幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

16 / 29
USJ襲撃事件編
第16話


 

マスコミ乱入から数日後、ヒーロー基礎学の授業。

ここから私の平穏はゆっくりと崩れ去っていくこととなる。

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが俺とオールマイト、もう1人の計3人体制で行う」

「何をするんですか?」

「災害水難なんでもござれ。レスキュー訓練だ」

 

レスキューか。

私の個性で被災者を救出するのは正直向かない。今まで超スピードで飛ぶ、飛ばすような個性の使い方しかしていないから人に使うとうっかり殺してしまいかねん。

軽率に除籍するマンがいるとなると中々心臓に悪い授業になりそうである。憂鬱だ。

 

「レスキューかぁ。今回も大変そう」

「バッカお前これこそヒーローの本分だぜ!鳴るぜ腕が!」

「訓練所は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。コスチューム、武器の使用は任意だ。以上、準備開始」

 

うむ。なら迷うことなく体操着だな。あのフリルは出来ることなら着たくない。コスチュームに個性の補助的要素があれば別だが、アレにそんな気が利いたものは付いていない。

 

コスチュームの入ったケースを持たずに移動を始めた私に、八百万が声をかけてきた。

「あら、デグレチャフさんはコスチュームを着ませんの?せっかくふりふりで可愛らしいですのに」

「あれにコスプレ以上の性能があれば着たさ」

「まぁ……そういうことでしたら身軽な方がよろしいですわね。でも応急処置用の救護アイテムくらいは持って行ってもよろしいのでは?」

「む、それもそうだな」

 

確かに腰のベルトポーチには応急処置用の救急道具等が僅かながら入っている。レスキュー訓練なら持っていて損は無いだろう。

 

私以外にもコスチュームが初っ端の授業で大破した緑谷が体操着だったが、他は特に大した変動は無かった。轟の半分頭まで覆う氷のようなコスチュームが首までになっていたり、爆豪が片方小手を外していたり。敵退治でない分機動性を重視したのだろう。

 

 

 

バスに乗り込めば遠足前の子供の如くみんながお喋りに興じ始める。元気なことだ。

 

「───デグちゃんの個性も人気出そうだよね〜!」

「……ん?呼んだか」

 

全然聞いてなかった。学生のやたらと高いテンションは性にあわない。

「だーから!轟と爆豪もだけどデグちゃんの個性も凄いよねって。飛翔?だっけ。妖精みたいにびゅーんって!」

「あぁ、個性の話か」

「物も動かせるし自分も飛べるし、今回のレスキュー訓練も大活躍だねきっと!」

「そうでもないさ。例えば麗日」

 

うち?とほやんとした顔の麗日がこちらを向いた。

 

「私の個性は物体の重力を奪い、そこに任意の速度を付与出来る。けれどその物体の落下地点は予想は出来ても例えば風、雨などの気候で変動が起こり得るがそれに私は干渉出来ない。お前は違うだろう」

 

「うん、私の個性は重力を奪うんじゃなくて無重力状態にすることだからね。

デグレチャフちゃんみたいにスピードは出せないけど任意のタイミングで個性解除出来るよ、風とかの影響受けちゃうのは同じだけど。発動条件も同じだし似てる個性だけど、やっぱちょっと違うよね」

 

なるほど、とヒーロー科一同が頷く。約1名ウッドヘッドはおもむろにノートを取り出す。

そう、ことレスキュー訓練に関して麗日の個性は強力だ。そして私の個性は意外と使い勝手が限定される。戦闘なら得意なのだがな。

 

「発動条件?なんか毎回呪文みたいなの唱えてるのは違うのかよ?ポーズ?」

 

ポーズな訳あるか殺すぞ雷頭。

……とは口にはギリギリ出さなかったものの殺気はしっかり伝わったようだ。ヒッと小さく悲鳴を上げられる。失礼な。

 

「……ポーズじゃない。アレを言わねば発動出来んのだ。忌々しいことにな」

「じゃあ触ることと詠唱することが発動条件?それってとっさの個性使用は出来ないってことか発動に時間がかかるのは結構なデメリットだぞ……でも麗日さんみたいに使い過ぎると具合が悪くなるようなデメリットに比べたら上限がない点から長期戦では有利か……でも例えば水中、声が封じられている状況なんかだと」

「ブツブツうるさいぞ緑谷」

「うわぁっ!」

 

思い切り蹴っ飛ばして考察を止めさせたが、まぁそういうことだ。神への祈りを物理的に捧げることが出来ない状況下では私は無個性と同じ。

発動に時間がかかるのもデメリットとして挙げられる。モーション無しに個性が発動出来る人と比べてどうしてもワンテンポ遅れてしまうのが常だ。横で似たようなデメリットを持つ八百万が大きく頷く。

「個性だけに頼らず、己の心身を鍛えることも重要ですわね!」

「……そうだな」

 

とりあえず私は心身を鍛える前に身長が欲しい。カモン成長期。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん待ってましたよ!」

車で移動すること10分、訓練所に到着した我々はスペースヒーロー13号に迎えられた。

13号は災害救助を主に活躍の場とするプロヒーロー。レスキュー訓練の監督官としてはぴったりの人材だろう。

 

中の施設はドーム状の室内になっており、テーマパークの如く災害現場を再現した箇所が点在していた。

「すっげぇ!USJかよ!」

「水難事故、土砂災害、火災、暴風エトセトラ。ありとあらゆる事故・災害を想定し僕が作った演習場です。

その名もウソ(U)の災害(S)や事故(J)ルーム!

略してUSJ!」

 

……色々な法に抵触していないか不安になったのは私だけではないだろう。

大丈夫なのかそれ、色々と。

 

「オールマイトは?ここで待ち合わせのはずだが」

「先輩それが……」

 

生徒から少し離れたところでボソボソと打ち合わせを始める。どうせあの脳筋のことだ、通勤途中に見つけた敵を追っかけ回していたら授業に間に合わな〜いとかそんな所だろう。金を貰っておいて授業をサボるとはとんだ新人教師だ。

 

「さて、オールマイトは諸事情で遅れます。先に始めましょう」

「仕方が無いな」

 

若干イライラした様子の相澤はため息をつくが、そのまま2人体制でのスタートとなった。

「それでは始める前にお小言を1つ2つ、……3つ4つ5つ6つ……。

皆さんご存知かと思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

「えぇ。しかし人を簡単に殺せる個性でもあります」

 

 

確かにな。なんでも吸い込み塵にする個性は私とも相性が悪い。というか相性が良い相手は稀有なのではないだろうか。

相手は一応ヒーローなため近付き格闘戦に持ち込めば殺さないよう手加減せざるを得ない。しかし中・遠距離の攻撃は尽くアウト。本人の不意を突ければまだ可能性はあるが。

……本当、敵にいなくて良かったと思う人材の1人だよ。

 

「人を殺せてしまう個性……みなさんの中にもそういう個性を持った人はいると思います。

超人社会は個性使用を資格制度の下厳しく管理し規制することで一見成り立っているようには見えます。

しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる危険な個性を個々が持っている、そのことを忘れないでください」

 

13号はぐるりと生徒らを見渡した。

 

「相澤先生の体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体感したかと思います。

この授業では心機一転!人命のための個性の活用法について学んでいきましょう。君たちのその個性は人を傷付けるためにあるのでは無い。人を助けるために在るのだと心得てくださいな。

───以上。ご清聴ありがとうございました」

「素敵〜!」

 

「ブラボー!」

 

13号の見事な演説に生徒が湧く。彼はヒーロー歴もだが、その性格柄生徒への指導歴も長い。今までで1番ヒーロー科の授業らしい程である。特にGペン殺しの新米教師には見習って欲しいものだ。

 

 

 

生徒の士気が上がった所で、それじゃあまず初めにと13号が声をかけようとした───その時だ。

USJの広場付近に、黒いモヤが発生したのは。

 

 

 

「黒い、モヤ……」

 

知ってる。

私は、あれを知っている。

 

 

 

 

───君は本当に面白いよターニャ……!

 

───君の友人が目の前で死ぬ時の顔を、ぜひとも見てみたい……!

 

 

 

暗い地下水道で発信機を付けられていた私達を追い、黒いモヤから転移してきた巨悪。

施設の子どもを全員殺し、私の目の前でソーヤを殺した、

 

 

 

「……オールフォーワン……!」

「ひとかたまりになって動くな!13号、生徒を守れ!」

 

モヤから現れたのはアレでは無くチンピラ風情ばかりが数を成しているだけ。

でもそんなことはどうでもいい。

───奴は、まだ生きていた?転移なんて稀有な個性、そういない。

 

あぁ存在Xよ、最近雲隠れしていたのはこのためか。

私に個性を与え、奇しくもヒーローの道へ引き摺り込んだ巨悪。私の安寧に立ちはだかる最大の敵。

また、私の前に立つのか、お前が。

 

思い通りにならない己の表情筋が、醜く歪んだ気がした。

 

 

 

*


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。