ヒーロー『デク』 作:ジョン・スミス
お知らせ
個性紹介コーナーを後書きに設けました。よかったらご査収ください。
雄英入試まで残り1ヵ月となったある日。
「緑谷少年! ちょっとこっち来てくれるかい!」
「―――はい!」
さっぱりとした海岸は遠くに見えるゴミ山を除いて綺麗になっていた。
課題は既に達成している。指定された範囲は綺麗に片付けて、あとはゴミがあったという痕跡だけだ。この一区画はあとタイヤ一個で終わるし、取り敢えずはこれを片付けて、オールマイトのところへ行こう。
………まだまだ1ヵ月は時間がある。どうせなら目に見える範囲全部綺麗にして終わっておきたい。
オールマイトによる『目指せ雄英合格アメリカンドリームプランVer.2.0』によって僕はメキメキと地力が鍛えられて。ピンク筋って言うんだっけか。持久力も筋力も相当なものになった。
そろそろなんじゃないだろうか。
そんな、もしかしてを想像しながら。ダンプカーのタイヤ(60キロぐらい)を背負ってオールマイトの元へ急ぐ。
オールマイトの乗ってきた軽トラに積んで、少し汚れた手を払う。経年劣化したゴムや何やらで汚れるのはわかってはいるけど、あまり汚れたくないのが本音。
服は汚すと迷惑かけちゃうので上半身は裸でやってるが、もう真冬だ。動いて身体は温かくなっているとは言え、時折吹く風が少し肌寒い。
「ヒュー! お疲れ! ―――いやー綺麗になったね! まさかここまで早く片付けるとは思いもよらなかった!」
「ありがとうございます、オールマイト!」
「いいや! 君の頑張りさ! 私はなにもしていない。こうしてたまに見にくるだけだったからね!」
感心感心、と言いながら頷くトゥルーフォームのオールマイトはファーのついた暖かそうな上着を着ている。裾が地面に着きそうだ。完全防寒って感じだ。
「さて………。一区切りだ、緑谷少年」
「………。はい」
オールマイトは気が付けばマッスルフォームに。これから話すのは真に迫った話だ。そう直感した。
「ん、そうだ。ホラ、見てみろよ、10ヵ月前の君をさ!」
見下ろすマッスルフォームのオールマイトは僕にいつか撮った写真を見せてくる。連写されたうちの一枚だった。ひょろりとした僕が映ってる。情けない顔だ。
「よくがんばったよ、本っっ当に!! 私からの課題をこなし見事、
筋肉質になった手を見やり、見比べる。長く短かった時間を実感して、涙が出てきた。
「なんだか、ズルだな………僕は」
………強力な個性に目覚めて。でも強個性を発揮することなんか無くて。
………個性があってもヘドロ事件で何にも出来なかった僕が、オールマイトにヒーローになれると言われて。その力を受け継ぐことになって。
………オールマイトのようになりたいと思ってた僕は自分でも驚くくらい強欲で。No.1ヒーローを超えるって目標に変わって。
とりとめも無く、まとまらない思いが溢れて、滂沱と流れてる。
でも、なによりも。
「オールマイトにここまでして貰えて恵まれすぎてる………」
―――誰もが憧れるヒーローからの期待が、嬉しくて堪らない!
「HAHAHA! その泣き虫、直さないとな!」
「っはい!」
苦笑気味なオールマイトに背中へ活を入れられて、涙は引っ込む。これからだ。………ここからだ。
「さて、少年。改めて、よく頑張りました! おめでとう! 自信を持てよ、少年当初の予定よりも早いって事を!!」
―――
「ッッ!! はいっ―――!」
ワン・フォー・オールは僕の個性で覚えることの出来なかった
「これは受け売りだが、最初から運良く授かったものと、認められ譲渡されたものではその本質が違う! 肝に銘じておきな。君の個性でなんかじゃない、これは君自身が勝ち取った力だ!」
話を聞けば当たり前だった。歴史が、関わってきた人が―――培ってきたものが違う。僕の個性なんかよりも、遥かに凄い個性。
これ一つでNo.1ヒーローとして輝いてる人が実際に目の前に居るのだ。否応にもその力の差を実感してしまう。
―――責任。重圧。そんなものを漠然としたまま覚悟して、僕はコミックもびっくりの現実をこの手で―――
「食え」
「へあ!?」
ぷつ、と音と共に髪の毛一本抜いたオールマイトはそんなことを宣って―――今何と言った?
「別にDNAを取り込められるなら何でも良いんだけどさ! さァ、ほら食った食った!!」
「お、思ってたのと違いすぎる………!」
こう、手からぱーっと………ぱーって………。
―――入試まであと1ヵ月。新たに僕はオールマイトから課題を言い渡された。
『君が持つ全てを使って、この海岸を綺麗にするように!』と。
□-□-□
『徐行だよ、徐行! アクセルべた踏みはしないように! 複雑骨折するからね!!』
そう言い残して、今日からやることが沢山あるらしいNo.1ヒーローと別れて2時間後。
手に抱えられる程度の小さなものを入り口まで運びながら僕はオールマイトの言葉を思いだしていた。
ゴミ掃除に個性を使っても良いとお許しは出たけど、どうせだからOFAの練習に時間を使うべきだ。
「でも徐行って何ですかオールマイト………」
車の運転したことないのにそんな風に言われると困るというか。感覚って言ってたけど、これがよくわかんない。初めから使い熟せてたっていうオールマイトはやっぱり凄い。
増強系の個性は幾つか持っている。ちょっと参考にしよう。
今丁度使ってる、全身の筋肉量を一時的に増やすデメリットのない『ビルドアップ』。
とんでもない火事場の馬鹿力を発揮するが、一定時間で途轍もない倦怠感と疲労感に見舞われるリスキーな『リミットオフ』。
そのほかヒーローも持ってる『膂力増強』や『ブースト』、『怪力』みたいな個性もあるけど、どれもオールマイトがテレビの画面の向こうで見せてきたようなことはできない。天候を変えるようなことも勿論出来ない。
感覚としては増強系の個性を使うソレでいいんだろうけど………。
「試しに増強系だけ掛け合わせて使ってみようかな」
OFAを除く、僕の持ってる増強系の個性は十個程。中でもデメリットの少ないものは片手で数えられるくらいしかない。けど、それでもヒーローが実際に使っていた個性だ。強力なことには変わりない。
「取り敢えず『膂力増強』、『筋骨増強』、『ビルドアップ』の三つ使ってみるか」
発動。羽根でもついたかのように軽くなった身体で、厄介だった軽トラを掴んでみる。ベコっという音がした。
「お、おおおお!?!?」
難なく持ち上がった軽トラに驚きを隠せない。それぞれ使ったことはあったけど、ここまでじゃなかった。掛け合わせ凄い。………でもアクセルべた踏み云々、徐行云々ってのとは何か違う気がする。
「………
実際に使ってみるのが良いんだろうけど………。よく考えもせず骨折でもしたら目も当てられない。
ケツの穴ぐっと引き締める感じ、とオールマイトは言ってた。
自分の力の延長線上ってことだろうか。『ビルドアップ』だけ残して他を解除。持てなくなった軽トラが嫌な音を立てて落ちた。ヒーローはこれくらい持ててたんだけど………。要修行だな。
少し軽めの、業務用冷蔵庫を持ち上げてみる。うん。ちょっと力がいるけど、持ち上がらないほどじゃない。
「うーん。オールマイトの言うケツの穴ぐっと引き締めるってのは
腕だけOFAを使おうと意識。イメージするのはさっきまで使ってた増強系の個性。『ビルドアップ』をやめる。
「………!」
驚いた。腕の力だけでも持ち上がる。さっきは結構力を込めたんだけど。
「まあ、これくらいは出来て当然だよなぁ」
同じくらいの規格の冷蔵庫ぺしゃんこに出来るんだから。これくらい訳ない。
………。
「どれくらい出力上げれるんだ………?」
今できる僕の限界で。複雑骨折するという忠告を思い出して身震いしそうになるけど、その時になって使えないってのは困る。
「いっつ………!」
少し力めばOFAの出力は強まった。想定以上に。
腕の痛みに耐えかねて使用をやめる。100%の力を引き出すにはまだ時間はかかりそうだ。少し腫れた腕が痛い。全身で力まなくて良かった………。
少し寝て『回眠』を使った。1日三回になって自由度は増した『回眠』は、小さな切り傷や打撲程度なら使える回数を減らせば治せるようになってる。
初日で何となく感覚は掴めたのは幸先良いスタートだ。増強系の個性が無かったら、多分オールマイトの言ってた『べた踏み』してしまって、骨折してただろう。『回眠』でも骨折までは治せない。自重しないと。
使えたのはごくわずか。オールマイトは頑丈に作られてる冷蔵庫もプレスできちゃうくらいだ。この
「先ずは1%ってとこか………」
先は長い。後1ヵ月で100%は無理でも、せめて20%ぐらいは出せるようになりたい。
「いや、なるんだ。―――ならなきゃいけない!」
ちょっと前までの僕が恨めしい。何が時間はある、だ。雄英入試まで時間は少ない。受験勉強の最後の追い込みもある。今できることを一つずつこなしていこう。
今日から忙しくなるらしい、入試当日まで会えないオールマイトのこと驚かせるんだ。
それから。
「………そろそろ、話す覚悟しないと」
個性のことを。母さんや、父さんに。
―――そしてかっちゃんにも。
感想、評価ありがとうございます。
ご報告も反映させていただいております。ありがとうございます。
感想レス
前話で
>>自身のマッスルフォームの半分の丈ほどしかないその身から~~~
という記述がありました。
そして「いつの間に緑谷少年は峰田君並みの豆粒ドチビになったの? オールマイトは220cm!!」というご指摘。しかし、これは間違いではないのです。
偉大なオールマイトはその身に纏うオーラから、私たちの目からはまるで2倍になって見えるという意味であって、オールマイトからもマッスルフォームの視点でみると、如何に強力な個性を持っていたとしても緑谷少年は未だ守る対象。両の腕で10人分は抱えることが出来るという自信の表れから出た述懐だったのです。ですがわかりにくかったようなので、表現を変更しました。
今後このようなことがないよう、明朗快活わかりやすい小説を目指しますあああああああ!!
個性紹介
『ビルドアップ』
ヒーロー『マッシブ』から学習。ボディービルダーのような芸術的筋肉ではない、機能美に溢れた筋肉の持ち主。一時的な全身の筋肉増強。筋肉は全てを解決するらしい。
『リミットオフ』
ヒーロー『リミッター』から学習。超火事場の馬鹿力。瞬間的な馬鹿力はオールマイトに匹敵するんじゃないかと、ヒーローファンの間では論争が絶えない。力の出力に応じて発動時間は前後する。時間が終わると死んだように気絶する。攻撃力と防御力は下がらない。エンドフェイズに自壊もしない。
なお活動限界時間は突破できない模様。無個性のようだが、上がり幅が半端ないので個性である。リミッターもそう言ってる。
『膂力増強』
どこぞの黒スーツも使ってた個性。これはクラスメイト産の産地直送。強い個性だが、結構持ってる人が多いので、凡個性。没個性ではない。大体持ってるやつはクラスの人気者。
『ブースト』
ヒーロー『ブースター』から覚えた。目下オールマイトの個性なんじゃないかと噂されてる個性ということもあり、ファンからは期待されている。諸々の増強を行えるがタメがいる。しかし、タメれた力は絶大。反動があるため加減が必要。目指せオールマイト!
『怪力』
ヒーロー『鬼ちゃん』から覚えた。頭から一本角の生えてる異形型のヒーローで、人当たりも良く人気のじわじわ出ているヒーロー。しかしヴィランにはソレはもう怪力乱神の如くあたりが強い。こわい。鬼の個性じゃないかと言われやすいため、あえて情報を公開している。(個性『鬼』の持ち主はもっと鬼オニしてる)
その実態は小さい子からお兄ちゃんと呼ばれたいがためにこんなヒーロー名にした変態。
デメリットが大きく長時間使用すると欲求が肥大化する。本来の持ち主は酒と小さい子からの羨望だが、デクの場合はちょっとマズいことになりかけた。察して欲しい。
ちなみに男装した女性。
『筋骨増強』
筋肉だけでなく骨も強化する。ヒーロー『フルボディ』の個性。純粋な強さで言えばトップ50入りも目じゃないが、如何せん素行が悪い。良くヒーローになれたな、おい。数少ないファン曰く時折見せる優しさが堪らないとか。
『
説明不要!
先程使っていたのは実は3%程で、出力をミスって20%もの力を出してしまっていた。才能マンじゃないのでまだ早い。ただし、増強系の個性を使えるお陰で、調整は覚えれた。