アンゼロットは言った。
「フィンランドにあるサンタクロース協会に襲撃をかけます」
「突然どうした。ついに気でも狂ったか」
「そこぉ!声に出ていますよ!」
「おっと失礼」
オレが白々しく口元に手をやると、左右から冷ややかな視線を感じる。
その内のひとりであるキリカは、オレのその様子に溜め息をつくとアンゼロットへ問い掛ける。
「質問いいでしょうか」
「ええ、どうぞ。なんでしょう、鑽霞さん」
「襲撃をかける、とはどういう……?」
「グッドクエスチョン!よい質問です」
アンゼロットは待ってましたとばかりに立ち上がると
「クリスマスにはサンタクロースがプレゼントを届けてくれますよね。皆さんも覚えがあるはずです」
「そうだな。私のところにもサンタさんが毎年プレゼントを届けてくれるぞ」
と樹がしたり顔で頷く。
なんて純真な奴なんだ。
「な、何だその生暖かい視線は!?」
「いや別に。ところでサンタなんてホントに存在するのか?」
「え……?いないのか!?」
「フッ」
鼻で笑いやがった。
「ウィザードたる者、常識に囚われていてはいけませんね。サンタクロースは実在します!」
「ほらやっぱり居るんだ!毎年プレゼントくれるからな!」
「わ、分かったから樹さん、落ち着いて……」
「そう、サンタとはプレゼントをくれる存在です」
何を当然のことを……ってまさかコイツ
「毎年、ちゃんと靴下も用意してるのに一度もプレゼントを貰ったことが無いんです!ヒドイと思いません!?」
「まさかとは思うが……プレゼントが欲しいだけとか」
「イェース!くれないなら奪うまで!行きますよ!!」
「ちょ、ま……!?」
足下の床が開く。
奈落の底まで暗闇が続く。
そこを真っ逆さまにオレ達は落ちていったのだ。
「うおおおお!?」
「いやあぁあ!」
「きゃあああ!!」
――――
―――
――
ふと気付くと目の前には教会のような、立派な建物があった。
その門の前にはアンゼロットとロンギヌス達が整然と並んでいた。
展開が速すぎる。
「いるのでしょう、サンタクロース!!大人しくプレゼントを渡しなさい!」
「いやな、アンゼロット。それで出てきたら苦労は」
――ホーホッホッホ!!
出てきたよ。
シャンシャンシャンという鈴の音と共に建物の大門が開いていく。
その中から現れたのは、ねじ曲がった角を持ち、爛々と瞳を輝かせる禍々しき獣……そうトナカイである。
そのトナカイが全部で9頭。
先頭のトナカイの鼻が真っ赤なのが目に鮮やかだ。
「出てきましたね。大人しくプレゼントを渡しなさい!そうすれば危害は加えません!総員構え!!」
「殺る気マンマンじゃねぇか!!」
オレの叫び空しく、ロンギヌス隊員達が攻撃の準備を整える。
マズイ、オレの出番が無い。
が、その時。
先頭のトナカイの赤鼻が輝いた。
「「「うわーもうだめだー!」」」
そこから放たれたのは極太の光線。
それはロンギヌスの大半を薙ぎ払った。
「何…アレ……」
「まさかここで使ってくるとは!!アレこそ先頭を走るトナカイ、ルドルフの持つ必殺技!」
――ルドルフ・フラッシュです!!
「何を言ってるんだお前は!?」
「目を逸らしたい現実でしょう。しかしこれが事実なのです!」
「そ、そんな……赤鼻のトナカイさんのピカピカの鼻がまさかレーザーのことだったなんて……」
樹ががっくりと膝を着く。
よほどショックだったらしい。
「気を落としている暇はありませんよ。来ます!」
アンゼロットの言葉と同時、9頭の内2頭のトナカイの角に上空から雷が落ちる。
そしてトナカイが角を突き出すと……
帯電した雷がこちらへと放たれた。
「うおぉ!?あぶねぇ、かすった!」
「気を付けなさい!アレこそ、雷の名を冠するブリッツェンとドンダーの合体攻撃……」
――トナカイ・サンダー・ブレークです!
「その威力はグレートで光子力な鉄の魔神の必殺技に匹敵します!!」
「もうダメだろ、それは!?」
もうトナカイじゃない。
あれはホントにバケモノだ。
「怯えている暇なんてありませんよ! さあ、守護者に逆らう愚かなサンタからプレゼントを奪ってくるのです!!」
「無茶言うなよ!?……えーい、こうなりゃヤケだ!行くぞ二人とも!」
「え、私も行くの!?」
「オフコース!あのバケモノの只中にオレひとりで行ってたまるか!こうなりゃお前らも道連れだ!」
「お、男らしく無いぞ和哉!」
「こんな時に四の五のいってんじゃねえ!オレ達は一蓮托生だろ?オレに命を預けてくれ」
「カッコよく言っても和哉くんが最低なことにかわりはないからね!?」
「今更おせぇよ!《テレポート》!!」
「和哉お前…このクズッ!」
「誉め言葉だ!」
こうして二人を巻き込んでサンタクロースのソリの上にオレは転移した。
そして即座に魔法の刃を構築する。
「おおっとそこまでだ。大人しくプレゼントを寄越しな」
「言ってることが悪役よ、和哉くん……」
「何故、わたしは、こんな奴に……」
「これが弱味って奴よきっと……」
「動くなよ?オレの手が滑っちまうかも知れねぇからなぁ?」
後ろで二人が何か言ってるがスルー。
オレは魔法の刃を突き出……
「メリィ~……クリスマーース!!」
プレゼントが突き出された。
目の前にはにこやかな白髭のおじいさんがひとり。
ここには刃物を突きつける若者がひとり。
「「ジトー」」
後ろから凄まじい視線を感じる。
……すごく居心地が悪い。
オレは魔法の刃を消すと
「あ~オホン。まぁ、なんだ貰ってやらんでも無い」
「なんでそんな偉そうなのよ……」
オレがプレゼントを受け取ると、サンタクロースのおじいさんはキリカと樹にもプレゼントを渡す。
「アハハ……高校生にもなってサンタクロースからプレゼントっていうのもね」
「サンタさんからプレゼントを……本物のサンタさんから貰ったぞ!」
キリカはどこか照れくさそうに、樹はテンション振り切った子供のようにそれぞれ喜んでいたその時
「な、何故ですか!?何故、そこのクズにプレゼントを渡すのに私には無いんですか!?」
いつの間にかソリの上にまで来ていたアンゼロットが拳を握りしめ、髪を振り乱し訴えていた。
「おいおい……アンゼロット様は知らないらしいな。プレゼントってのは良い子しか貰えないんだぜ?」
「和哉くんが言うことじゃ無いわね」
「全くだ」
至極最もである。
アンゼロットが血の涙を流していたその時、彼女の傍に歩み寄ったサンタクロースが彼女にそっと何かを差し出す。
「メリーークリスマーース!」
「わ、私にですか?本当に?」
そう、それはプレゼント。
アンゼロットが望んでやまなかったものだ。
「ああ、ありがとうございますサンタさん……メリークリスマス!」
この時、アンゼロットは女神すら屈するのでは無いかと思うほど慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた…………。
こうして、サンタクロース襲撃事件は幕を下ろした。
だがオレは忘れない。
誰がどうみてもアレは強盗だったということを。
それだけは間違いない。
******
「ちなみにお前ら何貰ったんだ?」
「か、和哉っ!ダメだ、それを聞くな!」
「……」
「イ、イインチョ?」
「いや、マトモな料理が出来るようになるプレゼントが欲しかったらしいんだが……」
「ほう……どれどれ」
プレゼントの箱を覗くと、そこには
《全自動料理機》
と書いた機械が置いてあった。
「イインチョ……何か…ごめん」
彼女はさめざめと泣いていた。