PHANTASY STAR ONLINE2~星霜ヲ蝕ス三重奏~   作:無銘数打

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Episode4『『始末屋』なんて言葉』

 ショップエリアに戻ると奇妙な光景を目にした。アイテムラボには先ほど見かけたモニカという店員。その横にモニカよりもさらに小さな店員―――というか、アンジュが並んで座っていた。はて、いつから俺の相棒は副業でアイテムラボの店員などをはじめたのか悩む、なんて無駄な時間を使わず本人に聞いてみるほうが早い。

 「お前、何してんの?」

 怪訝な顔をしているであろう俺をアンジュとモニカが同時に見る。

 「仕事ですが?」

 「どっちの仕事だよ」

 「私、一度こういう仕事をしてみたいと思ってみようとした事があるんです」

 つまり思ってた事はないわけだ。

 「あの、この人がアンジュちゃんのマスターさん?」

 「えぇ、残念ながらそうなんですよ、モニカ」

 「この人が……」

 何故か俺を見る彼女の視線が不信感を持っているように思えるのは、

 「あ、あのですね!!」

 この口調で俺に向かって食って掛かる時点で間違いではなさそうだ。

 「いくら、あ、貴方がアンジュちゃんのご主人様だと言っても……やって良い事と、わ、悪い事があります!!」

 あ、なんかもう嫌な予感。

「メセタ稼ぎの為に、アンジュちゃんを、き、きき、キャストフェチのへ、へんな、変な人に……あぅ、え、えっ、その……えっちな、エッチなアルバイトさせるなんて!!」

おい、コラ。天下のアークス様のお膝元でなんつぅ事を言ってんだ、この小娘は。

そして、なんかアンジュが悪そうな笑みを浮かべている時点で、このブリキ娘がどんなホラ話を彼女に吹き込んだのか察するのかは簡単。

「いいのです、モニカ。所詮サポートパートナーはマスターの道具……どんなに献身につくしても最後は自動素材集め機扱い。明らかに私達では無謀な壊世地区のエネミーから素材取って来いと言われても、碌な装備も与えられずとも、文句の一つも言わずに取りに行くのが私達の使命。えぇ、そうです。例え失敗しても、この役立たずと罵られ、部屋のオブジェの一つとして扱われても、マスターの命令は絶対……うぅ、ですが、あんな、あんなキャストフェチの変態にこの純情を弄ばれたのは、もう―――およよ」

およよ、じゃねぇよ。

「大丈夫です、アンジュちゃん!!私、私があなたの味方になりますから!!」

そしてお前も騙されてんじゃねぇよ。あと、キャストフェチを変態扱いすんな。色々と差別になるだろがよ。

「―――で、実際は何してたんだ?」

「はい、暇だったので彼女から色々とお話していました」

「え?」

俺とアンジュを交互に見ながら、話しの展開についていけない彼女に同情を感じえずにはいられない。

「あの、アンジュ……ちゃん?」

「それにしてもモニカは酷い人ですね。私の敬愛するマスターを変態畜生お下劣野郎呼ばわりとは……怒りますよ?」

「お前は俺が怒らないとでも思ってるのか?」

「落ち着いてください、マスター。モニカも悪気があって言っているわけではありません」

「お前だよ、お前。勝手に俺の怒りの矛先を自分から彼女に向けるんじゃねぇよ」

閑話休題。

「ご、ごご、ごめんなさい!!」

「いや、大丈夫だ。悪いのは全部こいつだ。あんたは被害者なんだから、そんなに謝らんでくれ」

カウンターに頭を擦りつけんばかりに謝れると、流石に不憫に覚えてならん。

「でも、初対面の方にあんな、あんな酷い事をい、言ってしまうなんて……うぅぅ」

「だからそんなに気にすんな。諸悪の根源はあそこに沈めといたから」

近くに噴水があってよかった。嘘八百で少女を弄ぶ悪の機械人形は、簀巻きにして噴水に沈めておいたので、もう安心だ。

「酷いです、マスター。大事な相棒を水の中に沈めるなんて。キャストが肺呼吸だったら死んでますよ」

そして、さも当然のように縄抜けして戻ってくる相棒を、果たして本当に相棒と呼んでいいものか非常に頭が痛い気分だ。

 まぁ、何はともあれ余計な誤解は早々に解かれたのはいいが、

 「ところでお二人は、アークスの方ですよね?」

 アンジュを連れている事で普通はそう思うだろうが、俺は否定する。

 「違うんですか?た、確かに貴方は、えっと……」

 「ヴァンだ」

「あ、これはご丁寧に……ヴァンさんを全然お見かけした事がなかったので、変だなぁと」

 「ショップエリアに来ないアークスだっているだろ、普通」

 「それはそうですけど、サポートパートナーを連れているという事は、きっと前線に出ているアークスの方だと思いましたし、そういう方は必ずとアイテムラボに顔を出しますので……」

 一理あるが、

 「もしかして、此処のアークスの顔を全員覚えてるのか?」

 「見た事がある方だけです。あの、私、あまり人と話すのが苦手でして、カウンターからあの人は怖そうだなぁとか、あの人はきっと失敗したら怒るんだろうなぁとか……そんな感じで……その、すみません」

 人の顔色ばかり見ていると、逆に人間観察が巧くなるとも言うが、

 「別に謝る事じゃないだろ。そういうのは結構大事な事だ。まぁ、ネガティブな方で役立つのはあまり褒めた事じゃないが……あんまり気にするな」

 「そうですよ。マスターを見てください。この人なんて―――」

 「お前は喋るな」

 「おや、サポートパートナー差別ですか?訴えますよ?そして勝ちますよ?」

 勝つのかよ。

 「―――モニカは此処に来て結構長いのか?もしかして此処の生まれとか」 

 「いいえ。私はドゥドゥさんと一緒にサポートとしてナオビに来ました。ヴァンさん達も最近ナオビに来たんですよね?」

 「まぁな、都市警備局に着任したのも1ヵ月前だし……あれだ、慣れない土地は中々馴染まないよな」

 ドゥドゥみたいに生まれた時から心臓の毛が生えすぎている奴は、何処に行っても我を通せるから、若干羨ましいと思う。

 「都市警備局の方だったんですね。いつもご苦労様です」

 「いやいや、どういたしまして。お互い新参者で慣れないだろ、大変だな」

 「そうですね、ダーカーの襲撃があった事もそうですけど、まだ夜道はちょっと不安です……『人形病』の人達もよく見ますし」

 人形病、ね。

 「他のアークスシップでは、あんな人達をほとんど見なかったから、ちょっと怖いです」

 「確かにあのような症状の方々は、此処に来るまで私も見た事はありませんでした。そもそも人形病という言い方も正しくはありませんが……」

 人形病―――誰がそう言い始めたかは知らないが、気が付けばその病にかかった者は多くいるらしい。

主な特徴と言っていいかはわからんが、人形病患者と思われる者の初期症状―――いや、初期行動と言った方がいい。

初期行動は突然の意味不明な行動。

ある者は突然路上で叫びだし、尻尾を追いかける犬の様に回転しだす。またある者は手に何も持っていないのに、剣の素振りをして見えない敵を斬っている。またある者は地面に頭を打ち付け、またあるものは壁に自分の顔を擦りつけ、またある者は―――等々。

ここまではマシな方だが、ある者は急に通行人に暴力をふるい怪我人を出す始末。俺が聞いた中でも最低なのは母親が我が子を抱きしめて路上を走る車に向かって……なんてのもある。そして、様々な初期行動を終えた患者はまるで糸の切れた人形のように動かなくなる。息もしている、心臓も動いている、生きてはいる。だが自らの意思で動く事はない。

心神喪失の病に近いらしいが詳しい事は未だに不明。原因もわからず、どういう理由、理屈で発症するかも不明。

そして何より不自然なのは、その人形病がナオビでのみ確認されているということ。

他のアークスシップではそのような患者は殆ど確認できていないらしい。

「警備局では、同時期に出回ったと思われる麻薬が原因ではないかと推測しています」

「おい、捜査情報を勝手に流すな……」

だが、よく考えれば警備局の持っている情報がアークスに渡っていない、なんて事はないだろう。多分、アークス情報部の連中が色々と嗅ぎまわっている可能性も高い。

「まぁ、あれだ。モニカも何かあったら警備局に一報くれ。一応は市民の味方らしいからな、俺達は」

冗談交じりに言ってみたが、何故かモニカの表情は暗い。周囲をチラチラ見まわし、俺達にそっと耳打ちするように言った。

「あの、これは、噂……なんですけど。あ、実際はそうじゃないかもしれないですし、小耳に挟んだだけで、実際は違うかもしれないんですけど!!」

「落ち着け……で、どうしたって?」

 「―――実は、このナオビの都市警備局とアークスは仲が悪いそうなんです」

 それが噂の話、とは思えなかった。事件とは関係ない、俺と連中の仲について重要な情報が舞い込んできたようだ。

 「興味深い話だな、どんな噂なんだ?」

 「えっとですね……私達が来るよりも前に、ナオビで幾つかの殺人事件があったみたいなんです。その被害者は全員がアークスの人達ばかりで、被害者は確か……4人、くらいだったかな?」

 「へぇ、そいつは初耳だ。アンジュ、お前は知ってたか?」

 「ナオビに着任が決まった時に、情報収集として記事は見た事がありましたが……」

 つまりあまり大々的に報道はされていない、という事か。そう言えば、着任時にマクレーンが継続中の捜査資料には目を通しておけと言っていたが、

 「ちゃんと見ましたか、マスター?」

 「ちゃんとは見てない気がするな―――それで、その事件で俺達とアークス側で何かあったとか?」

 あったらしい、とモニカは頷く。

 当初、事件の捜査にあたったのは警備局。基本的にアークスシップ内で起きた事件は、臨戦地区の様なアークスの重要施設以外は警備局が担当する事が通例となっている。事件現場は海洋地区に始まり、市街地区、工業地区、最後は農業地区。当然、最初の事件現場である海洋地区の捜査権を持っている警備局が事件の捜査を開始したのだが、被害者の身元が判明すると同時にアークス側から急な横やりが飛んで来た。

 「合同捜査、という事ではないようですね」

 「うん、なんでも警備局の捜査権を強引に奪ったって……それで警備局の人達は猛抗議したらしいんだけど」

 受け入れられなかった、というわけか。だとしても、そいつは妙だ。確かに身内が殺されたから自分達で捜査をしたいという想いは汲んでやれるが、強引すぎる。

 「その流れで行くと、後の3件の殺しも同じようにか?」

 「そうらしいです」

 警備局としては面子を潰されて面白くないだろう。いや、それ以上にアークス側にとって自分達が信用できない連中とレッテルを張られるなんて思いもしなかっただろう。都市警備局は確かにアークスと比べられる事はある。しかし、それはアークスよりも劣っているという事ではない。

 「はぁ、気持ちはわからんでもないわな」

 「そうですね」

 怒りか、それとも失望か。

 その両方か。

 そしてそれらは共に俺にも向けられているのだろう。アークスではない。元アークスというだけで。こっちとしてはたまったものじゃないが、概ね状況は理解できた。連中の気持ちも理解は出来た。

 「……こりゃ、あれだな。こっちも連中にきちんと向き合う必要がありそうだな」

 「ようやく重い腰を上げてくれて、私は嬉しいですよ、マスター」

 それにしてもダーカーの襲撃に遭うだけじゃなく、そんな事件も起こっていたとは、このアークスシップも不運なもんだ。

 「ちなみに、その事件の犯人は捕まってないんだよな?」

 「えっと……多分、捕まってないと思います―――あ、でも……」

 モニカはもう一度周囲を見回す。

 どうもこの娘は色々と心配性な所があるな。アークスが関連している噂なんて、他のアークスの大半は知っているはずだろうに。

 「その、亡くなったアークスの人達なんですけど……もしかしたら、『始末屋』に消されたんじゃないかって……」

 「それも噂か……あ、いや、噂だろうな」

 「なんだか久しぶりに聞きましたね、『始末屋』なんて言葉」

 アークスには、アークスを消す始末屋がいる―――なんて冗談みたいな噂がある。

 「その噂、まだあったんだな」

 苦笑が隠せない俺だが、モニカな真剣で周囲をキョロキョロしている。まさかとは思うが、こんな噂話をしている自分達も始末屋に消されるのでは、なんて思っているんじゃなかろうか―――いや、思ってそうだな。

 「心配するな、モニカ。そいつはただの噂だ。前のアークスならではの環境が生み出した噂で、今の体制では完全に化石みたいなもんだろ?」

 「それは、そうかもしれませんけど……」

 「それにな、こんな噂程度で消されてたら命が幾つあっても足らんだろ。そんな事を心配するくらいなら、『視察官』に目を付けられるほうが現実味があって怖いだろ」

 「それは……確かに怖いです」

 「だろ?」

 視察官とは、その名の通り各アークスシップで問題が発生していないか、問題となる種はないか、問題のあるアークスはいないか等を査察して回る連中の事だ。この査察はアークスシップにとって割と重大な案件であり、問題なしの判子を押されるのが当たり前であり、問題あれば処分の対象となってしまう。噂では、過去に問題を発見された管理者の首が飛んだとか、アークスシップそのものが機能停止寸前まで追い込まれたとか、始末屋の始末対象になるとか―――ともかく、重要で嫌われ者の連中なのだ。

 そして、そんな事を笑い話にしている俺達は、しっかりとその対象になっている事に気づくのが少しだけ遅れた。

 「―――仲が良いのは羨ましいが、仕事中に話し込むのはあまり感心しないな」

 背後から掛けられた声。

 俺とアンジュからは見えないが、モニカにはしっかりと見えたのか、一瞬で顔色が白く染まる。

 「あ、ああ、あの……」

 カクカクと面白い動きて身振り手振りする彼女は大変面白いが、多分面白がっている場合ではないかもしれない。

 振り向いてみれば、見知った顔があった。その人物は見学コースの案内人で、俺が巻いた人物なのだが、ここで重要なのはその人物がモニカ以上に顔面蒼白になっているのは、その隣にいる奴が関係しているのだろう。

 こいつは驚きだ。

 噂をすれば何とやら……とは言うが、目の前にいるのは正真正銘の視察官。

どうしてわかるかって?

それは俺がこの視察官を知っているからだ。

 「貴方も勝手に見学コースから抜け出すのは感心しませんね。他の参加者はきちんと担当者の指示を守っているのに」

 「そいつは悪かった。けど、俺にも言い分はある。トイレに行ってたら置いて行かれたんだよ」

 「では随分と長いトイレだったようですね……」

物腰は柔らかいが、俺を見る瞳はなんとも無機質。

 「お通じが悪くてね」

見るのではなく、観察している。

 「良い医者を紹介しましょうか?」

 知ろうとするのではなく、取り込もうとしている。

「いいや、医者は昔から嫌いなんだ」

笑う笑顔は機械的で、優しい口調は棒読みに思えてならない。

 「そうですか、では健康には気を付けてくださいね」

 俺はこの男を知っている。

僅かな時間だけだが全アークスが注目した者。

僅かな時間の中でアークスを真っ二つに分けた者。

現アークス総司令とその座を争った者。

 「『名誉ある敗北者』のフォルテ……お会いできて光栄だよ」

 「それは忌み名だよ。だが、私個人としてはそれほど嫌いではないがね……」 

 

 

 

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