NSCI kai   作:草浪

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NSCI kai #01 再編

国会での爆発事故。

多くの議員がいた国会で、謎の大爆発がおき、多くの死傷者を出したと報道されています。原因は不明とされ、テロだという声も上がりましたが、あくまでも事故だという結論が出され、世間にはそう報道されています。

深海戦争から十年、国民はそんなことがあったことも忘れています。だからこそ、事故だという結論でも満足したんでしょう。

野分はその時、青葉さんの指示で現場にいました。というのも、日向さんに取材をする為です。近々、野分がいた海軍特別捜査局捜査一課七係が再建されるという情報を得たからです。情報を得た、というよりも日向さんからの内示が野分に出たからです。

そして、日向さんにお会いする直前に起きた爆発事故。これは偶然と言えるでしょうか。

そんなはずがない。

これが日向さんに対する誰かからの宣戦布告であることは明確でした。

 

ーーーー

 

「こちら野分。指定のポイントに着きました」

 

本来は稼働している筈がない廃工場。カビと埃、そして普通に生活をしていれば絶対に嗅がないであろう臭いが充満する排気ダクト内を進んだ野分は事前のブリーフィングで指定された場所になんとか辿り着きました。ダストマスクを着用しているのにも関わらず、この頭が痛くなる様な臭いがするのです。これを外したら間違いなくこの場で気を失うでしょう。

足柄さんがどんなハイテクよりも信頼性と押し付けられた新しい装備、UMP45を背中に背負っているせいで狭いダクトの天井に当たり何度かガンガンと音を立てましたが、何とか無事に辿り着くことができました。

 

『了解。見えているわ』

 

インカム越しに矢矧さんの凜とした声が聞こえます。

暗いのにサングラス。野分にとってこれは邪魔以外何者でもないのですが、このサングラスに内蔵された小型化カメラの映像を矢矧さんは見ています。野分の暗い視界もこのカメラに補正されてミラーレスカメラのEVファインダーの様に見えます。

 

『こちら足柄。用意よし。いつでもいいわよ』

 

足柄さんも配置に就きました。

野分は内部の空気を外に吐き出すための穴から少しだけ顔を出し、中を伺いました。

頭がおかしくないそうな匂いが少しだけ緩和されますが、しないわけはありません。

 

「こちら野分。内部映像を送ります。捜査対象であるかどうか確認をお願いします」

 

『間違いないわ。そこに置かれている車両は全て盗難車よ。ご丁寧にナンバーもそのまま。間抜けな連中ね。仕事が楽で助かるわ』

 

『あら? 仕事の楽さは終わってみないとわからないわよ? それに、現場の映像を見ながら指示を出すだけの仕事じゃない。楽なのは当然よ』

 

足柄さんが嫌味を言います。

というのも、矢矧さんと足柄さんはとても仲が悪いからです。

 

『そんな大口を叩くなら仕事を完遂して頂戴。二人のタイミングで突入して頂戴。あとの指揮は足柄に任せるわ。誰一人殺さないで頂戴。話が出来ればどうなっていても構わないわ』

 

「『了解』」

 

野分は腰につけたラペリング用のケーブルの先端につけられた吸盤をダクト内に貼りつけました。いくら元艦娘だと言え、この高さから何もなしで降りれば怪我はします。

 

『のわっち。あなたのタイミングで初めて頂戴。こっちはいつでもいいわ』

 

「了解しました。降下中はどうしても無防備になるので援護をお願いします」

 

『わかってるわよ。のわっちには指一本触れさせないわ。あなたの突入の少し前にこっちは入るわ』

 

「指じゃなくて弾が飛んでくるのですが……」

 

足柄さんにのわっちと呼ばれるのは久しぶりですね。

 

『二人ともふざけないで真面目にやってくれるかしら?』

 

『こういう時、日向だったら冗談の一つでも言って場を和ませてくれるんだけどねぇ』

 

多分日向さんも「真面目にやれ」と言うと思いますが。

足柄さんはどうかわかりませんが、野分はこうして足柄さんとまた仕事が出来ることに少し浮かれています。

 

「いつでも行けますよ」

 

『合図を』

 

「降下5秒前……4……3……」

 

『出るわ!』

 

下で走る車と車がぶつかった様な派手な音がなりました。

 

「特捜よ! 大人……」

 

足柄さんが言い切る前に発砲音が響きました。野分はそのタイミングでフェンスを外し、中に突入しました。重力に身を任せ、一気に降下します。

 

「足柄さん!」

 

『無事よ! のわっちは!?』

 

「こっちも降下しました! 無事です! 見えたのは8人です!」

 

地面に着地し、ラペリング用のケーブルを切って背中に背負っていたUMPを構えます。

 

『全部で8人よ。気を付けて』

 

矢矧さんがそう言います。これは降下している野分からの映像を見て確認したのでしょう。

 

『もうのわっちが教えてくれたわ。二人やったわよ』

 

残り6人。久々の鉄火場にUMPを持つ手に力が入りますね。

 

 

ーーーー

 

事故の後、野分が呼び出されたのは鳳翔さんのお店でした。

いつも掛かっているはずの暖簾も外され、休業日と書かれた張り紙がしてある扉を開けて中に入ると、厨房に立つ鳳翔さんはいつもの笑顔で「いらっしゃい」と声をかけてくれました。

 

「もうみんな来てますよ」

 

「まだ20分前だと言うのに……皆さん好きですね」

 

鳳翔に会釈をし、奥のあがりの襖をあけると、足柄さんがブスッとした顔で日本酒を飲んでいました。

 

「お久しぶりです」

 

「久しぶりね」

 

「やっと来たか……」

 

靴を脱いで座敷に上がると、車椅子姿の日向さんが見えました。

頭には包帯を巻き、顔の半分が隠れています。腕と足にはギブスをはめ、何とも痛々しい姿でした。その横に正座をして座っている矢矧さん。

 

「日向さん……」

 

「まぁ、座れ」

 

日向さんに促され、足柄さんの横に座ると、矢矧さんが車椅子の日向さんにビールの入ったグラスを渡しました。足柄さんも野分にビールを注いでくれました。

 

「揃ったことだし始めよう。もう始めてるやつもいるが気にしないでくれ。乾杯」

 

「「「乾杯」」」

 

こういう時、誰よりも燥ぐ足柄さんが静かにおちょこを掲げ、そのままグビッと飲み干して手酌で注ぎなおしました。

 

「野分もわかっているとは思うが、七係が再編されることになった」

 

日向さんは矢矧さんに飲み終えたグラスを渡すと、足柄さんの飲んでいた日本酒の入った徳利を指差しました。

 

「病人なんだから大人しくしていてください」

 

矢矧さんがそう言うも、足柄さんは何も言わずに日向さんに徳利ごと渡しました。

 

「……お前は上司にこれごと飲めというのか?」

 

「どうせ飲むんでしょ? わざわざ注ぎにいくのもめんどくさいわ。のわっち。二合頼んで」

 

「足柄さん……程々に……」

 

「いいからいいから。のわっちも好きなもの頼んでいいわよ。あちらさんの奢りだって言うんだから」

 

妙に機嫌の悪い足柄さんに促され、野分は鳳翔さんにお酒と食べるものを適当に頼みました。

 

「足柄には軽く話したが、そろそろ本題に入ろう。矢矧」

 

日向さんがそう言うと、矢矧さんは頷き、野分の方を見ました。

 

「七係再編にあたり、私も編入される事になりました。よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

野分がそう頭を下げると、足柄はそっぽを向いてしまいました。

足柄さんと矢矧さん、そんなに仲が悪かった印象はありませんが。

 

「お二人には私の指揮のもと動いて貰います」

 

「……日向さんは?」

 

「日向さんは議員さんになられるそうで、私達を票集めの為に利用するそうよ」

 

「……それは本当ですか?」

 

そうだとすればがっかりです。お二人は何も言いません。

 

「そうですか……野分はこの話、辞退させて頂きます」

 

野分がそう言うと、足柄さんは嬉しそうな顔をしました。

 

「だそうよ。また新しい子を探せばいいじゃない。あなたに従順な子たちをね。のわっち。あっちで二人で飲み直しましょ。私の奢りよ。好きなものを頼みなさいな」

 

足柄さんに促され、席を立ちました。

 

「待ちなさい!」

 

矢矧さんがそう怒鳴りましたが、足柄さんは睨むように二人を見ると、野分の背中を押しました。その時、日向さんの聞き慣れたため息が聞こえました。

 

「お前たち……しばらく会わないうちに随分変わったな」

 

「あら? 私はここであなたに会うまで変わらなかったわよ? 変わったのはあなたの方ね」

 

「野分もそうです」

 

「じゃあ聞くが。お前たちは口下手な私が選挙で勝てるとでも思っているのか?」

 

そう言われ、少し考えます。

選挙の車の上で、ハチマキを巻いた日向さんが演説している姿を想像してみて、違和感を感じます。

 

「あれね。緑の法被を着てそうね」

 

「そうですね……そしてひたすら瑞雲の良さを喋ってそうです」

 

「お前たちが私のことを馬鹿にしているのはよくわかった」

 

日向さんはまた盛大なため息を吐くと、「座れ」とあの時の様な口調で言いました。

なんとなく、そう言われると野分も足柄さんも素直に応じてしまいます。

 

「足柄。そこの私の鞄に入っている名簿を出してくれ」

 

「ちょっと! 勝手なことをされたら困るわ!」

 

矢矧さんが立ち上がり、足柄さんを止めようとしました。ですが、立ち上がった矢矧さんの腕を日向さんが掴みました。

 

「これでいいのかしら?」

 

「それを野分と二人で見てくれ」

 

そう言われ、足柄さんの手元の名簿を覗くと、そこには知っている名前が並んでいました。

 

「この名簿は?」

 

「未だに艦娘としての力を有している者の名簿だ。それは公式のもの。3枚目を見て欲しい」

 

足柄さんは野分がざっと目を通したのを確認して、三枚目まで捲ると、また同じ名前が載っていました。でも1枚目、2枚目には載っていない人もいました。

 

「そこからは非公式のものになる。つまり、記録上は解体されたが解体されずに今を生きている者達だ」

 

「こんなにたくさん……それで、これがなんだって言うのよ」

 

「日向さん。これ以上話せばあなたの立場が危うくなることぐらいわかっていますね? この再編の話、あなたが通したわがままも通らなくなりますよ?」

 

矢矧さんがそう言うと、日向さんは鼻で笑いました。

 

「わがままか……私の中でこの二人以上の人選はないと思うがな」

 

「それは私が判断することです」

 

「そうか。なら私の後釜の話、無かったことにさせてもらうぞ。足柄。すまないが私を背負ってくれ。野分は車椅子を頼む。向こうで飲み直そう。私の奢りだ。好きなものを頼め」

 

よく話が見えませんね。

足柄さんは日向さんの言うがまま、日向さんを車椅子から担ごうとしています。

 

「待ちなさい! 話はまだ終わっていません!」

 

「話も何も、こいつらが聞こうとしないんだから仕方ないだろう? 私は昔の部下との団欒を楽しむ。お前はこの結果を大和に報告しなくてはならない。この場はお開きになるだろう?」

 

足柄さんに抱えられた日向さんは自信たっぷりという顔で矢矧さんを見ました。

野分は言われた通り、日向さんの車椅子を持ち上げて座敷から下ろしました。そこに、足柄さんが日向さんを乗せます。

 

「矢矧よ。足柄も野分も元捜査員だ。その気になればお前達が隠し通そうとしていることなど一瞬で見抜かれるぞ」

 

先ほど野分が注文したものは、近くのテーブルに綺麗に並べられていました。鳳翔さんがしてやったり顔でこちらを見ています。

 

「全てを、七係の長であるお前が二人に説明すべきだ」

日向さんがそう言うと、足柄さんは日向さんの車椅子を押し、料理が並んだテーブルまで運び、日向さんの横に座りました。野分は日向さんの対面に座ります。

 

「……わかったわ。全てを話すから……私の言うことを聞いて頂戴」

 

矢矧さんはそう言うと、仕方なしといった様子で野分の横に座りました。

 

「そもそも気に食わなかったんだ。どうして私が車椅子だと言うことを知っていて座敷なんだ。料理も飲み物も取れないじゃないか」

 

「仕方ないわね。私が取ってあげるわ。何が食べたいの?」

 

「そこの唐揚げをいくつか取ってくれ。この体になってから揚げ物が出てこなくてな」

 

先ほどの不機嫌はどこにいったのか。足柄さんは上機嫌で日向さんの取り皿に唐揚げを乗せていきます。

 

「私の話を聞く気はあるのかしら?」

矢矧さんが睨むように足柄さんを見ます。

 

「あなたの話は小難しそうだから、要点だけ言いなさいよ。うちのボスみたいに」

 

 

ーーーー

 

UMPを構えて狙いを定める。

照準器はついていませんが、野分のかけているサングラスとリンクしているのでどこに照準しているのかが表示されるようになっています。便利な世の中になったものだと感心しますね。目的は殺害ではなく無力化することです。

弾が当たっても致命傷になり得ない部位に狙いをつけて引き金を引きます。

 

「まず一人」

 

引き金を引くと前のベクターよりも力強い反動が肩を押します。

けど、しっかり保持はしているから大丈夫。そう思っていたはずなのに弾は何故か野分が狙った二の腕ではなく、脇腹に弾が当たりました。

 

『野分! ちゃんと狙いなさい! 殺したら何も聞き出せないわ!』

 

「すいません……」

 

大丈夫だと思っていても、勘が鈍っているのでしょうか。

これがカメラだったら絶対に外しません。しっかりとフレームに収めています。

向こうの銃撃を避けて、足柄さんと合流すると、足柄さんはかけていなきゃいけないサングラスを頭に乗せて、アイアンサイトで狙いをつけていました。

 

「足柄さん……これ……」

 

「私はこっちの方が見やすいからこうしてるだけよ」

 

「そうですか」

 

もう一度、しっかりと構えなおし、狙いを定めて撃ってみる。

幸いにも向こうは銃の扱いにはなれていません。こっちに飛んでくる弾はすべて見当はずれな方に飛んでいきます。

 

「もう一人」

 

完璧に捉えた。

そう思ったはずなのに弾は当たりませんでした。

 

「ズレているのですか……」

 

けれど、捜査上の記録は残さないといけません。頰付けをしっかりして、アイアンサイトを覗き込みます。

 

「見辛い……」

 

光学機器に慣れすぎたこと。アイアンサイトも丸の中を覗くことに慣れていたこと。拳銃と違って相手を指差すように狙いがつけられないこと。野分の訓練不足は別として、持っている装備をちゃんと確認しなかったことを後悔します。

青葉さんが、カメラは見なくてもちゃんと操作が出来るようになるまで練習すると言っていたことを思い出します。

 

「のわっち。前進するからカバーして頂戴」

 

「わかりました」

 

ある程度なら狙いはつけられます。

足柄さんが前進する間、相手に撃たせなければいい。後は前進した足柄さんを狙う無防備な相手を撃てばいい。簡単なことです。自分にそう言い聞かせます。

両手でしっかり構えて、飛び出そうとしている足柄さんのお尻を膝で軽く蹴ります。

それと同時に足柄さんが飛び出す。そのタイミングで野分は牽制射撃を加えます。

 

『よくこんな技術知っていたじゃない!』

 

嬉しそうな足柄さんの声が無線越しに聞こえます。

 

「なんとなくです。日向さんに叩き込まれた技術を体が覚えていたのでしょう」

 

『さすがはのわっちね。頼りになるわ』

 

結局、足柄さんがほぼ全てを制圧してしまい、野分が倒したのは一人だけでした。

 

「ハイテクよりも信頼性……ですか」

 

足柄さんの言っていた意味がわかりました。

今回は相手が素人だから何とかなりました。けど、次はどうなるかわかりません。

 

「のわっち。お疲れ様。助かったわ」

 

「こちらこそ助かりました。駄目ですね。このままじゃ」

 

「ゆっくり思い出していけばいいわ。日向に教わったことは忘れていないようだしね」

 

足柄さんはそう言って野分の頭を軽く叩くと、無力化した相手を捕縛しに向かいました。いけない。野分も手伝わないと。

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