幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

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第21話

 

 

 

「───私が、来た」

 

いつもアメリカンな笑みを浮かべている脳筋は今、口を食いしばり厳かにそう宣言した。

 

 

とっさに緑谷の手助けをしてしまい手痛いしっぺ返しをくらった私は中々の重傷だ。

全く、失敗だったな。

目の前でクラスメイトに死なれるのは後味も悪い上に後から助けられただろう云々と問題にされると面倒だと手を出してやったのだが、それがこんな大怪我を招くとは。

左足はおそらく骨折、元々肺に空いていた穴はより大きくなり肋骨が何本か折れたようだ。骨が皮膚を突き破り出血も激しい。

 

 

……しかし悔しいな。あの脳無は私が闇に葬り去るつもりだったというのに。

美味しい所はヒーローにかっ攫われるというか。まぁオールマイト、あの時同じ場にいた貴様なら敵討ちを許そう。

 

 

超スピードで雑魚を散らし目の前に現れたオールマイトは

「また、こんな大怪我をして……」

と小さく呟いた。

 

知るか、好きで怪我した訳じゃないよ。

「……あの脳無は、私の同胞の成れの果てだ。楽にしてやって欲しい、頼む」

 

 

……血を流し過ぎたな。

オールマイトが確かに頷いた所で、私の意識は闇に落ちていったのだった。

 

 

 

 

 

 

「……デジャヴだ」

 

目を覚まし、目の前は白い天井。オールフォーワンと戦ったあの時と違うのは、寝ている場所が保健室だという所と身体の傷が殆ど完治していることと身体がかなりだるいことか。

 

前は治癒にリカバリーガールの個性を使うと元々栄養失調だったせいですぐ干からびて死ぬと言われ、結局完治に数ヶ月かかった。

……が、今回はきちんと治癒を使用しても大丈夫だと判断されたようだ。

苦しかった息も、折れていた骨も綺麗に治っている。若干のかすり傷はそのままだが、これもあと数日したら自然に治るだろう。

知ってはいたが、凄いなこの個性は。魔法か。

 

 

 

「おや、起きたかい」

「……リカバリーガール」

「全く、無茶するよ」

 

栄養剤だろうか。点滴が繋がる左腕をぼんやりと眺めながら、小さく謝罪を口にした。

やれやれとリカバリーガールがため息をつく。

 

 

「私がここに居るということは、ヒーロー側が勝利したのですね」

「そうさね。脳無をオールマイトが無力化、残りと戦闘が始まった瞬間増援が間に合い一斉検挙と聞いてるよ。……主犯格の死柄木と黒霧、あの2人は逃がしてしまったけどね」

「逃がした……?」

 

 

不祥事もいい所じゃないか。事件解決率トップクラスのオールマイトが増援もありながら目前で敵を取り逃がすなど。

あの脳筋め、遅刻した上に致命的なミスまで。

 

「生徒は個性の暴発で怪我をした緑谷以外は無事だよ。あってかすり傷程度。1番の重傷はむしろ君さね。さっきまでオールマイトと緑谷もここで寝ていたけど、歩けるようだったから帰っていったよ」

「そうか……」

 

 

外はもう暗く、満月がのぼっていた。

……八百万は、無事か。

私の身代わりになってワープゲートに連れ去られた彼女だ。死なれていては寝覚めが最悪になる所だった。

 

「言いたいこと、聞きたいことはたくさんあるよ。けど今は寝てなさい。まだ絶対安静だよ」

「……はい」

 

もぞり、と糊のきいた布団に身体を埋める。

正直眠くは無いが、目を閉じ思考を巡らせることにする。

 

 

 

今回現れた敵、死柄木弔率いる敵連合。

名前は究極にダサいが、つまり組織立って動く敵が現れたということだ。今まで敵は個人個人で動く小物が多く、あっても指定暴力団のいわゆるヤクザと呼ばれる存在が小さく息づいていたに過ぎない。

組織犯罪の先駆けがオールフォーワンだ。計画的に改造人間を作り上げるための組織を作っていた所をオールマイトらヒーローに頓挫させられたそれは、首謀者を変え名前を新たに復活した。5年の時を経て。

 

……オールマイトめ、奴は死んだんじゃなかったのか。

あんな化け物じみた個性持ち、倒したと思った後四肢を削ぎ落とし頭をミキサーにかけ内臓をひとつずつ解剖し丁寧に潰しでもしないと満足に死なないだろう。無駄な情けをかけたせいでまた面倒なことになった。

 

 

死柄木らも逃がしたというのなら、目的のオールマイトがまだこの雄英に勤務している限りまた襲撃があると見ていいだろう。

全く、優雅で平和な学生生活は何処なりや。来るとわかっているだけまだマシだが、本当にあの忌々しい存在Xは厄介事を起こすのが好きなようだ。

 

 

 

……次は必ず、殺す。

 

力不足な両手をぎゅっと握りしめ、そう固く決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

八木俊典side

 

 

 

「……今日は疲れたな、さすがに」

 

保健室を追い出され、暗い自室に帰ると浮かぶのはUSJでの襲撃事件のことだ。冷えたソファに身を投げ出し、目頭を揉んだ。

 

ボロボロに傷付いた相澤君達プロヒーローに、5年前と同じ狂気的な笑みを浮かべ横たわるデグレチャフ少女。

───彼女は言った、あの脳無は自分の同胞の成れの果てだと。

 

 

 

 

 

『あの、デグレチャフさんは大丈夫なんですかっ?』

『大丈夫だよ。骨がいくつか折れていたのと軽い肺気胸だ。私の治癒で対処可能さ』

『えっと……それもあります。けどそれだけじゃ、なくて』

 

緑谷少年と共に保健室に運ばれた時、少年は隣で眠るデグレチャフ少女を見て居心地悪そうに言った。先程ガッツリ自分の無茶無謀を怒られ、その結果の負傷人が隣にいるのだ、その事を言っているのだろうと思ったが。

 

 

『……僕も、会話全部聞こえていた訳じゃないんですが。あの脳無って化け物、改造人間なんだって敵……死柄木弔が言ったんです』

『改造人間……』

『そしたらデグレチャフさん……私達はあんなものを創り出すために生かされていたのかって……そこから狂ったように笑いだして、僕』

 

 

あんなものを、創り出すために……?

その一言で、事態の深刻さを悟った。5年前のあれから、何一つ事件は終わってないのだと。

 

 

 

『……怖かった。僕、敵よりなによりもデグレチャフさんのあの狂気的な戦い方に恐怖を感じてしまいました。同じヒーロー志望なのに。僕を助けるためにこんな大怪我をしたのに。それは分かっているのに』

 

 

 

敵よりも敵らしいと、そう思ってしまったんですと緑谷少年は静かにそう言った。

 

……敵よりも、敵らしい。

 

それは兼ねてより大人らが危惧していたことだ。あの子は危うい。校長先生がヒーロー科に縛り付け、日本で暮らし5年も経った後でさえ古巣の傷跡にああも反応してしまうくらいには。

 

 

『……口外はしないで欲しい。彼女は昔敵に飼われていた過去がある。改造人間用の、実験材料として』

『……ッ!!?』

『そこから救い出し、身元引受人となったのが日本のヒーロー、雄英高校だ。脳無を……自分の辿るはずだった末路を目の前にして笑うしか無かったのだろうな。

……デグレチャフ少女は本当は優しい子なんだ』

 

『……なぜ、そんな話を僕に?』

『君にはいずれ話さなければならないうちの1つだからね。あの子の狂気は私達の不手際によって生まれてしまったものだ。

……君が憧れるヒーローは、私達は決して万能の魔法使いじゃないから。ああして命が助かった後も苦しむ子供を見守ることしか出来ないんだよ。……幻滅したかい』

『幻滅なんて、そんな……』

『どうか彼女を色眼鏡で見ず、クラスメイトとして……普通の級友として接してやってほしい』

 

 

 

 

 

「───色眼鏡で見ずに、か」

 

……1番色眼鏡で彼女を見ているのは我々ヒーローだろうに。

優しい子だと言いながら、あの子が悪に染まることを常に恐れている。

だからヒーロー科に縛り付け、洗脳の如くヒーローになりたい訳でもない子供にヒーローとしての教育を施す。

 

「……正義とは何で、悪とはなんなのだろうな」

 

 

ヴーン、とマナーモードにしていたスマホがポケットの中から着信を知らせてくる。

 

「……誰だい、こんな夜中に。って、相澤くん!?」

 

 

保健室では対応しきれないと大きな病院に緊急搬送された相澤くんは、意識も無く身体中ボロボロだったと聞く。

慌てて通話状態にしながら部屋の電気を付けた。あぁ、夕食も取らねばだ。弁当でも買ってくるか。

 

 

「もしもし!?相澤くん?」

『……声うるさいです、オールマイトさん』

「無事で良かった!しかしどうしたんだいこんな時間に電話なんて。ゆっくり休んでいてくれよ!」

『だからうるさいですって……』

 

 

意外と平気だから直ぐに職務復帰しますと淡々と事務連絡をする相澤くん。

ミイラ状態だけど病院側の処置が大袈裟なのだそうだ。……本当かどうか疑わしいけれど、声しか聞こえない私に真偽を知る術はない。

 

 

 

「それで?合理的な君がそれだけでわざわざ電話はしないだろう。どうしたんだい」

『……デグレチャフの件です』

「Oh……」

『あんたが連れてきたのは知ってます。根津校長の知り合いの親族云々、あれ嘘なのバレバレですから。

……教えてください、日本に来る前彼女に何があったのか。担任として知る義務がある』

 

 

相澤くんは5年前のオールフォーワンの捕獲作戦を知らない。徴集されたのは当時のトップヒーローと隠密行動に優れたヒーロー、そのサイドキック達だ。

当時大学を卒業したばかりで名前もさほど売れていなく、教職に就いたばかりの彼は候補には上がったものの結局参加すること無く終わったのだ。

 

事件およびオールフォーワンについて箝口令が敷かれている以上、今後私の後継として生きていく緑谷少年はともかく相澤くんにまで詳細を語るわけにはいかない。

が、生徒達の証言から見るに緑谷少年が聞いたという狂気的な台詞は、近くにいたであろう相澤くんも当然聞こえていただろう。緑谷少年以上に気になっていたに違いない。こんな夜更けに連絡してくるほどだ。

 

……ぼかしつつも、真実を語ったほうが良いか。

 

 

「……守秘義務の都合上、全ては語れない。それでもいいかい」

『はい』

「彼女は……」

 

彼との通話は、日の出がうっすらと部屋を彩るまで続いた。

彼女がどう生きて、どう行動し、どう今までの苦難を歩んできたか。

……ここまで生徒に肩入れするなんて、相澤くんらしくもない。

よほどあの時のデグレチャフ少女に、危機的何かを感じたのだろう。

 

相澤くんは満足したのか、「ありがとうございます、寝ます」と静かに通話を切ったのだった。

 

 

 

 

*


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