PHANTASY STAR ONLINE2~星霜ヲ蝕ス三重奏~   作:無銘数打

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Episode5『その場所には必ず私はいます』

 ジェリコ、男性、ニューマン、ショップエリアのアイテムラボにて勤務経験あり。現在は無職。アイテムラボを辞めた理由は懲戒解雇。理由は物品の無断使用及び横領、そして横流し。犯行が判明した時点で逃亡を図り、都市警備局及びアークスでも捜索中。

 「灯台下暗しか、随分と近場に潜伏してたもんだ」

 「そこに気づけなかった事が奇妙なんだよ……」

 警備局で唯一の喫煙所。使用者は僅か数名。数名の中の二人。関係は最悪で同じ空気を吸うのも嫌だと思っている俺ともう一方。

 「あの場所は捜査範囲に入っていただろ?しかも、随分前から奴の居住場所だった。普通は最初に行くのは容疑者の部屋だろ」

 確認で聞いたつもりだが、クルーズは忌々しいとばかりに俺を睨む。

 「お前に言われなくても、そんな事はわかっている。問題なのは、ジェリコがアークス側に登録していた住居はまったく別の場所。あの部屋の登録者は赤の他人どころか、架空の人物だった」

 そいつは奇妙な事だ。

 吐き出した紫煙を見つめながら考える。

 「……出来るのか、そんな事が?」

 「知らん。逆に聞くが、アークスは人員管理すらまともに出来ないのか、元アークス殿」

 「それこそ知らん。畑が違うからな。あと、なんでもかんでも俺を引き合いに出すな」

 空気は重い。先ほどまでいた罪のない喫煙者の方々は、俺達の険悪な空気を察して早々に逃げ出してしまった。別に俺達が出て行ってくれとか、出てけとか、失せろとか、そんな優しい言葉をかけた記憶はない。勝手に消えただけ。俺は悪くない。

 「まったく、捜査会議にすら出ずに何処に行っているかと思えば……言っておくが、此処はお前みたいにまともに働かない奴が居ていい場所じゃないぞ」

 「働いているさ。色々と聞きまわってたんだよ。それに、捜査会議にはアンジュが参加してるから問題ないだろ」

 「捜査資料を開きもせずにクロスワードパズルの雑誌に夢中になってたが?」

 「……あ~、なんかすまん」

 アイツ、一度本気でどうにかしないといけんな。 

「ふんっ、お前らに期待なんぞしていない」

「―――ところで、第一発見者は?姿を隠している奴が、わざわざ自分の部屋に招き入れる親しい者がいたとか……」

「それも調査中だ。だが、通報者は女性という事だけ。詳しい事情もわからんし、電話口で人が死んでるとだけ言って切ったそうだ」

なんだかんだ言って、質問には答えてくれるのな、お前。

「なら、その通報者の女が容疑者か」

「現場に到着した時点でドアはロックされていなかったそうだ。現状では一番怪しいのはその女だ」

 「防犯カメラには?」

 「写っていたさ」

 捜査資料を投げ捨てるように俺に渡す。

 「通報があった時間の1時間前、部屋に入る女の姿が写っている。部屋に入り、10分後には逃げるように部屋から出てきた。その時間で犯行に及んだ可能性もあるが、単に死体を発見しただけの可能性もある」

 防犯カメラに写っている映像、その時間を見る限りは確かに10分ほど。犯行はその10分で行われた可能性は高いだろうが、

 「通報があったのは、この映像から50分後か」

 「仮にその女が犯人でないとするならば、女は部屋に何かをしていた可能性もあるという事だ。見ろ、部屋に入る前と後、女は入る前に持っていない鞄を持っている」

 知人が死に、通報するよりも何かを探して、その何かを持って逃げ出して通報する。もしくは殺した上でそうしたか。なんにせよ、現在の一番の容疑者はこの女性という事になるのだが、

 「まだこの女の素性はわからん。ジェリコの交友関係を含め、今後の調査に―――」

 「ジェリコには女がいる可能性がある。金で買った女じゃない、恋人がな」

 その情報は知らなかったのだろう、驚いた顔でクルーズは指先から吸い殻を落とした。

 「お前が言う所の、俺が仕事をしない時間を利用して、アイテムラボに居る知人に聞いたんだよ。以前、そこの同僚達に飲みの席で女がいる話をこぼした事があるらしい」

 「……その女は何処にいる?」

 「詳細な場所まではわからんが、ざっくりとした所在だけはわかったから、これから行ってみるつもりだ」

 灰皿に吸い殻を入れて、ホルスターに差した獲物を確認する。

 「そっちにはそっちの捜査方針があるだろ。こっちの情報はあくまで酒の入った時のホラ話の可能性だってある。確証は薄い……とりあえず、聞き込み程度って事だ」

 「独断専行を俺が許可するとでも?お前の上司は俺だぞ」

 「当てが外れた時は、俺は無能だと笑えばいいさ。仮に当たったら儲けもんだ」

 「―――ふん、勝手にしろ」

 とりあえず許可は貰った。

 アンジュと合流して聞き込みか、アークス時代には経験した事がない作業だが、今後はこういう作業が続くのだろう。

 「あぁ、そうだ。念の為に第3限定解除を申請するが、問題は?」

 そう言うとクルーズは非常に嫌そうな顔をする。

 「お前は街中で戦争でもする気か?」

 「念の為だよ、念の為。それに俺のじゃなくてアンジュのだ。第3レベルならアイツが調整をミスしない限り、大した被害は出ないさ」

 「お前等の些細な被害は、こちらにとっては大きな被害なんだよ。許可は出来ない。可能なのは武器使用を認める第4までだ。それ以上は俺に報告しろ。その場で判断する」

 「そういうのが面倒だと言ってるんだがな……」

 「面倒な事は、重要な事だという事だ。いいか、守らないと厳罰だぞ」

 まぁ、いいだろう。余程の事が起きらない限りは現状の装備だけで対応できるはず。市街地でダーカーがいきなり襲撃してくるとか、巨大エネミーが出てくるわけでもあるまい。第一、そうなれば対応するのは警備局ではなく、アークスだ。

 「それと、必ず一度報告には戻れ。外れたらその場で笑えんからな」

 「あいよ―――あぁ、それとな」

 「なんだ、まだ何かあるのか?」

 「―――噂で聞いたが、数ヵ月前の事件で警備局とアークスでひと悶着あったってのは、本当か?」

 嫌な目をする。

 俺じゃないモノを睨むようにしながら、しっかりと俺を含んでいる。

 「それがどうかしたのか?」

 否定はしないのか。

 無意識に俺の手は新たな煙草を掴んでいた。

 「いやな、ショップエリアの店員から聞いた話で、アークス側がアンタ達に随分と非礼を働いたって聞いてな。噂のレベルでは信用が薄くて興味を持ってね」

 果たして、それは本当にあった事なのか、どうも信用できなかった。第一、わざわざ捜査人員を減らすような事をして、何の意味があるというのか。確かに被害者はアークスの人間だったが、捜査するなら外部である都市警備局の力を借りるのは常套手段。

 「俺が知る限り、俺が居たアークスはアンタ達、警備局の能力を過小評価なんかしていない。こっちが外でドンパチしてる間も、アークスシップを守っているのは都市警備局だ。敬意を払う事はあっても―――」

 「それが表向きだとは、思わないのか?」

 冷たい拒絶。こちらからの歩み寄りを一切拒絶する言葉は、この歳になっても意外と堪えるものだと実感する。怒りは沸かない。呆れは少しだけある。そして微かな同情も。

 「こちらが汗水垂らして集めた捜査情報を、横から全部奪い取り、後は自分達の仕事で、お前等は邪魔だ―――連中はそう言っているたんだよ。どんな理由があるか知らんが、こちらが納得するしないに関わらずだ」

 掴んだ煙草に火はつかない。

 掴んだだけで、口元にすら運ばれない。

 「あぁ、そういう事もあるだろうさ。今回はそうだろうと納得する事も出来たさ……だがな、納得が出来ない事もある。許せない事もある。お前は噂話でこの話をしているようだが、その噂でこんな話は一緒に聞かなかったか?」

 尊厳を踏み躙られた怒りではない、誰にでもある単純な怒りの色が浮かぶ。

 当事者でなければ理解できない、そんな怒り。

 「捜査中止に納得できない局員が、独断で捜査を継続した。その最中に捜査員は事件とはなんら関係のない事件に巻き込まれ大怪我を負った。そいつには家族がいる。妻も子も、友人だっている。そんな人達が居る病室に来たアークスの糞野郎は、局員が何らかの結果を得たから負傷したのかと思ったらしいが、そうじゃなかった。そしたら、糞野郎はなんと言ったと思う?」

 その糞野郎への怒りは、俺に向けられる。クルーズにとっては何ら変わりはないのだろう。俺であろうと、俺じゃなかろうと。

 「―――こんな間抜けの為に時間を裂いてしまった、だとさ」

 笑えるだろ?と、彼は言う。

 ほら、笑えよ?と、彼は言う。

 言葉使わず、彼は言う。

 お前も奴等と同類なのだから笑う事ができるだろ?と、彼は言っているのだ。

 「お前はそんな連中を信用しろって言えるか?」

 「……そいつは確かに糞野郎だ。だが、他のアークスが―――」

 「他のアークスはそうじゃないか?少なくとも俺はそうじゃない。俺はそいつとは違う……そうだろうな、身内は庇うだろうよ、普通は」

 「おい、クルーズ……」

 「ヴァン、お前はこっち側じゃない。お前はまだあっち側だ。お前は今さっき言ったばかりじゃないか―――アンタ達、警備局ってな」

 

■■■

 

 渋滞道路の脇で、歩行者達な何の不便もなく優々と歩いていく。復旧作業に必要な資材を運ぶ大型トラックの渋滞に巻き込まれ、意味もなくハンドルを指で叩く。

 「歩いて向かった方が早かったですね」

 「そうだな」

 色々な思考が同時進行で進んでいく。今の殺人事件と昔の殺人事件。今の容疑者と昔の容疑者。何故ジェイクは殺されたのか、何故アークスは殺されたのか。

 「だから車は止めましょうって言ったんですよ。最近の交通事情を把握しないのに毎日毎日車での移動に固執するから」

 「そうだな」

 女が現場から持ち去った鞄には何が入っていたのか。何故アークス達は殺されたのか。どうして自分はアークスを辞めたのか。どうして都市警備局を次の仕事に選んだのか。

 「そもそも、マスターと私だけで曖昧な情報を頼りに人探しなんて可能なのですか?」

 「そうだな」

 ダーカーに襲撃され、傷ついた街がある。ダーカーから宇宙を守ろうとするアークスがいる。街を守ろうとする者がいて、宇宙を守ろうとする者がいる。そのどちらも何かを守ろうとするという意志では変わりはないはず。なかったはず。なかったと思う。なかったと思いたい―――なら、俺はどうなのか。

 「……今日は良い天気ですね」

 「そうだな」

 別に青臭い事を考えているわけじゃない。ただ漠然と思ってしまう事もある。今だけじゃなくて、昔からずっと。損得の感情だろう。守って何になるのか。守ろうとする意志が己の中から生まれたのか、それとも他者と周囲からインプットされたコードになるのか。そこに疑問を持てば生まれる損得の感情。守って何になる。救って何になる。自分が何かになるかは他者が決める。仮に英雄になるとしても、それは他者がそう呼ぶだけで自分自身で英雄は名乗れない。名乗って何になる。名乗って何の得がある。

 「雨が降ってますが、良い天気ですね」

 「そうだな」

 アークスになると決まっていた。そういうものだと、そういう流れだと思っていた。そこに選択したと思い込んでいる自分だっていた。実際はそうでないと言い聞かせる自分もいた。その流れに逆らうのが面倒だと思う自分がいた。その流れを肯定する他人もいた。

 「……マスター、何かありましたか?」

 「……何かになるって、結構難しいもんだと思ってな」

 「哲学ですか?随分と似合わない事を考えますね」

 「―――お前は、自分がサポートパートナーである事をどう思ってる?」

 「急に変な剛速球を投げますね」

 流れの中で決まった生き方があるならば、決まっている事が前提で生まれているモノだってある。用途により生み出された道具がそうであるように、アークスの為に生み出されたモノだってある。

 「別にどうも思いませんよ。私は生まれた時から、生まれる前からサポートパートナーという型として存在しているのですから」

 「それを不満に思った事はないか?もっと別の……なんていうか、」

 「ヒューマン、キャスト、ニューマン、デューマン、もしくはその他として生まれたかったか、という話ですか?特に思った事はありませんよ」

 それは、

 「それはそういうモノだからか?」

 それは諦め以上に残酷な、選択する自由すらなかったという事ではないだろうか。

 「マスター、貴方が何を言いたいのか真に理解は出来ませんが―――」

 車がゆっくりと動き出す。

 「貴方も知っている通り、私達サポートパートナーはマスターである方の為に生み出され、その事に疑問は抱きません。生まれた時は皆が並列です。個性も同等で性格も同等です。自分で言うのもなんですが、非常に面白みのない存在だと思います」

 多分、先で詰まっていた車両が良い感じに空いてきたのだろう。

 「そんなつまらなかった私は、マスターと一緒にいる間に徐々に他と個体差を持っていきます。経験を積み、知識を得て。それは戦闘とは別のマスターというモノを知る事で変わって行くのです」

 ゆっくりとアクセルを踏む。

 「結果、此処にいるサポートパートナーは貴方の大好きなキュートな天使になったのです」

 「自分で言って恥ずかしくないのか、それ……」

 「いいえ、ちっとも。例えそうなっていく機能として、当たり前の結果だとしても、私が今の私になったのは、貴方に相応しい私になる為です。ほら、こう言うとなんか安っぽいラブストーリーみたいじゃないですか?そんな安っぽい事に幸福を得られるのが私です。こんなお得な相棒が、貴方の相棒です」

 他人から与えられた機能でしかない。そんな風に思い込む様に作られただけの人形かもしれない。結果が先に与えられ、仮定を考えるつもりになった一直線の道かもしれない。

 それでも、

 「今こうして此処に存在するアンジュという個体は、貴方にとって別の何かになっても問題ないモノですか?ちなみに私はそうではないと自負しています。だから、私は別に他の何かになろうなんて思ってませんよ」

 「……確かにお得だな、お前は」

 「納得して頂いて光栄です―――マスター。貴方が何かになろうとしても、私はアンジュというサポートパートナーであり続けます。なろうとする間も、なったとしても、なれなかったとしても、その場所には必ず私はいます」

 少し進んだが、また車は止まる。

 「やっぱり車で行くより徒歩のほうが早いかもな……歩くか」

 「別にいいのでは?」

 「時間は有限だろ」

 「有限でも無いわけではありませんので」

 「それじゃ、のんびり行くか」

 「怒られるのは私ではなく、マスターなので問題ナッシングです」

 進んでは止まり、止まっては進みの繰り返し。

 「―――俺は、まだアークス側なんだとよ」

 「では、出戻りしますか?」

 「再々就職は面倒だし……頑張っていくさ。お前は最後までついてきてくれるんだろ?」

 「給金次第ですかね」

 あぁ、そう言うだろうよ、お前なら。

 

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