幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

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第15話

新学期が始まり数日後。

オールマイトが雄英高校の教師に就任したというニュースは全国を騒がせ、校門には大量のマスコミが押し寄せていたらしい。

 

 

「デグレチャフさんは大丈夫でしたの?」

「私は外に用は無かったからな。実害は無いさ」

「そうでした、デグレチャフさんは雄英がおうちなのでしたね」

 

 

 

雄英高校の敷地内に住居を構える私に、通学の概念がそもそも無い。いつも遅刻ギリギリな芦戸辺りからは非常に羨ましがられたが、複雑な事情を察してか誰も深く聞いては来なかった。

私以外にも親がNO.2ヒーローエンデヴァーを持つ轟、ヘドロ事件の被害者として一時有名人だった爆豪等一般家庭とは違う事情を抱えた人はいるものの、一々突っ込んでくる人は皆無。

そこは腐ってもヒーロー候補生というべきか、引き際を弁えている。

 

 

私の場合雄英に引き取られることになった事件について完全非公開のため、話すことが禁じられているからまず説明が面倒なのだ。

オールフォーワンという巨悪の存在は表沙汰にならない方が世間のためだとの判断らしい。あのクソが公表されようがされまいが私にはどうでもいい事だが、この複雑な身の上をどうしても部外者に説明しなければならない際《根津校長の知り合いの兄の息子の子供の友達が個性事故を起こし引き取ること云々》と非常に面倒な長セリフを言わねばならないのだ。正直覚えていない。

 

 

 

「そういう八百万は大丈夫だったのか」

「私は送迎して頂いたので」

「そうか」

 

「あぁ、そうですわ。こちらデグレチャフさんにぜひと。我が家お紅茶ばかりでコーヒーは折角良いものを頂いても持て余してしまいますの。お好きでしたわよね?」

「……うむ!」

 

 

手渡されたのはコーヒー豆の入った高級感溢れる袋。漏れ出る芳醇な香りは素晴らしく、ランチラッシュが淹れれば最高の1杯になること間違いなしだろう。こんな高級品、間違ってもポンポンクラスメイトに渡していいものでは無い。

 

言葉の端々から溢れ出る、さぞ良い家庭で育ったのだろう気品。世間知らずな面もあるが、私はこいつが嫌いではない。……賄賂に絆されている訳ではない。断じて。

 

 

 

 

 

「今日は学級委員を決めてもらう。選出方法は自由。なるべく早くな」

 

俄に沸き立つ教室に私は信じられない気持ちで鞄から読みかけの書籍を取り出した。

ヒーロー科の学級委員長は集団を導く、トップヒーローの素地を鍛えることが出来る役目なんだそうだ。ヒーロー希望ですら無いから私には不要な役目だな。

というか、トップの資質が無いやつはいくら委員長になろうが無駄だし資質があるやつは役割を与えられなくても中心人物になり得る。

残るは面倒な雑用係としての1面だけ。

何故みんなやりたがるのだか。

 

 

結局立候補では埒が明かず投票制になったらしく、小さくカットされた紙が配られた。暫し誰を記入するかで迷ったが、八百万の名前を書いてやる。コーヒーの礼だ。

 

 

 

 

「じゃあ開封しまーす」

ざっと開封し黒板に名前、横に正の字を書いていくもまぁ見事に一ばかり。みんな自分に入れすぎだろう。

 

「つぎー、デグレチャフ」

……誰が入れやがった。

一瞬投票した奴を呪ったが、私は1票のまま変動することなく投票は終わった。ほっとしつつ黒板に目を向けると、唯一複数票獲得しているのがちょうど2人。決まったな。

 

「結果!緑谷3票、八百万2票」

「ぼ、僕3票!?」

「わ、私に2票……!?」

 

二人とも似たような反応で驚いていたが、相澤に促され委員長・副委員長に任命されたのだった。

 

 

 

 

 

「それにしても驚きましたわ。私デグレチャフさんに票を入れましたのに」

「お前か元凶……!」

 

 

昼休み。いつもの様に1人でランチラッシュのメニューを堪能しに行こうと席を立つと、八百万とイヤホン女……耳郎に昼食を共に誘われた。これが集団行動をしたがる女子の習性というものか。

断る理由も見つからないため3人で食堂に赴き料理に舌鼓を打っていると、八百万が件の問題発言をした。白米が口から飛び出す所だったぞ。

 

 

「入試、体力テストと好成績を残し、更にあの戦闘訓練での機転。多を纏める才がデグレチャフさんにはあると思いましたの」

「……私は面倒事はごめんなのだが」

「そ、そうでしたのね。でしゃばってしまい申し訳ありません……」

 

「まぁまぁ二人とも。じゃあデグレチャフは誰に入れたの?」

「八百万だ。本人が私に入れたのならもう1人投票したやつがいるようだがな」

「そうでしたの……!」

ありがとうございます!と脂肪の塊が突撃してきた。デジャヴを感じる光景だ。

「納得だけどね。ヤオモモそういう委員長的な?似合ってるよ」

「耳郎さん……!私、精一杯頑張りますね!」

 

 

むんっと上を向きぷりぷりしている八百万をなんだか温かい目で見ている耳郎。保護者か。

生ぬるい空気が流れていた、その時だ。

 

 

 

 

───セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください

 

「何事ですの!?」

唐突な警報にざわざわとどよめく生徒達。……セキュリティ3?侵入者か。避難訓練でならば聞き覚えのあるワードだが実際に聞くのは初めてだな。うむ、今日の味噌汁は魚の出汁がよく効いてる。

 

「デグレチャフさん、のんびり食べていないで!?これは一体なんなのですか!」

「侵入者を知らせる自動アラートだ。校門が突破されたようだが、すぐさま通報が入る。

焦っていても仕方がなかろう」

「侵入者……!?なら早く屋外に避難しないと!」

「えぇ……」

 

 

……まだ半分も食べていないのだが。

というかプロヒーローがうじゃうじゃいる我が雄英高校。ヒーローの卵、仮免許を持ち戦闘許可さえ下りればセミプロとして行動出来る人材も合わせれば、これほど安全な学校も珍しいだろう。

敵の侵入?オールマイトすらいるんだぞ、秒殺もいい所だ。

何故こんなに慌てる必要がある。万が一強大な敵と相見えることになっても校訓とやらのPlus ultraで切り抜けてみたまえ。ヒーロー科じゃない?自分の科で学んだ精一杯で限界点とやらを超えてみせろ。

その上で死ぬのなら本望なんだろう?

 

 

「グダグダせずにすぐ行動!どんな状況だろうと避難指示が出ているのですから私達ヒーロー科が率先して動き規範となるのです!」

 

 

そんな優等生達に引っ張られ私の生姜焼き定食はその場に置き去りになってしまったのであった。

結局マスコミが勢いあまって侵入してきたというのだから始末に負えない。不法侵入した時点で犯罪者、敵だろうに。結局注意を受けた程度でお咎め無しだったようだ、無能な警察め。

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしたらこんなことがマスコミに出来る?」

 

マスコミをどうにか退けた後、ボロボロに崩れ去った雄英高校の校門を見てあっけにとられる教師陣達。

まるでどんなに堅く護ろうとも、お構い無しに侵入してやるという宣戦布告じみたものすら感じる。

 

「唆したものがいるね。邪なものが入り込んだか、もしくは」

 

 

───次は 生徒を

 

 

「……みんな、警戒を徹底するように。何も無いならそれが一番だけれどね」

 

校長はそう静かに言い放つ。

これだけでは終わらない、そう直感が告げている気がした。

 

 

 

 

*

 

 




やぁ、世の不条理な出来事に絶望し自ら社会という枠組みから遠ざかった皆様。人を傷付けるのは爽快ですか?人を殺すのは愉快ですか?
教えて欲しいのです。自らの欲を満たすだけのその行為の意味を。その先にあるものの真髄を。
ご挨拶が遅れました、ターニャ・デグレチャフであります。
次回、USJ襲撃事件編。
では、また戦場で。

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