ナイトウィザードオリキャラ短編集   作:volrent

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本間和哉は前話のキャラです。


【漿鳳院鑽霞】のお弁当

 ――はぁ。

漿鳳院鑽霞(しょうほういんきりか)】は溜息をついた。

 原因はその手の中にある。

 

 現在は学校の昼休み。

 彼女が手にしているのは丸く長方形の形をした箱。

 暖かい橙色に淡い桃色の水玉がチャーミングな弁当箱。

 その中には色とりどりの食材がその身を主張しあい、これでもか、とお互いを引き立て合っている。

 

 

 瑞々しく敷かれた鮮やかな緑色のレタス。

 その上に乗せられた肉汁を滴らせるから揚げは、昨夜から醤油と出汁の漬け汁に漬け込み、隠し味に生姜も使用した手の込んだ一品だ。

 その横の瑞々しいレタスの仕切りに遮られたスペースにはこれまた鮮やかな熟れた赤色をしたミニトマトがアクセントとして添えられ、食材全体の見栄えをよくする一方、新鮮なその身をはち切れんばかりにしている。

 さらにはお弁当の定番、卵焼きが黄金色に輝きながらも、慎ましやかにその場にあるだけで見事な彩りのコントラストを醸し出す。

 

 そして、弁当箱自体の仕切りで区切られた広間のような空間には、主役であると言わんばかりの白い艶やかな米が、俵型の一口サイズに整えられ、申し訳程度にふりかけられたゴマが可愛らしさをアピールする。

 冷めても美味しく食べられるように硬めに炊かれた米は、そのキレイに並んでいる姿と相まって、作った者の几帳面さを表しているようだ。

 

 赤、緑、黄が揃ったお弁当はとても食欲がそそる。

 彼女が手にする弁当はとても美味しそうである。

 しかし、鑽霞は弁当箱を見つめたまま、手をつけようとはしなかった。

 そんな彼女に声をかけた者がいた。

 

「よう、鑽霞イインチョ。何してんだ?」

 

 鑽霞は顔を上げた。

 そこにはクラスメイトである……【本間和弥(ほんまかずや)】の怪訝そうな顔があった。

 

「あ……和弥君……何か御用かしら?」

 

「今、昼飯時なのにうまそうな弁当見つめて何してんのか、と…ってはっは~ん」

 

 和弥は怪訝そうな表情をすぐに打ち消し、何かに気付いたかの様に手を叩いた。

 そのままニヤリとして弁当を指差す。

 

「その弁当……イインチョが作ったんだろ?」

 

 確認の形式をとってはいたが、その声には確信が満ち溢れていた。

 

「ええ……そうよ」

 

 鑽霞は今更隠すことでもないとばかりに肯定する。

 そしてまた、物憂げな溜息を漏らす。

 彼女の姿は美少女と言っても過言ではない(と、和弥は思っている)

 物憂げな美少女というその姿に教室の誰もが声をかけようとして出来なかった。

 故に、知り合いといえば知り合いの和弥が声をかけたのだ。

 

「やっぱりな。食べないのか?」

 

「もう……分かってるんでしょ?」

 

「勿論だとも」

 

 鑽霞の言葉にニヤニヤとした笑顔を浮かべながら答える和弥。

 今の彼女にとってその笑顔は鬱陶しくてたまらなかったが、思わず会話を続けてしまうのは誰か、話す相手が欲しかったからだろうか。

 

「分かってるなら聞かないでよね」

 

「ま、そういうなよ。食わねぇならその弁当、貰うぞ」

 

 鑽霞が返事をする前に和弥がその手から弁当箱を奪う。

 僅かに戸惑っている内に手の中から重みが消える。

 和弥の言葉と行動に、少々の期待を抱いてしまうのも仕方の無いことだろう。

 ――た、食べてくれるのかしら

 少しだけ和弥に対する好感度が上昇した瞬間だった。

 

「お~い…田中でいいや。この弁当食うか?イインチョが作った手作りだぜ」

 

「いいのか!?キャッホイ!!」

 

 彼女の淡い幻想は今粉々に打ち砕かれた。

 ――ああ、そういえばこういう奴だった。

 頭の中に『諦観』の二文字が広がっていく。

 ついでにちょっとだけ上がった好感度も先に倍する速度で減少させていく。

 

「絶対に全部食えよ?残したりとか失礼なことすんなよ?」

 

「分かってますとも!会長、これでも男の端くれですぜ?」

 

「ああ、分かってるとも。キミには期待している。……重ねて言うが絶対に残すなよ?」

 

「勿論、全部たべますとも!いたただきま~す!!」

 

「え、あ、ちょっと……」

 

 鑽霞が止める間もなく、田中は弁当に飛びつく

 だが、食材を口にした瞬間、田中の笑顔が凍りつく。

 そして、次々と顔の色が変わっていく。

 赤、青、黄、緑……。

 そして最後に真っ白になり、田中は教室の床へとその身を横たえた。

 まるでマンガのような展開は、彼が【精神】ジャッジを失敗した証であろう。

 くしくも弁当と同じ色をその顔に浮かび上がらせた田中のそれが、最後の瞬間だった。

 

 そう、彼女、【漿鳳院鑽霞】は料理が壊滅的に下手なのだ。

 女のたしなみとして料理の練習などはしてきた。

 そのおかげなのか、料理の見た目だけは素晴らしい。

 見た目だけは。

 

 鑽霞の作る料理の唯一にして最大の欠点。

 彼女の料理は……絶望的なまでに不味いのだ。

 しかも、自らの舌は肥えてるだけに自分の料理がどれだけクソマズいのかも理解している。

 なぜ、ミニトマトからコーンポタージュの味がするのか意味が分からない。

 料理を作るたびに死にたくなる。

 

「田中……ご愁傷様だ。お前の冥福を祈ってるぜ……で、人に食してもらった気分はどうだ?」

 

「……最低よ、アンタ」

 

「大丈夫だって。お前の手作り料理も食えたんだ。田中もきっとあの世から感謝の念を届けてくれるさ」

 

「まだ死んでないでしょ」

 

 クラスメイトに運ばれていく田中を見送りながら言った和弥の疑問に底冷えするかのような憎悪をこめて言い放った。

 ついでに、和弥相手に立つかもしれなかったフラグもバッキバキに折り砕いておいた。

 

 ――田中君……大丈夫よね。大丈夫だよね?

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、運ばれていく田中君をみながら“心底”そうおもった。

 

「クククッ、そう怒んなよ。ほら、オレの作った弁当やるから」

 

「……」

 

 鑽霞は和弥のムカつく面を睨み付けながら彼の弁当を受け取る。

 そして、決意した。

 ――いつか絶対に見返してやる。

 その日食べたお弁当は、腹が立つ程美味かった。

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