幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

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雄英高校入学編
第6話


「素晴らしい!免許皆伝だよ〜!!」

 

やぁ、紳士淑女諸君。ターニャ・デグレチャフ8歳だ。

え、なんでいきなり5年も経ってるの〜って?

それはあれだ、この5年間について特筆すべきことが少なかったからに他ならない。

 

あれから私は無事身元引受け人である雄英高校……つまり日本に移住し、まだ幼いからという理由で無事日本の国籍を得た。そしてそこの教師らに家庭教師の如く少しずつ学問を学んだり時には高校生と交じり個性の訓練をしたり校長の知り合いヒーローが運営している義務教育学校に通学したりして過ごしてきただけだ。

 

この日本では公共の場での個性使用は禁止されているようだが、この雄英高校は違う。その点では幼い頃から個性を思う存分使うことの出来たこの環境は、ヒーローを目指す子供にしてみればかなり羨ましいのかもしれない。

 

 

そして5年の間、プロヒーローが経営する義務教育学校で初等教育と中等教育とを履修し終えた私は本日ネズミのような見た目の校長より祝いの言葉を言い渡されたと、そういうことだ。

 

「まさか本来12年かかるはずの教育が半分以下の5年で終わってしまうなんて、校長先生はびっくりしたよ!

初めて会った時から頭の回転が早い子だとは思ったけれど、これほどまでとはね」

「……ありがとうございます」

 

 

初等教育はともかく、中等教育はきちんと行き詰まった素振りも作ったつもりだが。

前世の学歴エリートを舐めてはいけない、昔学問にだけはほんの少し他を圧倒することが出来た記憶故、知識欲は溢れかえるばかりなのだ。

 

「一応日本における義務教育はこれで終わりさ。君があまりにも出来すぎるせいで駆け足になってしまった所もあるけどね」

 

私のいた前世とは違い、個性による学習能力の発達差が顕著なため飛び級制度がこの日本では盛んだ。私の通わせて貰った学校も小中の一貫教育の中で積極的に行っている。スピードが早すぎて異例とは言われたが。

雄英高校も学力以外に体の発達が不十分なまま入学させる際のデメリットが大きいとして一応の年齢制限を設けてはいるが、それも半ば形骸化しつつある。

8歳で中等教育までの過程を終わらせてしまうのは、まぁ一般的では無いものの無い訳では無い、そんな程度だ。

 

「さて、どうしようか。君の意見を聞きたいな。君の学力はどうであれ、まだ8歳の君を放り出すのは里親としてはあまりおすすめしたくないんだけどね」

「……進路希望調査、ということですか」

「その通りさ!」

 

進路……さて、どうしようか。

祖国とは違い犯罪発生率も低い日本だ、資本さえあれば野垂れ死ぬことも無かろう。

とはいえこの幼い見た目で今すぐに普通の職に就くのが難しかろう未来は見えている。主に補導されかねないという点で。まだ勉学に励みたいとも思うし、そうだな。

 

 

「……高校に、通わせて頂いてもよろしいでしょうか。ここ、雄英高校に」

「遠慮は無用さ!むしろここは高等教育機関、ようやく本領を発揮出来ると私は思うよ」

 

あぁ実にワンダフル。身元引受け人が金にがめつい大人でなくて本当に良かった。

 

「ありがとうございます」

「君の学力なら我が雄英高校への入学はほぼ確実。そして個性も強力、扱いも素晴らしい。最高峰と謳われる我がヒーロー科でも充分やっていけるだろうさ」

「え?」

 

……待て待て待て、ヒーロー科?

ここには派手では無いにしろ普通科も、なんなら興味のある経営科だってあるだろう!?私の意思は!?

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。私一言もヒーロー科に入りたいとか」

「だから遠慮はいらないのさ!一応試験は受けてもらうことになるけれど、君なら余裕だろう!さて、校長はさっそく準備しに行くのさ」

「ちょ、」

 

忘れてた。

この日本ではヒーローという職種が圧倒的人気を誇る。抑圧された個性を使い、自分の力を誇示し市民に褒め称えられる生活はさぞや気分が良いことだろう。

国民誰もが1度はヒーローになることを夢見るほどに、その職は人気なのだ。それは異様と言っていいかもしれない。

犯罪率の低い日本で、しかしここまでのプロヒーローの数を排出する。ヒーロー飽和社会と言われて当然だ。

 

……個性の向き不向きで諦める大多数はいれど、私のようにわざわざヒーローとは縁遠い所に拠点を置きたがる人種など、圧倒的少数。

 

だから校長含め大人は……特にここのヒーローになれた大人らは本質的に理解出来ない。ヒーローになどなりたくもない人種が存在することを。

───誰もが1度は憧れる、あの雄英高校のヒーロー科に。嬉しいだろう?嫌なんて夢にも思わないだろう?

 

それは善意の押し付け。気持ちが悪い。

 

遠慮じゃない、そうじゃないんだ!

私は命をかけた戦いなんぞこれっぽっちも望んじゃいない、平穏な生活!コーヒー片手に出世のエリートコース、そういうのを───!!

 

ばたん。

 

無慈悲な校長は全く意に介さず、私室を出ていってしまうのだった。

 

 

 

 

校長side

 

ターニャさんに与え5年経っても殺風景なままの部屋を出た私は、ヒーロー科への入学試験について考えていた。……少々強引だっただろうか。悪いことをしてしまったな。

 

ターニャ・デグレチャフ、8歳。

そのふわふわと風に揺れる金の髪と大きな碧眼、ビスクドールのように整った外見からは予想も出来ないほど残虐な過去を持つ少女。

オールフォーワンの人造人間作成機関からただ1人生還した彼女は、子供らしさを失った子供だった。

 

保護した当初は大変だった。

刃物を持っていないと落ち着かないと常にペティナイフやカッターを携帯し、殺伐とした雰囲気を放っていた彼女。

放っておいたらすぐに悪に染まってしまいそうなほど危うく、殺意に敏感で殺意を向けることにも抵抗がなかった。

無理もない、目の前で大勢の子供を殺害され、自らも決死の思いで巨悪と対峙したのだというのだから。

オールフォーワンに与えられたという個性も小さな身体には過ぎるほどの強い個性で、勉強を教えるよりも制御を覚えさせるほうが苦戦したほどだ。

 

本人はヒーローについて特別な感情を抱いてはいないだろうが、我々ヒーロー側は今彼女を手放す気は無い。

 

ごめんよ、ターニャさん。

ヒーローに興味はないのだろうけど、君はその危うさを年々上手に隠しつつあるんだ。それがなにかの弾みで爆発した時、どうなってしまうのか怖くて我々は君を手放すことが出来ないでいる。

故に君が成長するまでは、親元を離れても悪に染まらぬと判断が出来るその時までは、我々ヒーローの傍で君を守り育てるべきだと勝手ながら判断した。

外部の一般教師やサポート会社付きの職員を招きある程度一任してしまっている他の学科はともかく、プロヒーローの目が絶えず存在する我がヒーロー科ならそれも可能だろう。

 

仲間想いの優しい子だ。

残虐的行為を笑顔で出来てしまう子だ。

 

その二面性に、敵が気付いてしまう前に。

もう少しだけ、ヒーローという皮で守らせて欲しい。

まだ8歳。可愛い盛りの子供を手放すことは、私には出来なかった。

 

 

*

 

■プロフィール

 

ターニャ・デグレチャフ(8)

 

前世は日本のエリートサラリーマンで社畜街道を歩んでいたが、神を語る存在Xの怒りを買い信仰心を取り戻すよう個性の存在する異世界へと転生させられる。

 

無神論者。非情なまでのリアリストで超合理的主義。シカゴ学派の経済理論を尊ぶリバタリアンで自称平和主義者。

その弊害か、自分を含め人間を人材資源として認識している側面が強い。ビジネスとして欠陥だらけのヒーローのような危険な職種には理解が無く、嫌悪感すら抱いている。

 

 

個性

 

「社会的弱者であれ」という存在Xの計らいで、本来ターニャに個性は存在していない。現在彼女の持つ個性は全て他者から与えられたものである。

 

 

○飛翔

オールフォーワンより付与。

自身と、自身に触れたものの重力を奪い操る個性。本来ターニャには存在しない個性のため、そのまま使用していた場合身体の許容量をオーバーし死んでいた筈だった。

 

○祝福

存在Xより付与。

個性因子を発動させる際、その大幅ブーストと引き換えに神への祈りを捧げることが必須。

この祝福により本来使えなかったはずの飛翔を自由自在に扱えるようになっている。

 




これより、己をヒーローになるため生かして貰った人材資源なのだと勘違いして突っ走るエリート元社畜閣下とその突っ走り方に恐怖を覚え中々手放せなくなる大人のどこまでも噛み合わないアカデミアのスタートです。
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