PHANTASY STAR ONLINE2~星霜ヲ蝕ス三重奏~   作:無銘数打

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Episode25『星霜ヲ蝕ス三重奏④輪廻初心』

 「どう思います?」

 『なんというか、悪趣味な部屋だとしか言えませんね』

 「そっちじゃありません。何の話をしているんですか、まったく」

 『この部屋のインテリアが最低という話ではなかったでしょうか?』

 「……この状況で馬鹿な事が言える貴女は、きっと大物になれますよ」

 『おや、馬鹿にしてますね?絶対に馬鹿にしてますね?』

 「馬鹿にされるような事を言っているのは誰ですか、まったく」

 関係ない話は他所でやって欲しいと切に願い、クルーズは情報端末にあるデータに目を通す。その量は膨大という程ではなかったが、この状況で出てきたデータとしてどのように扱うべきかを考える。

 『この部屋は不衛生です。やはり、きちんと掃除するべきです』 

 「その時間が無駄だと言ってるんですよ。この位は我慢してください……私だって我慢してるんですから」

 情報端末の中にある無数のデータを表示させ、最初から最後まで目を通しても結果は変わらない。

 このデータが果たして、この事件と何の関係があるのか。いや、それ以前にどうしてジェリコがこんなデータを大事に隠していたのかも疑問だ。

 「……なんか、柔らかい物を潰した感触が」

 『パンの袋に入ってはいますが、中身はパンではありませんね。パンだったゲル状の何かというべきか―――って、私に擦りつけないでください。通信機は精密機械なんですから!?』

 ジェリコはアークスが保存しているフォトン結晶を横領、横流しを行い、それを利益としていたのは捜査上で既に判明している事実。アークスが管理している為、外に出る数は限られ、裏ルートでの値打ちは正規の物とは比べ物にならない。クルーズも過去にフォトン結晶の売買の片棒を担いでいた事がある。10年以上も前の事だが、あの時点でチンピラの自分には手が出せない高額な物で、麻薬よりは安い程度の認識しかなかった。

 『やはり、掃除をするべきです。すぐにするべきです。このままでは通信機も誤作動を起こしてしまいます』

 「……まぁ、そうですね。この部屋にずっと居ると気分がすぐれないので」

 何故、こんな情報をジェリコは、

 「清掃用のドローンは、無理として……」

 『とりあえずは掃除機を探しましょう。あとはゴミ袋です』

 どうして、

 『そこの棚にありませんか?』

 「ありませ……っげ!?」

 どうし、

 『あ~、そこもゲルが……』

 「最悪です……」

 「―――お前等、ちょっと黙ってろ」

 騒がしい2人に流石に苛立ちを覚えた。

 「この位は我慢しろ。少しばかり汚れてるだけだろ」

 そう言ったクルーズを2人は冷たい眼で見る。無論、アンジュは物理的にそういう動作が出来ないので「うわぁ」と、引いていると主張するような声を出す。

 『これが少しって……クルーズさん、はっきり言って此処は人が住める場所じゃありませんよ。此処が住める場所なら家畜小屋だって立派な住居です』

 「確かにこの状況で言う事ではないと思いますが……これはちょっと厳しいです」

 「……だったら掃除でもなんでもしてろ。お願いだから、こっちに集中させてくれ」

 農業地区での情報端末の鍵を開けた後、鍵開けを行った男には厳重な口封じをお願いし、倉庫の外に居た連中はしばらく動けない状態にして、すぐさま3人はその場を後にした。

 次に向かう場所は、なるべく人目につかず、情報端末の中にあるデータを確認できる場所。尚且つ、ネットワークに繋がる場所。前者については何処でも構わない。人目につかない場所など探せば幾らでもある。だが、問題は後者だった。ネットワーク自体は何処でも繋げられるのだが、監視されている可能性が高い。人形庭園を経由するとはいえ、可能な限りリスクは低い場所が好ましい。

 最悪、繋がった瞬間に逆探知で現在位置を把握される可能性もある。

 『幾らクルーズさんの知り合いの部屋を勝手に拝借しているとはいえ、この部屋は酷いです。人が生活している空間とは言えません』

 「生活してないんだから仕方ないだろう。この部屋はアイツにとってセーフハウスの1つだ。最後に会ったのは3年位前だから、多分それ以降は誰も入っていないはずだ」

 「なるほど、どうりで汚いわけです」

 変わった知り合いがいた。

 同じ場所に長期に居る事が少なく、一つの場所に長く留まっていると鬱になると自称するキャストの知り合い。冗談で引っ越し癖があるのかと尋ねれば、なんと各アークスシップに住居を持っていると言われた。しかも、その数はアークスシップの数と同じらしい。

 「随分と羽振りが良い方なんですね」

 「羽振りが良いというか、仕事柄必要ってだけらしいな」

 「どんな仕事をなさってるんですか?」

 「俺もよくは知らんが、探偵とか言っていたな」

 依頼があれば何処のアークスシップにも出向き、仕事が終わればまた別のアークスシップへと移動する。本当かどうかわからないが、先程言った長期の滞在で鬱になるという悪癖故に住居を持たないのが信条らしいく、変わった人物であるのは事実だろう。

 『……もしかして、その方は『無貌』ではありませんか?』

 「むぼう?むぼう……あぁ、なるほど。依頼がある度に姿形を変えている探偵がいると聞いた事がりあます。確か『百顔の無貌』」

 「そんな名前で呼ばれてたのか、アイツ……」

 『クルーズさん、凄い方とお知り合いなんですね』

 「昔からの馴染みだ。まったく、こういう時に必要な奴だっていうのに、必要な時は何時も居ないんだよ、アイツは」

 兎も角、そんな探偵が使っているセーフハウスは条件には一致していた。人気の少ない場所にあり、埃をかぶってはいるが情報端末も置かれている場所。

 一度だけお邪魔した事があり、それ以来は訪れた事がないので、未だにあるとは思ってもみなかった。

 『良い回線を使ってますね。しかも、端末も中々の品物。これ、貰っていっちゃ駄目ですかね?』

 「アイツを敵に回したかったら、勝手にしろ」

 『う~ん……流石に『百顔の無貌』を敵にはしたくないですね。仕方ない、諦めます』

 「そもそも人の物を勝手に拝借しようとするのが、間違いなんですよ」

 『でも、これは―――』

 閑話休題

 「―――このデータについてどう思う?」

 『どうみても、医療機関への棚卸データですよね』

 端末に残されていたデータは、ナオビの各医療施設への機材や薬剤といった医療関係の物品が納品された時の記録データ。

 『フォトン結晶の次は医療品に手を出そうとしたとか?』

 「可能性はありますが、だとしたらアークスのメディカルセンターのデータのはずです。これは市街地区にある医療機関のデータですから、ショップ店員が手を出すのは難しいと思います」

 「医療機関が扱っている医療品の情報とはいえ、これが金になるとは思えんな……いや、そうでもないか。こういう情報にも価値をつけて、売買している連中もいるくらいだ」

 幾つかあるデータの中身も、全てが同じ。日付もバラバラで納品される医療品も違う。

アークスシップにある医療機関の数はそれほど多くはなく、市街地区でも片手で数えられる程度。他の地区では1つか2つと数は少ない。

 各地区にある医療機関は一般市民の利用が殆どで、アークスが使用する事は殆どない。アークスは臨戦地区にあるメディカルセンターを使用するからだ。

 「データ自体の数は少ないが、各項目がかなり多いな……アンジュ、人形庭園でデータを解析する事は可能か?」

 『隠されたデータがあるかもしれませんからね。解析には少し時間が必要なので、しばしご歓談を』

 「している暇はない……が、どうしたものか」

 ジェリコが隠した情報端末があれば、全てが巧く進むとは思っていないが、あまりにも使用方法がわからない情報だった。

 「やはり、クレアが持ち出した鞄の中身が気になるな」

 「もしかしたら、その中身と端末に残された情報の2つが揃って、初めて意味があるモノに変わるとか……」

 「その可能性も高い……アンジュ、アークス情報部へのハッキングとか出来ないのか?」

 『無茶を言わないでください。確かに人形庭園の電子空間は優れていますが、使う側が優れていない限り、ファイヤーウォールの壁が厚い情報部へのハッキングは無理です』

 幾らキャスト型のサポートパートナーとはいえ、あくまで普通よりも処理能力が高いという程度でしかない。

 「クレアの仕事仲間から、何か情報を得られないでしょか」

 「既に聞き込みはしているが、駄目だった。念の為に情報屋も雇ってはみたが、結果は空振りだ。クレアが属しているグループを当たってみたが、これも外れ。鞄を持ち出したのは、クレアの突発的な行為だったんだろうな」

 自分達の持っている情報を全て出してはみたが、結果は芳しくない。

 ジェリコの殺害現場、クレアの部屋で起きた事件、スパルタンとイプシロンという異物、情報部が殺された4つの事件、ジョンドゥの企み、そしてマザーシップへのハッキング。最後の情報はクルーズとアンジュにとって初耳であり、信じ難いものだった。だが、それでも真実に近づく事は出来ていない。

 「……アークスの情報部は現在どういう状況なんだ?統合軍がキャンプシップに攻撃を仕掛けた事は、どう考えても情報部に矛先が向く。幾らジョンドゥの指示とはいえ、知らぬ存ぜぬでは通せないだろう」

 『知り合いの情報屋さんからの情報では、結構しっちゃかめっちゃかみたいですよ。新しい組織作りの中で起きた今回の事案は、完全に寝耳に水だったようで。総司令も事態収拾に追われている模様です』

 「そんな状態を引き起こした奴を、情報部の頭に置こうとなんて奴が居るのか?最悪、ジョンドゥを担ぎ上げようとした連中も見限るんじゃ……」

 『ところがどっこい、そうなってはいません。これを好機とばかりにジョンドゥの御輿を担ごうとしている連中の動きが、激しくなっています。恐らくですが、予定外の状況でも、これに似た状況を引き起こす準備があったのだと思います』

 それだけ入念に準備しているという事だろう。

 ならば、ジェリコが残したモノが何か判明したとして、この状況をひっくり返す事が可能なのか疑問を抱いてしまう。

 欠片の様な情報ばかりが集まり、まるでジグソーパズルを解いている気分になっている。完成した絵を見る為のパーツが散らばっているのに、そこパーツを巧くはめ込むが出来ていない。

 完全に煮詰まっている状況。

 それをどう打開しているか、

 「―――あの、ちょっといいですか」

 始末屋がおもむろに口を開く。

 「なんだか、情報があまりにも多すぎる気がするんです」

 「何を今更。今回の事件が大きすぎれば、それだけ得る情報も多くなる。それが全て必要な情報であることは―――」

 「いえ、そうではなく」

 クルーズの言葉を遮り、始末屋は言う。

 「多すぎる情報全てを精査して、解析するのは当然ですが、多すぎるが故に何かを見落としている気がするんです」

 その言葉に、クルーズもしばし考え、頷いた。

 ジェリコが殺されてから、此処まで色々な事が起きている。いや、起き過ぎていると言っても良い。ジェリコの殺害現場の防犯カメラに映ったクレアの姿。そこからクレアの部屋を訪ねた時にイプシロンという怪人が現れ、スパルタンという男まで現れた。そこから捜査を開始しようとした矢先にジョンドゥが介入し、捜査を打ち切られた。その対策としてヴァンと始末屋が独自にアークスの情報部が殺された事件を調べ、マザーシップのハッキングという事件が浮かび上がり、ヴァンが統合軍に拘束され、そこでジョンドゥがやろうとしている事が発覚。そして今は、ジェリコの隠していた使い所のわからないデータを解析しようとしている―――あまりにも事が起こり過ぎている。

 「確かに現状では、人手が足りない状況です。全ての事柄を1つずつ解決しているだけの時間もないかもしれません」

 「そうだな。だから全ての情報を片手間でやろうとしている」

 『しょうがない状況と言えば、そうでしょうが……これはちょっと拙いですよねぇ』

 頭を抱える状況だ。

 情報部の眼がある以上、それを無視して大規模な捜査など出来ない。だから、こうして単独で動いているような状況になっている。

 だからこそ、何かを見落とす。

 見落としている事にすら気づかず、時間を無駄に使っている。

 「アンジュ、今ある情報全てを表示できるか?」

 『可能ですが、多くて頭が変になりますよ?』

 「だろうな。だが、一度パズルのピースがどれだけあるか見る事で、何かがわかるかもしれないだろ」

 『わかりました。展開します』

 目の前に無数の情報が次々と表示されていく。その数は多く、それを見るだけでは混乱するのは必然だった。

 「こうして見ると、とても3人だけでは不可能な量ですね」

 まったくだと思いながら、クルーズは1つ1つじっくり見るのではなく、流し見するように見ていく。

 情報の海に身を投げ、疑問を感じるのではく、違和感を探し出す。

 膨大な量を前に思考がパンクしても構わない。知識ではなく経験、そして勘でそれを見つけるというのも、1つの手段だ。

 そうして見ている時、始末屋がある画像に気づく。

 「アンジュ、この画像は」

 『ジェリコの殺害現場にあった防犯カメラですよ。クレアが部屋に入り、出ていくまでの映像が記録されています』

 クレアが部屋に入り、出てくるまでの映像を始末屋はじっと見つめ、クレアが出てきた時に、

 「止めてください」

 映像が止まる。

 「この部分、クレアが持っている鞄の部分を大きく出来ますか?」

 映像がズームされ、クレアの手元が映し出される。解像度を上げてはっきりとわかるようにはなったが、

 「この映像がどうかしたのか?俺も何度か見直したが、鞄を持っているという部分以外に妙な所はなかったぞ」

 「えぇ、それはそうなんですが……アンジュ、貴女のメモリーには、貴女が見た映像を記録する機能はありますか?あるのであれば、私と会った時の映像を再生してください」

 『あるにはありますが……少々お待ちを』

 人形庭園に移したメモリーデータをダウンロードする。

 映し出された映像は、アンジュが部屋に突入し、始末屋に攻撃を仕掛ける映像から始まる。

 「こうして見ると、生身でアークスとやり合うアイツは何なんだろうな?」

 「それは同感です」

 『伊達に死線を経験しているわけじゃありませんので』

 画面が流れ、ヴァンが始末屋を拘束して尋問している辺りの映像になり、

 「―――止めてください」

 映像が止まり、

 「画像を少し戻して、まだです、もう少し……そこです」

 指定された映像が映し出され、始末屋はその映像の隣に防犯カメラの映像を持ってくる。

 「やっぱり……」

 「何がやっぱりなんだ?」

 クルーズも2つの映像を見比べ、気づいた。

 「―――おい、違うぞ」

 「はい、違います」

 『おやおや、これは私とマスターと失態ですね』

 片方は防犯カメラの映像、もう片方はアンジュのメモリーに残された映像。その2つに映し出されたのは鞄の映像だけだった。だが、その映像こそが問題だった。

 解像度の違いもあるが、そこに映し出された映像にある鞄は、

 「その鞄を一番近くで見たのは、多分私だけです。防犯カメラの映像と、アンジュのメモリーの映像に写っている鞄は、形は似ていますが別物です」

 『参りましたね。これは言い訳が出来ない失敗です……これ、私も悪いですか?』

 「責任がどちらかにあるかは置いておくとして……これは」

 これが見落としていた物。

 いや、違う。

 これも見落としていた物だ。

 パズルのピースが無数にある。無数のピースから形の合うピースを探している内に、既にある程度の形となっているピースを見落としていた。

 「……どうしてジェリコは殺されたんだ?」

 多くの情報が流れ込む中で、一番最初に考えるべき事があった。

この事件で殺された者の中で、理由が未だにわからない者がジェリコだった。情報部はマザーシップのハッキング事件を追い、殺された。クレアはジェリコの部屋から持ち出した鞄が原因で殺された。この2つは状況証拠から原因に行きつく事は出来る。

しかし、ジェリコだけは違う。

 ジェリコだけが、どうして殺されたのかを判明していない。

 「アンジュ、ジェリコの経歴を洗えるか?恐らく、その中にジェリコがどういう風に事件に関わっているか判明する手がかりがあるはずだ」

 『私では難しいですが、情報屋さんに頼めば出来ると思われます。しかし、他の件に関してはどうします?』

 「可能な限りは同時進行だが、ジェリコを重点的に調べる。始末屋、俺とお前で本物の鞄を追う」

 「伝手はあるんですか?」

 「正攻法でやらなければ、手段は色々とある。アンジュ、可能ならそっちにいる同類の連中にも協力を仰げ。裏でこっそり動ける数は、こっちよりもそっちの方が多いはずだ」

 『了解です。マイルームで待機している暇な連中が沢山いるので、手伝ってくれる手は沢山ありますよ』

 埃が積もった部屋にこれ以上は長居する必要がない。

 やはり、部屋に籠っているよりは外で動く方が健康的だろう。

 

 

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