「作戦は」
「だいじょーぶ!これ使ってね。触っちゃだめだよ、私以外触ると肌、溶けちゃうから!」
「わかった」
ビルをぶっ壊すほどの大乱闘を見せたA対Dチームがかなりこってりと絞られた後、場所を移して戦闘訓練は再開した。
緑谷達に触発されたのか全員集中していて、授業自体は良い緊張感だ。
……参ったな。全員の視線が集中する最終チーム。予想以上に善戦する生徒達。手抜きが過ぎると減点されかねん。
となれば策は1つ。やる気の芦戸には悪いが短期決戦でさっさと決着をつけてしまうに限る。
遂に第5対戦。私達ヒーローチームと常闇・蛙吹の敵チームの戦闘訓練がスタートした。
「ビルの見取り図は覚えたな。芦戸は索敵役の足止めを優先。どちらか発見し次第詳細な居場所の連絡を。窓際は探さなくていい」
「がってん!で、間取り図的にどうしても広くなりがちな窓際の部屋はデグちゃんが飛んで核を探すんだよね!」
作戦はこうだ。2人ペアであるなら1人が守備、1人が索敵に回るのが定石。特に私の殺傷性の高く飛べるという個性を知る2人は核に私を近付けないよう索敵は必須だろう。
核の置ける部屋は見取り図的に窓際の部屋と大部屋のみ。あとは狭い物置しか無いため大きな核を置くのは物理的に難しい。
なら私は外から核及び守備役の発見を。芦戸は酸を使い隠密を徹底しつつ索敵役の発見、足止め及び確保だ。
芦戸から貰った酸の詰まったボトルをいくつかベルトに納め、スタートの合図と共に体を浮遊させる。
「勝とうぜーデグちゃん!」
「当たり前だ」
◆
常闇踏陰side
「それじゃあ私は索敵に回るわ」
「頼む蛙吹。デグレチャフは素の体こそ幼いが個性は凶悪だ。核に近寄られる前に確保したい」
「わかったわ。核の守備はお願いするわね」
「承知」
「アイヨ!」
演習のスタートの合図と共に部屋を出ていった蛙吹。
核の保管場所に決めたのは、最上階の角部屋。階段からもっとも遠い部屋だ。そして制限時間いっぱいビル内の荷物を窓ガラス側に寄せ中の様子が外から見えないようにした。時間的に全部の部屋を……とはいかなかったが、ダミー部屋をいくつか用意出来た。
外からの索敵と侵入は困難だろう。諦めて室内での索敵に移行してくれれば御の字。最悪蛙吹が捕えられたとしても、光以外大した弱点を持たないダークシャドウなら勝機はあるはずだ。
問題は芦戸の個性だが、体力テストで目立って個性を使っていなかったため不確定要素が多すぎる。そこは適宜───。
「ケロッ!!?」
「───蛙吹!?」
蛙吹の悲鳴。
もうやられただと!?まだ1分と経っていない!こんな短い時間で一体どこから、
「残念私だ」
───聞こえたのは背後から。
「デグレチャフッ……!!?」
慌てて振り向いた時には音もなく侵入したデグレチャフが優雅に室内を舞い、既に核へと手を伸ばしていた。
しまった、蛙吹の声に動揺し核から目を離して……!
「回収、と」
『ヒーローチーム、WIN!!』
実に戦闘時間23秒。あっという間の出来事だった。……手も足も出ないまま終わってしまった。
『ちょっとデグちゃん〜私全く活躍出来てないー!!』
「すまんな芦戸。予想以上にわかりやすい所に核があったものだから」
インカムから漏れ聞こえる芦戸との会話。わかりやすい所……だと?
「教えて欲しい、デグレチャフ。核の場所がわかりやすかったとは一体」
「あぁ何、室内からならここが1番時間稼ぎが可能だろう?
いくつかの部屋で中を見れない工夫があったことには驚かされたが、それなら1番可能性のある所から虱潰しするだけ。結果、初めに当たりを引いただけさ」
上を指さしたデグレチャフの先には、酸で溶かされた天井があった。
……なるほど、個性で屋上に着地し、そこから芦戸の酸を使ったのか。これなら隠密性を持って室内への侵入が可能だ。
「ん……?しかし蛙吹は。蛙吹はどうした。捕らえたのだろう。姿が見えないが」
「ただの声真似だよ。ちょっと動揺させて核から注意を逸らせたいだけだったんだが、予想以上に上手くいったな」
ふふん、と得意気に笑うデグレチャフ。あの短時間、一瞬の隙にそれを考え実行したのか。短い時間でしっかりと芦戸と作戦を立て、予想外にも対応し立ち回る応用力。
───小さな体に見合わぬ豪胆ぶり。精進せねば。
「恐れ入った。完敗だデグレチャフ」
「いや、こちらも勉強になったよ常闇」
ちなみに講評では芦戸に活躍の場すら無く終わらせてしまったことに対してオールマイトからのお小言があった。ヒーローとしては最適解のため減点では無いが、授業でもあるのだから学びが無いと本人のためにならない、と。
似たようなことを轟も注意されていたな。当人らはどこか不服そうにしていたが。
*
ちなみにわからなかった人のために念の為。
蛙吹梅雨(CV.悠木碧)
ターニャ・デグレチャフ(CV.悠木碧)
……声優ネタやってみたかったんだい!