PHANTASY STAR ONLINE2~星霜ヲ蝕ス三重奏~   作:無銘数打

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Episode30『星霜ヲ蝕ス三重奏⑨直毘混沌』

 臨戦地区のカフェエリアは、早朝という時間のせいか人は少ない。

 カフェの従業員を抜かせば、客は僅か2人。

 その内の1人であるモニカは、夜間勤務をトラブルなく終わらせ、日中勤務の店員への引継ぎもあっさりと終わり、後は自分の部屋に戻るだけとなったのだが、その前に朝食を取る事にした。トーストとサラダ、軽めの朝食兼夕食となったものを胃袋に収め、最後はカフェモカから昇る湯気を見つめながら、静かな時間を満喫する。

 しばらくすればカフェも人が賑わう為、この僅かな時間に訪れる静寂が心地良かった。

 カフェインを取ってはいるが、眠気は僅かだがある。瞼が少しだけ重くなり、部屋帰ってしまえばすぐに寝てしまいそうだった。明日は久しぶりの休日。のんびりと過ごすのも良いが、何処かに出かけるのもいいだろう。

 色々なアイディアを頭の中で思い浮かべていると、

 「すまない、お嬢さん」

 突然、声を掛けられ、一気に目が冴えた。

 気づけば、モニカが座る席の前に男が立っていた。

 もう1人の客は背が高く、体格も良いが顔色が悪い。髪も灰色に近い白で、顔も白い。一瞬、病人かと思ったが、そうでもない。

 何処か透明であり、存在感が薄い男だった。

 「ゲートエリアに向かいのだが、どの転送装置を使えばいいのかわからなくてね」

 「―――あ、ゲートエリアですね。それなら、どの転送装置を使っても行けますよ。中に入って、目的地を選択すればすぐです」

 臨戦地区に設置されている転送装置は、街中に設置されている物とは少しだけ違う。

街中に設置されている装置は、一度に使用する人数も多い為、基本的に1カ所にしかいけない。その代わり、複数の行き先に行けるように並べて設置されている。

 対して臨戦地区の転送装置は、1つの装置から複数の場所に飛ぶ事が出来る。勿論、それ1つが置かれているわけではなく、複数の転送装置がそれと同機能を持っている。どの装置を使っても問題ないのだが、緊急時の際に優先的に使用される装置もある。

 初めて訪れた者にとって見れば、使用するのに迷うのも納得できる。

 「そうだったのか。なにぶん此処は初見でな……」

 アークス関係者だとは思うが、このような男は見た事がない。外の船から来た者だろうか。

 「宜しければご案内しましょうか?」

 転送先を間違えた場合、まったく関係ない場所に移動してしまう。現にモニカも同じような間違いをした事がある。

 「いや、食事を邪魔しただけでなく、そこまでしてもらうのは忍びない」

 「構いませんよ」

 カップの中には、まだ残されたカフェモカが残ってはいるが仕方がない。名残惜しいが食器と一緒にカウンターの返却棚に置いた。

 モニカは男と一緒に転送装置に乗り込む。

 「ゲートエリアですよね?」

 「あぁ、よろしく頼む」

 ふと思った。

 初対面の男性が相手なのに、何故か自分は普通に話す事が出来ている。自慢ではないが、初対面の者と話すのは苦手の部類であり、アイテムラボで接客でさえ未だに慣れないのだが、どうしてかこの男とは普通に話せている。

 前に会った事がある男だったかと思ったが、記憶にない。

 それとも、この男の存在感の無さが人と話しているという意識を失くしているのかもしれない―――なんとも失礼な事を考えてしまったと反省する。

 「お仕事ですか?」

 「そんな所だ」

 転送装置が起動し、一瞬で2人はゲートエリアに辿り着いた。

 ゲートエリアはカフェとは違い、多くのアークス達がいる。出撃命令が何時あるのかわからない為、この場所で長い時間を過ごすアークスも多い。

 アイテムラボの店員であるモニカが此処を訪れる事はあまりないが、ベンチに腰掛け談笑しているアークス達の顔は見覚えがある。

 「随分とのんびりとした空気がある場所だな。てっきり、常にピリピリしている様な場所だと思っていたよ」

 「私も最初はそう思ってましたけど、何もなければ結構賑やかな場所ですよ」

 「そうか―――その程度という事か……」

 一瞬、男の声が冷たくなった様な気がした。

 「案内してくれて助かった。ありがとう、お嬢さん」

 しかし、すぐに気のせいだと思った。

 「いいえ、それじゃ、お仕事頑張ってくださいね」

 そう言って、戻ろうとするモニカだが―――けたたましく鳴り響く音に、足を止める。

 突然の音に心臓が激しく打ち鳴らされ、何が起こったのかと周囲を見回す。天井を見上げれば、本来ならば宇宙が映し出されている天窓に、緊急事態を知らせるアラートが表示されている。

 アラートに驚いたのはモニカだけではなく、ゲートエリアにいたアークス達も同様だった。突然の警報に何事かとカウンターにいるオペレーターに尋ねるが、回答は芳しくない模様。

 「な、何が起こったんでしょうか……」

 不安そうに男に尋ねるが、男はモニカの問いには答えない。

 溜息を吐くように、

 「……機械の癖に時間も守れないのか、奴は」

 全てを把握しているかのような発言だった。

 その瞬間、モニカは隣に立つ男に対して言いようのない何かを感じた。

 それが何なのか、答えを出すまで時間がかかる。

 男は漸くモニカを見据える。

 「お嬢さんはそこを動かない方が良い」

 男の赤い瞳に写る自分の顔は、脅えが浮かんでいた。

 「此処まで案内してもらった礼もある。だから、動くな」

 それだけ言うと、男は歩き出す。

 その手に、輝く巨大な白刃を握り締めながら。

 

■■■

 

 魔笛が鳴り響く。

 魔笛が奏でる。

 巨大にして小さな箱庭に、魔笛が響き渡る。

 魔笛が奏でる旋律は、音よりも生き物が囀る声に近く、その音は箱庭で空高く舞い上がり、地を這う者達に向けて一斉に降り立つ。

 音を感じ取れる者はいなかった。

 音が耳に入り、鼓膜を破り、その奥に眠っている傀儡の魔物を刺激する。

 刺激された魔物は肉眼では確認できない程に小さく、それが動き出しても誰も気づかない。そんな中で蠢く魔物達は入り込んだ者達の体の中を這いずり、一気に脳へと到達する。

 

■■■

 

 魔笛が鳴り響く。

 魔笛が奏でる。

 幸か不幸か気づいた者は僅かにいる。

 例えば、若い男が1人。

 当たり前の朝だった。当たり前の様に起きて、当たり前の様に出勤する。家族はいないが、もうすぐ家族になってくれる者はいる。その者の為に働いて、その者に相応しい男になろうと想いながら、今日という日を歩く。

 当たり前の朝だった。

 当たり前に訪れる日常だと思っていた。

 当たり前に終わる日常では、なかったはずだった。

 突然、自分の前を歩く他人が急に立ち立ち止まった事で、事態に気づいた。最初は目の前の者が1人、急に立ち止まっただけかと思った。急にこんな所で止まるなんて迷惑な奴だと思う程度だった。だが、その者を避けて前に行こうとしたときに気づく。

 立ち止まっている者は1人ではない。その者以外の人々が足を止めている。視線の先に何かあるわけでもなく、空に奇妙な物体が浮かんでいるわけでもなく、茫然としているわけでもない。

 ただ、止まっている。

 その場に居る多くの者達が人形の様に立ち止まり、ピクリとも動かない。

 まるで墓標の中に立っていると錯覚する。

 物言わぬ墓石が、生きている者達が、一緒の存在だと認識してしまった。

 そうでないなら、自分以外の世界の時間が止まったのかと錯覚する方が普通かもしれない。自分だけが世界から切り離されたのではないかと錯覚するのも当然かもしれない。

 それは男が現実を理想として切り離す為に行った行為だった。しかし、それも限界がある。所詮は理想でしかなく、理性はそれを否定する。

 恐る恐る声を掛けても反応はしない。肩を叩いても、人々の前に立っても、何一つ反応する事なく、空虚な瞳が男を射抜く。それが恐ろしく、その場で叫ぶが誰も反応しない。自分だけが周りと違う事に恐怖すら覚える。止まらない、動かない事が正しいはずなのに、異常な事こそが正常だと思考が勝手に動き出す。

 何人にも、見ず知らずの他人に声を掛け、肩をゆすっても反応しない。どれだけやっても、どんな事をしても反応しない。

 そうしている内にその場に居る事が恐ろしくなり、走り出す。何処でも良い、何処でも良いから動いている者を探さなければならない。

 自分の足が鉛を付けた様に重くなる様に感じながら、いつものように正しい走り方も忘れ、何度も転びながら、走り回る。それでも動いている者は誰もない。走って、走って、走って―――そして、路地を抜けた先に広がる光景もまた、異質なモノだった。

 世界が止まってなどいなかった。

 交通量の多い道路は、悲惨な光景が広がっている。

 車が至る所に激突し、横転している車もあれば、車同士が激しくぶつかり、炎上している物もある。車はぶつかった後もタイヤは回転し続け、真横に転がっている車はタイヤが回転して壁を削っている。

 不意に響く爆発音。

 道路を走っていたであろうトラックが横転し、炎を吹いて燃えている。

 運転席に座っていたドライバーはハンドルを握りながら、他の者達と同じ様に動かない。運転席が炎に囲まれ、その身を炎に焼かれていても表情すら変わっていない。炎が皮膚を焼き、肌色が徐々に黒く染まり、眼球が熱で溶け、破裂したとても、動かない。動かないまま、焼かれ続けていく。

 見れば道路には車だけではなく、人も転がっている。

 車に轢かれたであろう者は、それこそ糸の切れた人形の様に転がっている。手足が折れ曲がり、捻じり切れ、体から流れるガソリンにも似た血液。その者にゆっくりと車が近づき、タイヤがその者を顔に触れ、タイヤが皮膚を削り、破き、肉を潰し、千切る。骨が異音を立てて壊れ、見慣れない桃色の果実が漏れ出す。

 そんな悲惨な光景を、周りの者は誰も気にしない。その者達の体に炎が移り、その身を焼いても反応しない。

 墓標が燃える。

 燃えて、燃えて、燃えて―――そこが限界だった。

 もう耐え入れないと胃液が逆流し、吐しゃ物をまき散らす。

 死の匂いが、モノを焼く匂いが周囲に充満し、思考が異常を受け入れようとしだす。それを拒否しようとすると体の動きが鈍くなり、動く事すら辛くなる。そんな思考に支配された時、何かが地面を踏む。

 人が歩く音ではなく、金属が地面を蹴る音。

 顔を上げると見えたのは二足歩行の生物ではなく、四足歩行の怪物。

 体を機械にしたキャストではなく、機械から生み出された鋼鉄の怪物が、その者を見下ろしている。四足の中央に光る球体が、その者を観測し、その者も機械の怪物を見つめる。この状況では、その存在こそが正しいモノに思えてきた。

 救いを求める様に手を伸ばす。

 伸ばされた手に、救いを求める想いに答える様に機械の怪物も、前足を伸ばす。

 伸ばされた鋼鉄の前足は、その者の頭を叩き潰す。

 幸か不幸か。

 その者は一瞬で絶命した。

 

■■■

 

 突如と訪れた異常事態に情報地区は混乱していた。

 アークスシップ内に居る殆どの者達が突如として、置物の様に動かなくなり、その現象により多くの被害が一気に情報の濁流となって襲い掛かってきた。

 市街地区の監視カメラに映し出された光景は、街中に無防備に立ち尽くす人々の姿。案山子の様に動かない者達の中に、数人だけ動く者の姿が見受けられる。

 その現象は情報地区に居る者達も例外ではなく、先程まで当然の様に動き、話している相手が動きを止めた。僅かな例外となった残された者達は、突然の事態に混乱し、対応が追い付かない。

 情報地区はアークスシップの管制を行う最重要区画であり、アークスシップのネットワークを管理するエリアでもある。そして、その重要な場所が今、その機能を担っている者達の半数以上が動きを止める事は、必然的に機能を停止する事となる。ある程度は自動化されているとはいえ、人の手が入らなければいけない箇所はある。そして、その箇所こそが重要なモノとなる―――それが、マヒしている。

 残った者達は何とかしようと、対応を追われているが人手が足りない。その為、緊急手段として情報地区の管理を一時的にオートマチックにする事で対処しようとした。

 人の手から離れ、機械がアークスシップを動かす。

 その緊急手段が、取り返しのつかない事態を引き起こす。否、それを狙っていたからこそ、そうなるように仕向けたからこそ、それは行った。

 混乱するシステムの中に、本来ならば絶対に居てはいけない存在が紛れ込んでいた。混乱している状況で、人の手を離れる瞬間をジッと待ち、人の手を離れた瞬間に、ソレは信じられない速度で広がっていく。

 病魔が起こした感染爆発。

 イプシロンという怪人の嗤い聲が、ネットワークに響き渡る。

 難攻不落の要塞が、たった1人の怪人によって破られる。破られた防壁はすぐさま自己修復、そして敵へと対応を開始する。多くの兵が怪人に向かって襲い掛かるが、怪人はそんな雑兵など相手にならないと蹂躙する。多勢に無勢のはずが、簡単に戦況をひっくり返される。

 怪人が進む道を妨げる者はいない。妨げる事が出来る者など1人もいない。

 怪人が要塞の中心部、心臓部に辿り着くのに時間は殆ど必要なかった。

 数か月前、マザーシップに仕掛けた攻撃よりも簡単に、イプシロンは情報地区の心臓部へと到達する。

 その瞬間、アークスシップの情報網は怪人の手足となり、ナオビの全システムを掌握された。すなわち、ナオビは完全に怪人の手に堕ちた。

 そして、その事に気づいた時には、既に遅かった。画面に映し出された奇妙な画像。人の様に見えて、人ではない存在。白い影のような怪人が、画面の向こうから自分達をじっと見つめている。

 『―――さぁ、ゲームスタートだ』

 宣言する。

 宣言の意味を知らずにいる者達の周囲で、異変は加速する。先程まで案山子の様に動かなくなった者達が、一斉に行動を開始する。無表情で、不気味な操り人形の様に動き出す。人形達は、自分達とは違う、意思を持って動く者達に次々と襲い掛かり、拘束していく。抵抗しようとする者には容赦のない暴力を振るい、動きを止める。

 悲惨な光景を白い怪人は楽しそうに見ていた。

 歪んだ笑みを浮かべ、ただただ楽しそうに笑っていた。

 

 

■■■

 

 船橋にあるオペレーションルームは、大画面に映し出された通信断の文字に、一瞬なにが起きたのか理解できなかった。

 アークスシップで起きた異常事態に対処する為、ナオビに所属するアークス達に指示を送っていたが、その通信が突然遮断された。メイン回線が何らかの影響で使えないのならば、サブ回線を使用すればと思ったが、結果は同じ。こんな時にネットワークトラブルかと苛立つが、冷静な部分ではあり得ないと否定している。

 つまり、このトラブルはトラブルでも、何らかの意味を持つトラブルであり、致命的な何かが起こった事を意味する。

 そして致命的な事が起きた時点で、既に手遅れとなっている事を知る。

 通信断となっていたネットワークが突然、復旧した。

 『―――さぁ、ゲームスタートだ』

 白い怪人が宣言する。

宣言と共に突如として復旧したシステムは、オペレータ達の意思に反して次々と様々なシステムの起動、停止が行われていった。

 最初に起動したのは市街地区の防壁システムだった。

地面からゆっくりと上昇する巨大な壁。この防壁が起動したのは1ヵ月前、ダーカー襲撃以来で、メンテナンスは入っていない。しかし、不幸な事に防衛装置は正常に稼働し、街を幾つものエリアに分断していく。

 更に壁と同時に出現した自動銃座が試運転とばかりに発砲を開始する。幸い、その銃撃はその場に居た市民には当たらなかったが、起動した全て銃口は的確に監視カメラを破壊する。

 同時に各地区に設置されている転送装置が次々と停止していく。市街地区だけではなく、工業地区、臨戦地区、情報地区、そしてアークスシップの前後にある、この船橋の転送装置も起動を停止してしまった。

 すぐに機能を復旧させようとしたが、システムは言う事を聞いてはくれない。オペレータの意思を嘲笑うかのように、混乱するアークスシップを次々と分断していく。

 他のアークスシップへ連絡を取ろうとするが、当然の様に応答はない。こちらからの通信が完全に切断されたのだろう。

 だが、この何が起きているかわからない状況でも、行動は迅速だった。

 船橋では転送装置が使えないならば、自らの足で他地区への移動をするしかない。全員が移動する事は出来ないので、一部のオペレータを残して、他の者達は必要となる端末、装備を持って移動を開始する。

 まず向かうべきは情報地区。

 情報地区とも連絡が取れない以上、転送装置が使えなくとも情報地区へと移動するしかない。歩きは無理でも、常備されている車両を使えば十数分で辿り着く。

 無論、問題はある。現在、防衛装置があちらこちらで勝手に起動している。起動している防壁を解除するには、防壁の傍にある端末から直接操作するしかないが、最短距離で進むには、どうしても避けては通れない。

 更に街中で起きている異常事態。

 市民は勿論、アークス関係者にも人形の様に動かない者がいる。それによって起きた混乱が、何らかの障害となる可能性が高い。

 障害は幾つもあるが、動かなければもっと最悪な事になる。

だからこそ、動く。

 だが、彼等が予想していない事態は、外ではなく内、船橋で既に起こっていた。

 銃声が鳴り響く。

 突然の銃声にオペレータ達は身を竦める。

 何事かと見れば、本来ならば立ち入る事がない者達がそこに居た。

 装甲歩兵と呼ばれる統合軍の兵士。

 何故、彼等が完全武装でオペレーションルームに居るのか理解できなかった。

 混乱する思考の中で、僅かに残った理性で導き出した答えは2つ。

 1つ目は、この状況で自分達に手を貸してくれる為に現れたという希望的観測。

 2つ目は、視界に移る情報を1つずつ拾っていけば簡単に出てくる答え。

 彼等の銃口は何故か自分達に向けられている。こちらが何事かと尋ねて、返ってくるのは言葉ではなく銃撃。銃弾は端末に襲い掛かり、その行為だけで彼等が手を貸す味方ではなく、自分達に害をなす敵だと認識する事が出来る。

 答えは1つ目ではなく、2つ目。

 この状況化において、彼等は明確な敵である―――それが答えだった。

 

■■■

 

 市街地区では、一部の統合軍兵士達が行動を開始していた。

 不幸にも人形になれなかった者達は、彼等に救いの手を伸ばすが、統合軍の者達はその手を振り払う。

 まるで最初からこうなる事が決まっており、どのように行動するかを示し合わせていたかのように統合軍の兵士達は動く。

 隊として行進していく兵士達は、縋り付く市民を振り払い、時には暴力を持って希望を奪いながら行進する。そして、その兵士達の傍に見慣れない物体が居る事に市民達は気づく。

 四足歩行の機械。

 アークスシップから外に出る事のない一般市民からすれば、それは統合軍の所有する兵器なのかと誤解するが、アークスから見れば、それはあり得ない光景だった。

 装甲歩兵と共に更新しているのは、リリーパにのみ生息している機械の住人、機甲種。その機械達が何故か統合軍と一緒に行動しているからだ。

 兵士達は装甲車に乗り込み、機甲種は走り出す車両と並走して動き出す。

 その移動先はバラバラ。

 ある部隊は情報地区、ある部隊は臨戦地区、ある部隊は工業地区へと移動する。

 船橋へと向かっていた部隊は既に制圧を完了しており、連絡を受けた部隊の内、情報地区へと向かう部隊は途中で2台の大型トラックと合流する。大型トラックは機甲種に守られるように移動しており、途中で大型トラックは二手に分かれる。

 1台は情報地区へ。

 1台は工業地区へ。

 それぞれの目的の為、移動していた。

 

■■■

 

 ゲートエリアで引き抜いた巨大な剣は、白い閃光を放つ。

 分かり易くする為だ。

 警報が鳴り響く中で、その要因となる者が目の前に居る事を知らしめる為だ。天窓に表示されたアラート表示を切りつけ、割れた破片が地に降り注ぐ。それだけで周囲のアークス達の視線を自分に向けてやる。

 このエリアから各キャンプシップへと向けて移動するアークス達は、当然この時点で任務に向かう装備を整えている。すなわち、今すぐにでも戦闘を開始する事が出来るのだ。だが、そんな状況であるにも関わらず、敵が自分達の傍に居るにも関わらず、茫然とする事は愚の骨頂。

 それを知らせてやった。

 幾人かのアークスがスパルタンへと視線を移す。

 その手に握られた剣が意味するのは、その剣から放たれた斬撃が破壊した天窓が壊れた意味は何なのか、それを理解するのに時間は僅かだった。

 スパルタンは剣を握り、剣先をその場に座り込んだモニカへと向ける。そして笑ってやる。モニカにではなく、アークス達に。

これだけして漸く武器を構える事を開始する鈍間な亀に視線を向ける。

 「お前達の仕事をしないのか?」

 そう言った瞬間、スパルタンは自身の凶器を放り投げる。否、投擲した。剣は回転しながらアサルトライフルを構えるレンジャーのアークスへと向かう。そのレンジャーは即座に剣を回避し、剣は背後にあるビジフォンへと突き刺さる。

 ビジフォンが火花を走らせ、爆炎を上げる。その瞬間にレンジャーが放つ銃弾がスパルタンへ向かって襲い掛かる。連続して射出される弾丸は、スパルタンのすぐ傍にいるモニカに当たらない様にした正確な射撃だった。それ故に弾道は読みやすく、スパルタンは銃弾の雨の中を駆け抜ける。

 15m以上離れた距離は、刹那の間にて零になる。

レンジャーの視界に写るスパルタンは消え、代わりに現れた彼の掌。スパルタンは顔面を掌で打ち抜き、踏鞴を踏む相手に肉薄すると同時に背後に回り込み、背後に身を隠す。同時に持っていたアサルトラフルを背後から奪い取り、引き金を即座に引く。

 運悪く近くに居たアークスは、放たれた弾丸に体を喰われ、膝をつく。

 自身の武器が仲間を襲った事が、僅かな思考停止を生み出す。その僅かな隙にスパルタンは首に手を回し、一気に捻じ曲げる。首が捻じられ、骨が軋み、折れる音はスパルタンが打ち鳴らす銃撃によって消された。

 銃弾は周囲のアークス達へと襲い掛かるが、即座に行動を開始した大剣を持ったハンターのアークスによって防がれる。大剣を盾に使いながら、一気にスパルタンへと向かって突撃してくる。フルオートで吐き出される弾丸ではあるが、大剣を貫通する事は出来ず、ハンターとスパルタンの距離は僅かになる。

 スパルタンは盾にした者の背中を蹴り、ぶつける様にハンターに向ける。既に死体となった味方を前に勇敢なハンターは、歯を食いしばりながら死体ごと大剣を突き出し、背後にいるスパルタンへと攻撃を仕掛ける。

 「いい判断だが、僅かな躊躇があるな」

 状況分析する様にスパルタンは言葉を発した時、既に彼は大剣を握ったハンターの真横にいた。

 「それと大事な武器を使えなくするのは、減点だ」

 大剣に向けて肘を叩き込むと、大剣は真っ二つに折れた。そして折れた刃先を握り、死んだアークスから引き抜くと同時に、相手の首に突き刺す。大剣の刃先は鋭く巨大。突き刺された刃は簡単に首を切断し、地面に落ちる顔は驚愕に染められ、残された首無しの体はその場に倒れ込み、血溜まりを作る。

 1分にも満たない時間、そんな僅かな時間の間に死体は3つになった。

 「―――次はどうする?俺の手には何もないぞ?」

 手を上にして無手を見せびらかす。

 残されたアークスの数は、戦力としては十分な人数だった。だが、それでも無闇に行動を起こせば返り討ちになると判断し、迂闊に攻撃してこない。互いに目配せし、無言でどのようにスパルタンに攻撃を仕掛けるかを確認する。

 「……まったく、鈍間な連中だ」

 呆れながらスパルタンは、ビジフォンに突き刺さった大剣を引き抜く。

 引き抜き、こちらを見据えるアークス達を指さす。

 「だから仲間が死ぬ」

 指先を上に、天井を指さす。指先に収束する黄色のフォトンは、指先から天井に向けて打ち出された。そして、その指を一気に振り下ろした瞬間、アークス達に向けて雷撃が堕ちた。

 間一髪、頭上に出現した雷のフォトンに反応したのか、全員がスパルタンの攻撃を避ける事が出来たと同時に、驚愕する。

 アークスシップ内では、アークスでさえフォトンを使用するには、制限が掛かっている。テクニックは勿論、フォトンアーツも同様。リミッターという機能がアークスシップ全体に存在し、並みのアークスではテクニックを発動する事すら出来ない。例外として、緊急事態の時のみリミッターが外される場合や、ある一定のレベルのフォトンを使う技術の使用を許可する事で発動できる限定解除という方法も存在する。

 そんな中でスパルタンが使用したのは、間違いなくテクニック。尚且つ、臨戦地区でのテクニック使用は未だに解禁されていない。つまり、この場でテクニックを使用するという事は、リミッターが発動していう状態ですらテクニックを使用が出来る程の相手、という事となる。

 そんな思考を巡らせる時間など、アークス達には残されていなかった。雷撃が放たれた瞬間、スパルタンの姿は視界から完全に消えていた。

 周囲を見回しても姿は確認する事は出来ず、一時の混乱を生み出す。だが、それでもすぐに立て直し、陣形を組んで対処する。

 あまりにもお手本通りの戦法に、スパルタンは落胆する。

 「お前達アークスは、得手不得手があまりにも分かり過ぎる」

 何処からか響く声が思考を乱す。

 「近接が得意な者、遠距離が得意な者、テクニックを得意とする者……その武器を見れば相手が何を得意とするか、何処までが間合いかを相手に教えている様なものだ」

 聞こえてくる方向がわからない。声だけではなく、鳴り響く警報が邪魔をする。

 「教科書通り、基本に則った陣形は、あくまで基本だ。そう、基本でしかない。その基本を馬鹿正直に守るなんぞ、阿保らしい。もう少し工夫というものをしたらどうだ?」

 相手が何処にいるかわからないが故に、即座に組んだ陣形はあまりにも疎かだった。周囲を警戒する近接武器と遠距離武器、その中央に位置するテクニックを扱う者。

 この場合、最初に潰すべき相手など、分かり切っている。

 風を切り裂く音と共に、何かが突き刺さる鈍い音。

 尖端が鋭く尖った導具が、彼方より飛来し、フォースの体に突き刺さる。突然の強襲に何が起こったのか理解できないフォースは、自身の胸を貫通している導具から発生られる赤いフォトンが何を意味するかわからなかった。

 わかった時には、既にテクニックが発動。フォースの体が爆弾となり、巨大な炎の塊が爆発し、周囲を吹き飛ばす。

 「ほら、固まって行動するからそうなる」

 その声は爆心地より響き、煙の中から出現した白刃がハンターの体を両断する。両断された体から即座に刃が抜かれ、そのまま真横に一閃。ガンナーがその刃を双銃で受け止めるが、受け止めた瞬間にスパルタンの拳が脇腹に突き刺さり、崩れ落ちる。

 背後からスパルタンに襲い掛かるファイターの拳。その一撃を踵で撃墜、体勢を崩して無防備になった体に、ガンナーから奪い取った双銃の弾丸が襲い掛かる。

 次々と倒れるアークス達。相手はたった1人だった。数は誰がどう見ても勝っているはずなのに、味方の数はどんどん減っていく。

 「お前は……一体、何なんだ?」

 血に染まった刃を携え、スパルタンは答える。

 「英雄だ」

 答えを聞いたと同時に、その者の体は地に堕ちる。

 




あけましておめでとうございます。
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