PHANTASY STAR ONLINE2~星霜ヲ蝕ス三重奏~ 作:無銘数打
多少のロスはあったが、何とか昼前には目的地に到着するが出来た。
「弟君、この味付けはちょっと濃いな」
「そうですか?俺にはちょうどいい感じなんですけど……」
おじさんには厳しいんだよ、この味付けは。
「注文を付けるようで悪いが、少し塩気が多いな。これ、塩分量を間違ってないか?」
「家では昔からこんな味付けですよ」
「……文句があるなら食べなきゃ良いでしょう」
おっと、コイツは失礼。料理人の前で直接クレームを入れるのは御法度だわな。
腹ごしらえはこの辺にしておくとして、
「それで、こんな辺鄙な場所に何を探しに来たんだ?」
「は?何も知らないのについてきたの?」
ユクリータは呆れ顔で俺を見る。
「大した怪我もしてないのに、無駄飯を喰うのなら叩き出すってさ。まったく、あの爺さんは昔から人使いが荒い。人を使う位なら詳しい内容くらい話せっての」
「詳しい内容も聞いてないのに、協力するヴァンさんも大概だと思いますけどね」
言わんとする事はわかるが、これでも恩を忘れる程、人を辞めてない。
「以前から199部隊が抱えている任務の1つ、私達はその手伝い」
「あまり人手が割けないから、俺達がこうして代わりにやっているってわけです」
「そいつは上々。一宿一飯の恩は大事にしないとな」
とは言ってはみたが、こんな辺鄙な場所に何があるというのか。
採掘場跡地でもなければ、周囲にダーカーの巣があるわけでもない。
あるのは草木も生えない不毛な荒地だけ。
「アンタも知ってるでしょう。1ヵ月前にダーカーに襲撃されたアークスシップの事は」
「そりゃまぁ、知ってはいるな」
「当然よね、アンタが居たアークスシップだものね」
「……なんだ、知ってたのか」
こいつは人が悪い。十三の事だから、この2人には俺の事情を話していないとばかり思っていたが、
「ユク姉、どういう事だ?」
知っているのはお姉さんだけか。
「その男は、統合軍とアークス情報部が追ってるお尋ね者よ。何をしたのかは知らないけど、身の丈に合わない罪を持ってるみたいね」
人聞きの悪い事を言わんでくれ、弟君が驚いてるぞ。
「お尋ね者って……」
「別に悪い事をしたわけじゃない。色々と誤解があって、色々と厄介事を抱えただけだ」
そんな状態である俺を、それを承知で匿ってくれている十三には今後も頭が上がりそうにないな。
「それで、ユクちゃんはそんな俺をどうする気だ?」
「どうにかするなら、とっくにしてるわ。私達に害を及ぼすなら、それ相応の処置を取るだけ」
「お優しい事で。まぁ、あれだ。お前等に迷惑をかける気はないから、心配するな。これでも大人なもんでね……この言い分を信じるかどうかは、そっち次第だけどな」
此処で信用できないと言われるとショックは受けるけど。
「私はどっちでも構わないわ。それに十三には世話になってる。アンタを信用するかどうかは別として、彼がアンタを信用している以上は何も言わないわ……アフィン、アンタはどうする?」
「俺は……俺は信用する。ヴァンさんが悪人には見えないし、ユク姉の言うように十三さんを信用してるから」
「そうか……色々と助かるよ、2人とも」
今後は若い連中に迷惑をかけるような事をしない生き方をすると心に決めよう。明日には忘れてしまいそうな決意だが、個人に対しての想いはそう簡単には忘れないさ。
「話を戻すが、この場所がナオビのダーカー襲撃と何か関係あるのか?」
「その事件の事、どの程度知ってる?」
「資料で見る程度だな。あんまり詳しい事までは知らないが……そうか、確か襲撃したダーカーの中には侵食核をつけた機甲種が居たんだったな」
連中は何処からも現れる。
オラクル船団の周辺に突然転移してくる事もあれば、過去には移送船を乗っ取って襲撃してきたという事例もある。
今回の襲撃は、その過去事例にもある方法だったらしい。
「その船はリリーパで採掘された資源を運ぶ輸送船ってわけ。でも、その輸送船には奇妙な点があった」
「奇妙な点?」
「記録になかったんですよ。リリーパから出発した記録も無ければ、降り立った記録もない。アークスの船って事は確認できたんですけど、老朽化の為に廃棄されている船らしくて、それはおかしいって話になったんですよ」
つまり、本来ならば存在しない輸送船という事か。
「資源を無断で拝借している連中って線は?」
「勿論あるわ。だからこうして調べてるってわけ。もしかしたら、リリーパで犯罪を犯している連中が居るかもしれないから、探そうってわけよ」
そんな案件を優先度低いって言うなよ、十三。いや、確かに本来の任務は発掘基地の防衛だが、そっちも重要だろうが。
「でも、今の所は全然当たりが無いんですよね」
困った様にアフィンは周囲を見回す。
確かにこの星全てが捜索対象となれば、探すのは苦労するだろう。アークスが把握しているのは、あくまでリリーパの一部。それ以外は未だに未開の地に等しい。
「そろそろ捜索を切り上げようかって話にもなってて。だから、実質今回が最後の捜索任務ってわけなんですよ」
当然だろうな。
確かに確認する必要のある事ではあるが、人員を割くには規模が大きすぎる。
「十三さん的には、自分達の持ち場の近くで見つからなければ、諦めるつもりみたいなんですけど……どう思います?」
「十三がそう言うなら、それで問題ないだろ。お前さん達は元々199部隊のアークスじゃないんだ。そこまであの爺さんも無理強いはしないよ」
上から何を言われても、あの爺さんなら何とかするだろうしな。
周囲を見回すが、同じような光景しかない所で奇妙な場所を見つけろってのは、無理な話。最後の捜索場所としては、実りのなさそうな場所だ。
3人がバラバラになりながら捜索しては見るが、時間は無駄に経過していく。あまりにも味気ない光景だからか、自然と口に煙草が運ばれる。傍から見ればサボっている様に見えるからもしれないが、休憩を入れるのも必要な事だ。
そうして煙草を吸っていると、風が頬を薙ぐ。
不思議な事に、横からではなく、真下から。
口元から煙草を離し、煙をじっと見つける。
自然にして不規則な煙が上昇するが、突如として不自然に規則的な形に変わる。
その場にしゃがみ込み、煙草を地面に近づけると、真下から吹き上げる不自然な風が漏れる場所があった。砂に隠れてはいるが、払ってみればあるのは鉄製の板。
「やっぱり、日頃の行いが良いんだろうな、俺は」
周囲の砂を蹴って払い続けると、現れたのは荒野にあるはずのない取っ手のついた板。それを開けた瞬間、真下から強い風が吹き上がる。
■■■
荒野の地下に隠された空間は、恐らく昔からあった地下坑道を改造したものだろう。
今まで見た事がある地下坑道と違い、真新しい箇所が幾つか見つける事が出来た。更に電源が生きていたのは幸いで、真っ暗闇の中を進むという危険を冒さずに済んだのも、何者かが最近まで使っていたという形跡になる。
「こんなのが作られてた事にも気づかなかったの?」
「いや、確かに最近になって手が入っている個所はあるが、大部分は昔からある坑道だろ。それを少し改造しただけだろうから、意外と気づかないもんさ」
微かだが奥から何かの稼働音が聞こえてくるのは、此処が未だに生きている証拠。念の為に警戒はしておくべきだろう。
「アンタ、そんな豆鉄砲で戦う気?」
愛用している銃を豆鉄砲扱いするのは、感心せんが事実でもある。
「いざとなったら、現役のアークス様が何とかするさ」
「……別に良いけど、邪魔だけはしないでよね」
「了解、了解」
まぁ、何も起きない事が一番良いんだけどな。
そんな俺の願いを叶えてくれたのか、あっさりと俺達は坑道の奥へと到達した。
「これ、何かの工場なのかな?」
「見た限りはそうだろうな」
奥にあった広い空間は、アフィンの言うように工場の様だった。
作業用ロボットらしき物が見えるのは、此処で何かを作っていたという事なのだが、機材が乗せられたレールを見ても、パーツがバラバラでわからない。電源は生きていても、ラインが稼働していなければ、肝心の何を作っていたのか、分かりようがない。
周囲を見渡しても、完成品はない。あるのはガラクタとなった部品ばかり。
「こんな場所で何を作る必要があるの?」
此処でしか作れない物があると言うよりは、単純に此処で作る方が色々と楽だったのだろう。現に作業用のロボットはリリーパで見た事のないタイプなので、これらはきっと外部の者が持ち込んだ物と推測できる。
だが、此処で作る方が楽な物とは何かと聞かれると、それはそれで困る。困るのだが、その答えは意外とすぐに見つかった。
動かない作業用ロボットが並び、その1つ1つを見ていると、不意に姿を現した見覚えのある機械の姿を見た瞬間、その場から飛び退いた。
この惑星で嫌という程に交戦した事のある、スパルダンAという四足歩行の機甲種。
すぐさま銃を抜き、相手に向けるが……動く様子はない。よく見れば、起動中は青く光っている中央の青いコア、それが光を失っている。ゆっくりと近づき、小突いてみたが反応なし。どうやら、完全に機能を停止している模様。
「驚かせるなよ、ポンコツめ」
安堵の息を漏らし、こんな格好悪い姿は見せられんなと思った矢先、
「何をやってるのよ」
何時の間にか背後にユクリータが呆れ顔で立っていた。
「……この位は勘弁しろよ」
「別に悪いとは言ってないでしょう……こんな所にもソイツがいるって事は、他にもいるかもしれないわね」
もしかしたら、何体かは未だに稼働している可能性はあるが、目の前のスパルダンAは確実に機能を停止している。
「でも、おかしいわね。なんでコイツはこんな所にいるの?」
俺の知る限り、機甲種は自分達以外の生物を敵と認識している。出会えば確実に戦闘になり、どんな相手だろうと襲い掛かってくる融通の利かない連中だ。だが、それ故に何者かの手が入ったこの場所にコイツがいるのは、奇妙だった。
この工場が稼働している時に、コイツが侵入して来たと推測する場合、コイツはこの場にいた奴と戦闘になっているだろう。だが、コイツを見る限りは戦闘の形跡もない。無抵抗の相手を殺害したという可能性もあるだろうが、胴体を見てもそれらしい個所は見当たらない。ならば、誰も居なくなった後にコイツがこの場に現れたのか、という推測も出来るが、その場合はどうしてコイツが動いていないのか疑問が残る。
動かない鉄の塊になったスパルダンAをじっと見つめていると、ある事に気づいた。
「なぁ、何かおかしくないか、コイツ」
「おかしい?」
ユクリータと一緒に動かないスパルダンAを観察する。俺が奇妙だと思った場所は、コイツの形だ。何度も交戦経験がある故、コイツの形は把握している。その記憶と目の前にあるコイツは若干だが形が違う。
「足を見てみろ。これ、シグノガンの足についてるブースターだ」
そもそもコイツは歩行タイプの機械で、移動は動物と同じで四足歩行。シグノガンは二足歩行だが移動にはブースターを使っている。基本的に殆どの機甲種は同じ様に作られる為、ヴァージョンアップもマイナーチェンジもされている事はない。
過去の何者かによって作られたので、未だに新種のタイプが発見でもされない限り、基本的に同じだ。
「これが新種……って事はないわね」
「どう見ても改造されてるからな」
足の部分を更によく観察すると、この砂塵の惑星においては不向きなローラーがついている。ある程度の大きさ、車両のタイヤ程の大きさがあれば荒野だろうが砂漠だろうが移動は可能だが、この大きさでは逆に足を取られ、移動が困難となる。
あまりにも非効率だ。
それがこの星の生物として、あまりにも不自然だった。
「まるでリリーパ以外で使われる事を前提とした改造だな」
「……他のも見てみましょう」
工場内を隈なく探すと、同じように改造された機甲種がゴロゴロ発見された。スパルダンAだけでなく、スパルガン、シグノガンも同じように改造されていた。
「ユク姉、ヴァンさん、このガーディンなんだけど」
アフィンが抱えた偵察型の機甲種、ガーディン。
「この武装なんだけど、ガーディナンが持ってるレーザーじゃないかな。俺が知る限りじゃ、コイツがこんなゴツイ武装をしてた事なんてなかったけど」
元々の武装の銃器とレーザーが一緒になっているガーディンなんて、俺も見た事がない。
「なるほど、つまりこういう工場ってわけか」
こいつは、中々に厄介な場所らしい。
機甲種を改造、もしくは新しく製造する工場。周囲にある作業ロボットのレーンを見る限り、機甲種を1度分解して、新しく作り直しているとみて間違いないだろう。となれば、コイツは立派な武器工場ってわけだ。
「何の目的でこんなのやってるんだろ?」
「そんなの簡単じゃない。兵器を作る理由はなんて、争い事以外にないでしょう?大方、ここで作られた機甲種を商品として売りさばいている連中がいるのよ」
それが一番妥当な線だ。
妥当な線ではあるのだが、
「アフィン、ユクリータ。今までお前達はリリーパで、コイツ等と遭遇した事はあるか?元々の奴じゃなく、この改造された連中だ」
「えっと……あったっけ?」
「私の記憶が間違ってなければ、こんな連中とやり合った事はないはずよ」
仮に壊世区域の機甲種ならば、こんな改造された様な連中が居るかもしれないが、此処ではそれはないだろう。そもそも、壊世区域の機甲種が外に出る事など、殆どないのだ。
「それじゃ、機甲種がリリーパ以外で発見された事はあるか?」
2人は無言になる。
「アークスが認識している宙域エリアでは、この改造機甲種は使われてない。もしも使われていたとしたら、早々に此処に調査の手が入るはずだ。だが、現状ではそれがないって事は、コイツは未だに使われていないって事だろ」
「まだ使われてないだけで、裏で確保してるって事は?」
「勿論、それは十分にあり得る。その場合、コイツを作った奴も、買った奴も、コイツを必要とする何かをしようと企んでるってわけなんだが……」
今ではなく、未来。
今日ではなく、明日。
最早、機甲種などではない兵器が何処かに保管されている。
何時か、それを使って何かを起す為に。
「なんか、任務外の面倒事を見つけちゃったのかぁ、俺達」
「むしろ、こっちの方が大事よ。すぐに戻って十三に報告するわよ」
それが最善だろう。だが、出来ればもう少しお土産が欲しい所だ。
「帰る前に統制ルームに寄ってくぞ。さっき、それっぽい所を見つけた」
もしかしたら、コイツ等に関するデータが残されているかもしれない。
此処の電源が生きている為、統制ルームも当然生きている。端末を操作してみると、意外にも何のセキュリティも働いてなく、すんなり中のデータを見る事が出来た。
案の定、そこには各機甲種のデータがあり、その機甲種を改造する様々なプランがあった。多くはプランだけで実際に製造される事はなかったようだが、採用され、この工場で作られたタイプはたった1つ。
「市街地戦闘、ね」
「アークスシップでも襲う気なのかしら、これを作った奴は」
「かもしれんな。市街地での戦闘を目的としていないなら、特に手を加える必要がなかったんだろうが、市街地なら市街地で戦う為に必要な改造をする事で、戦況を有利に進める事が出来る。制圧戦とかな」
どっちにしろ碌なもんじゃない。
「それにしても、こんな重要な物を残すなんて、脇の甘い連中だな。まるで此処を探して自分達を見つけろって言ってるようなもんだ」
「挑発でもしてるんじゃない?だったら、それ相応のお仕置きをしてやるだけよ」
そいつは怖いねぇ、ユクちゃん。
可哀そうな連中に同情はしないが、報いってのはあるもんだ。
さて、無駄話も良いが、さっさとデータをコピーして帰るとするか。
そう思って端末を操作していると、
「……なぁ、ちょっと寄り道してもいいか?」
「それ、今じゃないといけないの?さっさと報告しに戻って、それからでも―――」
「いや、それじゃ駄目だ」
何かが手を伸ばしている感覚だった。
その手は闇の底から、自分達を手招きしている。
先程、俺自身が言ったように、此処を探せ、自分達を見つけろと、囁いている。
「お仕事を途中で放り出すのは、良くないよな」
■■■
地下坑道を抜けた先、偶然にも此処に来る前にユクリータが道を間違えた時にあった、巨大な亀裂の中。あの時、上からは見えなかったが、亀裂の中は意外に広く、船一隻くらいなら簡単に入る程の大きさだった。
現に俺達の目の前には、輸送船の残骸が残されていた。
破壊された外壁から見るに、元々あった古い船の残骸ではない。最近まで使われていたであろう船だ。その船は船体に付けられた傷痕から察するに、此処に停泊中に攻撃を受けたと推測できる。
傷痕から、恐らくは機甲種だろう。その際に起きた戦闘は激しかったのか、船体の周辺には破壊された機甲種があちらこちらに転がっている。
その機甲種が動かない事、周囲に他の機甲種が潜んでいない事を確認にして、俺達は輸送船の中に足を踏み入れる。
それほど大きな船ではないが、俺とユクリータは操縦席へ向かい、アフィンは貨物室を捜索する事になった。
意外な事に入ってみれば綺麗なものだった。
あれだけの戦闘があったのだから、当然死体が転がっていると思ったが、不思議な事に死体が1つとして残されていない。腐り果てたとか、野獣に食われたというわけではなく、まるで最初から誰も乗っていないかのような形跡に首を傾げる。
「先に死体を処理していったのもしれないわね……」
死体のあった形跡すらないので、それも考えられるが、
「俺なら、死体の処理よりもあの工場をどうにかするがな」
「……そうね、確かにそっちの方が優先されるはず」
あの工場は停止されただけで、破壊はされていない。その上、改造機甲種のデータまで綺麗に残っている状態だ。
おざなりにも程がある。
「もしくは……いや、あり得ないか」
「何よ、言いなさいよ、気になるじゃない」
「……最初から、生きている奴なんて1人もいなかったって可能性さ」
あの工場には、人はいない。この船にも人はいない。綺麗さっぱり消えたと考えるのは普通だが、それと同じように最初から誰もいなかったという可能性もある。
「全自動……そんな事が出来るの?」
「どうだろうな……確かに全てを全自動にする事は出来る。だが、それでも人の手が入る場所というのは必ずある。動作チェックとか、そういうのだ。このご時世になっても、人の手が要らない場所というのは理屈だけの話だ。どう足掻いても人は必要になる」
必ず、とは言えないが、これは事実でもある。
「それじゃ、やっぱり此処には誰かが居たって事じゃない」
「そうだな……」
それでも何かが引っかかる。
もやもやしたモノを抱えながら、俺達は船体の奥へと進むと、目的の操縦室があった。
操縦室の端末を操作すると、幸運な事に生きている。
「随分と古い機体だな。製造日は今から10年以上前だ」
「新品の輸送機なんて、簡単には手に入らないからじゃないの?だったら、中古を買った方がお手頃なのよ、きっと」
「それもそうだな……そうだが、どうも中身は結構弄ってるな。このOS、最新型だ。これなら地形データを入力しておけば、パイロットが居なくても飛ばす事が出来るぞ」
入力されているデータから分かったのは、この巨大な亀裂の空間、その先を5キロ程進むと開ける場所があり、そこから飛び立つ予定だったらしい。ご丁寧にも輸送機の出発時刻まで乗っている。
「予定では、2ヵ月前にはお空に飛び出すつもりだったみたいだな」
残念な事にその2ヵ月を迎える事なく、此処はただの墓標になったようだが。
「だったら、送り先が残ってるはずよ。何処のどいつがこんな事をしたのか知らないけど、これで御用よ」
「送り先、送り先……送り先がないな」
指定されたのは、宙域の座標だけ。リリーパから大分離れてはいるが、結構な距離を無人で飛行していたのかもしれない。
「その宙域で荷物の受け渡しがされていたって事ね」
「だろうな。用意周到な事だ。その周到さを此処の工場にも使って欲しいもんだ―――ん、ちょっと待て」
指定された座標はあるのは当然だ。だが、指定された座標から戻ってくるルートが登録されていない。むしろ、この輸送船は指定された座標から次の座標に移動するように指定されている。
「どういう事?最初の座標が受け渡し場所じゃなくて、休憩場所だっての?」
「休憩にしては長いな。指定された航路では、この輸送船は目的地についてから1ヵ月近くその場から移動しないようにされてる」
「それじゃ、その後の座標は何処よ」
「……これも何もない座標だな」
どうもわからない。
この輸送機は、何処に向かうつもりだったのか。
しかも、記録を見れば同じように航路を設定された輸送機が何機かあるようだ。ご丁寧にそっちのデータも残されている。
此処で作られた改造機甲種を輸送船に乗せ、最初の座標に送り込む。そこでしばらく待機して次の座標へ。その設定がされた輸送機が複数あり、全部が同じ座標へ。
何かが、引っかかる。
何かを、俺は知っている。
輸送機の数、航路、座標。
それを思い出そうと頭を働かせる―――その時、鼓膜を震わせる銃声。
「―――アフィンか」
「でしょうね」
同時に操縦室を飛び出す。
アサルトライフルの銃声、連射する音がしばらく続く。俺達が音のする場所まで移動する間、ずっと鳴り続け、音の発生源である貨物室へ飛び込んだ時には、音は止んだ。
「―――随分と派手にやったものね、アフィン」
貨物室のあちらこちらに弾痕が刻まれ、その殆どは壁やら機甲種やらに撃ち込まれている。しかし、問題なのはそこではなく、俺からすれば久方ぶりに目にした我らが怨敵の姿がそこにはあった。
惑星リリーパでよく見る虫の形をした黒い存在。
宇宙の敵であり、アークスの敵、生命の敵。
ダーカー。
アフィンに撃ち込まれた弾丸は、ダーカーの体を食い散らかし、既に行動不能となっており、その体から黒いフォトンが漏れ出している。この黒いフォトンが死んでも尚、生命に害を及ぼすのだから、厄介なものだ。
こんな場所にも奴等が居たのかと驚く事はしない。むしろ、リリーパに来て奴等を見なかった方が珍しいのだ。
「弟君、怪我はないか?」
「大丈夫です。でも、他にもいるかもしれないから、気を付けてください」
だろうな。だが、俺の今の装備で奴等を相手にするのは些か面倒だ。ユクリータが言うようにこんな豆鉄砲で相手をするには荷が重い。これを使う位なら、素手ぶん殴った方がなんぼかマシだな。
貨物室を見回し、残党がいないかを確認するが、どうやらアフィンが倒した奴等が全部らしい。他にそれらしいモノはいないようだが、
「なぁ、弟君。これは何だ?」
気になる物が置かれていた。
貨物室の床に設置された機械。どうも見た覚えのある機械なのだが、何だったか。
「それ、バリア装置ですよ」
「バリア装置?なんでそんな物が此処にあるんだよ」
「わかりませんけど、俺が倒したダーカーは、その中に入ってたんです」
入っていた?
バリア装置の中にダーカーが?
「迷い込んだら、ネズミ捕りに引っかかっただけってわけじゃないようね」
同感だ。
周囲を見回しても、バリア装置が置かれているのは、この場所だけ。それもど真ん中に堂々と置かれている。奴等に本能があってもこれが罠だと理解する知恵があるとは思わない。採掘基地を襲う際は集団で襲ってくるが、あれは司令塔となるダーカーがいるから出来る事であり、単体ではそんな知能はないはず。
「それじゃ、コイツは最初からこの中に居たって事なのかな……」
「それこそあり得ないわよ。どんな理由があって、ダーカーを最初から輸送船に乗せる必要があるってのよ。魔除けじゃあるまいし」
魔除けならもっとマシな物を乗せるだろうな。仮にこれを最初から乗せて出発する気なら、危険な爆弾を積んでいるようなものだ。
ダーカーはその場に存在するだけで危険な爆弾となる。しかも、爆弾を量産する機能付きだ。
奴等の発する黒いフォトンは各惑星の現地生物などに影響を及ぼす。その中でも一番厄介なのは、現地生物がダーカーに侵食され、新たなダーカーになる事も珍しいものではない。この場合、黒いフォトンに冒された者には、侵食核と呼ばれる毒針が撃ち込まれている。その核がその者をダーカーへと変貌させる。
つまり、此処にこんなダーカーを置いて、このバリア装置が壊れるという最悪な事態が起こった場合、この起動していない改造機甲種の全てに侵食核が撃ち込まれ、全部がダーカーになってしまう、なんて笑えない状況になってしまう。
そんな笑えない状況になったら、
そんな笑えない状況になっていたら、
そんな笑えない状況を目的としていたら、
「ねぇ、ヴァン。私、凄い馬鹿な事を考えたんだけど」
偶然だな、ユクちゃん。
俺も同じ様なジョークが頭に浮かんだところだった。