アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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長いなぁ。長くしようと思ったら一万字超えちゃった。

わりと作者的には凝って書けたかなと思います。


懲罰

3人での作戦会議を終えた俺たちは、〈立ち合い〉が行われる修剣学院大修練場に来ていた。観戦席と思われる2階から試合場を見下ろす形で座る。俺の隣には、さも当たり前かのようにユージオが座るが、その顔は不安で彩られていた。

 

「ユージオ、キリトを信じろ。俺たちの師がそう簡単に負けるわけがない」

「わかってるんだけどね。でも首席が相手だから不安で」

「そこがまたユージオの優しさで長所なんだけどな」

「短所もあるって?」

「気弱なところ。なんでもかんでも深く考えすぎだ」

 

ユージオは物事をしっかりと見定めてから行動を開始するタイプだ。だからこういうことに関しては、ネガティブ思考になってしまうのかもしれない。反対にキリトは考えるより行動優先なので、空回りしなくもないことがある。対して俺はというと、2人を足して割った立ち位置だと思う。

 

時にはユージオのように物事を見たり、時にはキリトのように行動を先にしたり。そして空回りしてキリトと共に、ユージオからの雷を落とされる羽目に遭う。さして問題がないからずっと一緒にいられるのだろうが。

 

ウォロ首席とキリトが剣を鞘から抜くと、感嘆とどよめきが混ざった歓声が上がる。一方は見るだけでその存在感を刻み込まれる代物、もう一方は刀身だけでなく全体が黒一色である剣に向けられたもの。存在感はキリトの剣が上だが、それに劣らぬとばかりにウォロの剣からは陽炎が揺らいでいるように見える。

 

「おやおや、辺境では剣に墨を塗る風習でもあるのですかなぁライオス殿!」

「そう言ってやるなウンベール。傍付きは忙しくて剣を磨く暇もないのだろうよ」

「まったくライオス殿の意見は的を射ておりますなぁ」

「お前もそう思うか?ヒョールよ」

 

ライオスが哄笑しながら毎度の皮肉で返すと、貴族出身の生徒たちから失笑が上がった。それを聞いた俺はぶん殴ろうと立ち上がろうとしたが、ユージオが羽交い締めにしてくるので、近くまで歩み寄ることができない。

 

「離せユージオ。俺はやらなきゃならないことをやる」

「離したら終わりだよ、色々とぉ!もぅ暴れないのカイト!」

「あいつらを斬る(kill)!」

「それ一番やっちゃ駄目なやつ!また連行されるよ!」

「構わねぇ!親友を侮辱されて黙ってられっか!」

 

なおもギャーギャー喚く俺の声がキリトにも届いたのか。キリトがあの剣を振って、「落ち着け」と催促している。尚も暴れようとした俺だが、この場で一番精神的に疲れているはずのキリトに言われてはそれ以上何もできなかった。渋々ではあったが腰を下ろすると、ユージオは少なからず安心したようだ。

 

「まったく喧嘩っ早いんだからカイトは」

「…ユージオは不満じゃないのかよ」

「不満だよもちろん。でも僕は怒りを表に現すことが苦手だし、僕の代わりにカイトが怒ってくれるからそれでいいんだ」

「自分の意思を持とうぜユージオよ」

「善処するよ」

 

ユージオの穏やかな笑みを見て、俺も通常運転に戻ったようだ。その間にキリトがリーナ先輩と手短に話をし終えて剣を構えた。

 

ウォロ首席が重く(剣の重量ではない)、されど軽い動きで剣を大上段に構える。その構えは〈ハイ・ノルキア流《天山烈波》〉だ。キリトの指導士であるリーナ先輩を、これまでの検定試験にて何度も敗北させた奥義。

 

その技の強さを眼にしているからか俺は手に汗を握っていた。

 

「カアッ!」

「ぜあっ!」

 

2人がまったく同時に動き、互いの奥義をぶつけ合う。おそらくキリトの奥義を大勢は、〈ノルキア流《雷閃斬》〉だと認識しただろう。俺・ユージオ・リーナ先輩・ゴルゴロッソ先輩・ベンサム先輩は、単発技を繰り出すとは予想していなかった。

 

読み通りキリトは〈アインクラッド流単発技《バーチカル》〉ではなく、四連撃《バーチカル・スクエア》を繰り出した。

 

直接戦ったわけではないゴルゴロッソ先輩やベンサム先輩でさえ、キリトが〈連続技〉を使うと予想していたのは、剛剣であるウォロ首席の技が、生半可な技では防げないとわかっていたからだ。使うならば、〈連続技〉で何度も《天山烈波》へぶつけて威力を削いでいくしかない。初等練士であるキリトが、上級修剣士ウォロ首席に勝つにはそれしかないのだ。

 

2年間独学で学院にて鍛え、幼き頃から鍛練したウォロ首席が繰り出す技はそこら一介の衛兵隊長でも防ぐことはできない。だからキリトは〈連続技〉を選択した。

 

キリトの剣が二度弾かれるが、ぶつかり合う度にウォロ首席の剣速も鈍っていく。ついに三撃目に繰り出した上から下への垂直斬りで拮抗した。ウォロ首席とキリトの剣が放つオレンジ色とブルーのライトエフェクトが、激しくぶつかり合って修練場を白色に染め上げる。ウォロ首席と拮抗していることに多くの生徒がどよめく。リーナ先輩が力で勝てないのを理解しているからか、剣での鍔迫り合いは一度も見たことがない。

 

他の上級修剣士でさえ、そのような状態まで持ち込むことは不可能だ。持ち込めたところであっという間に力に押し負けるのだが、キリトは足を引くこともなく前に進もうとしている。鍔迫り合いから一転してキリトが四連撃目を繰り出すが、リーチの短い〈ソードスキル〉では僅かな距離で届かない。最後の攻撃による隙をウォロ首席が見逃すはずもなく、鋭く重い右薙ぎ払いがキリトに迫る。

 

だがそれも予測していたのかキリトがステップで避ける。そこからは、もう常人の動体視力では追い付けない高速戦闘が始まった。

 

「かあぁぁぁぁ!」

「はぁぁぁぁぁ!」

 

ウォロとキリトが気合いを迸らせながら高速で剣を振り合う。型を無視し、ただただ剣を振るう。ウォロ首席は帝国騎士団剣術指南役という家名を汚さないために、キリトは自分のためにがむしゃらに剣を振るう。

 

2人に映るのは目の前にいる勝つべき存在唯一人(ただひとり)。歓声は聞こえず生徒の存在も感じない。脳を占めているのは相手の動きを予測するための視覚、呼吸を聞くための聴覚からもたらされる僅かな情報。キリトは久々に感じることのできた感情に歓喜していた。強敵という言葉では足りない相手と出逢えたことが嬉しかった。普通に生活していれば、関わることのなかった人と剣を交わせることができた。

 

それだけでも嬉しかった。

 

「ぬう…んっ!」

「っ!」

 

再び鍔迫り合いになると、ウォロ首席からとてつもない圧力を感じた。どれほど腕に力を込めても押し返すことはできない。一瞬でも気を抜けば腕ごと切り落とされる。それほどまでにウォロ首席の剣は重い。

 

〈私は…負けられんのだ!〉

 

そんな声が聞こえたような気がした。その瞬間腕にのし掛かる重みが倍増する。全力でようやく互角だったというのに、それ以上の力を出されてはこちらも耐えられない。徐々に俺の剣が押し戻されていく。このまま押し戻されれば俺はきっと負ける。負ける?そんな結果にしてたまるか!俺は、俺は勝つんだ!誰だっていい、自分のためでも相手のためでも俺が勝つために力をくれ!

 

ドクン!

 

〈想い〉を心のなかで吐き出すと剣が拍動した。まるで生き物のように魂を持った動きだ。眼を見開いている間にも変化は続いていく。キンキンと音をたてながら刀身が伸びていく。それと同時に柄も片手で握るのがやっとだった広さから、両手持ちにできるほどにまで広がる。

 

俺は驚くより先に、左手を右手の下へと移動させて力強く握る。両手で握ると安心感と高揚感が体を走った。まるで水を得た魚のように元気になる。今までの疲労が消えたかのような錯覚に陥る。気付かずに浮かんでいた薄い笑みを引っ込めて、鋭い眼光でウォロ首席を見据える。

 

ウォロ首席、俺は貴方の〈想い〉が口や形だけのものだとは思いません。でも俺だって負けていられないんです。貴方が勝つ理由と俺が勝つ理由は違っても、求めることは根本的に一緒だからです。誰にも負けたくない。ただそれだけで剣の重さが変わる。

 

だから俺も全力でいかせていただきます!

 

俺が剣に全体重をのせて押し戻そうとすると、ウォロ首席も負けじと剣に力を込めてくる。押し負けるように見せかけて俺は半身になり、ウォロ首席の左を転がるように抜けた。俺が横に避けたことでウォロ首席は大きく体勢を崩している。最初で最後のチャンスだと俺はすべてをこの瞬間にかけた。

 

右腰に剣をためて振り向くと同時に、強く床を左足で蹴る。俺が奥義を発動すると読んでいたのだろう。ウォロ首席が距離をとろうとするが俺の方が迫るのが速い。

 

右手を懸命に伸ばしてリーチを可能な限り伸ばす。だが惜しくもウォロ首席には届かない。剣先が制服の腹部の繊維を数本切り取っただけで留まってしまう 。もともと突進技ではない〈単発水平斬り《ホリゾンタル》〉 は、射程距離がかなり短い。だから足による蹴りと右手を伸ばす二段ブーストでも、俺から距離をとったウォロ首席には届かなかったのだ。

 

「そこまで!」

 

生まれた極わずかな停滞を鋭い声が貫いた。剣では届かない間合いをとって剣を下ろすと、眼前に立つウォロ首席も戦闘体勢を解いている。そればかりか剣を鞘に納めて俺に歩み寄ってくる。

 

「あの方の裁定であれば従わぬわけにはいくまい」

「な、何故でしょう」

「あの方は7年前の四帝国統一大会に於ける、ノーランガルス北帝国第一代表剣士だからだ」

 

ぬわんだってぇ~!?俺たちが目指す最後の難関であるあの大会に出ていただなんて。…俺はなんて人に言い訳をしていたのだろう。謝らねば、この後でも可能な限り早めに謝罪せねば俺の命はない。文字通りになぁ!

 

「キリト初等練士、素晴らしい腕だった。卒業試験前に貴殿と剣を交えることができて嬉しく思う。初等練士がこれほどまでの腕をしているとはな。私もまだまだ鍛える余地があるようだ」

「ウォロ首席と互角にやり合えたのはこの剣とリーナ先輩、そして親友2人のおかげですよ」

 

先程までの気迫が嘘のように感じられるほど、穏やかな笑みを浮かべるウォロ首席に謙遜する。振り返るとカイトが親指を立てて笑顔を浮かべ、ユージオは涙を浮かべながら微笑んでいる。周りを見渡せば、多くの生徒たちが立ち上がっていた。割れんばかりの拍手を俺とウォロ首席に送ってくれている。

 

「いつの間にこんなに」

「私も終わるまで気付かなかった。それほどまで戦いにのめり込むとは私も自分の集中力に驚いた。君を側付きとしていれば、もっと早くに高みへと至れていたのかもしれんな」

「ウォロ首席、それは…」

「わかっている。これを言ってしまえば、この1年間私の傍付きをしてくれていた初等練士に無礼だろう。だが君を指名していれば、別の道を歩めたのかもしれないと思うことを今だけ許してほしい」

 

そう言って俺の右手を握って掲げる。すると先程の倍と思われる歓声と拍手が試合場を満たした。

 

 

 

キリトがウォロ首席と引き分けた瞬間、俺はユージオと同時に飛び上がって喜んだ。

 

「カイト、見たかい!?」

「当たり前だ!キリトがあのウォロ首席と引き分けた瞬間だ。この眼で見れるなんて最高だよ!」

 

初等練士が上級修剣士、それも首席と引き分けに持ち込むなど誰が予測できただろうか。キリトだから成し遂げられたことであって俺やユージオでは決してできない事だ。強さを求めたことで、剣がキリトの〈想い〉を感じ、力を貸したのではないだろうか。

 

キリトが片手持ちから両手持ちに移行する前、剣から鼓動のようなうずきを感じた。「早く戦わせろ。自分と共に戦おう」と催促するかのように。キリトがこちらを見上げてきたので、右の親指を立てて笑顔を送る。キリトも笑顔を浮かべ、引き分けたことに対する喜びを正直に伝えてくれた。

 

だが俺は重大なミスを見落としていた。その時には気付かず、後々人傷つけてしまう結果になる予兆を…。ライオス・ウンベール・ヒョールが屈辱に耐えている姿を…。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

リーナ先輩の提案で〈引き分けおめでとうの会〉を開催することとなった。ユージオ・ゴルゴロッソ先輩・カイト・ベンサム先輩を含んだみんなで、楽しく語り合いながらワインを開けて飲んだ。秘蔵の百年ものまで飲むことになったので、少々酔いが回ることになってしまった。

 

ユージオはともかく、意外にも筋肉マッチョであるゴルゴロッソ先輩と慣れていそうなベンサム先輩が2杯で顔を真っ赤にして撃沈したのには驚いた。酔いつぶれたユージオ・ゴルゴロッソ先輩・ベンサム先輩をそれぞれの部屋に運んだ後、俺は酔い覚ましのために初等練士寮の外へ出ていた。

 

寮から少し離れた場所にある噴水を眺めることのできるベンチへと小走りで向かったのだが、そこには既に先客が来ていた。

 

「カイトも酔い覚ましか?」

「キリトか。星を見ていたんだけどそれも間違いじゃないかな」

「隣に座っても?」

「構わないさ」

 

許可をもらってから隣に腰を下ろす。〈光素〉によって明るく照らされた花畑と噴水が、美しさと儚さのマッチングした風景を見せてくれる。四大聖花の一つ、春に咲く《アネモネ》が一面を埋め尽くす光景は見事だ。院の教師が毎日手を抜かずに手入れしてくれている。だからこうして乱れのない絵画のような光景が生まれるのだ。

 

「何度も言ったけど〈引き分け〉おめでとうキリト」

「ありがとうカイト」

 

カイトが持つ日本で言う緑茶のようなお茶を煎れたお湯のみと、俺が持つお湯のみを軽くぶつける。口内に広がる苦みと鼻から抜ける酸味という今までに味わったことのない味に舌鼓を打つ。

 

「これ高かったんじゃないか?」

「ふふふふふ、これがなんと安かったんだな。季節外れにできた葉らしくて、誰も買ってくれないと嘆いていた商人に買うって言ったら半額で売ってくれた」

「いい商売してるよ」

「同感」

 

カイトと話していると酔いが抜けてきた。もしかしたら今飲んでいるお茶には酔い覚まし効果、または酔いの分解を促進させる物質が含まれているのかもしれない。

 

「カイトは星を見て何を考えてたんだ?」

「…あの日のことを思い返してたんだ。俺が禁忌を犯した理由はユージオから聞いてると思う。あの時俺は歩み出すアリスを止められなかった。星を見るとそのことばかりが頭の中に浮かぶんだ。あの時俺にもっと力があれば、アリスを引き留められたのかもしれないのにって」

「アリスは禁忌を犯すようなまたは触れるような子だったのか?」

「まさか。誰より敏感だったけど、その分抜け穴を見つけるのが得意だったよ。今のキリトみたいに悪戯っ子だったからな」

「この野郎」

「怒んなよ。事実じゃないか」

 

まったくこいつは一言余計だっての。でも言い方が優しいし本気で言ってないから嫌な気持ちにはならない。むしろそれを楽しんでいる俺がいるからそれはそれでいいのかも。

 

「アリスに手を向けた騎士が何かしたんじゃないかってずっと思ってるんだ。助けを求めるかのように向けられた気がするんだけど、今ではそれが事実なのかわからない」

「操られたって言いたいのか?」

「さあね。あの時は俺も幼かったし理解できるほどの知識も無かった。今でもあれが何だったのかわからない。この歳であの事態に遭遇していたとしても解えは出なかったと思うよ」

「そうか。俺はカイトがユージオに隠していることがあるんじゃないかなって思ってる。俺にも隠していることも。もちろん話せないことなら言わなくていい。誰にだって隠したい過去はあるだろうし、言いたくないことだってあるはずだ」

 

カイトの眼を見ながら俺は聞いてみた。漠然とした問いではあったが、カイトも理解してくれているようで聞き返すことはなかった。疑問を感じたのは初対面のときだ。何故〈公理教会〉に囚われた彼がここに来ているのか。何故アリスは来ていないのか。

 

「…キリトの言う通りだよ。俺は2人に隠していることがある。でも話すわけにはいかないんだ今は(・・)ね。話すべき時が来るまで待ってくれないか?その時になったら必ず話す。〈公理教会〉に囚われたはずの俺が何故ここにいるのかを」

「話しても良いのか?」

「いつかは話さなければならないことだからね。遅いか早いかの違いだからキリトが気にすることはないさ。今言えることといえば、『ある目的でここにいる』ということだけだ」

「ある目的?」

「これ以上はまだ話せない。いずれ知ることになるからね。それにしても今日ここまで飲んで大丈夫なのか?明日は卒業試験だっていうのに」

「…まあ大丈夫じゃないかな?先輩たちだし」

 

露骨な話題転換だったが、俺も危惧していたことなので無視することはできなかった。軽く酔いが回っているリーナ先輩はともかく完全に出来上がってしまったゴルゴロッソ先輩とベンサム先輩が大丈夫なのかが問題だ。明日の試合時間までに起き上がれなかったり、起きていたとしても体調不良だったらどうしようと考えてしまう。だが酒は自己責任なので、結果がどうあれ俺たちに責任がないはずだ…。

 

「キリトさんよ、今自分は責任ないとか思ったよな?」

「うぐっ!…いや酒は自己責任だし」

「酒を飲むことになったのはキリトが引き分けた(・・・・・)からだよな?それから泥をつけなければこうならなかったよな?」

 

チーン。

 

人界歴384年3月7日、俺の精神(メンタル)は死んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

3月の末。セルルト・ソルティリーナ次席上級修剣士は、〈卒業試合〉卒業トーナメント決勝戦でウォロ・リーバンテイン首席上級修剣士を激戦の末に破り、北セントリア修剣学院を第一位の成績で卒業した。

 

ユージオが傍付きを務めたゴルゴロッソ・バルト-上級修剣士は第三位、カイトが傍付きを務めたベンサム・アンドラ上級修剣士は第四位、その友人のギャルディーノ・クレイルス上級修剣士は第五位の成績で卒業。ユージオは卒業式のあとにある僅かな時間を話し合いで終わったとか。カイトの指導者の場合、ベンサム先輩が大声で涙を流しながら自分の傍付きと話しているギャルディーノ先輩に抱きついたりと、てんやわんやだったそうな。どちらも先輩らしくて苦笑しかできなかったけれども。

 

俺の場合は念を押されたな。酔いが回ったリーナ先輩が恋人のように俺にひっついていたことを。リーナ先輩は酔っていても記憶が残るそうで、顔を真っ赤にさせながら俺を脅したよ。あの凜とした面持ちのリーナ先輩の可愛らしい表情が見れたから、ある意味いい思い出だ。

 

本当の別れ際に「なんなら私を迎えに来ても良いぞ」と本気なのか冗談なのか判別のつかない言葉を残していった。俺も混乱したので「善処します」とだけ伝えておいた。俺はもともと〈この世界〉の住民ではないし、三等爵家のセルルト家のお嬢様を一介の平民が迎えるなどおこがましい。

 

万が一そうなったとしたら俺が婿入りになると思う。言っておくけど万が一だからな!?〈現実世界〉に戻れなかったらという仮定だからな!?そこ間違えないでよな!?

 

でも迷うよな。大切なアスナがいるといってもあんな美人に冗談で言われたら嬉しいさ。

 

 

人界歴384年3月31日 記入者 キリト

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

先輩方が卒業されてから時は流れて本格的な春を迎えた頃。僕は若干困惑していた。僅かながら現実逃避したいけど逃げるわけにはいかない。何故なら目の前には僕以上に緊張している生徒がいるからだ。

 

ユージオ上級修剣士(・・・・・・・・)殿、ご報告します!本日の清掃完了しました!」

 

灰色の制服を着込んだわずかに幼さの残る赤髪の少女が、きびきびという言葉を体現したかのように報告をしてくれる。緊張により直立不動になっている少女を僕はもてあましていた。できるだけ優しく接しているけれど、入学当初から傍付きになってまだ間もないから緊張が抜けないみたいだ。

 

僕も実際そうだったから理解できるし文句を言うつもりはない。キリトやカイトみたいに怖がらずにいれたら良かったけど、生来弱気な僕には無理な行動だよ。

 

読み古していた〈神聖術〉の教本から顔を上げて彼女を労う。

 

「ご苦労様ティーゼ。…それからごめんよロニエにユウキ(・・・)。いつも終わる頃には戻ってくるように言ってるんだけどね。特にキリトに」

「い、いえ、掃除の完了を報告するのが傍付きの任務ですから!」

「そうです!」

 

キリトは何か理由を取って付けて逃げ出してしまうけど、カイトが遅いのが心配かな。普段だったら終わる5分前には僕の隣に座っているのに。

 

「本当にゴメンね。2人が望むなら傍付きを代えてもらってもいいけど」

「「とんでもないです!」」

「人の留守に何を言ってるんだ?」

 

そんな会話をしていると、入学以前からの相棒で親友のキリトが何故か窓から現れて見事な姿勢で着地した。

 

「キリト上級修剣士殿、ご報告します!本日の清掃終了しました!」

「はい、ご苦労さん」

「ただいまっと。キリトよ、ちゃんと正面ドアから入りなさい」

「あ、お疲れ様です。カイト上級修剣士殿、ご報告します!本日の清掃終了しました!」

「お疲れ様」

 

ちゃんと部屋のドアから入ってきたのは、幼馴染で親友のカイトだった。カイトが着ているのは灰色が少し混ざったような藍色を着ている僕と、キリトの漆黒を足して割ったような濃いめの群青色の制服だ。ただ一つ言えば、制服の第一ボタンを外して着崩しているのが残念で減点対象であることかな。ちょい悪感を出しているというのに、何故か格好良く見えてしまうのが不満事項だ。

 

「東三番通りから帰ってくるのは、この窓が最短距離なんだよ」

「余計な知識を3人に吸収させないでよ。キリトみたいになったらどうするのさ」

「ならないぞユージオ。キリトのこれは生まれたときから特有のものだ。誰にも伝染しないさ」

「俺の性格は病気じゃないぞ!」

 

キリトの怒りを無視して2人がどこから来たのかを思い出す。

 

「東三番通りといえば、キリトの持っているのが〈跳ね鹿亭〉の蜂蜜パイで、カイトのが〈丸牛亭〉の極上ミルクシュークリームだね。キリトが抜け出すのはともかく、カイトが時間内に戻らないなんて。一体どういう風の吹き回しだい?」

「今日が不定期に行われる特売日だという情報を入手したのでな。黙っていられなかったというわけだ」

「まさか恐喝まがいの行為はしてないよね?」

 

カイトには前科になりそうな事柄があったから、僕は睨みながら聞く。カイトは好きな物に眼がないので、邪魔する者がいれば容赦しないんだよね。それは僕もキリトも例外じゃないみたいで、一度キリトが悪戯心でちょっかいだしたら怒られて泣きそうになってた。恐る恐るカイトに聞いたは良いけど、不安が的中して僕は内心がっくりとうなだれた。

 

「失敬な。その情報を握っていた生徒の弱みを握って、詳しく教えてもらっただけだ」

「それ変わんないよ!」

 

僕が怒ってもカイトは何処吹く風とばかりにそっぽを向いている。

 

「…僕も買いに行きたかったよ。それにしても2人ともそこまで買ってくる必要はないだろ?」

「「ふっふっふっふ、ほしかったら素直に言いたまえよユージオくん」」

 

2人が不敵に笑って言うので頬を膨らませる。2人を睨んでいると、キリトとカイトが袋からそれぞれのお菓子を3個づつ取り出す。それを机に置いて、残りをロニエとユウキに渡した。どうやら2人は自分たちで食べることが目的なのではなく、ティーゼたちのために買ってくるつもりだったみたいだ。自分たちの分はおまけらしい。

 

「戻ったらみんなで食べろよ」

「食べ過ぎてお腹を壊さないようにね」

「「「〈天命〉が減少しないためにも全速力でお持ちします。本日もお疲れ様でした!」」」

 

見事に声を合わせて足早に僕らの部屋から出て行った。カイトが見送りから戻ってきて、「年頃の女の子みたいにはしゃいでた」と苦笑しながら話してくれた。

 

上級修剣士と違って初等練士は学則が厳しい。今のようにお菓子を貰えることは滅多にない。2週間に1回の回数でお菓子を貰える3人と同室の子たちは幸せなことだろう。でも一番気になるのはキリトのお財布事情だけど。

 

「キリト、そんなにお金を使っても大丈夫なのかい?」

「まだ余裕はあるから気にするな」

「僕も何か買ってこないと2人だけに任せっきりはティーゼに悪いよね」

「「ユージオがいてくれないと俺たちは好きな物を買って来れない」」

 

どうやら僕の提案は却下されたみたいだ。ティーゼたちも喜んでいるしキリトやカイトが気にするなって言ってるから、これは話題にしない方がいいかもね。

 

壁に立て掛けている3つの相棒を見つめる。

 

「目的を忘れちゃダメだよ2人とも」

「ああ」

「もちろん」

「ここまで来たんだから。あと1年頑張らないと」

 

カイトが何故ここにいるのかはわからない。もしかしたらアリスを助けるために禁忌目録に違反したことを考慮されて、罪が良い方に働いて処罰されなかったのかもしれない。アリスだけが〈公理教会〉に連行されているから助けるためにここに入学したのかもしれない。

 

〈整合騎士〉になれば堂々とアリスを助けられる。そのために3人で力を合わせてあと1年を無駄にせず過ごすんだ。

 

「キリト・カイト、あと1年よろしくね」

「当たり前だ」

「何があっても3人で迎えに行くんだ」

「そのためにはティーゼ・ロニエ・ユウキと仲良くならないと。キリトはこれから1週間掃除の間逃走禁止。僕の隣で待つこといいね?」

「ええ~、カイトは?」

「キリトが逃げないように監視させていただきます」

「うぐ…」

 

完全な包囲網のできあがりで、さすがのキリトも白旗を揚げるしかないみたいだ。その後、カイトが煎れてくれたコヒル茶を飲みながら蜂蜜パイと極上ミルクシュークリームに舌鼓を打った。




オリジナルキャラが2人追加ですね。1人はライオス、ウンベール側で1人はこっち側これからを書くのが楽しみです!

さてさて今回で1年生は終了で次回からは2年生に入っていきます。あの過激なところが書けるか心配ですが頑張ります。

書きたい欲が高いので更新速度はかなり速いかと思います。皆さんを飽きさせないよう努力しますので応援よろしくお願いします!





ヒョール・マイコラス・・・ウンベールと同じ四等爵家出身。毒々しい紫の髪をスポーツ刈りで自分の髪が何より美しいと思うナルシスト。そう思うだけあって髪は腹立つが綺麗に手入れされている。ライオスとウンベールと同じように自分より下の地位の存在を皮肉ることで優越感を満たしている。上級修剣士三席。一人称は私(わたくし)。

ユウキ・ナストス・・・五等爵家出身の女子生徒。ロニエやティーゼより地位は上だが見下すことはなく、誰にでも優しく接することのできる心優しき少女。性格は大雑把だが時に考えさせてくれる大人な発言をする。一人称はボク。モットーは《やるべきときにはとことんやる》。
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