ヒーロー『デク』 作:ジョン・スミス
雄英入試当日。
オールマイトはある種の予感を持って海浜公園へやってきた。片付いているのは当たり前としても、その片付けには彼自身の個性を使ったに違いないと。………あれだけ脅したのだ。
OFAの練習を行うようちゃんと言っておくべきだった、と今になって思う。だが過ぎたことは仕方がない。自分の見立てによれば彼自身の個性でも充分に合格できるだろう。
入り口付近に積まれたゴミ山を抜けて、砂浜に出る。
―――見渡す限りの砂浜。不法投棄がまかり通っていたなんて噓だったかのような白亜が広がっている。砂に紛れるほどの小さなゴミも無くなっていることから、何らかの個性を使ったのだと察した。
「さて、緑谷少年は―――」
彼の個性は際限がないなと感心しながら、探す。
そしてオールマイトはこの光景を取り戻したMVPを見つけた。
見つけて、そして―――仰天することになる。
□-□-□
明朝。
すっかり綺麗になった海浜公園を端から端までをランニングして身体を温める。その後は海に出て個性の練習だ。
OFAは多分体感で10%ぐらいは発揮できるようになった。と思う。100%の力、つまりはオールマイトのようなことをしてしまえば、全身が複雑骨折してしまうことは間違いない。だから、多分10%。
10%の力を腕から脚、脚から腕へと切り替える。今はもう慣れたが、これが中々難しく、加減を間違えて四肢が打ち身、アザだらけになったこともあったっけか。
受け継いでからひと月で目標だった20%は無理だったが、これだけはできるようにはなった。しかし、当初考えていた異形型の個性の同時使用も試せてない。出来なかった。
不安だったのだ。僕の持っている個性を同時に使っても大丈夫なのか、どうか。
しかし、ただでさえ表面張力で保っている(だろう)器の
もし仮に爆散しかけても、『ヘドロ』の個性を使えば何とかなるかもしれないが、それじゃあ本末転倒だ。異形型の個性に頼らないで使えるようになることも、今まで鍛えてきた動機の一つだから。
「うーん………試して、みるかな。………いや、でも」
試験当日に新しいことをしても、身につくわけがない。やるなら、今日の試験を終えてからだ。
そう自分に言い聞かせて、好奇心を抑えた。………個性が発現してからというもの、妄想だけで終わらせていた考察が実験できるとあって、好奇心が昂って仕方ない。でもこれはヒーローに捕まってるヴィランの動機と同じだ。自警をしていた頃を思い出し、戒める。
まるでヴィランのそれだった。ヴィジランテなんて言葉はあるけど………結局は自分の好奇心を自警活動にぶつけていただけだ。活動中に出会うのはヴィランだけではない。被害者がいた事が何回かある。幸運なことに全部未遂ではあったけれど―――被害者の僕を見る眼は恐怖に満ちていた。
目だし帽をかぶっていた所為かもしれないけど―――ヒーローならあんな目を向けられることは無い。あの時そう思った。時折思い出すあの眼は、ヒーローにならなきゃいけないと僕に思わせた。
OFAの使用をやめて、持ち前の個性の練習に入る。
『ヘドロ』の個性で両腕を合せて、ヘドロ状にした後、筒を作る。
『汗を大量に出す』個性改め、『多湿多汗』の個性で手汗を
そして反動を抑えるための『ゴム』、『剛肩』の個性を使う。
………踏ん張って『爆破』の個性を発動。
そして―――腕から出るのは爆発をそのまま一点に収斂した拳大のレーザー状の爆炎。
ヘドロ状になった腕が蒸発しそうだが、『ヘドロ』という液体と多くの不純物を含む混合物は、普通の水よりも乾燥しにくい。あのヘドロ事件でもかなりの耐火性を誇っていた。でも、もって5秒だ。
―――空に浮かぶ雲を割いて、一線になった爆炎を見送ってきっかり5秒で使用をやめた。………ちゃんと人工衛星とか旅客機とかが通過してない時間帯のはずなので大丈夫のはず。たぶん。
「緑谷少年!!」
「………? あ、オールマイト!!」
駆け寄ってくるオールマイトに手を振って迎える。
「テキサススマーッシュ(トゥルーフォーム.ver)!!」
「アイター?!」
なんで!?
お説教を喰らった。真冬の寒い砂浜で正座をさせられて。
曰く、僕命名『かっちゃん砲』は心臓に悪い。人に向けて使うなよと忠告を。うん、そりゃそうだ。
10%は使えるようになったと、実際に使って見せてみる。そして僕はオールマイトに言われた。
「試験の際に君自身の個性は使用禁止。いいね!?」
「はい―――………え?」
つまり僕はワン・フォー・オールだけで入学試験を合格しないといけないらしかった。
□-□-□
バレないとは思うなよ! 見てるからなー! と僕を脅して去って行ったオールマイトの事を思い出しながら、電車に揺られる。
車両には雄英を受験すると思わしき同い年の学生が何人も乗っていた。
「見てるってなんだもしかしてオールマイト自身が持ってる個性とかいやいやだとしたらあの時の事件は未然にふせげていたはずだろうしそもそも事件なんておこらないだろうどんな理屈で僕が使ってないか使ってるかなんてわかるんだいやまてよ雄英はオールマイトの母校だしもしかすると特別なコネがあるのかもしれない―――(ぶつぶつぶつ)」
悩んでも結局はわからず。オールマイトがバレるといったんだから、使ったらバレるんだろう、という答えに落ち着いた。
電車が止まり、降りる駅になって顔をふと見上げると、学生服の皆さんから睨まれる。な、なんで………?
学生服着た集団からの凄い威圧を感じながら、着いた試験会場。
「ここが雄英―――」
多くのヒーローを輩出してきた名門、雄英高等学校。広大な敷地を持つまさにその場所で行われる今日の入試。同い年の学生が続々と校門から入っていくその様に圧倒される。何から何にまで圧倒される。建物自体が凄くでかい!
結局OFAの真価を発揮することなく、此処まで来てしまった。………正直不安しかない。
「どけデク!!」
ここの所聞いてなかった罵声に振り向けば案の定だ。
「かっちゃん!」
「俺の前に立つな、殺すぞ」
殺すぞって、そりゃないだろ………。いや、口が悪いのは昔からだし今更かもしれないけど、久しぶりの第一声がそれかよ。多分、僕の顔見て苛ついてるんだろうけど。
「お、おはよう、がんばろうねお互い………」
人生を別ける試験ももう目と鼻の先。かっちゃんもあれで緊張しているんだろう。返事は無かった。
素通りしていくかっちゃんを見送る。
あの日以来―――ヘドロ事件のあったあの日から、かっちゃんは僕に何もしてこなくなった。なんでなのか、その真意はわからない。でも、ヒーローに迷惑かけて、助けられた僕も、君も。本気で今ヒーロー目指してるんだと思う。
―――久しぶりでビビったけど、僕の鍛えてきた10ヵ月間。こんなところで足踏みしてる場合じゃない。震えてるぞ、僕の脚!
思い出せ、10ヵ月間!! 踏み出せ!
ガッ
嫌なチップ音と、迫る地面に僕は思考が一瞬停止する。
これだよ! 僕の第一歩散々だな!
縁起の悪い第一歩だ、と考えながら一秒にも満たない筈の一瞬が長い。………なかなか地面が近づかない。
おい、僕。またか! また走馬燈なのか! 死ぬほどじゃないだろ!?
「大丈夫?」
「わっ………え!?」
というか足浮いてる? 体、もしかしなくとも浮いてない? ………走馬燈じゃなかった。
引っぱられて僕は地面に下ろされる。小さい手だった。
「私の個性。ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね!」
両の掌を合わせるその人物に、たじろぐ。
………。―――女子!
「緊張するよねぇ」
「へ、あ………えと」
「お互い、頑張ろう! じゃー」
見送る僕。去って行く彼女。
女子と喋っちゃった―――!!(喋ってない)
「お、おぉおおおおお………」
僕を遠巻きに見る受験生の視線で放心状態から復帰する。
は、恥ずかしぃー………。
―――気持ちを切り替えて、受けた午前中の筆記試験。
不安は残るが、まずまずの出来だった。
感想、評価ありがとうございます。
確り読ませて貰っております。
ヒーローの詳細まで考えるのはしんどいので名前だけにします。
レス
業の深いヒーローを生んでしまった。本編には出てこないんで安心されると良い。
まあもっと業の深いヒーローを見つけてしまった。だから私は許されると思う。
連続アクメ快楽落ちさせるマン………いったい何者なんだ(ステマ)