PHANTASY STAR ONLINE2~星霜ヲ蝕ス三重奏~ 作:無銘数打
何度も言うがアークスシップにいるのはアークスばかりではない。むしろ、アークスじゃない者の方が多い。ちなみに各シップのアークスの人員の割り振りも一定ではない。特に戦闘方面の人員が一番多いのは1番艦から10番艦の10隻。それ以降の艦はどちらかと言えば研究面が強い艦というように何かしらに特化している場合が多い。だが、このナオビは比較的新しい艦の為、特に何かの分野に強い面があるという事はない。アークスの人員もそれほど多くなく、最低人員に近い数字だ。その結果1ヵ月前の襲撃で酷い痛手を負う事になったのだが、
「おかげで捜査対象は大分削られて楽にはなったな」
「でも、犯人はアークスなんて……笑えますね」
「笑えねぇよ、色々と」
念の為に言っておくが、別に確定しているわけではない。可能性が高いというだけだ。
「まぁ、凶器の形状から普通じゃ手に入らないもんだろうから、もしかしたらアークスから横流しされたとか、盗難にあったとか、そういう情報の一つでも手に入れば十分だろ」
「そんな情報をこっちに回してくれると思います?」
「調査協力はするさ。仮にしてくれなくも、あっちで何らかのアクションを起こしてくれれば、こっちが楽になる。アークス側としても協力を渋って自分達の顔に泥を塗るような事はしないさ」
「逆に警備局はアークスに殺人犯がいると怪しむ不届き者、なんてレッテルが張られそうですけど……」
そういう事もあるだろうが、その場合はこっち側だって黙ってないだろうな。
「警備局とアークスの泥沼の争い……笑えますね」
「だから笑えねぇよ、色々とな」
独断専行はどういうわけか早々に本部側にばれてしまい、先ほどから通信機からクルーズの怒号が聞こえてくるようだが、無視する事として……それ以上に駐車場が見当たらない事に困っている。
「お前の言うように、本当に乗用車の普及率は低いんだと痛感するよ」
あるのは大型車両専用の駐車場のみ。俺の車のサイズが駐車できるスペースは非常に少ない。特に臨戦地区ともなれば尚更だった。
「その辺に適当に駐車するか……」
「罰金は結構高いですよ。多分、経費では落ちませんし」
「あまり無駄な時間は使いたくないんだがな……」
もう駐車場を探して5分以上彷徨っているで、不審者として通報されてしまいそうだ。
「はぁ……マスター、車は私が何処かに停めてきますので、先に中に入ってください」
「え、お前が運転するのか?」
「ペーパーですが、運転できますよ。ちなみに、こう見えて輸送機とか色々と運転できます。ペーパーですが」
「ペーパーを強調するな。なんだ、最近はお前等みたいな連中にも免許取らせんのかよ」
「私達サポートパートナーがただルーム待機してるとお思いでしょうが、意外とその間に色々としてるんですよ?」
マスターの知らない間に妙な知識やら資格を取るサポートパートナー。もしかしたら近い将来アークス辞めた連中がサポートパートナーに養われるという現象が―――起きないな。
「ぶつけるなよ」
「ぶつけませんよ。ところでマスターが元アークスと言っても、簡単に中に入れるのですか?令状とかありませんよ、当たり前ですけど」
「あぁ、それな。こういうものがある」
「……見学チケット?」
「意外と気づいていないが、アークス以外の連中もちょくちょくいるんだわ」
「セキュリティ面は大丈夫なのですか?」
「まぁ、入れる場所は限られているからな。見学コース以外なら基本的に入れるのはショップエリアだけだ。そして俺達の目的地はショップエリアだけ」
噂では現アークス総司令はショップエリアでスカウトされたとか……芸能人か。
「ところで、どうしてそんなチケット持ってるんですか?」
「……」
「あぁ、マリサの為ですか。こりゃ失敬失敬ケケのケ」
「お前どういうつもりで、そういう事を言うわけ?」
■■■
なんだかんだでアークス1日見学コースなるものに紛れ込み、早々に見学集団から脱出したわけだが、今頃担当者が俺の事を探しているか侵入者扱いされているかは賭けになるが、出たとこ勝負で行っても問題ないだろう。少なくとも俺には、だが。
「……随分とがらんとしてるな」
ショップエリアは大抵アークスの連中で賑わっている様な雰囲気があるが、流石は最低人員に近いアークスシップ、見事に閑古鳥が鳴いている。よく見ればカウンターに休業中やら、取り扱いはゲートエリアでとか、酷い状況だ。まぁ、他のエリアでも代用がきく場所はそれでも問題はないだろうが、このエリアでしかできない場所は予想通り開いている。
元アークスとしては懐かしい光景だ。ショップエリアの光景ではなく、その一部でアークスとカウンターにいる店員が言い争っている光景。主にアークス側が怒鳴り散らし、店員側がそれをあしらっている光景だが、
「―――素晴らしく運がないな、君は」
その如何にも人を馬鹿にして神経を逆なでして殴りたくなる威風堂々とした接客態度。
俺が知る限り、そんな奴は1人しかおらず、そんな奴がどうして此処に都合よく居るのか非常に疑問を覚える今日この頃。
「また来たまえ」
相も変わらない癇に障る言葉を背中に受け、意気消沈したアークスとすれ違い、ご愁傷様と心の中で哀れみを送る。
「何用かね?」
「お前のその態度は何処に行ってもかわらないのか……」
「―――ほぅ、これは珍しい客だ」
その無駄にきっちりと手入れされている髭を撫でる仕草が妙に懐かしい。
「久しいじゃないか、ヴァン」
「あぁ、久しぶりだな、ドゥドゥ」
アークス時代、俺がいたアークスシップのアイテムラボでの顔馴染み。何度も顔を合わせ、何度も失敗しやがり、何度も本気で手を出し、何度も酒を交し合う仲だが、決して他人には友人と思われたくない相手だ。
「確かアークスを辞めたと聞いたが、あれはデマだったのか……それとも出戻りかね?」
「辞めたのは本当。あと出戻りではない。今日は仕事で来たんだよ」
「ふむ、私に会いに来てくれたというわけではない、と」
「俺がお前にわざわざ会いに来るような奴だと思うか?」
「気味が悪い事を言わんでくれ」
お前が言うな。
「お前がナオビに居るなんて知らなかったよ。なんで此処にいるんだよ?」
「先月の襲撃事件でこちら側もそれなりの被害を受けたのでな、その為に何人かサポートとしてナオビにいるだけだ」
市街地への被害は見たり聞いたりしていたが、此処もそれなりの被害があったとは初耳だ。だが、ドゥドゥが此処にいるのは俺にとって百歩譲って幸運とも言える。見知った中でもあるし、互いの腹の中を熟知している間柄だからこそ、できる事もある。
「少し時間貰えるか?」
「……昔話をしたい、というわけではないようだね―――構わんよ、モニカ君、ちょっと出てくるから後は任せた」
すると奥から当たり前だが見た事のない若い女性店員が慌てて飛び出してきた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいドゥドゥさん!?いきなりそんな事を言われても……」
「君もいい加減に独り立ちしたまえ」
「でも、で、でも……」
「それでは後は任せた。ヴァン、行こうか」
「ドゥドゥさ~ん!!」
悲痛な叫びを背に、俺達はカフェに向かう。仕事とはいえ、俺のせいでもあるので僅かながら罪悪感が生まれる。
「いいのか?あの娘、泣きそうな顔して―――いや泣いてるな」
「構わん」
だが、よくよく考えればドゥドゥが仕事を任せるという事は、それなりに信頼しているという事だ。この男の性格はひん曲がっているが、そういう所は割とシビアだ。
昔からドゥドゥの下では若い者があまり育たないと言われていた。噂話ではなく、本当の話。こいつの性格に耐えられないという部分が大多数だが、教え方がスパルタ中のスパルタなのが原因に違いないと思っている。
職人気質が高い方とは思えないが、どんな相手にも分け隔てなく物を言うからこそ、その者の出来も不出来も関係なく物事を叩きこむ。それに耐えられない者は別の者を弟子入りし、それなりの一人前となる―――もっともこいつのシゴキに耐えたからといって一人前になるとも言えないのだが、
「この仕事は技術は勿論必要だが、それ以上に必要なのは度胸だ。如何に完璧な調整が出来る腕があったとしても、結局は時の運」
「こっちも苦労して手に入れたメセタと素材を持って行っても、結局は全部水の泡なんてよくあることだからな」
「そういう時に怒りをぶつけられるのは我々だ。我々はそれを受ける義理などありはしないが、向けるべき者がいるというのみ一つの救いなのだよ」
お前の場合は煽っているようにしか見えないがな。
「如何に腕があろうとも、他者と向き合う事が出来ないようでは一人前などとは言えんよ」
だからお前が向き合うとか、お前が言うなとしか言えんのよ。
「……へぇ、つまり腕だけは信頼してるってわけか、あのモニカって娘を」
「何を言っているのかね、君は?」
■■■
「カフェというが、普通に酒もでも出るあたり酒場ともとれるよな、此処は」
「時にはアルコールを摂取せずにはいられない時もあるのだよ。君とてそうだろう?」
「否定はせんが……今は仕事中でな」
「私もそうさ」
などと言いながら、テーブルに並んでいるのはビールと熱燗―――が頼めればいいのだが、これでも仕事をしている身なので互いに珈琲で我慢する。
「君とこうして会うのは1年ぶりか……心無しか以前よりも老けたようだね」
「お前は変わらんな、別に羨ましいとは思わんが。でもな、俺は今の歳の取り方に不満はないよ。こうしてしわも出来て、髭も生えて」
「無精髭はあまり好まんが、君はよく似合っているよ」
「気づけばもう30代も後半だ。お互い歳を取ったな……お前はまだ独り身か?」
「私のお眼鏡に叶う女性が居なくてな。そういう君はどうなんだ?」
少しだけ言葉に詰まるが、昔に比べれば軽く言葉を紡ぐ事が出来るようになったのは、きっと時間がそうさせているのだろう。
「アンジュもいるからな、もう慣れたよ」
「―――君には惜しい女性だったのに、残念だよ」
「まったくだ……」
微かな痛み。まだ痛みを感じる事が出来る。まだ思い出として良いものと自分の中に留まってくれている。その想いが錘となるかどうか、それの成否を判断できるのは俺の自身。そうであると信じるのも己自身―――想いは重いのだ。想いである限りは。
「アンジュも変わらないかね?」
「以前にも増して生意気になってきているな。俺を主人と思っているのかいないのか」
「思っているからこそ、なのだろうね。彼女は君以外の者にはあのような話し方はしないのは、それだけ君に想いを抱いているからだろうさ。信頼でもあり、甘えでもあるのさ」
信頼されているという点は素直に受け取るが、あれが甘えとなると疑問は抱く。あと、お前は知らないだろうが、あの小さな相棒は玩具にしたら面白いと思った相手には、俺を相手にするより質の悪い事をするぞ―――たまにはだが。
「そもそも碌に退職金も受け取らず、装備一式は私に押し付け、保証諸々を放り捨てても、最後の最後まで手元に置いておこうとしたのは彼女だけ。君にとってアンジュはそれだけ大切な存在という事になるのだろうな―――実は人形趣味という疑問はあるが」
最後の一言が余計だ。
「長年連れ添った相棒だ。簡単に捨てられない……というか、アイツはモノじゃないな」
「それだけ思われていれば、彼女も幸せだろうさ」
絶対にアンジュの居る所で話せないような事を、どうしてかぺらぺらと喋ってしまったのは懐かしい此処の雰囲気によるものと思いたい。
後悔しないのか、と言われた。
アークスであることに誇りを持っていないのか、とか言われた。
この宇宙の平和を守る事を放り捨てて何も思わないのか、とも言われた。
「別に」―――これが俺の答え。
俺から言わせてもらえれば、生まれた時からフォトンに対する適正が高く、特に理由もなくアークスになるものだと思わされ、俺自身もその想いに対して何の疑問を抱かず、ずるずると士官学校からアークスへ、そして戦場へ、そして地獄へ、なんて感じだ。
両親は遺伝子を提供しただけの他人で顔も知らない。生まれは試験管。育ての親はただの一般市民の老夫婦。その夫婦はとっくの昔に亡くなっている。
そんな並びたてた言葉のように、自分の事を他人の人生のように思えたのは実戦に出るまで。いざ出てみれば漸く実感できる己の人生。だってそうだろう?そこには死がある。生きているから感じられる死を目の前にして、恐怖を抱き、死にたくないと願い、生きるための努力を始める―――そんな感じの人生。
死にたくないから生きて、死にたくないから戦い、死に慣れすぎたから面倒になった。
「お前は今もアークスで仕事をしている事が、面倒だと思う事はないのか?」
「あると言えばあるが、ないと言えばない」
「どっちなんだよ」
「私は君ではない。私はドゥドゥという者で、ヴァンという者ではない。それがわからない君ではないだろう?」
「……俺はお前のそういう所が嫌いだよ」
「それを笑いながら言う君を、私はそれほど嫌いではないよ」
■■■
さて、昔話はこんな所でいいだろう。時間は有限、クルーズの文句の時間を削減するには此処でそれなりの情報を得る必要がある。
「―――この写真を見てくれ」
殺害現場とは言わず、現場の散らかったテーブルが写された写真を見せる。ドゥドゥは黙って写真を見つめ、視線で「これがどうした?」と尋ねる。俺も何も言わずに視線で「どう思う?」と尋ねる。
しばしの間、ドゥドゥが口を開く。
「このようなテーブルを使っている者には好感は抱かんが、同業者として言える事は、作業をするならもっと綺麗な場所を使えという事と、道具はきちんと手入れをしろ、という事だけだな」
同業者として、ね。
この回答で満足か、と俺を見るドゥドゥ。
「その道具は何に使う物だ?」
「君も見た事があるだろうが、これはフォトン結晶を加工する道具だ。確かに見た目は一般的な研磨機、研削機に見えるが、このメーカーは我々が結晶を加工する際に使用する特注の物だ。世間では此処以外では出回らない物で、所有するにも許可が必要だ。もっとも、必要な許可は工具の所有よりも加工に対するものだがね」
「なら、このテーブルに散らばっている粒は―――」
「結晶を加工した際に出た粒以外に何がある?」
「なら具体的にどんな加工をしていたと思う?」
「……そこまではわからんな。君も知っているように結晶は武器やユニットの強化・加工に使われるが、用途として無数にありすぎて判別がつかん」
確かに結晶と言っても元はフォトンだ。そこら中に存在する、言ってしまえば都合の良いエネルギーではある為、昨今のエネルギー関連は大抵これで補われている。特にこのアークスシップなんてある意味フォトンで固まりみたいなものだ。一番馴染みがあるのは周囲のフォトンを圧縮して物質化した変換物質というものがある。これがシップ内で生活する者達にとって当たり前の存在であり、なくてはならない存在だ。
それでも変換物質はあくまで人工的に作り出したフォトン結晶であり、自然に生み出された小さな結晶のほうが内包しているフォトン量が数倍多い。しかし、そんな結晶は無尽蔵に存在するわけではなく、無限でもない。
その為、アークスが任務時に回収するフォトン結晶は一度アークス本部で管理し、そこからアイテムラボを含めた必要な各エリアに配布される。もっとも、熟練したアークスと認められれば、取得した結晶の一部は本部へ渡して、残りは各自が所持しても良いというルールもある。
結晶の管理をしているのはアークスという点を見れば、結晶そのものが世間に流通する事は殆どない。
「結晶の大きさはドロップ、クリスタル、スフィアの3段階に分けられるが、仮にドロップ程度の大きさだとしても、この散らばっている粒の量からしても中々の量だ」
仮に流通するのはあくまで加工された後の物だけ。
それはつまり、
「仮にこのテーブルの主がアークス関連の人間でないとすれば……」
「違法に結晶を入手した者、という事になるな」
「―――ヴァン、君は何を調べている?」
「ついでに聞くが、お前はジェリコっていう男を知っているか?」
「……あぁ、知っているよ」
「此処の人間か?」
「そうだよ。正確に言えば、アイテムラボの者だった、というべきかな」