幼女のヒーロー?アカデミア   作:詩亞呂

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第9話

私の思想の話をしよう。

 

まず私は、ヒーローというものに別段興味がある訳でも憧れを抱いている訳でもない。

 

金を貰って人を助ける、実に結構。 正義に金を払うシステム自体は気に入っている。

 

そこでは無い。

いつだってマンガや映画のヒーロー達は利益も顧みず自己犠牲の精神とやらを披露するが、気持ち悪いとは思わんかね。自分の大切な人ならいざ知らず、全くの他人のために利益も得ず己の命を掛けて救いださんとするその志。

 

人とは利があって初めてやる気が起こるものだ。

仕事をするのは金が貰えるから。

友と過ごすのは1人では味わえない娯楽を生むから。

親が子を叱るのは、子供の将来に有益になるだろうから。

金も貰えず苦しい仕事は出来まい、共に居て全く楽しく無い友と居て何が得られる、子を教育せずまともに育つならそれ程楽なことはない。

 

 

やりがい?ボランティア精神?そんなものに全くの対価なくやりたがるのは5段階欲求を全て満たしている稀有な金持ち連中くらいだろう?殆どは自己承認欲求の塊だ。

これは私が経済理論と順法精神の出世主義……いわばリバタリアンの側面からでしか理非を判断しないからかも知れないが、私はこの思想こそが真に正しいと確信している。

 

 

自己承認すら必要とせず、自分の命を他人に使う、そんな本物のヒーローとやらが私は気持ち悪くて仕方がない。

あいつらは本当に人間なのか?綺麗で、高潔で、強く正しい。

素晴らしい!なんて素晴らしいクソなんだ!

そんなものは人間では無い!

人間とは醜く卑しく本能的な生き物だ。

金が欲しいからヒーローをやる?個性が派手だったから世間に認められやすい?結構!

そちらの方がどんなに健全か!

 

 

人間から外れたような人間を望む、そんなみんなの理想のヒーロー像が私は嫌いだ。

だから、私はヒーローにはなり得ない。

 

 

 

次に戦闘行為だ。これも私は好まない。

意外かね?

勘違いして貰っては困る。私はなによりの平和主義者だ。人を助けるために武器を手に取るのはなんと恐ろしいことか。私が今個性を手に飛び回っているのは、ただ単にそれを育て親に望まれているからに他ならない。

 

個性を使い、敵を恐れず果敢に立ち向かう。そんなヒーローになって欲しくて私という人的資源に投資をしてきた雄英高校。

言葉としてはっきりとそう言われた訳では無いが、進路を聞いておきながらも道がヒーロー科1択だったことからその心中が伺い知れる。

死ぬ筈だった所を拾ってもらった恩だ、やれと言うのなら精一杯やりましょう。投資分の仕事はするのが私の流儀だ。

 

どんなに強い敵が立ち塞がろうとも笑って切り抜ける、強く正しいヒーローを精一杯アピールしてやりますとも。

 

……反吐が出る。

 

 

 

 

「聞いてるのかデグレチャフ」

「しかと」

「じゃあこれはなんだ」

 

入試終了後、久しぶりに大暴れした私は肩をパキパキ鳴らしつつ自室に戻ると、ドアの前で相澤消太……イレイザーヘッドが待ち構えていた。入試中の私の戦いっぷりを撮影した端末を見せて。

 

……撮られていたのか。まぁ、当たり前か。演習会場に審査員は配置されていなかった。別場所でモニター画面越しに採点をしていたのだろう。

「これが何か」

「自覚は無いのか……!」

 

 

自覚?

映し出された映像には、ヒーローが好むという満面の笑みを浮かべた私が爆破したロボットの破片を集め投擲、巨大ロボをボッコボコにしている所だった。

苛立ちが過ぎてあまりこの時の記憶は無いが、一応ヒーローらしく笑顔で敵に立ち向かっているのは加点要素なのではないか。

 

 

「周囲の安全確認は!」

「しなくともリカバリーガールがいるでしょう。死にゃしませんよ」

「眼下の受験者をゴミでも見るような目!」

「個性使うにはちょっと邪魔だなと」

「なぜわざわざ0ポイントの敵を!」

「邪魔で、つい」

「つい!!」

 

いやぁいい笑顔ですね私と呟けば、この凶悪な笑みが!?とイレイザーは大袈裟に驚く。

凶悪って……たったの8歳の無邪気な微笑みをまるで化け物でも見たかのような顔をしおって失礼にも程がある。確かにちょっと人に見られている事を忘れていた節はあるが。

 

「校長が危惧するのも当然だな……」

全く!とイレイザーは盛大にため息を吐くも、一体全体なにが全くなのかが分からない。

 

「……ターニャ・デグレチャフ。入試の合格者はこれからの会議で決定するが、筆記も問題無く敵ポイントが受験者中トップのお前が落ちる可能性はないだろう。合格オメデトウ」

「はぁ。ありがとうございます」

……ではなぜ、私は今説教されているのだ?

 

「お前の根性は俺が必ず叩き直してやる。来年度から楽しみにしておけ」

「はぁ……?」

 

そう言い残して、なんだかフラフラなイレイザーは自室の前から去っていった。

……結局何だったんだろう。俺、お前の担任やるから来年度からよろしく〜!ってところだろうか。いや違う気がする。

5年ここにいてあまり接点の無かったイレイザーだが、その除籍処分の多さに良く話題になっていた記憶がある。

初めてこんなに長く話したが、あれだな。小汚い。

あぁいったタイプの自室はゴミ屋敷か家具が無さすぎて妙に埃っぽいモデルルームのようになっているかの2択だろう。興味は無いが。

 

 

しかし合格……合格か。

とりあえず校長の課題はクリアかな。

「……安心したら腹が空いたな。少し早いが夕食にするか」

 

足取りは軽い。ランチラッシュに頼んで今夜はご馳走にして貰わねば。 デザートは何が良いだろう。

 

 

 

*




■おまけ
「合格おめでとう、ターニャさん。お口に合ったかな」
「うむ。ランチラッシュのスペシャルフルコース、しかと堪能させて貰った。残念なのはここにワインがない事くらいか」

「ここ学校だから当たり前だし君にアルコール分を摂取させた記憶が微塵もないはずなんだけど……まぁいいや、食後のコーヒーは?」
「頂こう。いや、ランチラッシュの腕はいつも素晴らしいな。嫁に来ないか」
「そこwwww嫁なんだwwwwwww」


ご飯タイムは毎回若干知能指数が下がって発言がおかしくなる閣下。

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