幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

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第19話

 

 

飯田が飛び出した後、もうあまり時間が無いと黒モヤは舌打ちしながらリーダー格へ報告しに出入口から消えた。

……奴はリーダーでは無いらしい。副官、参謀のようなものか?

 

 

「13号先生!」

 

瀬呂が揺さぶるも意識が無い。死んではいないようなのが幸いか。

 

 

 

「他のみんなは大丈夫か?」

「ねぇ見て……相澤先生が!」

 

芦戸の悲鳴じみた声に全員が広場を見る。

……なんだ、アレは。

 

 

 

他の敵とは一線を画す、異様な風貌。脳みそが露出し全身の皮膚は禍々しい色を放つ。

どう見ても人間とは思えないそれは正しく化け物だ。

それに甚振られたイレイザーが、血を流し地面に伏せっていた。

 

 

「……アレ、人間なの……?」

「分からない……」

 

あのままではイレイザーの命が危ない。

飯田が戻るよりも前に死ぬ可能性が高いだろう。

……しかしそんなことよりも。

大音量で私の本能が警告音をかき鳴らす。

 

 

あの脳みそ敵、あれはなんだ。

本能が告げる危険信号。

あれは……。

 

 

 

「やべーってあれ。助けに行こう!」

「プロヒーローがやられた敵に俺たちが敵うのか!?」

「それは……でもっ!」

 

 

「───デグちゃん。先生浮かして助けること、出来る?」

「……私か?」

「うん。デグちゃんならここにいるメンバーの中で1番早く先生助けに行けるでしょ?」

「……可か不可かと言えば、出来るだろう。けれど救助したら最後、ここにいる全員が間違いなく標的になるぞ」

「でも先生死んじゃうよ!!」

 

 

キッと熱い瞳で見つめてくる芦戸。

己の身の安全よりも目の前で死にそうな人の救助を優先する。

……あぁ、立派だよ。お前は立派で私が嫌悪すべきヒーローだ。

 

ここで見捨てるのは簡単だ。しかしイレイザーが死んだ後モヤの言った『散らして嬲り殺す』という目的が本当ならば、次に標的になるのは敵に囲まれていない上に居場所の割れている私たちの可能性が高い。

どちらにせよ相見えることになるのなら、準備万端のあれと対峙するのと不意を突く、どちらが吉か。

 

 

 

「……わかったよ。戦闘訓練の詫びだ。手助けしてやろう」

「待てよデグレチャフ、お前具合悪いんじゃ」

「心配無い。───すぐ戦闘に移行するだろう。諸君、準備は良いかね」

「任せろ!」

「うん!」

 

 

目標はイレイザーヘッドの救出。及びその後の戦闘へ移行し、倒せなくとも生き残ること。

時刻はプロヒーローの応援が来るまで。

 

芦戸に絆された訳では無い。あの脳みそ敵……あれが妙に気になる。

 

 

……最悪の予想が、外れればいいのだが。

 

 

 

「───去ね、不逞の輩よ。ここは我らが地、我らが空、我らが学び舎。汝らが愛すべき大地に不逞を為すというのならば、我神に祈らん。

主よ、我らを救いたまえ。主よ、我に敵を撃ち滅ぼす力を与えたまえ。信心無き輩に主の僕が侵されるのを救いたまえ!」

 

 

 

忌々しい戦争が、始まった。

 

 

 

 

 

イレイザーヘッドside

 

 

 

USJ、中央広場にて。

 

「個性を消せる……素敵だけどなんてことないね。圧倒的な力の前では、つまりただの無個性だもの」

 

ぐしゃ、と骨と肉が潰れた音。

痛覚なんぞとっくの昔に麻痺していた。どこか他人事のように自分の命がこぼれ落ちる音を聞いている。

 

全身に手を纏った見るからに危ない雰囲気を醸し出している男は、脳を剥き出しにした化け物、『脳無』を使役しそう言った。

確かに個性は消したはず。

……つまり素の力でオールマイト並みのパワーを誇るというのだ、この化け物は。

 

 

 

血を流しすぎた。

視界が安定しない、手足が冷たい。意識が飛びそうだ。

 

……気を失っては、死んでは駄目だ。ここにいるプロヒーローは俺と13号の2人のみ。13号は災害救助を専門とするヒーローで手加減をしなければ相手を殺してしまう個性故に、対人戦闘は明るくない。

立たねば。

生徒を守れるのは、自分しか───。

 

 

 

「死柄木弔」

「黒霧。13号はやったのか」

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒が1名……逃げられました」

「は……?」

 

 

リーダーらしき男、死柄木は苛立ちに声を荒らげている。が、そうか。1人脱出したか。

プロヒーローの応援が来るのも時間の問題だ。

 

 

「さすがに何10人ものプロ相手じゃかなわない。あーあ今回はゲームオーバーだ。帰ろっか……」

 

ちらり、と手に覆われ殆ど見えない表情。しかし至近距離にいた俺には見えた。

 

───水難ゾーンからこちらを窺う緑谷達を、死柄木がターゲットにした瞬間を。

まずい。

 

 

「にげ、」

 

 

 

───ビュオォッ!!

言い終わる前に巻き起こったのは、風。

なんだ、新たな敵か、それとも……。

 

 

 

「全く、こんな時にまで生徒の心配か。つくづく不思議な生き物だなヒーローとは。えー、生きていますかイレイザーヘッド?」

「デグレ、チャフ……」

「生きてますね、結構。飛ばしますよ」

 

 

いきなり現れたデグレチャフは俺に触れ、俺の重力を奪う。

……助けに、来たのか。

わざわざ敵の親玉のいる、1番危険な場所に。死に損ないのプロヒーローを助けに。

 

 

「待てよお前。いきなり現れてなんなんだよ」

「死柄木弔、お気を付けて。彼女は手強いです」

「は……?あの幼児が?」

 

 

イラついたように死柄木が首を掻き毟る。

しかしデグレチャフは全くの無表情で彼を見つめた。その隣に待機している脳無と一緒に。

 

「……貴様が主犯格か。問おう。その黒い化け物はなんだ。見たところ理性どころか知性も無いようだが」

「いちいち偉そうなガキだな?あれは脳無、改造人間だ。俺の命令だけ聞く便利な化け物さ。お前なんか一瞬で殺せる」

「改造、人間……」

 

 

 

瞬間、デグレチャフの顔が歪んだ。

彼女の纏う空気が一気に殺意に満ちたのが分かり、敵2人も警戒態勢をとった。

 

 

「最悪を、考えていたのだがな。まさか予想が当たるとは。なんたる事だ」

「……は?お前何言って」

 

 

「私達は、あんなものを創り出すために生かされていたのか。あんな、化け物を。

───なんてクソッタレな世の中なんだ!?ははははは!!逆に愉快だよ存在X!私があんな知性の欠片も存在しない化け物に為っていたら、信仰どころでは無いではないか!!」

 

 

 

いきなり笑いだしたデグレチャフにぎょっとする。『あんなものを創り出すために生かされて』……?

敵連合を名乗る奴らとデグレチャフに何か関連性があるのか?

俺はデグレチャフの過去を殆ど知らな───。

 

 

「偉そうだったりいきなり笑ったり、意味不明だよお前。もういい、脳無。やれ」

「加減はするがあまり得意で無い。まあ瀬呂辺りにどうにか回収されてくださいイレイザー」

「戦うつもりか!」

「残念ながら相手が逃がしてはくれなそうなので」

「待───!!」

 

 

 

瞬間、再び聞こえた激しい風の音に意識を持って行かれる。

次に俺が目を覚ましたのは、全てが終わった後だった。

 

 

 

*

 

 

 


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