PHANTASY STAR ONLINE2~星霜ヲ蝕ス三重奏~   作:無銘数打

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Episode12『叩きつけてやれよ、お前の存在を』

 砂漠の夜は綺麗なものだった。

 俺が特に好きだったのは、砂漠しかない場所。建物も植物もない。機械も生物もいない。そこにいるだけで死しかない砂漠の夜は、幻想的で現実感を喪失させる美しさがあった。

 元々は自然豊かな場所だったかもしれない。元々は何者か手が入った街だったかもしれない。様々なかもしれないを置き去りにして、目の前にある光景は自然だった。そうなるようになり、そうなってしまった光景。何もないからこそ、生まれてしまった光景こそ、俺は素直に感動する事が出来たのだろう。

 なら、この光景はどうだろう。

 人工的に作られ、自然なモノなど1つとしてない人工物の塊。そこに映し出される星々だけが唯一の自然だが、その間にある天井はその光すら遮ってしまうのではないか。

 ベランダに置かれた木製のベンチが軋む。

 「……飲み過ぎたか」

 気づけば酒瓶を空けていた。灰皿には吸い殻が何本も溜まっている。夕食の余りを酒のツマミに1人酒。有意義な時間だったと取れるのは、きっと日々の疲れがそう想わせているのだろう。だが、酔いは心地良くはない。むしろ、酔いを感じられない。妙な思考をしても、

酔いがすぐに冷めてしまう。こういう時だけはフォトンという妙な存在を恨めしく思えてくる。

 酒もツマミもなくなったが、煙草だけは残っている。健康に悪いと言われているが、これだけは止められない。中毒になっているのか、それとも単にやる事がないからか。どちらでも構わないと、次の煙草に火をつける。

 人工的な光に星空の光。煙草の先についた僅かな光。

 何もかもが面倒になって、全部を放り投げてしまいたい衝動に襲われる。

 「まだ起きていたんですか……」

 「お前さんは寝てなくていいのか?」

 寝間着にカーディガン、手には湯気の昇るマグカップが二つ。その1つを俺に差し出し、彼女は俺の隣に座る。

 「勝手に使わせて貰いました」

 カップの中は何年ぶりに飲むのか、ホットミルク。

 「好きに使えばいいさ。だけど、牛乳なんてあったか?……あぁ、モニカか」

 「人様の冷蔵庫を勝手に使っておいてなんですが、お酒ばかりはどうかと思いますよ」

 男の部屋にある冷蔵庫なんて、そんなもんだ。悪いが女性が好むような食材も飲料もありはしない。

 「……冷えますね」

 「そうだな。季節感を出すのは良いが、この時期はあまり外でどうこうするには、キツイ時期だ……」

 「でも、もうすぐ暖かくなりますよ」

 「そうだな……」

 「えぇ、そうです」

 煙草を消し、温かいものを口に流し込む。体の中から温まる感覚は、中々に心地よい。

 「アンジュはまだ戻ってないのか」

 「そうみたいですね」

 夕食の後、モニカは帰宅した。若い女性を夜道に一人歩きさせるわけにはいかないので、アンジュを一緒に付けてやった。人形病やらなにやら、色々と物騒になっている中でアイツなりの心遣いなのだろうが、アンジュとしてもモニカを気に入っている様子が見られる。面白い玩具と思っていないといいが、否定できない部分は多い。

 「何処かで道草でも食ってるんだろうよ。それか、モニカの所でなんかしてるか、そんな所だな。まぁ、アイツなら心配するな。あれはあれで結構しぶとい」

 「別に心配はしていません。むしろ、モニカの方が心配です。あのちっこいのに絡まれてないか」

 「そっちの心配あるな」

 そう言って俺達は笑い合う。

 「でも、貴方は随分と寛容ですね。あんな生意気なサポートパートナーと一緒で疲れませんか?」

 「疲れる。凄い疲れる。なんであんな捻くれた性格になったのか、不思議だよ」

 「サポートパートナーの性格は、そのマスターに関係があるようですが……となると、大部分は貴方の問題では」

 「それは言わんでくれ……あれでも、昔は随分と大人しかったんだぞ。それが気づけばあんな感じで。俺のせいかもしれんが、それ以上に影響を受けているのは、きっとアイツだな」

 「アイツ?」

 おっと、また口を滑らせてしまった。

 「―――体調はどうだ?」

 急な話題変更は、流石に露骨だったかもしれないが、

 「―――完治とは言えませんが、こうして動けるくらいには戻っています。傷口はそれほど大きなものではありませんし、急所も外れていましたので」

 彼女は何も聞かずにいてくれた。

 「ですから……明日には、出ていこうかと思ってます」

 「……そうか。お前さんがそう言うなら、別に止めはしないさ。それに、追っている件は同じだ。明後日にはまた会うかもな」

 「お互い生きていれば、ですけど」

 「努力はしような、お互い」

 協力すれば良いだけ、と思うだろう。

 一緒にやるか、と言えばいいだろう。

 それを口にしないのは、どうしてか。

 「―――何も聞かないんですか?」

 「聞けばスリーサイズでも教えてくれるか?」

 「セクハラです、それは。ちなみに、とあるアイドルと一緒とだけ答えておきましょう」

 律儀に答えんでも良い。こっちが困る。

 「そうだな、確かに協力して欲しいとは言ったが……なんだ、どっちが良いかと思ってな」

 「それは、協力するよりも別々で動いた方が効率的という意味ですか?」

 「それもある。それもあるが……」

 論理的には否定するが、感情的は肯定する。彼女が言う効率的という言葉を肯定するのは、俺の感情的な思考。論理的な部分では情報提供を求めている。求めてはいるが、俺という奴はあまり論理的な部分を好んではいないらしい。

 「もしかして、私に遠慮してますか?自分に協力する事で、私に不利益が及ぶかもしれない、と……もしもそう思っているのなら、少しだけ不愉快です」

 そんな目で見るな。

 そんな目で見られても、俺の感情的な部分は僅かな揺らぎしか起こさないのだから。

 「―――お前さん、情報部だろ」

 「………」

 否定の答えは返ってこない。否定はされないとは思っていた。

 アークスの始末屋などと言われていても、それは完全な個ではなく、組織の中に含まれた個でしかない。ならば、そんな存在が独立して個を保つなんて事は出来ない。完全なスタンドアローンではないのだ。彼女も組織の端末の1つ。アークスという組織で必要とされていた、必要とされてしまっていた端末。

 「どう考えても、お前さんみたいにある程度自由に動ける部署と言ったら、情報部以外には考えられない。新たに新設された部署とはいえ、元を辿れば虚空機関だろ?だとすれば、一番自由に動け、一番諜報活動が得意な場所は今の情報部だけ。そんでもって、お前さんの行動は、どう見ても諜報活動だ」

 「実は六芒均衡かもしれませんよ?」

そいつは驚きだ。そう言えば、彼女の持っている武器を、イプシロンは創世器だって言ってたな。大変だ、彼女が六芒だって話を信じてしまいそうだ。

 「兎も角、だ。俺はジョンドゥから良い目では見られてない。喧嘩も売ったからな」

 「だから、信用できない……ですか」

 「そうじゃない。ジョンドゥに比べれば、お前さんは全然信用できる。いや、ちゃんと信用しているし、信頼もしてる」

 「初対面で殺し合って、僅か数日だけ同じ場所で寝泊まりしただけの相手をですか?」

 言葉にすると非常に問題があるな。信用できない、信頼もできない、そう言われても誰も非難はしないだろう。

 「そんな相手でも、だ」

 「……甘いですね、貴方は。甘々ですよ、その考え方は」

 彼女は立ち上がり、その手にあの武器を纏う。美しいが、禍々しい刃が夜闇に輝く。

 「私が情報部で、始末屋ならば、私は此処で情報部に不利益を及ぼす貴方を始末しなければいけません。貴方も、アンジュも。そうですね、モニカもその対象に含まれるでしょう。そして、私はそれが出来ます。今までそうして来たから、きっとそれが出来てしまう」

 俺の首筋に添えられる刃。

 「私はこう言います。貴方に助けて貰ったのは、私の利益を取る為。その行為に私は不利益を感じません。此処で貴方を消す事もそうです」

 あの時と同じ冷たい刃の感触。

 「最初からそうするつもりで、こうなる事は予定通りでした」

 あの時と違う事があるとすれば、

 「だから、」

 俺は今、彼女を見ているという事だけだろう。

 手に持ったカップの中身は、もう空っぽ。俺のも、彼女もだ。首筋に添えられた刃の冷たさは、どうでもいい。彼女のカップも一緒に手に持ち、

 「珈琲と牛乳、どっちが良い?」

 と、聞いてみる。

 「それとも酒か。酒なら此処じゃ寒いな……ってか、お前さんは未成年か」

 長く外に居すぎた。

 このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。

 「―――では、珈琲でお願いします」

 「ミルクと砂糖は?」

 「今日はブラックな気分なので」

 「了解」

 

■■■

 

 口の中に広がる苦みを、旨味の1つだと感じられるようになった時、僅かだか大人になったのだと実感した記憶はある。別にそんな事はないのだが、その時は確かにそう思った。

 「私とジョンドゥが追っている件は同じですが、協力しているわけではありません」

 ベンチで隣り合って座るのではなく、テーブルで向かい合う俺達。

 「正確に言えば、この件を担当しているのはジョンドゥで、私は横槍を入れているようなものでしょうね。彼が私の動きを知っているかはわかりませんが、今のところ私の所にそれらしい動きはありません」

 「お前さんの独断専行ってわけか?」

 「まさか、今も昔も私にそんな権限はありませんよ。でも、今回に限って言えば、それに近い行為かもしれませんね。上からの命令ではなく、私個人の意思でこの件に首を突っ込んでいるというのが、正しい認識です」

 それを独断専行と言うのではなかろうか。

 「支援は僅か、と言ったのはそういう事です。私の行動は情報部として一部の者しか認知されていない行動です。その為、本来なら受けられる支援を表立って受ける事は出来ませんでした。その結果、こうして貴方にご厄介になっているわけです」

 今回に限って、と彼女は言う。ならば普段の彼女であれば違うという事になるだろう。確かな命令を受け、正式な作戦行動を行う。今回はそうではない。そうする必要があったのか。そうしたい意味があったのか。

 「……貴方は、自己の存在を認識されるのは、どういう時だと思いますか?」

 「哲学的な話か?……そうだな、一般的な事を言えば、自分が此処に居るという事を、自分以外が認識しているからこそ、存在を認められる事だと思うな」

 いや、これは哲学ではなく、物理学的な話だったかな。

 居るという情報は、居る可能性の延長。箱があり、中に何かが入っているという状況で、何かというあやふやな認識である場合、それは存在の確定ではない。中には何も居ないかもしれない。居るかもしれない。どっちかの可能性がある限り、居ない可能性だってあるのだ。

 「つまり、他者こそが自分の存在を認められる存在である……こんな感じでどうよ?」

 「概ね正解だと思います。私という存在が認識される、明確に確証されるのは私の認識ではなく、他者の認識。この場で言えば、ヴァンさんという人が居るから、私という者は存在を認められている。ならば、逆に認識されない状態はどうですか?」

 「俺からお前さんが見えない場合だろうな」

 「見えないだけですか?」

 こんな夜中に頭を使う事はしたくないのだが、

 「……煙草、吸っていいか?」

 「どうぞ」

 室内ではあまり吸わない煙草を口に加え、紫煙を見つめる。

 見つめながら、見つめ続けて、不意に想う。

 「記憶、だな。この場だけの状況という枠をつければ、見えないだけだ。見えなくてもお前さんが、この部屋にいるという記憶があれば、お前さんはきちんとこの場にいる事を認識するかもしれない……ん、なんか自分で言ってて、わけがわからんな。小難しい話は苦手なんだ」

 「いいえ、つまりはそういう事なんです。自己の存在認識というのは、視覚情報があれば概ね認識されています。それに加えて記憶。最悪どちらかが欠けていても、どちらかが存在する限り、私は存在認識されている、と私は思っています。実は、私もこういう難しい話は苦手なんです」

 だったら何でこんな話をするのか、と言う前に彼女はもう一度あの刃を取り出す。

 「透刃マイ、これがこの創世器の名前です。その能力は姿を消す、気配を消すというモノではなく、持ち主のフォトンを喰らい、存在を希薄にするというものです」

 つまり、消えたのではなく、認識され難くなるという事なのだろうか。

 「極端な話、これを使えば裸で街中を歩き回っても、誰も私の事を見えません。正確に言えば私を認識できなくなってしまう、という事ですが」

 「え、やったのか?」

 「……殺しますよ」

 今回は冗談じゃない、本気の殺意を感じた。

 「こりゃ、失敬。続きをどうぞ……」

 あと、ちょっとだけ興奮したのは、心の中に置いておく。

 「例え、その状況で私の事を運良く見つけたとしても、存在の希薄という事象は、記憶にも作用します。存在、ですから。見たかもしれない、そんな人を見たような気がする、でも気のせいかもしれない、きっと気のせいだろう、何に対して気のせいだったのか……こんな感じです」

 なるほど、そいつは彼女の様な仕事をする者には、非常に良い武器だろう。存在という言葉は、思っている以上に広い意味を持つ。ならば、それは監視カメラの様な機械にも作用する事になる。光学迷彩の様な装備を使わずとも、写らない以上の行動が可能となるのだから。

 「まぁ、それが何故か通用しない人がいたんですけどね。あれには驚きました。マイを 使って歩いていたら、普通に私に声をかけてくるんですよ」

 「随分と奇異な奴がいたもんだな」

 「あの人はそういう人ですから……」

 一度お目にかかってみたいものだが、あまり会ってみたくもない気もする。あくまで勘だが、そういう奴は絶対に面倒事に巻き込まれるのだ。見なくていいモノも、見過ごしても文句を言われないモノも、全部を見つけて巻き込まれるのだから。

 「その人とは、今は会う事は出来ません。会うのは何時になるのかわかりませんが、しばらく時間はかかるでしょうね―――だから、怖くなったのかもしれません」

 「―――忘れられる事、か」

 「えぇ、そうです。忘れられる事。現状、そんな事は起きていませんが、マイを使い続ける事で、私という存在が周りに認知されなくなり、誰にも私を認識できなくなってしまう。そうなると、私はどうなるのか。ただ忘れられるだけなら幸いですが、それ以上の事になった場合……」

 誰の記憶にも残らず、誰の眼にも映らない。

 誰も彼女を見ない。誰も彼女に声をかけない。誰も彼女に触らない。確かにその場に居るにも関わらず、彼女を認識しているのは彼女自身だけ。それは、この広い宇宙で、たった1人になってしまう事だろう。

 あまりにも、絶望的な孤独。

 「だったら使わなければいいだけ、と思ったでしょう?その通りです。現在、私の上司は碌に仕事を回してきません。陰険メガネの癖に、私に気を使ってるのか知りませんがね」

 「理解ある上司じゃないか」

 「陰険ですけどね。あと性格捻じ曲がってる奴です」

 酷い言われ様だな、おい。

 「私、これでも常にこんな仕事してるわけじゃないんですよ。こっちが裏なら、表の仕事もあるんです。結構人気者なんですよ、これが」

 彼女は言う。

 「どちらの私も、私。こうして貴方の前に居る私が必要とされないのは、きっと喜ばしい事なんです。そうして何時か、始末屋なんて者が噂から、過去にあった都市伝説みたいになって、いずれは誰の記憶からも消えてしまう―――だから、思っちゃったんですよね」

 珈琲を見つめ、闇を見つめる様に、

 「こっちの私が必要とされない事が、私の一部が消えていく様なものなんじゃないかって……喜ばれるわけじゃない。胸を張って言えるような仕事でもない。でも、確かに私の存在はあった。あの場所で、私は存在していた」

 だが、いずれは忘れられる。そんな者が居た事は、風化された未来が来るかもしれない。それは彼女の言う裏が消える事。裏である彼女が消える事。彼女の一部が消えてしまう事。消えた先に残るモノがあっても、消えた事実だけは変わらない。

 「馬鹿な話です。居なくても良いモノが、消えてしまう事に拒否感を覚えてしまったんです。望まれなくても、存在しない方が良くても……私が、私が此処に居る事は確かなモノなんです」

 それ故に彼女は望んで此処に居る。望んでしまったからこそ、消えても構わないモノに依存しようとしている。存在が、皆の記憶から消えるかもしれないからこそ、抗おうとした。例え、裏が消えても表がある。表の彼女はそう簡単に消える事はないのだろう。だが、それでも必要ない裏が消える事を良しとは出来なかった。

 彼女の我儘だったのだろう。

 それを咎める事など、誰が出来るだろうか。どれだけ彼女の事を想っていたとしても、消えるのは他人の記憶だけ。それは他人には理解できない、彼女だけの恐怖。

 残したかった。

 この裏を、僅かでも残したかった。

 残して意味がない裏でも、残さない方が幸福になれる裏だとしても、捨てる事などできなかったのだろう。

 「……昔、お前は生き方が下手だと言われたが、どうやら同類がいたらしいな」

 「下手ですか……確かにそうかもしれませんね」

 どれだけ言葉を見繕っても、何も結果を残せなければ意味がない。此処で俺は絶対に忘れないとか、裏を捨てて表で行けばいいとか、そんな言葉を向ける事に何の意味があるというのか。

 俺は他人だ。

 彼女は俺ではない、他人だ。

 俺は彼女ではない、他人だ。

 「―――なぁ、すごく勝手な話をしていいか?」

 「え、はぁ……」

 「俺は、あの蜥蜴男が嫌いだ。あの傲慢な態度が気に入らないし、人を馬鹿にした言い方も気に入らないし、人の仕事を勝手に奪って好き勝手してるのも気に入らない。何よりもあの顔が気に入らない。とにかく全部が気に入らない」

 「まぁ、考え方は人それぞれですから……」

 そう、人それぞれだ。

 「だから、あの蜥蜴男が手柄を持って行くもの気に入らない。最後の最後で我が物顔でドヤ顔されるのも気に入らない。その顔を想像するだけで腹が立つ」

 それぞれの事情があって、それぞれの思惑もある。

 そして、これは俺の理由だ。

 「俺は奴のしかめっ面が見たい。悔しがる顔も見たい。こっちのドヤ顔を見せつけてやりたいわけだ……」

 子供みたいな理由だな、言っててそう思った。

 「だから、俺には助けが必要なんだよ。アイツの思い通りにならず、このナオビをどうにかなるのを止めるには、助けが必要なんだ」

 生き方が下手ってのは、きっとこういう事なんだろうな。

 「―――誰かの記憶に残るってのは、別に良い記憶である必要なんてないだろ?人の仕事を邪魔して、手柄を横取りして、お前よりも自分の方が必要とされてるんだ、ざまぁみろって言うような、そんな嫌な奴こそ記憶に残るだろ?」

 でもよ、ちゃんと生きてるんだよ、これでもな。

 「人の記憶に残るだなんて、ちっちぇ事なんぞつまらないだろ」

 こうして生きて、こうして生きていくんだ。

 「―――叩きつけてやれよ、お前の存在を。お前が此処に居るって事を。好き嫌い関係なく、その場に居る奴全員の顔に、自分が此処に居るんだって叩きつけろ」

 それが幸福になる為の一歩になるわけがない。だが、知った事じゃないだろ。個人の生き方は個人が決める。それを邪魔するのも個人が決める。これが正解だとか不正解だとか知った事かと吠えればいい。

 「随分と勝手な言い分ですね。その結果、私の立場が非常に悪くなる事になるかもしれないのに……」

 「そん時は素直に諦めて、表で働け。でも、ちゃんと置き土産は残せるはずだろ?」

 「……なら、後悔する必要がないくらい、鮮烈な記憶を叩きつけなきゃいけませんね」

 努力はする。

 いや、違うな。

 努力しよう。

 努力して、叩きつけてやろう。

 「ですが、私は貴方が心配です。だって、おじさんが私についてこれるんですか?」

 「ほざけよ、若造。お前の方こそ、足を引っ張るなよ」

 これにて協定は結ばれた。

 都市警備局のおじさんと、始末屋の小娘の急造コンビ。

 真実へと道はまだ遠く、夜明けも遠いが、歩き出しているのだから問題ない。

 問題ないのだが……そう、こっちは問題ないのだが、

 「……ところで、アレはどうします?」

 「どうするって……まぁ、そうだな」

 俺と彼女の視線が同じ場所に向けられる。

 視線を向けられた奴は、

 「―――あ、私の事は気にせずに、どうぞ、おっぱじめてください」

 ベランダからカメラを構えている姿を、ばっちり見られているのにこの態度。

 「一応聞くが、何のことを言ってんだ、お前は」

 「え?マスターが彼女と夜明けの珈琲を飲む話ですよね。大丈夫、私の口は鋼鉄製です。決してマリサに絵葉書とか送らないので、ご心配なく」

 無言で俺と彼女は覗き趣味のサポートパートナーに歩み寄る。

 「……おや、何やら身の危険を感じますね」

 「そう思ったなら、そういう事なんだろうな」

 「もしかして、ちょっとお茶目が過ぎましたか……」

 「えぇ、そうですね。お茶目は時として身を亡ぼすと、記憶に叩きつけてあげます」

 「―――てへ☆」

 

 明日が良い天気になるように祈りながら、馬鹿をベランダに逆さ吊りにする事にした。

 

 

 

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