ナイトウィザードオリキャラ短編集   作:volrent

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おせち料理

そうそれはお正月も過ぎたある日のこと。

 

「ふんふふんふ~ん♪」

 

鑽霞(きりか)は上機嫌に歩いていた。

普段はキリッとした態度を崩さない鑽霞だが、今回ばかりはスキップでもしそうなほど。

しないのはスカートの制服だからであろう。

しかし、それでも普段の彼女を知る人間からは想像もつかないほどの機嫌の良さだ。

 

廊下をすれ違う生徒達―性別は問わない―が思わず振り向いてしまうのもむべなるかな、だ。

 

「む?どうしたのだ鑽霞。そのように上機嫌で」

 

そんな彼女に声をかける女子生徒がひとり。

彼女の名は(いつき)

最近、ツリ目でキツく見られがちなことが悩みな鑽霞の友人のひとりである。

 

「あ、樹さん?ちょうど良かった。これ、一緒に食べない?ちょっと時期はずれだけど」

 

鑽霞がそう言って掲げたのは重箱。

それでも四段はある、とみに高そうな代物だ。

正月は過ぎたとは言え、中に入っているモノは決まっている。

 

「おせちか!良いな!では屋上はどうだ?今日は良く晴れているから気持ちがいいだろう!」

 

「私もそう思っていたところよ。ところで、和弥君を見なかったかしら?」

 

「和弥?いや、見ていないが……」

 

「そう……あの人も誘いたかったんだけど」

 

「オレが何だって?」

 

「む?いやな、和弥が何処にいるのかって……うわぁ!?」

 

「和弥君!?ど、どこから沸いて出てきたの!?」

 

「なんだぁ?人をゴキブリか何かみたいに」

 

そこに居たのはいたって平凡な容姿をした男子学生、和弥。

ただし、この輝明学園で彼の名を知らない者は居ない。

主に、その死んだ魚のような目に相応しい性格のせいで。

 

「いえ、あの、屋上行っておせちでもどうかな~って」

 

「おせち?」

 

そう言われて和弥は初めて鑽霞の持つ重箱に気づいた。

 

「ああ、なるほど。でも正月はもう過ぎたろうが」

 

「もう、別にいいじゃない。お正月は休みで二人にも会えなかったから今日くらいはね」

 

「オレ、涼と飯食う約束してんだけど……」

 

「それならさっき話しをしてきたわ。誘ったけど、いらないって断られちゃった」

 

「あん?そうなん……?ま、いいや。じゃ、行くか」

 

そう言って三人は歩き出す。

しかし、それにしたって

 

「ふんふ~ん♪」

 

「……随分ご機嫌だなイインチョ」

 

「そうかしら?いつもどおりよ」

 

「いやいやいやいや、普段鼻歌なんて歌わねぇよな」

 

「まぁ、確かに鑽霞にそんなイメージは無いな。だが、鑽霞にも鼻歌を歌いたくなる時くらいあるだろう」

 

「ま、そうなんだけどさ……」

 

和弥は前を歩く鑽霞を見る。

 

「ふふんふ~ん♪」

 

「……嫌な予感しかしないぜ」

 

 

 

***屋上***

 

 

 

屋上に来た三人は鑽霞が用意していたビニールシートを敷き、その上に集まった。

鑽霞は、三人の中心に重箱を置くとおもむろにその蓋を開けた。

 

「おお~!!」

 

そこには、樹が思わず歓声をあげるほどに美しく盛りつけされたおせち料理が入っていた。

鑽霞は重箱の段を取り並べると、二人に小皿と箸を渡す。

 

「これは美しいな!さっそく食べてもいいか鑽霞?」

 

「ええ、勿論よ」

 

すると樹は嬉々として料理を自分の皿に取っていった。

しかし、和弥は料理を取ろうとはせず、鑽霞に聞いた。

何故かこの美しい料理に悪寒と冷や汗が止まらないのだ。

 

「……なあ、まさかとは思うがこの料理ってイインチョが作ったんじゃないよな?」

 

和弥はきっと違って欲しいと願い、薄々感づいてはいたものの確認せずには要られなかった。

和弥のその質問に鑽霞は可愛らしく首を傾げて言った。

 

 

 

 

「私が作ったけど……どうして?」

 

 

「樹いいいいぃぃぃいいい!?その料理を食うなぁ!!!!」

 

 

 

和弥は全力で樹が料理を口にするのを止めようとした。

美しく才色兼備で知られる鑽霞の唯一の欠点。

そう彼女が作る料理は壊滅的に不味かった。

意識が飛んでしまうほどに。

 

だが、和弥の努力むなしく、樹は料理を口にしてしまった。

しかし……

 

「ん!うまいぞ!」

 

「そう?ありがとう」

 

樹は普通に料理を食べていた。

感想まで言う余裕がある。

一体どういうことなのか和弥には分からなかった。

 

「和弥も食べるといいぞ!」

 

「あ、ああ……」

 

和弥は樹が平気な顔をしているところで覚悟を決め、料理を口に運んだ。

その瞬間、まるで頬が蕩け落ちるような衝撃が和弥を襲った。

 

 

口に入れた瞬間ホロリと身が解け、染み込んだタレが絶妙なマッチを見せ、口内に広がっていく焼き魚。

 

程よい大きさに一粒ずつ揃えたのだろうか、全てが同じ大きさの黒豆はムラ無く煮られており、くどくなく逆に薄すぎもしない甘さが心地よい。

 

また、共に入れられた酢の物や昆布巻きなどの煮しめもまた手の込んだつくりになっていることが伺える程の美味である。

 

 

「なんだこれは……うめぇ、うめぇよ……!!」

 

「だろう!?素晴らしいほどのおいしさだな鑽霞!」

 

「全くだぜ!あ、そこの数の子も取ってくれるか!?」

 

「え、ええ。……はい、どうぞ」

 

「私にはそこの伊達巻を頼む!!」

 

「えっと……はい」

 

和弥と樹の二人は世界がひっくり返るほどの美味な料理を貪り食い続ける。

鑽霞はあっけに取られていた。

 

「くそぉ!一体何が起きてるんだ……ハッ!まさか!?」

 

一通り食べ終わった和弥はふとあることを思い出していた。

それは去年のクリスマスのことである。

 

「イインチョがこんなにウマいモノ作れるわけがない!あれだろ?……《全自動料理機》」

 

そう、鑽霞がサンタさんから貰っていたクリスマスプレゼント。

その名も《全自動料理機》。

クリスマスの最後に鑽霞の心を折っていった良い子へのプレゼントである。

 

「それしか考えられん……」

 

「し、失礼ね。ちゃんと私が自分でつくりました!」

 

「いやいやいやいや。そう言いたくなる気持ちも分かるけどさ。大丈夫オレは分かってるから」

 

「本当に失礼な人ね!……私が自分で作ったのよ。信じてもらえないかもしれないけど」

 

「……マジなのか?」

 

「…マジよ。一応」

 

「マジかよ……」

 

和弥は思った。

彼女の料理の腕はどうやら本当に改善されたらしい。

つまり、容姿端麗、成績優秀、才色兼備と三拍子そろった最高の優良物件。

これはもう逃す手は無いんじゃないか、と。

 

「イインチョ!!」

 

「はい?って、え?え!?」

 

和弥は鑽霞の両手を握り締めていた。

突然の展開に鑽霞はついていけていない。

樹はおせちから目と口を離さない。

 

「オレに毎日――――」

 

 

 

 

 

 

 

***保健室***

 

 

 

ベッドの上で和弥はガバッと身を起こした。

 

「ハァ……ハァ……あ?どこだここ?保健室?」

 

周りを見渡せば、薬品やソファ、身体測定の道具などが置いてある。

隣のベッドのカーテンは閉まっていた。

 

「ハァ……夢か」

 

和弥は先ほどの夢の内容を思い出していた。

 

「だよなぁ。イインチョとか……マジねぇから」

 

夢の中とはいえ、あの自分は本当にどうかしていた。

脳が腐りかけていたとしか思えない。

 

「ところで何でオレここに居るんだ?」

 

ベッドから降り、誰も居ない―隣のベッドのカーテンは閉まっているものの―保健室から出ようとした。

ドアの取っ手に手をかけようとしたところで唐突にドアが開いた。

 

「うおっ…と…!?」

 

「あ、和弥君?起きたのね、良かった!」

 

果たしてそこに居たのは鑽霞であった。

どうも事情を知っているようなので和弥は聞いてみることにする。

 

「なあ、何があったんだ?」

 

「えっと……覚えてない?」

 

「残念ながらな」

 

そう和弥が言うと鑽霞はしばし逡巡して

 

「その……食べたのよ」

 

「何を」

 

「だから…おせち料理」

 

「おせち……?」

 

先ほどの夢とのデジャヴ。

偶然だろうか?

 

「その……私が作ってきたおせち料理を屋上で食べようって……」

 

なるほど。

もしや先ほどの夢は……。

 

「い、樹はどうしたんだ?」

 

「そこで寝てるわ……」

 

鑽霞の表情は暗い。

罪悪感で押しつぶされそうな顔をしている。

 

「つまりなんだ。オレと樹はお前の作ってきたおせち料理を口にした瞬間、倒れたと」

 

「ええ、まあ、そういうこと。今回はすごく上手に出来たと思ったんだけど……」

 

「お前…《全自動料理機》はどうした?」

 

「ああ、アレ?私が操作したら何か、壊れちゃった」

 

和弥は天を仰いだ。

どうやら彼女の料理は、機械ですらどうしようも出来ないところまで来たようだ。

更に言えばついには記憶を操作するところまで進化した、と。

自分は一口目でもうすでに気を失ったらしい。

つまり、さっきのは夢だったということだ。

 

「は、はは、はははははは……」

 

「あ、あの和弥君?」

 

「ははは……いや、なんでもねぇよ……」

 

和弥は乾いた笑いを漏らし続けていた。

最早、彼女の料理は一種の芸術と化している。

和弥は鑽霞の料理が秘めるポテンシャルに戦慄するしかなかったのだった。

 

だからこそ彼は気づかなかった。

彼女の手の中に握られていた、《夢使い》の印がついたお守りに。

 

 

 

 

***???***

 

 

湯気の立ち込める温泉の中、少女があるいていた。

向かう先には青い髪をしたスタイルの良い女性がひとり。

 

「あら~どうしたのかしら?」

 

「……あなたにお願いがあって来たの」

 

「ふぅ~ん……?それで?」

 

少女は息を吸い、言った。

 

「私に……私の人並みな料理の才能を引き出して!」

 

青い髪の女性はその美貌の顔に三日月のような口で笑いを浮かべ

 

「なるほど……いいわよ。あなたの願いを叶えてあげる」

 

青い髪の女性は笑いをより一層深くして

 

 

 

 

 

 

「この“温泉女王”……『クロウ=セイル』が、ね」

 

 

 

 

 

 

 




一体少女の運命や如何に!

シリアスな展開になってしまうのか!

短編集なのに続きモノっぽくなったけど!

多分続かないけど!
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