国外脱出編最終回。
じりじりと睨み合いが続く中、私は凄まじい勢いで目の前の男の殺害計画を企てていた。
まず、先程のような中途半端な攻撃は奴には効かない。ダメージを受けてはいるものの、全く意に介さずにいる。
私の個性はやつが1番よく知っているだろう、もう警戒して短距離戦には持ち込ませてはくれない筈だ。
ならばどうするか、今私に打てるカードは……!
「そう来るよね!」
地面の石ころに触れ、銃弾のように飛ばすことが最適解!
問題は脆い石がスピードに付いていけず粉々に砕けてしまう所だが、そんなものはどうでもいい。
真の目的は、この奥にいるヒーローの本部!
「ほらほら、そんな砂じゃあ僕を倒せないぞ!」
「知ってる、よ!!」
今の私には、奴に勝る有効打が存在しない。
まだ個性が発現したばかりの子供だ、扱いは大雑把も良いところだし何より自分自身把握し切れていない。
なにより……。
「ぐっ……!」
「ほら、さっきまでの勢いはどうしたんだい?」
オールフォーワン……こいつが強すぎる。
瞬間的に移動するわ増強型の個性で身体能力はずば抜けているわで相手にならない。
派手にドンパチしているにも関わらず、ヒーローがやってくる様子は依然として無い。まだまだ目的地は遠いのか、はたまた見捨てられたか……?
「ターニャ、君は敵になるべきだ!群を抜く思考能力と判断力、発現したばかりの個性をそこまで器用に操る天賦の才、なによりその純真たる殺意!私と一緒に来ないかね!」
「はっ、刃を交えておいて何を今更ッ!!」
「意見のぶつかり合いはままあることさ!!」
石を投げる、弾かれる、投げる……。
キリがない!
ざっと脇に流れる水に触れ、いくつかの水散弾を作り出す。
水は時に防弾ガラスでさえもぶち破ることがある、石のように砕けてしまう可能性も無し。───さっきよりは、マシだろう!
「頭が良い!しかし甘い!」
超スピードで飛び出した水の銃弾は、しかしオールフォーワンの数多ある個性……炎の個性で一瞬にして蒸発させられてしまう。
「ッ!!一体いくつ個性を……!」
「いくつだろうねぇ!!」
完全に遊ばれている。私を殺す事など造作もないだろうに、次に私がどう動くのか見てみたくて仕方が無い。そんないっそ無邪気な笑みが言外に語っている。
───私が今、突くことが出来る隙はそこくらいだ!
ようやく背後に見えた増援のヒーローの姿ににやりと顔を歪ませ、呪いを発動させる。
「我、主の御力を讃え、そのお恵みに感謝せん───!!」
「何をッ!」
かくなる上は、これしかあるまい!
自身を超スピードに乗せ、その身をもって奴を討ち滅ぼす!
私は剣で、最速の銃弾。
自爆の如く飛び出したそれは、私の意識が無くなる寸前憎々しげに血を撒き散らすオールフォーワンを見るという対価を得た。
……ざまぁ、みやがれ。
◆
「……生きてる」
死亡覚悟で突っ込んだはずの私は、全身包帯を巻いてはいたものの生きていた。
いつもの雑巾の切れ端のような包帯では無く、真っ白で清潔感のあるそれに少し驚く。
辺りを見渡すも、病院のベッドのような所に1人寝ていただけで状況が良く分からない。
「ここはどこだ……」
後ろに見えていたヒーローの軍勢。あれがあったから、私は考え無しに飛び出す決断をした。
きっと彼らが私を保護、したのだろうが……。
「目が覚めたかい少女!!」
ぼーっとしていたら、なんかめっちゃ画風が違うおっさんが焦った様子で私よりもボロボロの状態ながらやってきた。立っているのも不思議なくらいの重症度だ。
……こいつ、私とソーヤを拘束したアメリカンな奴。明るい所で見ると数倍暑苦しいな。
「はい。ここは?」
「病院さ、怪我を負ったヒーローが大量に出たからほぼ貸し切り状態だ」
男は松葉杖を突き身体の重心も偏っている。
これ以上立たせておくのは酷だろうととりあえず椅子に促し、事の詳しい経緯の説明を求める。
「その前に言わせて欲しい。君にこんな事しても、意味は無いのかもしれないが」
男は松葉杖を置き膝を突く。ぐっと頭を低く下げ、
「申し訳なかった……!」
と重々しく謝罪を口にした。
「君たち施設の子供らには、脱走防止の発信機がそれぞれ付けられていたらしい。全く考慮出来ていなかったヒーローの落ち度だ。
子供は君を残して全員死亡……一緒にいた少年すらオールフォーワンの餌食にしてしまった。
友人を護ることが出来ず、君に自爆のような手段を強いてしまったこと、本当に申し訳なかった……!」
オールフォーワンの捕獲作戦が成功しても、被害者である子供の保護に尽く失敗していては今回の件は大変な不祥事だと、男は文字通り血反吐を吐きながら謝罪を続ける。
……死んだ。そうか。
ソーヤは、死んだのだったな。
「……オールフォーワンの、捕獲作戦?」
「あぁ。オールフォーワン捕獲作戦はとりあえず成功だ。本当は捕獲をしたかったのだが、奴は死亡した。そこは安心して欲しい。
……代わりに私もかなり傷を負ってしまった、他のヒーローも。奴は強かった」
「そ、うか……」
……奴も、死んだのか。
私では殺しきれなかったが、予想外の反撃を受け驚愕するオールフォーワンを見られただけ良かったとしよう。
それだけで良かったと言いきれるほどの被害では無かったにせよ、今の私に恨みの感情は無い。
「……頭を上げてください。
施設じゃ死ぬことなんて日常でした。手当して下さってありがとうございます」
「そんなことで、お礼を言わないでくれ……!君は大人すぎる、私は幼い君がそこまで大人びなければ生きてこられなかった環境にいた事がやり切れないというに!」
……少し大人びた口調だっただろうか。己の3歳児の頃の記憶は無いけれど、前世のおっさんが話すような口調は確かに硬すぎたかもしれない。とは言え今更変えるのも無理な話だった。
「君じゃない、ターニャ・デグレチャフです」
「……デグレチャフ少女、良い名だ。私はオールマイトだ。……一緒に居た少年の名前を聞いても、いいだろうか」
そこで、私は一緒にいたソーヤのファミリーネームすら知らないことに気付いた。
もう、知る術はないだろう。それに一抹の寂しさを覚えるが、自分のらしく無さに苦笑し振り払うかのように頷いた。
「ソーヤ。彼は、ソーヤと言いました」
「ソーヤ少年……。私は、彼を忘れない」
「それで充分です」
それから数分間、オールマイトは何を言うまでもなく死んで行った子供達に向けて黙祷を捧げた。
家も名も墓も無き同胞よ、安らかに。
シリアスな雰囲気は、その後のオールマイトのコミカルな吐血により終了した。どこまでもマンガのような人だ。
慌てて椅子に座らせたのは言うまでもない。
◆
「すまない、もうタオルは大丈夫だ…。んん、デグレチャフ少女、君に提案があるんだ。施設はもう無いし君が元いた修道院は火災で無くなってしまったようなんだ。つまり君には今、身寄りが無い」
「はい」
「そこでだ」
ビシ、と人差し指を立て人好きする笑みを浮かべるオールマイト。
「日本に来ないかい、デグレチャフ少女」
「日本に……?」
「そう、こうなってしまった責任の一端は私達日本のヒーローにある。君の保護管理責任は私達に一任されているし。どうかな、受け入れ先も快諾してくれているんだが」
なんと。どうせまたどこか適当な施設に突っ込まれて終わりだと思いきや、日本……しかも既に受け入れ先と連絡も取っていたとは。
「……どんな方なんですか?」
「人……というか、学校そのものだよ。君は殺伐とした幼少期を過ごしすぎた。いきなり普通のご家庭にお世話になるのも、色々ハードルが高いかと思ってね。
ゆっくり学ぼう。幸いヒーローを志すための学校……私の母校なのだがね。雄英高校が君の身元引受け人として名乗りを上げてくれた」
「ヒーローを志す……。私、別にヒーローになりたい訳じゃないのですが」
「あぁ、分かっているよ。でも個性の制御や道徳観念を知るにはうってつけの学校だ。もちろん高等教育を受けさせる訳では無いから、ただちょっとヒーローとヒーローの卵が居る施設に引っ越すだけと考えてくれていい」
……なるほど。
つまり色々言ってはいるものの、私の保護先がヒーローくらいしか見つからなかったのだろう。
当たり前と言ってはそうかもしれない。施設では殺し合いばかり、敵前で嬉々として突っ込んでいくような幼女に正しい倫理教育を受けさせるべくそうなったと。
経緯はどうであれ、ヒーローがうようよしている場所で安全に学問に励めるのならばこれ以上の環境はない。
「わかりました、お受けします。よろしくお願いします」
「あぁとも!」
こうして私、ターニャ・デグレチャフは齢3歳にして日本のヒーロー育成に力を注ぐ雄英高校に住むこととなったのであった。
ヒーローを目指している訳でもないのにな。
*
■時系列の説明
・ターニャ誕生
→ターニャ施設へ
→オールフォーワンの居場所がバレる
→オールフォーワン捕獲作戦が執行
オールフォーワン死亡したと思われる
オールマイト呼吸器官半壊、胃袋全摘の大怪我を受ける
ターニャ日本へ移住
5年後
→原作軸へ
いきなりなんのこっちゃというスタートでしたが、原作軸数年前の捏造話でした。次章よりようやく原作軸に絡んでまいります。
ごきげんよう、ターニャ・デグレチャフであります。
この度晴れて学生の身分を得ることになりました。
あぁなんと素晴らしきかなキャンパスライフ。まさか1日3食温かい食事が取れ風呂にまで入れるとは。少々幸先が不安ではあるものの、文句は言いません。さぁ、共に明るい未来のため学びましょう。
次回、雄英高校入学編。
では、また戦場で。