幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

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次回より体育祭編スタート致します。


第25話

 

「思い出話?」

「そう、何でもいい。君が嬉しかったことや楽しかったことを教えて欲しいんだ。

人間、辛かったことはいつまでも覚えているけど楽しかったことは存外忘れやすい生き物なんだよ。きちんと思い出してみれば、意外と色々な所に小さな幸福は転がっている」

 

 

 

そうターニャが言われたのは、日本に移住して数ヶ月後のことだった。

怪我の治療と並行して精神状態も最悪だと診断された彼女は、少ない回数ではあるもののカウンセリングに通っていた。

 

 

 

実際の所ターニャの根っこの部分は前世から培われてきた思想で雁字搦めだし、更に存在Xが与えたもうたこの危険極まりない世界で生きていくにはある程度血に塗れる覚悟も出来ている。

存在Xを始めとするターニャの安寧を壊すものは全て敵だ。殺伐とした環境下についこの前までいたターニャの精神状態をカウンセリング如きで解きほぐせるとは到底思えないが、サボればまた校長その他大人達に連行されるため仕方なく通っていた。

 

 

「物心ついた時にはもう施設に売られる寸前だったので、それ以降になりますが」

「当時は3歳だろう?当たり前だよ」

 

カウンセラーは穏やかに言う。……が、彼に全てを話す訳にはいかない。

この目の前にいるカウンセラーはヒーロー資格なんぞ持たない一般人で、オールフォーワンについての守秘義務は適用される側の人間だ。一々例外を作ってしまえば収拾がつかなくなる。

彼に言ってあるのは売られた先の施設で虐待を受けていたため、遠い知り合いの校長が保護し日本に連れてきたという嘘と本当が入り交じった作り話だ。

 

 

そのためオールフォーワンの腹に風穴を開けてやってスカッとしたことなんかを話すのはご法度。やりにくいことこの上ないとターニャは小さく舌打ちした。

この医師の望んでいる回答はそうでは無いのだろう。子供らしい成功談や辛い中で感じた子供達の友情、そんな所。

いやいやむしろ殺し合ってましたとも言えず、そんな美談あるかとため息をついた。

 

 

 

「……楽しいことではありませんが、印象に残っている子どもが、1人」

「友達かい?」

「わかりません」

「お名前は?」

「ソーヤ、と」

 

 

完全に聞く体勢に入った医師は続けて、とターニャに先を促す。

 

「……不思議な奴でした。学も度胸も無い、勇気が無くて弱いんだと言っていた。なのに」

 

傷だらけで、泣きも笑いもしない不気味だったろうターニャに臆さずに話かけてきたソーヤ。殺伐とした施設内で唯一まともに言葉を交わした相手と言っても良いだろう。

 

「……自分はここで1番背が高いからと、少ない食事を私に押し付けてきたり、授業の時はこっそり手を抜いたり」

「優しかったんだね」

「……そう、だったんでしょうか」

 

 

死ぬ間際、ソーヤは『逃げて』と確かに言った。結果彼の死体が出来上がるのを目の前で見る羽目になったが、あれは彼なりの優しさだったのだろうか?

 

───わからない、それがわかるほどターニャはソーヤを知らない。知る前に彼は天へと旅立ってしまった。

 

 

「また嫌なことを考えてる。言っただろう、楽しかったことを教えて欲しいって」

「……」

 

楽しかったこと。

そんなこと、前世を含めわざわざ振り返ったことがあっただろうか。

稚拙な回路をようやっと辿り、出てきた回答はなんとも幼稚なものだった。

 

「……まえに、」

「うん?」

「前に、ソーヤが言っていました。自分の名前は木を伐る道具の名前と同じなんだと。

自分の能力も一緒で、悪用すればそれは人殺しの道具にすらなり得る。けど使い方さえ間違えなければ、巡り巡って人の役に立つことが出来るかもしれないと」

「素敵な話じゃないか」

 

「……だから自分は将来木こりになりたいだなんて言うんです。あんなにヒョロヒョロなのに」

「そっか」

 

 

あんな死と隣合わせな場所で将来の夢を語りだしたかと思いきや、それがまた木こり。

もっと何かあっただろうと言いたくなるそれに、小さな頃読んで貰ったという数少ない絵本の知識しか無いソーヤにとっては、思い付く限りの最高の職なのだと知った。

 

 

……これが今思い出せる精一杯だ。

楽しいばかりの思い出では、無いけれど。

 

 

 

「お話聞かせてくれてありがとう。また次回、サボらずに来ようね」

「サボったことなんてありませんよ。では」

 

 

 

*

 

 

「……あぁ、もしもし。私です。えぇ、今ターニャさんのカウンセリングが終了しました。もうすぐご帰宅されると思いますよ」

 

中々仕事の関係上手が離せないと、カウンセリングで受けたターニャの印象を電話で教えて欲しいと言われた医師。あまり内容を語ろうとしないため、結局毎回診察を終えターニャが部屋を出ていった後校長へ律儀に電話をかけているのだった。

 

 

「はい。今日は珍しいものが見れました。

……大丈夫です。きっと彼女は彼女なりの子供らしさを取り戻せるはずです。

 

……今日、 初めて私の前で笑ってくれたのですよ」

 

 

それは、人を皮肉ったような悪魔の微笑みでは無く。

ふとした拍子に小さく漏れ出た、春の日向のように暖かい笑顔だったのだから。

 

 

 

 

おわり。




やぁやぁ親愛なる同志諸君、ターニャ・デグレチャフです。
平成年号の終了まであと数ヶ月……とその前にあるビッグイベントをお忘れではありますまい?
そう、劇場版幼女戦記の公開が2月8日に迫っているのです。ちょうど1ヶ月前ですね。前売りの購入は済ませましたか?……番宣?いえいえ、こちらはただの二次創作小説。ただの布教の一環でして。
次回、雄英高校体育祭編。
では、また戦場で。


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