アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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ははははははは。長くなったぜよ

ルーリッド編これで最後だから問題なし?


悲劇の終焉 前

セルカがそれに気付いたのは偶然だった。

 

いつものようにシスター・アザリヤから〈神聖術〉を教えてもらい、今まさに実践しようとしていた時のことである。

 

「〈システムコール。ジェネレート・サーマルエレメント・トーチ」

 

片手の指に発生した5つの熱素を、5本並んだ蝋燭に向ける。するとそれぞれが自然と移動し始めた。数秒経つとすべてに炎がつき、明るく輝き始める。

 

「良い出来映えですね。所要時間がもう少し短くなれば、その歳でこれほどの〈神聖術〉を使える人は中々にいないでしょう。貴女は素晴らしい才能の持ち主です」

「ありがとうございますシスター」

 

シスターに誉められて、私は笑顔を浮かべてお礼を口にする。誉めてもらえることは素直に嬉しいけど、やっぱり心の底から言われている気がしない。それはお姉様に及ばない技量からなのだと理解していても、そう簡単には割りきれない。得手不得手が人にはあると言うけれどそれでも悔しい。

 

村始まって以来の天才だと言われた姉様に比べたら、足元にも及ばない自分の才能の無さに呆れる。努力次第で変われるとも言うけど人には限界がある。限界を越えられるのは選ばれた存在であり、一般人がそのおこぼれにあずかれるはずもなく…。

 

「午前中はこれで終了にしましょう。午後からは貴女の苦手な光素の練習ですよ。お昼の間にしっかりと休憩なさい」

「お、お手柔らかに」

 

困惑気味の笑みを浮かべると、シスターも楽しそうな悪い笑みを浮かべてくれる。けれど背を向けて教会へと入っていくシスターの背中からは、なんとなく期待外れという空気が漏れている気がする。

 

姉様を指導していたことがあるシスターは、自分の立場が危うくなるのではないかと思うほど、姉様の腕前に驚嘆したと6年前に言っていた。でもそれに対して恨みや妬みなどはなかったそう。むしろ後を任せられる後継者がいることに、誇りと安堵を感じていたとも言っていた。

 

でもその姉様はもうここにはいない。みんなが口には出さないけれど、今でも姉様のことを思い返すことがあるように思える。たとえ禁忌を犯した犯罪者であっても、自分たちの村にいた子供であり、才能溢れる天真爛漫な方だったのだから。

 

「それにしてもさっきのは気のせいかしら」

 

セルカが口にしたのは、熱素を生成しようとしたときに感じた違和感のことだ。〈神聖術〉を行使するには、周囲の〈空間リソース〉を集める必要が出てくる。周囲の〈空間リソース〉が低い状態。つまり枯渇していると、〈神聖術〉を使うことはできない。上級者になれば、ある程度離れた場所からでも集めることができるが。

 

だがそれは使用者次第であり、収集可能な範囲は使用者の技量によって変わってくる。

 

そのなかで感じた異様な何か。まるでこの世ならざる何かがいることを思わせるような異質なもの。それが何かなど眼にしなければ理解できるはずもなく、セルカは気のせいにして忘れることにした。

 

それが悪夢の始まりになるとは知らず…。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

〈ルーリッドの村〉を北に抜けた森の中。ある生き物の群れが、15匹ほど隠れながら移動していた。粗末な武器を片手に持った緑色の皮膚。ギョロリと動き回る黄色い眼球。〈現実世界〉では、お馴染みの雑魚モンスターである《ゴブリン》だ。

 

「ギヒッ!イウムだ。白イウムの村があるぜ喰っちまおう」

「いや、持って帰って高値で売ろうや。これだけいれば良い値がつくぜ」

 

小柄なゴブリンたちは口々に自分の意見を口にして、涎を滴ながら血走った眼を村で遊ぶ子供たちに向けていた。その子供たちはセルカが面倒を見ている教会に住んでいる孤児である。

 

「いいや殺せ。男のイウムなんぞ連れ帰ったって、労力のわりに金にはならねぇ。捕まえるのは女のイウムだけだ」

 

他のゴブリンとは存在感がけた違いな巨体を持つゴブリンが口を開くと、話していたゴブリンが咄嗟に口をつぐむ。キリトが住む〈人界〉でも、ゴブリンが住む〈ダークテリトリー〉でも力こそが支配を意味する。それをもっとも形あるもので表しているとすれば、今のように言葉を発するだけで周囲が平伏す。

 

そのような状態こそが支配である。

 

「《蜥蜴殺しのウガチ》の名を以て命じる。男イウムを殺して女イウムを奪え。行くぞてめぇらぁぁぁぁ!」

「「「「「ウギャギャギャギャギャギャ!」」」」」

 

ウガチと名乗った巨漢が蛮刀を抜刀して先頭を走る。それに続いて粗末な武器を持った小柄なゴブリンがあとに続いた。

 

 

 

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セルカは昼食の準備ができたので、遊んでいる子供たちを迎えに〈北の門〉に近い道まで来ていた。

 

「ご飯だから教会に戻りなさいね」

「「「「「「はーい」」」」」」

 

素直に言うことを聞く子供たちを見送っていると、北風にのって生臭い臭いが漂ってきた。振り返ると遠くから大勢の足音が聞こえてくるではないか。眼を凝らすと緑色をした皮膚をもつ生き物が接近してきていた。それは昔、ガリッタ爺に聞いたお伽噺にでてくる生き物にそっくりだった。

 

「ゴブリン!?」

 

セルカは意識すると同時に、修道着で動かしにくい足を走らせて周囲の家へと危険を知らせた。

 

「ゴブリンが来たわ!みんな逃げて!」

「こんな昼間に何を騒いでいる?…セルカか。ゴブリンなんているはずないだろ」

「じゃあ見てください北の通りを!」

 

家からでた髭を生やした男性は言われるがまま、その方角を見る。そして驚愕した。

 

「本当にきているだと!?セルカ、みんなに知らせるんだ!」

「はい、父様!」

 

セルカは村長である父の命令通りに、危険を知らせる鐘を鳴らしに行くのだった。そして僅か10分後、家のひとつに火が放たれることになる。

 

 

 

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村に良からぬことが起こっていると直感したキリトとユージオは、息を絶え絶えにして歩けば10分後かかるところを、なんとか5分でやってきた。

 

「…何が起きてるんだ?」

「わからない。もし火事だったとしてもここまで村が喧騒に溢れるはずないんだ。きっとマズイことがあったんだ」

 

南の門から入って中央へと走ると、住民たちが不安そうに北へ眼を向けていた。

 

「セルカ!何があった!?」

「キリトにユージオ?なんでここに。ううん、今はどうでも良いわ。ゴブリンが攻めてきたの!今私の家の前の通りで衛士がなんとか防いでる!」

 

嫌な予感が的中だ。嫌な予感ほど当たりやすいというが、本当に困り物にしかならない。

 

「ユージオ、行くぞ!」

「…うん!」

「2人とも駄目!」

 

セルカの制止を無視して、2人はゴブリンが来ている場所へと走っていく。走り去っていく2人に手を伸ばしたまま何もできずにいる自分が悔しい。またあの日のように大切な人を失ってしまうの?

 

それだけは絶対に嫌!

 

「セルカ、戻りなさい!」

 

私はシスターに声をかけられても振り返らず2人を追いかける。ごめんなさいシスター。本当はシスターの言うことを聞きたい。でもユージオを死なせたくないの。

 

キリトだってまだ出会ってから数日だけどこんなに村のみんなと仲良くしてくれている。そんな2人をただ見送るだけなんて私にはできない。2人を帰ってこられるように支えるから。

 

3人で戻ってくるので待っててください。

 

私は何度も転けそうになる足を動かして、とてつもない速度で走り去っていった2人を追いかけた。

 

 

 

キリトとユージオは幾つかの角を曲がってからその惨状を目の当たりにして驚愕する。剣が折れて戦意を失った者、重症を負って呻き声を漏らす者。それは戦力の差と技量の違いを如実に示していた。

 

「退避、退避ぃ~!」

「に、逃げるのか!?」

 

まさかの衛士の撤退にユージオが声を荒げる。

 

「ユージオ、ここで戦うんだ!やらなきゃ俺たちだけじゃなく村のみんなが死ぬ」

「でも僕はまともに剣を振るったことないんだ」

「安心しろ。ここにある剣は〈青薔薇の剣〉みたいに扱えない代物じゃない。持ってみればわかるよ」

 

キリトが僕に衛士が落としていった剣を一つ渡してきた。鈍く白銀色にソルスを反射させる刀身は、戦いを恐れている僕に勇気を与えているみたいだった。

 

この剣を取らなければ家族・セルカ・村のみんな。そして隣で僕を奮い立たせようとしてくれているキリトを失う。そんなのはもう嫌だ!大切な人を守れないような弱い僕はもういらない!

 

「わかった。キリト、やろう!」

「そのいきだユージオ。…待たせたなゴブリン」

「ギヒィ!逃げないイウムがいるぜぇ!」

「殺せ!殺せ!」

 

口々に喚いているゴブリンたちの言葉が僕の嫌悪感をさらに増やす。〈闇の軍勢〉と合間見えることなどないはずの今、僕の前にいるのが現実だ。受け入れるしかないんだ。ここに〈人界〉に〈闇の軍勢〉がきてしまっていることを。

 

「いいかユージオ、剣で奴らが近づかないように牽制するだけでいい。俺がでかい奴を倒すまで時間を稼いでほしい」

「どれくらい?」

「15秒もしくは30秒だ」

「が、頑張るよ」

「頼むぜ相棒」

 

僕の肩を叩いて励ましてくれるキリトに感謝しながら剣を構える。柄が腕の振るえでカチャカチャと音を鳴らしているのがやけに大きく聞こえる。まるでその音以外には存在しないかのように。

 

「ハァハァ、う…」

「落ち着けユージオ、相手の動きをよく見るんだ。剣を振るうためにはどうしてもその前に前兆がある。そこをしっかりと確認できたらユージオは誰にも負けないさ」

「…やってみるよキリト」

 

キリトが僕の肩に手を置いてくれたことで、僕の体の震えが止まった。何故こんなにも安心させられるのだろう。キリトが声をかけてくれるだけで身体中から力が溢れてくるみたいだ。

 

「いくぞ!セアァァァァァ!」

「うん!うわぁぁぁぁぁ!」

 

キリトの気合いに似せて僕も喉の奥から声を出す。悲鳴じみたものだったけど、まさか僕たちが突っ込んでくるとは思っていなかったようで足が止まっている。

 

キリトが一番近くのゴブリンに不意打ちに近い体当たりしたことで、まとめて5匹のゴブリンがひっくり返った。僕も似たような体勢で体当たりをすると、以外にも軽い衝撃で彼らが同じようにひっくり返る。

 

「キリト、行って!」

「頼んだ!」

 

キリトが倒れたゴブリンたちの合間をぬって、もっとも体格の良い1匹に接近する間、僕はキリトを追いかけようとするゴブリンたちに斬りかかる。それだけでゴブリンたちの意識は僕に向く。14匹が放つ血に飢えて血走っている眼からは異様な圧力があった。それが僕の体にまとわりついて動きを鈍くする。

 

「殺す!白イウム!」

「っ!」

「ギャー!」

 

1匹と力比べしていると、横から現れたゴブリンが僕に斬りかかってきた。避けることができない僕は反射的に瞼を閉じたけど、体を切られる痛みは感じなかった。それどころか悲鳴が聞こえたので片目だけ開けると、何か液体を体に浴びて転げ回っているゴブリンが視界に入った。一体誰がこんなことをしたのか気になり周囲を見渡す。キリトは巨体のゴブリンと互角の戦いを繰り広げているから違う。

 

「一体、誰が僕を?」

 

唯一確認していない背後を見ると、肩を上下させ荒い息をついているセルカが右手に液体の入った小瓶を握っている。

 

「セ、セルカ!?っそれは?」

 

剣で鍔迫り合いをしながら、あまり余裕のない僕はセルカに聞いてみる。わずかに水色に染まっている液体は、何を媒体にしたものなのだろうか。

 

「聖水よ。一応の効果はあるみたいね。とりあえず持ってる分だけ投げるから、その間になんとかして!」

 

言葉が終わるか終わらないかのところで、セルカがまた小瓶をゴブリンたちにむかって投げつける。ゴブリンたちは我先にと飛び散った液体から逃げ回っている。そして何故か鼻をおさえて腰が引けているのが見えた。どうやらあの液体が発する臭いが苦手なようだ。だったらその液体の前に出なければセルカは怪我をしない。

 

「キリト、セルカは無事だから無理しないようにしてくれ!」

「任せろ!」

「グルァァァ!てめぇらさっさと餓鬼を殺せ!」

「殺すぅ!イウム殺すぅ!」

 

せっかくゴブリンたちの指揮を下げたというのに、僕の余計な一言でかえって上げてしまったみたいだ。自分の失敗は自分で取り返すんだ!

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「ギヒィ!」

「ギャッ!」

 

彼らの粗末な剣を僕の剣が遠くへ弾き飛ばしていく。〈竜骨の斧〉で〈ギガスシダー〉を叩いていたお陰で、彼らの力にはどうやら勝てるみたいだ。

 

「ガルァ!」

 

痛みを堪えるような呻き声が聞こえたけど、気にする余裕は今の僕にはない。武器を失った彼らは一目散に北へと走り去っていった。僕はそれを深追いすることなく見逃しておく。余計なことをして自分が怪我をすれば、2人に迷惑をかけることになるから。

 

「ぐあっ!」

「イウムの餓鬼がぁ!この〈蜥蜴殺しのウガチ様〉に敵うわけあるかぁァァァァ!」

 

ウガチの攻撃によって吹き飛ばされたキリトは、住宅の壁に叩きつけられて意識が朦朧としているみたいだ。起き上がろうとしても痛みで足腰に力が入っていない。

 

「ハァハァ、この恨みはイウムどもの命3つ程度で消えると思うなぁァァァァ!」

 

ウガチという名のゴブリンはキリトに切り落とされたのか、肩から先がない左腕の傷口を右手で握りつぶす。メチメチと肉が潰れる音が否応なく耳に入り込んでくる。まるで洗脳するかのように脳裏にこびりついてくる。

 

「死ねぇイウムの餓鬼ィ!」

「キリトォォォォォ!」

 

僕はキリトにとどめを刺そうとしたウガチの前に立ちはだかった。立つこともままならないキリトが今あの剣を受ければ、間違いなく〈天命〉を全損してしまう。〈天命〉がなくなればキリトは死んでしまう。この数日間の楽しかった日々が幻になってしまう。

 

「それだけは嫌だぁぁ!」

「どけぇ白イウムのガキャァァァァ!」

 

ウガチの剣をもっとも力の入る体勢から振り抜いたことで、どうにか拮抗させる。僕がこの6年間1日2000回〈斧〉を振るい続けた結果が、今この瞬間に表れている。力では絶対に勝てるはずもない相手と力勝負を続けられるのは、キリトを守りたいという〈想い〉があるからだと思う。

 

愚直に斧を振り続けた毎日は僕を裏切らなかった。ジンクに馬鹿にされた日も。アリスやカイトがいなくなったあの日も。決して止めなかった理由は、きっとこのためだったんだ。

 

「今度こそ僕がみんなを守るんだぁ!」

「邪魔だぁガキャぁァァァァ!」

「うわ!」

 

予想以上の重みが両手に負荷を与えてくる。このまま押しきられたら、キリトではなく僕が完治不可能なほどの攻撃を喰らうことになる。

 

「負けない!負けられないんだ!」

「殺してやるイウムぅ!」

 

あり得ないほどの重さを持った剣が僕の握る剣を襲い、刀身を半ばから折ってしまった。

 

「しまっ!」

「死ねぇェェェ!」

「がはぁ!」

 

左脇腹から真横に切り裂かれた僕は、その勢いだけで5メル以上も吹き飛ばされ住宅にぶつかって止まった。その頃には僕の意識はもう霞がかって、心配して駆けつけた2人の声さえも聞こえなかった。

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