ヒーロー『デク』 作:ジョン・スミス
「エディバイディセイ! HEY―――!」
レスポンスは無く、シーンと耳に痛いほど静まりかえっている説明会場。10000人はゆうに収容できる雄英の大講堂に集まっているのは僕やかっちゃんを含めた受験生。
「こいつあシヴィー―――!!受験生のリスナー! 模擬試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!? ―――
レスポンスしたくても出来ないリスナーはこの中に何人いるだろう。そんなリスナーの一人である僕はというと、一人で場を盛り上げようとする生のその人に感動していた。
ボイスヒーロー『プレゼント・マイク』! 凄い! ラジオ毎週聞いてるよぉ! 感激だなあ! 雄英の講師は皆プロヒーローなんだ―――
「うるせぇ」
ごめんかっちゃん。………口に出てたか。
パッとスクリーンにスライドが映し出される。
「入試要項通り! リスナーにはこの後! 10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!! 持ち込みは自由! プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!」
映し出された試験会場はAからGまで。それぞれにこの会場の受験生振り分けられるってわけ。
チラッとかっちゃんの受験票を盗み見る。
「………
「受験番号連番なのに会場違うね」
かっちゃんが僕と協力なんてまずない。仮に出来るとしてもしないだろう。
「見んな、殺すぞ」
酷いやかっちゃん。自分も見てたじゃん。
「………てめェを潰せねぇじゃねえか」
「………」
協力する気ないの知ってるけど! 物騒だなぁもう!
かっちゃんの受験票から目を離す。スライドが切り替わった。
「演習場には仮想ヴィランを
ほらみたことか。例え一緒の会場でも僕を潰すだなんてこと出来るわけ無いのに。………いや、僕にひっついて回って、得点を取らせないようにするってことはできるのか。かっちゃんならやりかねないなあ。
「質問、よろしいでしょうか!」
この空気の中で発言? すごい人がいる、と感心しかけて、やめた。ヒーローになろうって人間が高々数千人の前で萎縮しているようじゃいけない。日本の人口はこの場の受験生の比じゃないんだから。
「―――プリントには四種のヴィランが記載されております! 誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!! 我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」
でも、やっぱすごい。こうも堂々と発言できるのか。余程自信に満ちた人なんだろう。かっちゃん並だ。でもすっごいカクカクしてる。
「―――ついでにそこの縮れ毛の君!」
感心していると彼は僕の方を指差して。………。縮れ毛って誰だろう。………まわりを見回しても縮れ毛なのは自分しかいない。
「!?」
「先程からボソボソと………気が散る! 物見遊山のつもりなら即刻
「すみません………」
クスクス。クスクス。そんな風に周りから笑われる。………あの人のことかっちゃん並みに苦手かもしんない。
「オーケーオーケー! 受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな! 四種目のヴィランは0ポイント! 言わばお邪魔虫! スーパーマリオブラザーズやったことあるか!? レトロゲーの!」
世界でも人気、国民的ゲーム会社の看板ゲームだ。やったことある。結構難しいんだよなぁ。あと僕の事スルーしてくれて有難う御座います。プレゼントマイク。毎週聞いてます。
「あれのドッスンみたいなもんさ! 各会場に所狭しと大暴れしているギミックよ!」
避けて通るべき、か。なるほど。ゲームみたいだ。
でも、プリントにはヴィランとして載ってる。そのヴィランを避けて通るべき、なのか………?
僕が頭を捻っている間にカクカクしてるその人はお礼を述べて座っている。
「俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校、校訓をプレゼントしよう! ―――彼の英雄ナポレオン・ボナパルトは言った『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!」
―――
「それでは皆、良い受難を!」
激励に震えながらもその事が少し引っかかっていた。
□-□-□
凄い。バスで移動してきたこともだけど、ホントに敷地内に街がある! 数字では事前に知ってたけど、実際に体感するのとでは全然違う!
実技試験の会場の模擬市街地を前にして、他の受験生も僕と同じように感嘆の声を漏らしている。
ざっと二百人ぐらいはいるだろう。スタート地点では受験生が各々の個性に合わせた装備なんかをしちゃったりして、自信に満ちた表情をしている。
………対して僕は緊張でガチガチ。今日使えるのは『ワン・フォー・オール』のみ。しかもそれは使えて精々が10%で、鉄板に穴を開けられる程度。それで十分かもしれないけど………一撃とはいかないだろう。
―――20%使えるか、今の僕に………。
いや、自信を持て。面を上げろ。威力は足りなくてもやれないことはないんだから。今この場には個性に自信のある人たちばかりなんだ。試験には使うなと言われたけど、試験前に使っちゃいけないとは言われてない!!
今後のためにも辺りを見回していると、見覚えのある姿を見た気がして目を凝らす。
………あぁ! 朝助けてくれたあの人! 同じ会場だったんだ!
そうだ。さっきのお礼、言わなきゃ―――
「その女子は精神統一を図っているんじゃないか?」
聞き覚えのある声に足を止める。確かにそうだと思ったからだ。邪魔しちゃ悪い。
………でもこの聞き覚えのある声って。
「君はなんだ。妨害目的で受験しているのか?」
「ひぃ! こちらも!」
肩を掴まれて振り向けば、先程の眼鏡の方だった。同じ会場なんてツイてない………。
僕は雄英を受験しに来たんだ。君と同じように。そう言ってやりたかったけど。
「はいスタート~」
くどくどとした説教を受けつつも、足に纏わせていた『ワン・フォー・オール』で入り口へと跳んだ。
合図と同時に出れるように構えていてよかった。少し遠巻きに見られていたのも幸いした!
先頭に躍り出れた僕は、着地で蹴っ躓きそうになりながらも体勢を立て直して、走る。走る! 後ろからは受験生達の波がやってくる!
「「標的ハッケンブッコロス!!」」
建物を破壊しながら中から飛び出してきた1pt仮想ヴィランは二体! 一体を踏み台にして破壊、もう一体をOFAを腕に切り替え飛びかかり殴り飛ばす! 次!
―――スタートダッシュはうまくいって、2分で20ptは稼げた。でも相手してたのは1ptや2ptばかり。OFA10%でも何とか倒せてこれたけど、2ptは流石にすれ違いざまって訳にはいかず、二発は叩き込まないと駄目だった。
そして乱戦状態になってきた表通りから離れて。ヴィランが好みそうな人気のない路地裏に入り込んだはいいけど―――建物の裏口に当たる場所から飛び出してきた3ptヴィランを相手に苦戦してる。
でかい! 硬い! 強い! 移動スピードは遅いが攻撃が早い!
腕と脚でOFAの切り替えが追いつかない! たまに飛んでくるミサイルが鬱陶しい!
どうすりゃいいっ、考えろ僕!!
ってやばい! そんな考える時間なんてヴィランは与えてくれないっ! 一撃目を避けて、胴体でOFAを使―――
「シネェ!!」
「ぐっ―――」
いってええええええ!! 左腕か! ちくしょうっ、折れたんじゃないか! これ!?
少し距離をとれたのは不幸中の幸いか。じわじわと迫ってくる仮想ヴィランを相手に、僕は腕を押さえながら後ずさる。
ptも高く、難易度の高い仮想ヴィランはAIも上等なのか。てっきり身体狙ってくるのかと思って防御を間違えた。
―――どうすりゃいい。間に合わないなら………全身でつか、う?
でも、全身で10パーセントなんて試したことないぞ! 許容限界超えたらバッキバッキだ!
でも、やらないと! でも、でもっ!!
ドン! と頭上を通過してく仮想ヴィランのアームを引っ掴む。
「―――やるしかないッ!!」
覚悟の『ワン・フォー・オール』10%フルカウル! 土壇場でこんなことするくらいなら試しておけばよかった!
出来たけど制御が難しい、でも動けないってほどじゃない!!
引っ掴んだまま、仮想ヴィランを上に投げ、ちょっと無理して15パーセントでモノアイのついた頭部を殴り上がる。
………時間をロスし過ぎた。取り返さないと!
脳内麻薬ドバドバ出てる状態。立ち止まってるわけにはいかない。腫れあがった左腕を無視しながら路地裏を駆け抜ける。
「これで40pt―――!」
40体は倒したから多分! 姿かたちよく見てなかった! 実際今何点だ!? 3ptヴィラン結構いたぞ! どうなってんだ路地裏! 死ぬかと思ったッ!!
んで残り何分!? 興奮状態が少し収まってきて、腕の痛みが増してきてる!
早く、早く!
「―――あと6分2秒ー!!」
遠くから尚聞こえてきたプレゼントマイクの声に、焦る。痛みが鈍痛になってきた。これ、折れてるだろ。
上着を脱いで、袖を括って左腕を吊るす。ちょっとは増しになったけどっ、………これ以上はじっとしてられない!
30pt、40ptと獲得しているらしい人の声が表通りから聞こえる。
これじゃだめだっ、もっと倒さないと!
3ptのヴィランはよほど相性が良いか、強個性でもない限り倒され難いのか、この時間になって狙う人は少ないようだ。表に出ても結構残ってる。
でも、ヴィランはお構いなしに受験生を狙ってる。飛んできたミサイルにフルカウルを維持したまま突っ込んで、狙われていた受験生からターゲットを僕に移す。
まだ動きはぎこちないけど、
ミサイルを受けながらも跳び蹴りでカメラを潰すっ。多分50pt!
THOOOOOM!!
そんな悠長にポイントを稼いでいられるのは、地響きと共に街を破壊しながら現れた仮想ヴィラン―――ビルの高さを超える0ptの怪物が現れるまでのことだった。
□-□-□
BOOOOM!! と、とびきりでかい被害を街に与えて、コンクリートが。その下の地面がめくれ上がり砂塵が舞う。瓦礫が降ってくる。
舞った砂塵に収まらない大きさ。お邪魔虫ってレベルじゃない。
でかい。でか過ぎる。流石雄英だなんていってる場合じゃないけど、雄英ヤバい。
逃げろおおおおお!!
誰かが言った。無理もない。質量だけでも人を殺せる。逃げて当然。避けて当然。そう、圧倒的脅威。
僕の横を通り過ぎていく他の受験生たち。中にはあの眼鏡の方もいた。
尻餅ついて見上げる僕は「シャレにならんだろ」と呟く余裕があるくらい、意外と冷静だった。周りが混乱していると冷静になる、そんな状態なんだろう。
僕はクリアな思考でもしもを考える。
もし、ここが本当の街なら。もし、このヴィランをそのままにしていたら。
ヴィジランテをしていた僕は、そんな可能性を考え―――
「いったぁ………」
声の主。0ptの足もと。瓦礫の散らばる其処に。
『
朝、助けてくれたその人を見て。
「やらなきゃ」
メリットは一切ない。後5分も時間がある。その間に獲れる点数。きっと後悔する。
でもそれは、誰かを
―――フルカウルをやめて、全力を足に!
『ケツの穴ぐっと引き締めて心の中でこう叫べ!!』
―――全力を腕に!!
「
吹っ飛び仰け反りかえるヴィラン。
『ワン・フォー・オール』100%。オールマイトの力。
「お、おおおおおおおおお!?!?」
―――僕はその力の真価を此処にきてようやく、この身をもって知った。
感想、評価ありがとうございます。
ようやっと原作三話まで進みました。遅すぎですね。原作に追い付くことはなさそうです。
感想レス
個性使わんと意味ないかもな、と思いながらもここで100%使わないと今後いつ使うんだってなったので。かっちゃん砲は最強なんだ!
ご都合主義にも似た作者の事情はないとは言えないものの、オールマイトにオールヘイト(うまいこと言った)ってわけじゃないんだ。戦闘のプロが言うことだから何か理由があるんだよ!