アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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今回は懲罰前の団欒です。

試合は次話ということで。


作戦

〈ギガスシダー〉。それは〈ルーリッドの村〉を開墾した当初からあった巨木の〈神聖語〉での名前だ。火をつけても燃えることはなく、斧で殴ろうものなら一発で刃こぼれしてしまうほどの優先度(プライオリティ)を持つ。

 

村の住民が考えうるすべての方法を試してみたが、どれもかすり傷以上の傷を付けることはできなかった。そのためこの巨木は《悪魔の樹》という縁起でもない名前をつけられるはめになったのだ。

 

300年かけて樹皮全体の1/4程度しか刻み込めなかったものを、ユージオはわずか8年で切り倒してしまった。その要因は、村に現れたゴブリンと戦ったからということだった。本来であればあり得ないことである。《ダークテリトリー》の〈人工フラクトライト〉が直接村にやって来て、殺戮を始めようとしたなど。

 

〈果ての山脈〉を定期的に〈整合騎士〉が見回っているのだが、そのわずかなタイミングを狙って外に出たとしたら、彼らを使役する長は統率のとれる優秀な〈人工フラクトライト〉と言える。そんな頭の切れる〈人工フラクトライト〉が、〈闇の軍勢〉に数多いればこの先起こる戦争での苦戦は免れない。〈整合騎士〉は数の劣性を覆すほどの実力者だが、時には数が物を言うこともある。

 

そのときにはどうするべきか。それは各々が気付かねばならないことであるため、今は一介の初等練士となっている俺がどうこう言える立場ではない。それよりもっとも優先することがある。下手をすれば退学扱いされるかもしれないのだ。特にキリトが。

 

 

 

 

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修剣学院大修練場においてキリトは、ウォロ・リーバンテイン首席と対面することになっている。何故そのようなことになったのかを説明すると長くなる。簡単に言うとキリトがウォロ首席の制服を汚してしまい、その懲罰として〈立ち合い〉をすることになってしまった。そのことが学院全体に広がってしまい、大事になったということだ。

 

そういうことで俺たち2人は、自室で正座しながらお叱りを受けている最中なのである。

 

「聞いてるのかなカイト!」

「聞いてなくもない」

「…〈神聖術〉の補習確定ね」

「…いや、ほんとなんかすんませんでした。つい熱くなっちゃって」

「そ、そうだぞユージオ。男なら剣を握ればだなぁ」

「僕に迷惑がかからなければね」

「「…」」

 

ぐうの音もでないとはこのことだ。普段は穏やかな好青年であるユージオが怒ると怖さが増し増しだ。優しい人ほど怒ると怖いというのはこういうことを言うのだろうか。裏表両方のアリスは優しいが、普段から怒らないからわからない。怒ったとしても〈いつもの〉アリスは満面の笑みを浮かべて、〈新しい〉アリスは無表情でヘッドロックしてくるだけだし。

 

ブルッ。

 

あ、やっべ、思い出したら寒気がすげぇ。やっぱ普段から優しい人の琴線に触れたら即死刑ってことが身に染みてわかりました。

 

「正直言うとキリトとカイトがこの1年間、問題という問題を起こさなかったのが奇跡なんだけどね」

「「め、面目ないっス…」」

「これっきりにしてくれるのであれば構わないよ。僕は巻き込まれ体質だから仕方ないのだけど」

 

う~ん、ユージオはどっちなんだろう。巻き込まれる回数の方が多いけど、実は巻き込んでいる事実があるんじゃないかな。俺たちが気付いてないだけで。

 

「カイト、何か文句ある?」

「ございませんユージオさん」

「よろしい。…それよりもキリト、対面では勝てるのかい?」

 

怒っているときとは違った真面目な顔で、ユージオは心配そうにキリトに問いかける。何をとまでは言わないが話の流れからして気付かないはずがない。それ関係で怒られていたのだから。

 

「勝てるとは言い切れないかな。リーナ先輩に一度も勝ったことないのに、首席に勝とうだなんておこがましいよ」

「自信を失うのはわかるよ。あの人の剣は人並みなんて言えないからね」

「もしかしてキリトは大事なことを忘れてないか?」

「「大事なこと?」」

 

2人が首を傾げながら復唱する。正座のままキリトに向き直ると、ユージオも正座をして同じようにキリトへと向く。

 

「この1年間、ずっとリーナ先輩と戦っていたからわからないのかもだけど、ウォロ首席とリーナ先輩にはとてもわかりやすい違いがある」

「戦術か?」

「そうだ。《歩く戦術総覧》と言われるだけあってリーナ先輩は前々から考えていた戦術に、試合のなかで見つけた相手の癖や動きなどを瞬時に把握して、これまでの情報をまとめた自分なりの戦術に組み込む。そしてそれを即座に発動して勝利してきた。でもウォロ首席は恐るべき剛剣で相手を圧倒して勝利してきた。簡単に言うと〈知識v.s.()力〉という人間が得意とする方法でそれぞれが戦ってきたんだ。キリトはどちらかと言えば力優先だろ?」

「ああ、強い技で相手を倒すのが好きだ。でもそれとどう繋がるんだ?」

 

ユージオはなんとなく察しがついているみたいだから嬉しいのだけれど、本当はキリトに早く気付いてほしかった。

 

「キリトは力技を好んで戦うけどリーナ先輩は知識で戦う人だ。こう言ったら2人に悪いけど、キリトとリーナ先輩はあまり合わない人間性なんだよ。でもこれまで2人にいざこざがなくむしろ関係を築き上げることができたのは、2人の人間性が相乗効果として成り立ったからだ。それは決して悪いことじゃないしむしろ誇りに思うべきことだよ。キリトは自分の内面を無意識に隠したがるから気付かないのだろうけどね」

「つまりカイトが言いたいのは、『力対力で今回は戦えるから負けることはない』ということだね?」

「こうやって励ましたあとに言うのは間違っているだろうけど、勝てるかどうかは微妙なところだ。最後にキリトが勝つために必要なのは〈想い〉だな。それがすべての命運をわける」

 

首席たるウォロ上級修剣士が、生半可なイメージ力であるはずがない。誰よりも強くあるために己を磨き続けてきたイメージ力は、〈整合騎士〉に軽く興味を持たれるほどなのではないだろうか。だがそれは俺の予測であって、古参の方々の意見を交えたものではない。

 

「〈想い〉かぁ。俺が込めるべきなのは自分で見つけなきゃダメだよな」

「他人に見つけてもらう手がないわけじゃないけど、それはキリトが自分で見つけないとな」

「思い浮かぶけどもそれでいいのかが悩みなんだよなぁ」

「何を考えたんだい?言いたくないなら言わなくてもいいけど」

「…リーナ先輩に首席を取ってほしいと思ったんだけど。ダメか…」

 

キリトの〈想い〉が意外なものだったので、俺とユージオは顔を見合わせる。キリトのことだから〈アインクラッド流〉のことを考えると思っていたのだ。だが実際は他者を思いやるというキリトらしからぬ〈想い〉だった。かといって決してキリトに人を思いやるという気持ちがないわけじゃない。むしろ誰よりもあるだろう。だがキリトは剣という限定的にされた条件であれば、流派などについて〈想い〉を込めると予想していたのだ。

 

だがそれはこの1年間、リーナ先輩に手解きを受けたからこその考えだった。傍付きとして仕えたのがリーナ先輩ではなく、ゴルゴロッソ先輩のような人であったならば、今のような回答を口にすることはなく、普段のキリトの〈想い〉を語っていたことだろう。そういう側面で言えばこの1年間は無駄ではなく、キリトという人間を確かに成長させてくれたようだ。

 

だが俺が求めている〈想い〉は、リーナ先輩との1年間で混合されたものではなく、キリト自身の〈想い〉を口にしてほしいのだ。キリトが〈この世界〉に来てから見て感じたことを。そしてキリトがこの先どうしたいのかということを自分の口で語ってほしい。

 

「キリトはどうしたい?リーナ先輩のためじゃなくて自分のために」

「俺のため?」

「今回の対面はキリトが主役だろ?だったらリーナ先輩のことを忘れて、自分のことだけを考えればいいんだ。キリトが今使える〈最高の連続技〉をその立ち合いで見せれば、先輩との約束も果たせてウォロ先輩と戦える。キリトがどうしたいかによって変わるけどな」

「俺の好きなようにすればいいのか…。俺は〈ウォロ先輩に勝って無礼を許してもらう。そして自分にできる最高の技をリーナ先輩に見せる〉。それが俺の〈想い〉だ」

 

キリトの本心が聞けたことで、俺とユージオは満足そうに頷く。キリトの眼には強い光が溢れ、負ける気など微塵もないと言っているかのように輝いていた。

 

「そろそろ5時前か。先に行って気持ちの整理してくるよ」

「気楽にやれよ」

「しっかりね」

「ああ!」

 

先ほどまで悩んでいたとは思えない清々しい笑顔を浮かべながら、初等練士寮を許される限りの速度で去っていく。

 

「僕は久々にカイトが格好いいと思ったよ」

「それはこの1年間まったく格好いいことをしてなかったと言いたいのかな?」

「そういうわけじゃないよ。カイトはいつだって僕の憧れだったんだ。小さな頃からジンクたちに虐められていた僕を守ってくれた。人数で負けていても僕が間違っていないことを信じて助けてくれた。嬉しかったけど何もできない自分が嫌だった。8年前だって、カイトとアリスが連れていかれたときに何かできたはずなんだ。なのに僕は何もできなかった」

「ユージオはもしかして恐怖することはダメだって思ってる?」

「え?」

 

言葉の意味が理解できないとばかりに、ユージオは眼をパチクリさせて俺に顔を向ける。深いグリーン色の瞳が夕焼けに照らされて不思議な色合いに変わっていた。何故かその色が焦燥に似た感情を沸き上がらせる。

 

「恐怖は人間になくてはならない感情だよ。怖くなかったら自分より強い相手だとわかっても逃げることはしなくなる。つまり命を無駄にしているんだ。『敵に背を向けるな』とか言うけど逃げてもいいことだってある。その場にいたら確実に死ぬなら逃げて勝つ機会を待てばいい。逃げてはならないときや逃げてもいいという線引きは、人それぞれだろうけど恐怖を感じることに間違いなんてない」

「カイトでも怖いことあるのかい?」

「そりゃあるさ。ウォロ首席と真剣勝負をしようだなんて思いたくないよ。あんなに強い人と剣を向け合うってだけで手が震えそうだ。それに〈天職〉で《狩人》をやってたのもあるかな」

「キリトは怖くないのかな」

「怖いさ。強者ほど恐怖という感情を否応なく知らされるというか知っているからな」

 

キリトは強い人間だ。己の意思を持って前に進む力を持っている。ユージオだってキリトとは違った強さを持っているが、本人は気付いていないようだ。誰にでも優しく接することはそう簡単なことではない。

 

自分を見下すような人間に嫌悪感を抱いたとしても、本心からその人を憎むことはできない。ユージオは優しすぎるから自分の気持ちに素直になれない。それがまた〈ユージオ〉という人間であり心安らぐ存在であるのは確かだ。

 

偉そうに人のことを評価しているが、結局のところ俺は自分の強さを詳しく知らない。あるのは《転生》した際に与えられた特典程度だろう。それを除いてしまえば、俺という人間には何が残るのだろうか。

 

たまに俺は俺がいなくなっても、〈この世界〉から消えても気にする人間はいないのではないかと思ってしまう。

 

キリトやユージオのように突出した印象に残る面影もないし抜きん出た才能も無い。でもいなくなればアリスの側にいられなくなるということになってしまう。違う世界に生きていた存在とはいえ、本当に心から愛している女性と永遠の別れをするのは苦しい。身を裂かれるような痛みと形容されるものだろうか。アリスの笑顔が見れなくなると考えるだけで左胸が鋭く痛む。

 

天真爛漫な〈昔〉のアリス。無口だが愛情をくれる〈新しい〉アリス。どちらもこの手から離したくないと心の底から思う。たとえ自分の命と引き替えにアドミニストレータを殺したとしても、俺はアリスを愛し続ける。

 

「キリトには勝ってもらわないとね」

「そうだな、それでこそ俺たちの師だ。負けたらあいつが大好物の〈跳ね鹿亭〉名物、《蜂蜜パイ袋一杯を目の前で頬張る刑》に処しようかな」

「クスッ、それは面白そうだね。どっちに賭けようか」

「友情を優先するならばキリトの勝利で、欲を優先するならウォロ先輩の勝利だな」

 

キリトが初等練士寮から出て走っていく後ろ姿を、2人して窓から見下ろしながら会話を続ける。

 

「難しいなぁ、どっちもというのはダメ?」

「上目遣いで聞いても許可しないぞ。親友なら信じてやれよ」

「と言いつつも実は、カイトもキリトが負けることを望んでいたりして」

「…ははははは。ま、まさか…」

 

「君のような勘の良いガキは嫌いだよ」って言ったら何を言われることやら。そんな言葉をさすがに口にはしないけどね。だって神経質で心配性なユージオくんですから!

 

「…カイト、今僕のこと内心で馬鹿にした?」

「ま、まさか~」

 

ユージオに軽く睨まれてwついついキリトのように右手で後ろ髪をかいてしまう。

 

「今のはキリトが誤魔化そうとする仕草だよ!やっぱり馬鹿にしてたんだ!」

「うわぁ、誤解だユージオ!キリトのせいなんだよ!あいつが悪い!」

「人の所為にしたらダメだよカイト!」

「すいませんでした!」

 

そんな仲の良い会話が初等練士寮206号室から響いていたと205号室の住人から情報提供があった。




作者が格好いいこと書きたくて書いた話でした。語彙力も表現力もない作者からしたらこの程度が限界です。

誰もが特別なわけではなく、平凡な能力でいることは普通であると思うんです。作者もこれといった特徴がないので言えるのかもしれません。

あるとすれば趣味にのめり込むと周りが見えなくなることでしょうか。

↑これって特徴でいいんでしょうか?

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