幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

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第8話

「61」

 

くる、くるり。

 

「62」

 

爆煙とワルツを踊るように、妖精は無慈悲にロボを壊していく。

 

「め、めちゃくちゃだ……」

 

呟いた受験者の1人の言葉はもっともだった。

演習会場Dにて行われたそれは試験ではなく、一方的な殺戮。楽しげに笑う幼子は妖精では無く、幼女の皮を被った化け物だった。

 

 

 

 

ことが起こったのは試験開始直後。

真っ先に飛び出したターニャは空高くに舞い上がり、ロボットの登場ゲートの確認と数の把握を行った。

そしてポケットに詰め込んだ無数の小石を自身の周りに浮かべる。

 

「我、神に祈らん。主よ、我を救いたまえ」

 

座標位置、着弾位置を確認し、冷静に小石の雨を降らせてやる。途端に数十のロボットが爆散してしまうが、そこに他の受験者への配慮など皆無。

 

「……強度が少し足りなかったか」

 

 

 

オールフォーワン戦で得た経験はターニャの中で生きている。石が脆く崩れてしまう。なら手に触れた小石を包む空気ごと個性を発動することにより、威力を落とさず小石の強度不足を補うことが出来るのだ。

本来この個性はもっと残虐性を秘めたものではあるものの、入学試験ということで自重した結果だ、本人曰く一応これでも。

 

 

 

多を把握する目、それらに一斉攻撃を仕掛けることの出来る圧倒的個性、なにより冷静な判断力。全てがこの場の誰よりもずば抜けていた。

まさに蹂躙。

他の受験者に点を一切取らせないそのやり口は、いっそ悪魔的なまでに一方的だった。

 

 

 

 

審査員side

 

 

「……ターニャさんは、予想はしてたけどとんでもないわね」

「そ、それに関しては私がちょっと焚き付けてしまったからってのもあるのさ」

 

 

焦ったように弁解する校長に、ミッドナイトとげんなりとした目でモニターを見つめるイレイザーヘッドは説明を求めた。

 

「彼女は自分で上限を決めてしまいがちさ。

与えられた分の働きしかしたがらない徹底的なまでの効率、合理的主義者。まだまだ先のある若者が萎れた大人のような考え方をしてしまうのは些か勿体ないと思ったのさ」

「……それ、俺の事ですか校長」

「ちちち違うのさ!?」

 

 

言外に萎れた大人扱いをされたアングラ系ヒーローはひっそりと傷付くが、それをさぞ揶揄うと予想されるプレゼントマイクがこの場にいないことが唯一の救いであろう。

 

 

「だ、だからちょっと言いすぎてしまったのさ。本気出さないと援助打ち切るって」

「……金にがめつい……」

「現実的とも言うな」

 

ただの一生徒としてのターニャの評判は半々だが、その間にも1人破竹の勢いで点を稼ぎつつある彼女。しかしヒーローとして見るならば、これほどまでに頼りになる戦力もまた珍しい。

戦力を見るだけ、ならば。

その幼い顔に浮かべた凶悪な笑顔はとてもじゃないがヒーローを目指すような表情では無い。むしろ敵のそれだ。

 

破壊行動が楽しくて仕方が無い。そう言っているようにとしか。

 

 

「これで対人戦用に威力は落としてあるって言うんだから脅威よね」

「D会場の合格者は1人だけになりそうだな」

「……演習会場の破壊行為による被害に気付いているのに全く考慮していない点は、相変わらずだね」

「……」

 

 

普段、彼女は優等生もいい所だ。

実に意欲的に学び、個性の制御にも秀でている。美味しいものに年相応に目を輝かせる様は実に愛らしい。

しかし、1度戦闘スイッチが入ってしまうとまるで殺戮行為そのものを楽しむかのように振る舞う。敵より敵らしいその姿。

それは5年前から変わらない懸念事項だ。

 

「……心配だなぁ」

 

 

 

 

 

「80、と」

眼下でまた一体ロボの破壊を確認した私は、溢れそうになる欠伸を噛み殺した。

───ヌルすぎる。

大量の小石を1つずつ別の生き物のように動かすのは骨が折れるが、あんな動きの鈍いロボット相手では止まっている的同然だ。

幸いと言うべきか、演習会場は市街地。多少目測を誤っても何かしらが誘爆をしてくれる可能性すらある。

 

……ああ、他の受験者の事を考えていなかった。まぁどうにかなるだろう、一応ヒーロー志望の奴らだし。

万一小石が直撃しても骨折する程度のスピードしか出していないし、ロボの爆発は極めて小規模に設計されていると見た。あれくらい逃げられなければな。

 

「……?」

 

時間はまだある、しかしロボットの排出が止んだ。

なんだ、これで打ち止めか?いや……違う。

 

ズゥ……ン

 

「巨大ロボット……!」

地下からせり上がるようにして現れたそれのあまりの大きさに、思わず口角が吊り上がる。

なんだあのサイズは!小石じゃ効かない……0ポイント敵とはいえ生徒の安全性ガン無視じゃないか!

 

───先程の言葉は訂正しよう。実にらしいよ雄英高校!

 

苛立ちを抑え付けるようにして息を吐く。

何が援助打ち切りだ。まずもって本気でも出さない限り合格出来ないシステム。あんなデカい邪魔者、排除しない限りとても悠長にポイント稼ぎなんて出来ないじゃないか。

 

 

足元では小バエどもが逃げ惑っている。

───知るか、あんな小物ども。

 

両の目が金色に輝いた。

 

 

 

 

*




後半訂正しております(2018.10.16.6:19)

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