乗るオールマイトを追い越し、見慣れた並木道を走る。

 

「ちょっと待って少年! 一応、おじさんペースメーカーのつもりなんだけど!!」

 

「オールマイトはおじさんじゃないです!!」

 

「聞こえてるなら少しスピード落してくれないか!?」

 

 木々はもう冬支度を始め、枯れ葉が木から落ちまいと風に揺られていた―――

 

 

 

「………?? オールマイト?」

 

 ふと気になって足踏みしながら振り返ってみるとオールマイトの姿がなかった。

 

 来た道を折り返して戻ってみるとセグウェイに乗ったまま立ち尽くすオールマイト。

 

「どうかしたんですかオールマイト」

 

「緑谷少年、電池切れちゃった!」

 

 なんで充電しておかなかったんだろう。

 

 少し予定している時間まで早いが、「ちょっと休憩にしよう」と中断の一声がはいる。僕は歩きながら少しずつ息を整えた。

 

 地面に降りたオールマイトから、動かなくなったセグウェイを受け取る。

 

 びゅう、と吹く風にトゥルーフォームのオールマイトは身を縮こまらせていた。

 

「はやいものだ。あと3か月。どうだい? さっきはああ言ってたけど、無理してないかい?」

 

「………ええと。はい」

 

 違う、さっきの言葉の通りだ。まだまだ全然、余裕がある。

 

 違和感を感じたのか。オールマイトの落ちくぼんだ視線が、僕を射抜く。

 

「………。緑谷少年。君、少しトレーニング過剰にやってるな。私の作ったトレーニングプランじゃあ、そんな体力はない。君の押しているソレも、ここ最近は私の思った以上にスピードをだしてしまっていた程だ。君の筋力は私の想定以上に強くなっている。………個性を使ってるわけじゃないんだろうが」

 

「言われた通り、トレーニングには使ってないです………」

 

「トレーニングには、か。なるほどね。確かに、私の言いつけには反していないよなあ………」

 

 ふ、と。マッスルフォームの時に似た威圧感が消え、少し重たかった空気が軽くなった。

 

 なにか不味かったのか。そんな風に思えてしまう反応だった。

 

「―――とはいえ、私の都合ではあるし、かといって使うなというのも酷な話だし………」

 

「オールマイト?」

 

「いや、いい。いいんだ。緑谷少年。………君の個性だ。誰かを傷つけようというつもりもなく、ただ自分の目標のため。………いや、私からの課題達成のため。私の言葉に反さない程度に使うのなら、問題はないというもの。………ちなみに、どんな個性を使ったんだい?」

 

「『回眠』っていう個性です。寝たら、体力を全回復するっていう。まだ1日一回しかできないんですけど。………えっと、小学校の時の同級生にばったり出会って。その子の個性がそれでして」

 

 いじめられっこ仲間です、と苦笑いすると「OH………」とアメリカンな反応。

 

「恨むぜ、その子………」

 

「オールマイト!?」

 

「いいや、冗談さ!! HAHAHAHA!」

 

 冗談に聞こえないトーンだった………!!

 

 ―――もし。仮に。

 

 オールマイトが、僕自身の個性を使う事を良く思っていないなら………思っているところを言わないといけない。僕にはオールマイトが思っている以上に時間も、余裕もないってことを。

 

「オールマイト、聞いて下さい。あの時、貴方の個性を継ぐと決めたとき、もう一つ決めたことがあります。―――平和の象徴、それを継ぐんだと。だから僕は使えるもの全部使って、オールマイトのような………。いえ」

 

 

 

 ―――僕は貴方を超えるヒーローになる。

 

 

 

 

 

「緑谷少年っ―――」

 

 面と向かって、現No.1ヒーローにこんなことを言うのは、なんというか今までの僕らしくなくて、すこし恥ずかしくなった。

 

「え、えーと! じゃあ休憩、終わります!」

 

 ………すこし逞しくなったからって気が大きくなってるな、僕。

 

 セグウェイをオールマイトに返して、大きく身体を伸ばす。少し身体が軋んだ。手足をブラブラと解して、腕の筋も伸ばしていく。走り出すと段々とクールダウンしていた身体は少しずつ温まってくる。

 

 200mも走れば、羞恥心は鳴りを潜めていた。

 

 

 

 あと3ヵ月。それまでに、オールマイトの力を―――OFA(ワン・フォー・オール)を使えるようにならないと。

 

 

 

 □-□-□

 

 

 

「見据えていたのは、遥か先ってか………」

 

 自らを置いて先へ行く少年の後姿に、肩の荷が下りたような感慨を覚えた。

 

 なんの根拠もない。ただの直感だが。あの少年ならば、悪の道へ落ちることは無いだろう。そう確信できた。そして、この(OFA)を任せられるだろうと。

 

 自身の後継に選んだ少年は、はじめに見込んだ通りの少年だった。

 

 

 

 ―――確かに、無個性だと思っていた彼の個性を知った時、危うんだ。

 

 その個性の強力さ故に。

 

 あの宿敵を彷彿とさせる個性(ちから)故に。

 

 その個性を使わせないようにするため、OFA(ワン・フォー・オール)だけで十分ヒーローになれるからと、トレーニングを課した。

 

 素直に聞くだろうという打算で、トレーニングには個性を使わないようにと言って、既に持っている個性(ちから)を使いこなす時間を与えないようにした。

 

 目論見は外れたが、しかし蓋を開けてみれば、なんのことはない。

 

 ただのヒーロー志望の中学生。

 

 自身のマッスルフォームの胸元まで届かないその身から、溢れんとする義勇の心を除けば。極度(ちょっとひくくらい)のオールマイトオタクだったって話。

 

 ヴィジランテをしていたのはいただけないが、それもまた、彼の精神が真にヒーローたり得る証とも言える。

 

 

 

「………弱ったな、私は」

 

 肉体的にではなく、精神的に弱ってしまった。

 

 打倒したはずの巨悪の陰を恐れるあまり、たかが中学生一人の個性に怯えてしまう。

 

 情けない。情けない。嗚呼、なんと情けないことか。

 

 かつてサイドキックに言われた己に宿る狂気。それに似たものをもつ少年が後悔をしないためにも。自分が、次代の平和の象徴を導いてやれば良い。

 

 ―――僕は貴方を超えるヒーローになる。

 

 もう一度、その言葉を反芻して。

 

「はは、頼もしいじゃないか少年」

 

 いつかの自分と見比べ、八木俊典は安堵する。そして、彼の個性と向き合うことを決めた。

 

 ………目下、今してやれることはトレーニングプランを彼の持っている個性に合わせて調整するぐらいだろう。

 

 もう姿が見えなくなった少年は今の時点で既に、個性の無かった時代のマラソン選手以上の体力と短距離走の選手並みの俊足を持っている。既に、(からだ)はできているかもしれない。

 

 OFA(ワン・フォー・オール)―――彼がこの力を受け継ぐ日は近い。

 

 




感想、評価ありがとうございます。
誤字報告も感謝してます。

感想レス
個性についての質問や考察が捗っているようなので、その一助として後書きにその話で使った個性の詳細を載せます。なに、遠慮するでない。まえの回の話の分も載せるので良かったら見てネ。

ご質問ありました。同名の個性でも、その出来ることや強度は違ってきたりします。
認識としては同姓同名の人でも容姿が違う感じでしょうか。やはり本来唯一無二だからこその個性だという認識です。
つまり原作キャラと邂逅してるかもしれないし、してないかもしれない。以上!

PS.お仕事しんどすぎる。ああああ!!

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