PHANTASY STAR ONLINE2~星霜ヲ蝕ス三重奏~   作:無銘数打

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Episode19『男はやっぱりステゴロだよなぁ』

 会いたくない奴ってのは居る。

 好きとか嫌いとか、苦手とかそういうのではなく、単純に会いたくない奴。

 「ヴぁあああああああああああああああンちゃあああああああああん」

 非常に鬱陶しい感じで自分の名前を呼ぶ奴とか、会いたくない。

 良い歳したオッサンの癖に、上半身裸で筋肉を見せつけてくる奴とか、会いたくない。

 そして何より、この切羽詰まった状況で一番会いたくない奴と会うのは、きっと碌でもない事になると痛感しているからだ。

 「ライバック……」

 「ヴァンちゃん、会いたかったぜぇ」

 「俺は会いたくなかったよ。出来れば、2度と会いたくなかった」

 あの部屋から抜け出してすぐに、時間にして数秒、他の兵士から姿を隠すよりも早く見つかってしまったのだが、コイツとは運が悪い。いや、それ以上にコイツとコイツの部隊がナオビの近くに居るってのが最悪だ。

 しかも、

 「隊長、どうしたんすか?」

 「あれ、ヴァンじゃん。久しぶり~」

 「え!?ヴァン……ヤベぇよ、俺はアイツにカードで負けた分を払ってない」

 「なんでヴァンが此処にいるの?もしかして、統合軍に就職したとか?」

 「いやいや、きっとこの警報はコイツのせいだよ……え、マジで?」

 「おい、副長呼んで来い。俺等じゃ隊長止められない!!」

 「もう行ってる。多分、格納庫だと思うけど」

 「ヴァンか……はぁ、なんか嫌な予感はしてたんだよなぁ」

 こいつの馬鹿部隊の連中まで来ている始末。

 「ん?おいおい、ヴァンちゃん、なんか随分とボロボロじゃねぇか、誰にやられた?」

 「ちょっと嫌な奴にな……ところで、」

 「まぁ別に良いけどよ。ところでアンジュは元気か?」

 人の話を聞かねぇ奴だな。

 今はお前と久しぶりの再会をしている暇なんて、1分1秒だってありはしないんだよ。

 などと考えている間に状況はあっさりと悪化する。奴等の背後から他の兵士達が集まってきた。

 「おい!!いたぞ、アイツが逃亡犯だ!!」

 馬鹿部隊の連中をかき分け、兵士達が俺に銃口を向ける。まったく、これだからコイツに関わると碌な事がないんだ。

 「動くな!!」

 「抵抗は無駄だぞ」

 絶体絶命だな、これは。

 大人しく両手を上げる。

 上げるが、

 「おいおい、お前等、どうしてヴァンちゃんに銃なんて向けてんだよ」

 「ライバック中尉。悪いが邪魔をしないで貰いたい。この男は逃亡犯だ」

 「逃亡犯?万引きとか?」

 「殺人犯だ。それと、艦に爆弾を仕掛け、爆発させたのもコイツだ」

 言いがかりも良い所だが、俺の発言など信じては貰えないだろうな。唯一安心できる事があるとすれば、この兵士達の言い分からすると、ジョンドゥの息が掛かった連中というわけではなさそうだ。

 「へぇ、ヴァンちゃんはそんな極悪な事をしているのかぁ……へぇ、なるほどなぁ」

 嫌な予感がする。

 「それじゃ、捕まえないといけないよな?」

 「だから、こうして我々が―――」

 ライバックが兵士達の肩に手を置く。分厚い手を肩に置くと、口元を三日月の様に歪める。

 「お前等、邪魔」

 なんでそんな事を平然と行えるのか疑問だが、ライバックはそれを平然とやる。

 肩に置いた手を下に降ろすだけのシンプルな動きだが、降ろした瞬間に兵士の肩が骨ごと外れ、床に倒す。倒すというよりも、この場合は張り付けるという動作に似ている。

 「な、何をするんですか、中尉!?」

 残った兵士達がライバックの突然の蛮行に狼狽するが、それが命取りになる。頬に止まった蚊を叩く程度の動きだったが、それだけで兵士達は宙を舞う。

 「あ~、やっちまったな」

 「俺知らねぇぞ……」

 「隊長が勝手にやったって事で、逃げられないかな?」

 「無理だと思うぞ。だって、隊長がやる事は、俺達がやる事って認識されてる」

 残っているのはライバックの部下だけだが、

 「―――なぁ、ヴァンちゃん」

 これは別に良い方に展開が転がっているわけではない。

 「ヴァンちゃんが何をしたのかは知らんが……今、俺とヴァンちゃんは敵って事だよな?」

 この状況は、ライバックに都合の良い状況を与えただけに過ぎない。

 駄目とは思うが、一応抵抗はしてみる。

 「ライバック。時間がないから手短に言うが、ジョンドゥって奴に嵌められたんだ。俺は何もしてない。少なくとも、お前等と敵対する理由は何もない」

 「へぇ、そうなのか」

 「リリーパで一緒に戦ったよしみで、此処から出るのを手伝ってくれないか?」

 「そうかそうか、そいつは大変だ」

 「だから―――」

 「それじゃ、喧嘩しようぜ」

 空気を切り裂く剛腕が唸る。

 防御するという意志を根こそぎ奪いとる暴力を前に、俺は舌打ちしながら避ける。避けた瞬間、壁が爆発した。すげぇだろ、これ。テクニックとかフォトンアーツとか、そもそもフォトンとか使っているわけでもない。

 単純な腕力。

 純粋な暴力。

 俺の知る限り、ダーカーとかダークファルスとか、そういう脅威以外で生物としての作りを間違えた奴は、このライバック以外に知らない。

 「……ライバック、この状況は冗談じゃすまないぞ」

 「知ってるよ。だから、喧嘩をする事が出来るんだよ。お前はピンチだ。そして俺はその邪魔をする。つまり、お前は俺を倒さない事には前には進まないというわけだ」

 分かり易い状況判断には恐れ入るよ。

 「おい、お前等の隊長がこんな事を言ってるが、お前等も同意見か!?」

 無理だとは思うが、部隊の連中がコイツを止めてくれると願ってみる。願っては見るが、全員が俺から視線を逸らす。

 「テメェ等、俺の邪魔をしたら全員殺すからな」

 隊長の命令にはしっかり敬礼する素敵な部隊だな……後で覚えとけよ。

 「心配すんな、ヴァンちゃん。コイツ等が居る限り、他の連中に手は出させねぇよ。それと、もしも俺に勝ったら外までビップ待遇で送り出してやるよ」

 「……へぇ、そいつは」

 そいつは、随分と舐められたもんだ。

 「面白い事をほざくじゃねぇか、ライバック」

 ライバックの目の前に立つ。

 改めて目の前に来ると、この男の強靭を通り越した化け物みたな体格に戦慄する。だが、それ以上に舐めた事を口にしたコイツを黙らせたいとも思っている。

 「約束は守れよ」

 「俺が約束を守らなかった事があるか?」

 「テメェと約束した事なんて、1度もねぇよ」

 もしもアンジュが居たら、盛大に溜息を吐いているだろうが、この場所ではこれがベストだ。ライバックが言うように、俺とコイツの間に邪魔は入らない。仮に邪魔が入りそうな場合は部隊の連中が止めるだろう。

 それにしても、おかしな状況だ。

 警報が鳴り響く戦艦の中で、野郎が喧嘩腰で向かい合っている。

 向かい合って、やる事と言えば1つしかない。

 拳を握り、

 「後悔するなよ、ライバック」

 拳を握り、

 「あの時の決着をつけようぜ、ヴァンちゃん」

 同時に顔面を殴りつける。

 

■■■

 

 「―――普通、助けますか?」

 チェインは非常に不愉快な顔をしながら、自分の横で座り込んでいる敵に問う。

 「最初に言ったはずです。私は別に貴女の敵じゃないって……それでも納得できないなら、そうですね、寝覚めが悪くなるって事で、納得してください」

 互いに動ける体力は残されていない。この状況でこんな事をしていれば、誰かに見つかるのは時間の問題なのだが、

 「納得してあげても良いですが……此処、女子トイレなんですけど」

 しかも個室。

 「あと、なんで私が床で、貴女は便器なんですか」

 「私が勝ちました。貴女は負けました。何か反論が?」

 「反論とかそういう話じゃなくて、衛生的な話を……いや、もういいです」

 まさか、この事態でのんびりトイレに入っているような奴はいないだろうという思い込みと、全体的な男女比として男性が多い艦において、女子トイレに無謀にも入り込もうとする者は少ない―――という論理的な思考などではなく、単に近くて隠れる事が出来そうだから、というのが理由である。

 「もしかして、貴女って馬鹿なの?」

 「……いえ、こっちの私はそういうキャラではないのですが……多分、変な人達に囲まれたせいでしょうね」

 何故か嬉しそうに語る始末屋に、これ以上の追求は止める事にした。どんな所に放り込まれたとはいえ、あのままあそこに放置された場合、見つかるまで時間はかかっていただろう。

 「はぁ、まさか負けるとは……あの状態で負けるのは、凄い久しぶりなんですけど」

 「感情が昂ると硬化する肌ですか。でも、あれって別に便利ってわけじゃないですよね。現に刃は通さなくても、衝撃はきちんと伝わるんですから」

 あの時、武器をナックルに変更したのは、確信があったわけではない。斬れないならば打撃でぶん殴ってやろうという思い付きでしかなかったが、それが見事に的中した。

もしも、かっこつけたいならば、チェインが冗談交じりに言っていた「痛い」という言葉に違和感を持った、とでも言っておこう。

 「そうですよ。ちなみに斬られても大丈夫ですけど、実際は刃物で殴られているのと同じなので、最初から結構痛かったんです。まぁ、致命傷は受けないっていう意味では、結構アドヴァンテージは取れるんですよ」

 「銃とかで撃たれると?」

 「銃によっては、骨にヒビくらいは入りますよ」

 チェインは苦痛に顔を歪めながら、折れた愛用のナイフを見つめる。

 「最初から、これを信用していれば私の勝ちだったのかもしれませんね」

 「いいえ、私が勝ってました」

 「……どんなに言っても、負け犬の遠吠えになりますね。まったく、中尉にどんな顔して会えばいいのやら」

 「慰めて貰えばいいじゃないですか」

 「貴女、意地が悪いですよ―――さて、こうして此処に隠れるのも良いですが、もしも目的が情報部の連中に命令されて捕まえた男を、取り戻しに来たというなら、さっさと行った方が良いと思います」

 ヴァンを助ける為に来たなど、一言も言っていない。

 「どうしてそう思うんですか?」

 「女の勘って事にしておきましょう。それで、さっさと行けと言うのは、私の部隊がその男と接触したそうです」

 その言葉には反応せざる得ない。痛みは何とか誤魔化す事が出来るが、体力は完全には戻っていない。しかし、このまま隠れているよりは、姿を隠したまま進んだ方が効率が良いと判断し、透刃マイを展開する。

 「場所は此処から2ブロック上です。多分、うちの中尉の事だから、他の連中には報告してないでしょうけど……」

 チェインは意地の悪い顔で始末屋を見る。

 「中尉が喧嘩を売っているって話なので、生きてる保障はあまりないですけどね……」

 

■■■

 

 「―――すげぇ、隊長とガチで殴り合ってるよ」

 怪物じみた一撃をまともに受けても問題ないとは、口が裂けても言えない。本来ならば距離を取るのが正解なのだが、それでは何時までも決着はつかない。

 「どっちに賭ける?俺は隊長」

 顔の真横を通り過ぎる剛腕を、次の攻撃に繋げる動作と一緒に避け、防御を知らない馬鹿野郎の脇腹にフックを叩き込む。拳に伝わる感触は鋼鉄を殴る感触に近い。これでダメージが入っているかどうかはわからないが、奴は嬉しそうに笑う。

 「俺も隊長」

 腕力はどんなに足掻いてもライバックが上回っている。だからと言ってスピードはこっちが上というわけでもない。大振りな攻撃を避ければ、反対から高速のジャブが飛んでくる。防御を固めても、例えそれがジャブだとしても、この男の一撃は重い。

 「賭けにならねぇだろ、それじゃ」

 腕が痺れ、僅かに俺が放つ攻撃の速度が鈍る。それを察した奴は大振りを止めてジャブの連打を浴びせにかかる。このまま防御を固めれば致命的な一撃を受ける事はないが、いずれは破られる。

 「だったらお前はヴァンに賭けろよ。俺は御免だね。仮にアイツが武器を使っている状態なら賭けの対象にはなるけど、今回はお互い素手だ。そんなもん、隊長が勝つに―――」

 下段、奴の電柱の様に固い太腿へローキックを叩き込む。奴の体が僅かに揺らぎ、ジャブも止まる。その隙に顎へとアッパーを放つ。顎に当たる感触と、拳が打ち抜く感触を覚えると同時に、ライバックが膝をつく。

 「勝つに……え、勝てるんだよな?」

 ちょうど良い位置に顔がある。腰を回し、地面を足で掴み、体全ての体重を乗せるフックがライバックの顔に突き刺さる。

 「勝つに決まってるだろ―――あの程度で、隊長が倒れるかよ」

 この隙を逃してはいけない。体は鋼鉄でも、頭部はそうではない。顔面を何度も何度も殴り、頭を掴んで膝を叩き込み、掌で奴の両耳を打ち付け、両足で顔面を蹴りつける―――それだけやっても、奴は笑っているのだから、嫌になるのだ。

 「一撃で十分なんだよ、一撃で」

 万力を持つ腕が、俺の足を掴み、そのまま腕を振り上げる。重力がある艦内の中で俺の体は宙を舞い、天井に体を打ち付ける。そして天井が終われば、落ちるだけ。背中に伝わる衝撃に意識が飛びそうになる。

 「……お前等、もしかして知らないのか?」

 飛びそうになる意識を繋ぎ止め、俺の足を掴む手に、手首を標的に踵を振り下ろす。

 「知らないって、何がだよ……」

 痛みを感じる器官は、特に本人の意思と反して行動する。その証拠に手首に与えた打撃は、奴の万力を僅かに弱らせ、俺の脱出に貢献してくれた。貢献はしてくれたが、立ち上がった瞬間に向かってきた拳をまともに受けたのは、予想外だった。

 「リリーパに居た頃、俺等の部隊とヴァンの部隊で喧嘩になってな」

 予想外だったが、まだ耐えられる。

 「一度やり合ってるんだよ、あの2人。そして、その時の決着はなし。途中でダーカーの襲撃で有耶無耶になっちまったんだよ」

 耐えたからこそ、反撃に頭突きを見合う事が可能となった。

 「だから、俺はヴァンに賭けるぜ……これ、隊長には内緒だからな」

 外野が適当な事を言っているが、こっちはそれほど余裕があるわけではない。どれだけライバックに打ち込んでも、手応えなど1つとしてありはしない。

 「―――いいねぇ、いいよぉ、ヴァンちゃん。男はやっぱりステゴロだよなぁ」

 「文明の利器を使えよ、筋肉馬鹿が」

 こっちの手は殴るたびに壊れそうになる。奴の体は生身でやり合って無傷で済むものではない。だから嫌なんだよ、生き物として間違っている奴はよ。

 「そんなつまらない事を言うなよ。この身で生まれた以上、この身以外で相手を制圧する事こそが生き甲斐ってもんだろ」

 「文明って言葉を知らないようだな。お前は本当に俺と同じ時代に生まれた奴か?実は文明社会すらない過去から来たって言っても、俺は信じるぞ」

 「かもしれんな。だが、それならば尚燃えるってもんだろ。どれだけ文明が発達し、どれだけ人を壊す術が生み出されても、原初より使われてきた最高の武器は、己自身だ。だというに、最近の軍の連中もそうだし、アークスもそうだ。フォトンなんてわけわからんモノに頼らないと喧嘩1つ出来ない……つまらなねぇんだよッ!!」

 巨体が弾丸の如く襲い掛かる。避ける暇はなく、防御を固めるが簡単に体を持って行かれる。踏ん張っても奴の進撃は止まらず、壁に押し込まれる。その状態で剛腕が唸り、叩き込まれる。

 「それじゃ、生きてるって、言わねぇ、だろうがあっ!!」

 飛びかける意識が、奴が与える激痛によって引き戻され、また失えば戻されるの繰り返し。想定以上のダメージが蓄積させ、体の力が抜けていく。

 「―――テメェの理屈を、押し付けんなッ!!」

 抜けていく力を引っ張り上げ、掌底をライバックの胸に打ち込む。分厚い胸筋に阻まれ、衝撃は奥にまで浸透しないが、完全に浸透しないわけではない。僅かな停止を確認できれば十分で、その隙に体勢を低く構え、低空タックルで相手を転ばせる。床を滑るように動き、ライバックの背後から首を極めにかかる。

 「お前みたいに、空想上の怪物みたいな奴に付き合うほど、俺達は人生に退屈してねぇんだよ……テメェの暇潰しで、殺されてたまるか」

 「―――だから、お前みたいに俺と付き合える奴が必要なんだよ、俺にはな」

 完全に極まっているが、首に回した腕は奴の剛力で無理矢理に引き剥がされる。このまま腕を圧し折られるか、投げ飛ばされるかの状態で、奴の後頭部に全力で膝を撃ち込む。頭蓋骨が割れる様に祈りながらだったが、まだ足りない。

 「あんまり俺に寂しい事を言うなよ、ヴァンちゃん」

 床に倒され、俺の顔を踏み潰す勢いで迫る足を転がって避け、距離を取る。

 「俺はな、ヴァンちゃん。弱い生き物で生まれたかったよ。弱ければ、俺はきっと周りの連中と楽しい喧嘩が出来たんだ。だが、そう生まれなかった。こんな体で生まれちまったんだ。それが寂しいんだよ」

 「文句は親に言えよ」

 「馬鹿言うな、俺を生んでくれた両親には感謝はすれど、恨みは一切ない」

 「そういう所は律儀なんだな、お前は」

 思えば、きっと俺がコイツと出会ったのは、きっとコイツを不憫に思った神様の善意だったのかもしれない。

 アークス時代、リリーパに居た頃に出会ったライバックという奴は、常につまらなそうに世界を見ている奴だった。今となってはそっちの方がマシだったのだが、人を人として見てない無関心は、見ていて気持ちが良いとは言えなかった。

 当時はまだ少尉だったが、それでも小隊を率いる隊長ではあった。しかし、奴は自分の部下を使う事など一度もなく、常に最前線に立ち、敵を駆逐していく姿は、他の連中から見れば英雄に見えたかもしれない。だが、俺には少しでも退屈を紛らわす為に行う、自分勝手な行動にしか見えなかった。実際、奴はそうだった。戦いの中、碌な装備も持たずに軽装で敵に突撃を仕掛けるが、その最中に大きな欠伸をしていた。

 強いからこそ、強者だからこそ、退屈だったのだろうよ、きっと。

 「……そんなに強い奴と喧嘩したかったら、ダークファルスにでも喧嘩売ってれば良かったじゃねぇかよ」

 「それも考えたさ。考えたが、探して見つけて喧嘩するって簡単に出来るわけじゃないだろ?あの頃の俺は、退屈はしていたが、退屈をどうにかする為に遠出するなんて、馬鹿馬鹿しいと思ってたんだよ」

 「面倒臭がりって事かよ」

 「そういう事だ」

 戦場における奴の活躍は、味方にとっても脅威となった。部隊を率いておきながら、完全な個人部隊となっているライバックの行動は、当然ながら協力しているアークス側にも影響を及ぼす。作戦は無視する。命令は聞かない。助けもしなければ、助けも求めない。完全に孤立しているが、孤高でもあった。

 そんな時に事件は起こる。

 些細な揉め事だった気がするが、詳しい事は覚えてない。俺が現場に顔を出した時には、事は終わっていた。無手のライバックの足元に、アークスの連中が転がっている光景。転がっている連中をつまらなそうに見ている奴の顔は、今でも覚えている。

 「そういえば、なんでヴァンちゃんは、何であの場で俺に喧嘩売ってきたんだっけ?」

 「理由は忘れたが……多分、お前が気に入らなかったんだろうよ」

 どうかそれが、神様の善意ではなく、俺の内から漏れ出した意思であると思いたい。

 これが時の続きになってしまっている。あの時もそうだ。互いに拳1つで殴り合う、そんな原始的な決闘をした。

その時からだったか、コイツの顔にやっと人らしい感情が出る様になったのは。

 

 

 

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