幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

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デクとデグとの出会い()



第7話

どうしてこうなった。

 

現時刻8:00。

既に見慣れた雄英の校門にはでかでかと『雄英高校入学試験』の看板が。

 

身内枠だからと言って特別扱いは不要と一般入試に放り込まれた私は、かなり本気で辞退……というか手抜きをして不合格を勝ち取ろうかと思っていたのだが、校長の

『ちなみに君の普段の学力、個性のレベル共に私達は把握している。緊張もするだろうけれど、著しく真剣味に欠ける場合援助の一切を打ち切る可能性もあるからちゃんとやるんだよ!』との有難くないお言葉があった。

 

……著しく真剣味に欠ける、の判断基準が明かされていない以上、私はきっちり点をもぎ取らねばならない訳で。

 

「憂鬱だ……」

 

 

 

しかし支援を受けている学生の身だ、通常よりも短期間とはいえ莫大な資金を私にかけて育てて貰ったことに変わりはない。

投資分の働きはするとしよう。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、あんた小さいけどそれ個性?外人さん?いんぐりーっしゅ?」

「……は?」

 

筆記試験を終え、教室で好物のブラックコーヒーをはちみつパンと共に嗜んでいると無遠慮に声をかけてくる輩がいた。

私のランチタイムを邪魔するとは。万死に値する。

 

「いや、ちょっとさっき見えたんだけどさ。君と俺会場一緒みたいだから一緒にいかない?あ、俺モブ山ってーんだけど」

「Schön Tag noch Insekten」

「え、何語?」

「Leck mich am arsch」

 

 

母国語でオハナシをしてやれば、英語ですらない音の響きに怖気付いたのか男は苦笑いをしながら去っていった。

ふん、軟弱者め。

 

 

このコーヒーは自販機の缶コーヒーなどでは無く、ランチラッシュに頼み朝淹れて貰った極上の風味がするそれだ。はちみつパンも水飴で薄めたものでは無く、ふわりと花の香りのする1級品。今日は蓮華の花か。ふわふわに焼き上げられた生地に浮かぶ黄金色が実に目に鮮やかだ。ただのパンとコーヒーだけの食卓が、上品で華やかに彩られる。

 

私はもうランチラッシュと結婚したほうが良いのではないだろうか。移住当初から胃袋を鷲掴みにされっぱなしである。

 

魔法瓶に収まっているコーヒーの熱さも丁度良い。時間配分まで完璧である。

ヘドロを啜って生きていた5年前にはもう戻れない。食事情に関しては独り立ちしても我儘な舌が満足出来そうに無いのが目下の悩みだ。

「贅沢な悩みだ……」

 

……やっぱり私、ランチラッシュと結婚したほうが良いのではないだろうか。

 

 

 

 

至福のひとときを終え実技試験の説明会場へ向かっていると、爆発にでも巻き込まれたかのような頭の少年にぶつかった。

「わ、ぷ」

「わぁっごめんなさいっ!!」

「いや、私も前を良く見ていなかった」

 

 

あわわ、と慌てたように私の顔を覗き込む少年。気が弱そうだが中々良い目をしている。

体付きもまだまだ華奢だが、中々。

先程の声をかけてきた不届き者とモブっぽさは変わらないものの、こいつの方が数倍マシだろう。

 

「……君も受験生か。しかしそれなら会場は真逆だぞ」

「ぅえ!!?め、迷路みたいで迷っちゃって……良ければ付いて行っても……?」

「構わないよ」

 

確かにこの雄英高校は広すぎる。私の歩幅じゃ朝から始めた校内散歩を終える頃には日が傾いてしまうだろう。

 

緑谷出久と名乗った少年は、ジョシトシャベッチャッターーとか何とか謎の呪文をブツブツ呟きながらこちら側の世界に戻ってきた。精神異常者か?

 

「く、詳しいんだね、校内のこと」

「事情があってな。貴様、演習会場はどこだ?」

「僕はBだよ。君は?」

「Dだ。……あぁ、名乗っていなかったな。ターニャ・デグレチャフだ。よろしく」

「よろしく。留学生?凄いなぁ」

「国籍は日本だから留学生では無いよ。外見で身構えられることが多いけど、第一言語は日本語だ」

 

 

 

そこまで話していると、説明会場へ到着した。受験番号が離れているため、席は必然的に遠い。

「それじゃあ緑谷。健闘を」

「うん、デグレチャフさんも!案内ありがとう!」

 

 

 

声が大きくちょっと苦手なプレゼントマイクが試験監督を務めるらしいそれは、いわばゲームのような得点方式だった。

機体により難易度が変わってくるようだが……なんとも浅はかで非効率的な試験だ。

 

個性とはその名の通り個性、人の数だけ種類があると言っていい。

こんな物理攻撃特化な試験内容では稀有とされる医療系、転移型の個性は勿論洗脳、幻惑、催眠、透過系の個性ももれなくアウトだ。

この学校にはミッドナイトやリカバリーガールといった武術以外で活躍の場を持つヒーローも居るというのに、なぜこのような脳筋試験を執行しているのか。馬鹿か。

……というのは冗談で、あの校長のことだ。どこかで救済措置を作っているのだろう。あくまで救済措置という体で、その実この敵ポイントよりも重要視されるような加点要素が。

 

 

 

ふん……まぁ良い。その要素が公開されていない以上確実に点の入る敵ポイントを重点に置こう。

こちとら入学以前に援助が懸かっているんだ。本気でいかせてもらう。

この5年、何もしていなかった訳では無いからな。

 

……まぁロボ相手ならば多少目測を誤っても、大丈夫だろうし。

 

 

 

 

 

 

 

演習会場D。

スタート位置に着いてから一心不乱に道端の小石を集めてはポケット入れを繰り返していると、先程のモブキャラが話しかけてきた。

 

「お砂遊び〜?かぁわい〜。つーか君いくつよ?さっきモッサモサ頭君と日本語で話してたの見たよ、喋れるんじゃんか!

ね、名前───」

「……小バエが煩いな」

「え?聞こえない。いまなんて……」

 

 

なんなんだこいつは。

試験を受けに来たのか妨害しに来たのか分からない。あまり煩い奴は妨害行為で失格にしてはくれまいかな。無駄に個性が強くて試験を通過、なんてことになってしまったら適わない。

 

 

小石の量は充分。戦闘が始まれば瓦礫くらいいくらでも手に入るだろう。

準備はOK。

 

 

「せいぜい足掻けよ?踏み台」

「なっ……」

 

「はいスタート!!」

 

ふわり、と身体を浮かした私は、弾道ミサイルの如くゲートへと突き進む。

 

 

 

───試験開始だ。

 

 

 

 

*

 

 


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