イレイザーヘッド改め相澤に招集されグラウンドに集まった面々は、個性の使用を許可した体力テストを指示された。
ふむ、確かに個人差が酷いからと個性の使用した体力テストは今までしたことが無かった。
項目はボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈の8種類。
元々の私の身体能力は身体が成長し切ってないこともあり普通なら最下位確実だろう。
しかし個性を使って良いのなら……そうだな、半分くらいは超人的記録を出せるだろう。
気楽にいこう。
「実技入試の成績トップはデグレチャフだったな。お前個性抜きのソフトボール投げ何メートルだった」
「……7メートルだ」
「は?」
「7メートルだ!」
……なんなんだこの羞恥プレイは!
身体を鍛えようにも成長段階での過度な負荷は身長が伸びなくなる恐れがあるからと制限をうけて早5年。一応これでも平均値だ。小学生の!
「ちっちゃい……」
「子供?個性の影響かな」
出鼻を挫かれたような表情を浮かべた相澤は、ざわざわし出す生徒をひと睨みして黙らせ軽く咳払いをした。
「……じゃあ個性を使ってやってみろ。思い切りだ」
この相澤と言う男、私が8歳児ということを本格的に失念している気がする。
要望にお答えしてフルスロットルだ。……決して八つ当たりじゃない。
ふわりと浮くボールにいつもの如く空気を纏わせ、簡単には破裂しないよう調節する。
普段は銃弾のような使い方しかして来なかったため、正直どこまで距離が伸びるか分からない。
だから、出来るだけ速く。
座標はそうだな、被害が出ぬよう太陽に向かって。
「主よ、その御業を我に貸し与えたまえ!」
───撃つ!
音速の勢いで手元を飛び出していったそれは、直ぐに視認が出来なくなった。
……投げたは良いが、破裂してないかの確認が取れないのはマイナスだな。
ピピ、と相澤の手元の記録表に数字が映し出される。
───1700メートル。対物ライフルの射程と同じくらいか。まぁまぁだな。
「まずは自分の最大値を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ」
わぁっと生徒間から歓声が上がる。私とは違い、中学時代まで大っぴらには個性の使用を許されていなかった人達だ。普段見ることの無い大記録に、「面白そう」とやる気満々だ。
「面白そう……ねぇ。ヒーローになるための3年間、そんな心積りで過ごすつもりか?
───よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」
「「「はぁっ!!?」」」
「これから3年間、雄英は全力でお前達に試練と苦難を与え続ける。更に向こうへ……Plus ultraさ」
───くそったれ。
相澤消太の除籍処分の実績が飛び抜けて多いのは在校生にとって周知の事実だ。
覚悟していなかった訳では無いが……ここまであからさまかつ一方的とは!
入試もそうだが、十人十色の個性をたった8種目で推し量るなんてそれこそ非合理的。入試では結局レスキューポイントという救済システムがあったようだし、今回も似たようなものだろう。つまりどれだけ己の個性を見極めることが出来るか。向いていないからと敵前で勝負を諦めるような人材はいらないということだろう。
しかし最下位などというアバウトな表現では、クラスメイトの能力を知らない今気が抜けたものでは無いじゃない。
Plus ultra……ねぇ。
向上心ある若者がいる前で口に出したりはしないでやるが、意欲があればなんでも限界点を超えられると思っているその脳筋的思想がもう気に食わない。
根拠と実績をご提示願いたい。
は、個々の意欲実力に依存する?そんな不確かなものが教育というビジネスを確立していけるとでも?バカバカしい。
やはりヒーローの精神とやらは私には永遠に理解出来そうに無い。
◆
体力テストが始まった。
50m走をざっと見るに皆個性も強力だが、己の個性の使い道を探し出すのが上手い。得意は得意として、苦手でも普通以上を目指して副次的な個性の使い方を。
……まずいな。
私の飛翔の個性でどうにもならないのは上体起こしと反復横跳び。例え他の競技で超記録を出しても、その競技に特化したような個性の奴がいれば敵わない。そしてこの2つでは十中八九私の記録は最下位……。
個性ハンデ有りとはいえ、15歳と8歳を同じ土俵で競わせること自体なんだか違う気がするのだが。
「次、デグレチャフと常闇」
「アイヨ!」
「うぉ」
やけに馴れ馴れしい黒い物体が喋った。個性……個性かこれ?
まぁいい。 スピード勝負にはこの個性も一日の長がある。ふわりといつものように身体を浮かせ、準備はOK。
ピッ
『───3.08』
スタート音と同時に飛び抜けてやる。
「凄い!」
「また大記録だ!」
あまりに速いと止まれなくなったり着地が大変だからと少し加減したが、その結果が足にエンジンを搭載した見るからに脚力特化の個性持ち男子に見劣りしない結果だ。まぁ悪くはないだろう。
握力測定。
「おい」
ミシミシ……。
「おい、デグレチャフ。やめろ。壊れる」
バキ。
「「あ」」
個性をこんな使い方はしたことが無かったが、適当な所に握力計を立て掛け上から延々と空気の圧力をかけてみた。
結果、測定不能に。
立ち幅跳び。
「先生、飛べますが私」
「……」
「少なくともこの授業時間中は飛び続けられますが、私」
「デグレチャフ、測定不能」
疲れるから試したことはないが、気力が保つ限り飛び続けることは可能。半日くらいは大丈夫そうだ。
死んだ魚の目をした相澤は、測定不能を言い渡した。
ボール投げ。
もう一度投げるのも面倒だったため、先程のデモンストレーションの記録をそのまま流用して構わない件を伝え、しばしの休憩時間を楽しむ。
……今日はいい天気だ。4月の、まだギラギラしていない爽やかな春の陽気が優しく降り注ぐ。よそよそと穏やかな風がふわりと頬を撫でた。正直このまま日光浴でもしていたいくらいだ。
穏やかな日常に身を任せ、悠々自適なエリートライフを満喫するはずだったのに、なんで私は今ここにいるのだろうな……。
「緑谷くんはこのままではまずいのでは……」
「ったりめーだ!!無個性の雑魚だぞ!!」
ふと意識を浮上させると、次は緑谷出久の番だった。周囲の話を盗み聞きするに、彼はまだ1つも超記録を出せていないらしい。
緑谷出久。
どこまでもモブらしい、大人しそうな少年。小声で何か呟く精神異常者のような一面もあるが、基本は真面目で規範的な人間と言っていいだろう。
彼とは入試の際ちらりと声をかけただけだが、気も弱くオドオドとした態度。雄英のヒーロー科に入学出来るほどの実力者とは悪いが到底思えない弱者然とした態度だった。
……彼は、もう駄目かもな。
緑谷がボールを投げようとした瞬間、一瞬火花のようなものが弾けた気がした。しかし記録は伸びず46m。相澤が何やら指導までし始めた。
相澤消太は合理的主義者だ。時として採算度外視の行動も取るが、それは彼がヒーローなのだから仕方が無い。雄英に数いる大人の中では比較的マシな部類。……しかし無駄を嫌う彼が、わざわざ個人指導か。見込みがあるのを分かっているのか、はたまた見極めたいほどの何かがあるのか。
暫くして指導を終えもう一度投げることになったらしい緑谷は、少し考え込んだようにしてからぎゅっと前を向いた。意思の強い瞳。前も思ったが眼が印象に残るな、このウッドヘッドは。
───瞬間、とんでもない衝撃波を伴い空高く舞うボール。
指を負傷したようだが、その記録705.3m。まだ動けます、と涙ながらに宣言した。
相澤の表情が一変したのが遠目からでも分かった。
あぁ、これは確定だな。今回の体力テスト、脱落者は出ない。残りの種目は持久走、上体起こし、長座体前屈。
緑谷の個性は筋力増加系、そして負傷を伴うことから残りの種目での活躍機会は無いだろう。つまり緑谷がトータル最下位。
しかし今、相澤は奴を見込みありと判断した。何がどうしてそうなったのか知らんが、もう私が全力を尽くす必要もあるまい。
しかし怪我を負い、痛みで泣きそうになってすらいるのにそれでも笑うとは。ヒーローも、ヒーローを目指す人種も心底気持ちが悪い。
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