アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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アリスとの再会まだかな〜


試練

俺は一夜漬けのために自室へと引っ込んでいったキリトを置いて、ユージオと2人だけで修練場へとやってきた。日課である〈ソードスキル〉の反復練習は、数をこなすだけその動きが体身体染み付いていく。ただ〈システムアシスト〉に頼るのではなく、〈システムアシスト〉に身体をのせた上で強く〈イメージ〉する。

 

そうすれば型通りではない自分自身の技となる。

 

キリトには〈想い〉を込めろと言ったが、実際は〈想い〉というより〈イメージ〉と言った方が適切だ。〈イメージ力〉、誰もが脳内で想像するようなことを剣にのせるわけなのだが、文字通りのせるだけでは現象など発現しない。誰よりも強く重く念じることによって、初めて〈イメージ〉と剣が一体となる。

 

〈イメージ〉は人それぞれだ。俺とユージオは生まれこそ一緒だが、生活環境が突如変わった俺とユージオは違う道を歩んできた。

 

生来の性格も影響するのかもしれない。でもそれを証明できる科学的根拠は何一つない。双子であっても性格が違うことがあるように、〈イメージ〉はどれだけ同じように育てられても決して同じになることはない。《クローン技術》で生まれない限り可能性はない。《クローン技術》でさえ、根本的に同じ〈イメージ〉をする〈フラクトライト〉は作れないだろう。

 

個は個であって、塊で縁取られているわけではないのだから。

 

なのに何故まったく同じと言っていいほど似た皮肉を、トリオでハモることができるのだろう。見下す思考回路を持てるとは皮肉だな。

 

 

 

 

 

「それはつまり〈ハイ・ノルキア流〉の真髄を見せてくれるということでしょうか。ライオス上級修剣士首席殿(・・・)?」

 

稽古を終えて帰ろうとしたタイミングで、ライオスがわざとらしく独り言を呟いた。呟いたといえばそれは語弊がある。何故なら上級修剣士に与えられる修練場、つまり俺たちが今いる場所は12名が立ち合いをしても余裕がある広さを持っている。

 

ライオスらが占拠している場所。正反対の位置にある丸太置き場は、目測およそ20m(正確には24m)。壁から壁までは30mあるが6mもの差があるのは壁への接触を防ぐために、丸太の位置とライオスらの立ち位置が壁から3mほど離れているからだ。

 

それほど離れていながら声が聞こえるのは、俺たちに聞こえるように大きな声を出したためだ。先程まで型の見映えを「ああでもないこうでもない」と評価し合っていたというのに。それが腹立たしくてつい強気に言い返してしまう。

 

「そう語彙を荒げなくともよかろう。私はただ丸太ばかりが相手では、鍛練に飽きてしまうのではないかと危惧しているだけなのだよ」

「お心遣い痛み入りますが自分たちはこれで十分ですので」

「無礼な!ライオス殿がわざわざお声をかけられておられるのだぞ!」

「今は貴方と会話をしておりませんのでウンベール上級修剣士次席殿」

「き、貴様ぁ!」

「なんという無礼を!」

「ウンベール・ヒョール」

 

ぶちギレたウンベールとヒョールを嗜めるライオスだが、同じように苛立ちは感じているらしく、目付きが普段の3割増しで鋭くなっている。

 

「何故そのように気遣ってもらえるのでしょうか?」

「同じ学舎に住まう者として熱心(・・)に鍛練している知り合いを無視できるとお思いかな?」

「首席殿が平民出身と見下している相手にそのような温情をお与えくださるとは、一体どういう風の吹き回しでしょう?」

「隠していることなど何もないぞカイト上級修剣士。さきほど述べたように、己を鍛え上げている知り合いをさらなる高みに至らせたいと思っているのだ。どうだろう悪い話ではないと思うが?」

 

裏があるとしか思えない言い様だ。まあ、その理由など知れているが。俺はともかくユージオはかなり驚いているらしく、眼を見開いている。あれほど憎んでいるはずの自分たちに機会を与えることに疑問を抱いている。いや、恐怖を感じているはずだ。見下されていた相手が、今度は掌を返して優しく接してきたのだから。

 

優しくという言葉は正しくないが、今までの行動や発言を考慮すればそう例えても可笑しくはない。

 

「本当のことを言えばよろしいのでは?『気に入らないからここで潰しておこう』と」

「はははははは、そんな物騒なことを私が言うと思うかな?」

「さあ、どうでしょう。なにしろそちらは、自分たちにまるで恨みがあるかのような眼を向けてきますからね」

 

うん、今の一言で相当のヘイトが溜まったようだ。眉間にしわがよっているし青筋が浮かんできてますね。これはチャンスかもしれないなと内心ほくそ笑んでいると、ユージオが俺の裾をあいつらから見えない絶妙な角度で引っ張った。

 

「何言ってるのさ!勝てるわけわけないじゃないか!」

「いつまでも勝てないと思っていたら勝てない。ユージオはそれでいいのか?〈整合騎士〉になってアリスと再会するんじゃなかったのか?」

「そ、それは…」

 

口を閉ざすユージオに俺はガッカリした。あれほどアリスを助けると口で言っておきながら、行動ではあまり示さない優柔不断なユージオが嫌だった。アリスは無事だと伝えないのは、再会するというユージオの信念を揺らがせたくなかったからだ。

 

だが今はそれがネックになって、足を前に進ませることができなくなっている。ならば真実を話した方がいいのかもしれない。だがそれはあらゆるリスクを伴ってしまう。俺がキリトとはまた違った異世界人(・・・・)であること、そして世界の中心である〈セントラル・カセドラル〉の最高司祭であるアドミニストレータの陰謀のこと。

 

そしてそいつを殺すこと。

 

すべてを説明しなければならなくなる。そんなことを言えば、これまでの19年間は一体何だったのだろうか。キリトやユージオが自分から離れてしまうのではないか。二度と親友として隣に立つことも夢を見ることもできなくなるのではないか。

 

そんなマイナス思考のことだけが脳裏をよぎってしまう。

 

「…僕は弱い人間なんだ。だから彼等には勝てない」

「…俺は一度もユージオが弱い人間だって思ったことはないよ。弱い人間は自分より弱い存在を探し、それを見下すことで優越感に浸る。それがユージオとどう重なる?」

「君はどうしてそこまでして僕を奮い立たせるんだい?捨ててくれても良いのに」

「親友を支えるのは当たり前だ。それに…」

「それに?」

 

勢いで口から出てしまった言葉を止めたが、ユージオはその先を知りたがっている。ここで言い淀んで適当に流してしまえば、ユージオは気になって無意識のうちに不安を抱え込んでしまうだろう。

 

そうなれば、6月の半ばにある検定試験に万全の状態で挑むことはできない。第一の目標である首席と次席を逃すことになる。最初の検定試合であいつらに負けるようなことがあれば、この先後手に回った戦いを強いられる。

 

ここで負け癖がつくようであれば、勝つという気持ちがあっても体が恐怖で立ち尽くし、アリスを救うなど夢のその又夢になってしまう。それだけは防がないと4人でもう一度あの頃のような生活を共にすることはできない。だから告げるのだ。今言おうとした言葉の続きを。

 

「それにユージオは俺の家族(・・・)だ。見捨てることはできない」

「…カイト、君は酷い人だ。そんなこと言われたら逃げるわけには行かないじゃないか」

「ふふふふふふ、〈アインクラッド流極意其の伍。《逃走ルートは閉ざせ》〉だよ」

「そんな極意は聞いたことないよカイト。でもそのおかげで戦う意思は固められた」

「それじゃあ頼みに行こうか。俺たちが首席と次席を得るために」

 

そうして俺たちは深々と頭を下げて願い出た。

 

「先程の身分を弁えぬ発言、許しを願うが如何に!」

「許そうカイト上級修剣士。では我々の教授を受けると言うのだね?」

「厚かましいご提案ではありますがよろしいでしょうか?」

「何かな?」

「首席たるライオス上級修剣士に特別教授を受けることは、平民出身である我々には過ぎたものであります。それ故次席ウンベール上級修剣士と三席ヒョール上級修剣士の高貴たる剣を、直接この身で受けたいと存じます」

 

予想外の提案に3人が眼を見開く。そこまで驚くことなのかと内心首を傾げた。

 

「カイト、何をする気だい?」

「今この瞬間にしか彼等の情報を得ることはできない。ここで見つけられたらこの先作戦を考えつけるかもしれないだろ?」

「本気で行かないとね」

「ユージオなら負けない。相手の動きを見逃さずにいれば、ユージオは誰にも負けないさ」

 

ユージオを奮い立たせたところで向こうも話し合いを終えたらしく、ウンベールがユージオの前に立ちヒョールが俺の前に立つ。五席のユージオは次席のウンベールにまったく恐れておらず、むしろ楽しみにしているように見える。

 

先程の言葉は、ユージオの気分を高揚させてしまったのかもしれない。本来の戦いができなくならなければユージオは負けないだろうから、気にせずに自分の試合に集中しておけばいいだろう。自分が負けたらユージオに合わせる顔がないし。

 

「では始めようかカイト上級修剣士・ユージオ上級修剣士。よろしいかな?」

「「いつでも」」

「…それでは、始め!」

「「しゃあぁぁぁぁぁ!」」

「はあぁぁぁぁぁ!」

「っ!」

 

ライオスの開始の合図でウンベールとヒョールが同時に突撃し、それをユージオと俺は迎え撃った。有声と無声の気合いだったが効果は同じ。右手だけで握った剣を肩に担ぐように振りかぶるモーションは、〈ハイ・ノルキア流《雷閃斬》〉だ。

 

高威力の《天山烈波》を使わないのは、俺たちの身体を案じたというわけではなく、ただの出し惜しみだろう。それほどの技を使わずとも今の技で十分だろうという傲りが顕現したようだ。その技が簡単に防がれるとは思ってもいなかっただろう。俺は単発水平斬り《ホリゾンタル》を繰り出して、ヒョールの剣を受け止めていた。

 

「な、なんだと…!私の〈ハイ・ノルキア流〉が平民出身の分際に防がれるとは!」

「…どうやら平民からの成り上がりでも、あんたの剣を簡単に受け止めれるみたいだ。これじゃあ本気を見せなくても勝てるぜ」

 

勝てそう(・・)ではなく勝て()という断定。その発言は神経に障ったらしく、眉間のしわがさらに深く刻まれ額の青筋が今にも切れそうだ。ヒョールの〈イメージ〉は《自尊心》。己が誰よりも上であることを抱き続けられないと〈フラクトライト〉が自我を保っていられない。そんなゲスの思考回路が、誰よりもアリスを愛している俺に届くはずもない。

 

「貴様には負けん!」

「だったらやってみろよ。口だけじゃなくて行動でな」

「っ!…ならば喰らうがいい〈ハイ・ノルキア流《天山烈波》〉を。礼儀を知らぬその身を以て思い知れぃ!」

 

バックステップで距離をとったヒョールが、大上段に両手で握った木剣を掲げた。俺はその一瞬の隙でユージオを横目で見る。単発斜め斬り《スラント》で鍔迫り合いをしているようだが、心配になるほど負けている様子ではない。むしろ押しているようだ。

 

心配がないことを確認した俺は左脇に木剣を構えた。ライトエフェクトが一際強い光を放った瞬間、俺は床を蹴ってヒョールへと肉薄する。俺が防御すると予想していたのだろうか、ワンテンポずれたタイミングで、秘奥義を発動したヒョールの表情には驚愕が垣間見えた。

 

それはまるで〈アインクラッド第74層 カームテッド〉にて行われた、血盟騎士団のクラディールvsキリトのデュエルのワンシーンだった。人は予想が外れると、ここまでの表情を見せるのかと不思議に思える。

 

俺の木剣が左から右へと、そして右から左へと即座に斬り返された。〈アインクラッド流ニ連撃《スネークバイト》。キリトがザッカリア剣術大会において、イゴーム・ザッカライトを破った技だ。

 

最初の一撃では勢いを緩める程度だったが二擊目で交差し、鍔迫り合いへと移行した。息を吸うと、彼等が普段使っている香料を否応なく嗅いでしまうが耐える。

 

「姑息な手を使うとはっ!」

「姑息か。それは君らから見た感想だろう?俺たちからしたらこれこそ完成された流派の技だと思うけどな」

「この平民風情がぁ!我々上級貴族と同じ立ち位置にいることが当たり前だと思うな!…な、何!?」

 

俺は鍔迫り合いをしているヒョールの足を払い、体勢を崩させると同時に刀身の腹で最後の一押しをいれる。それだけでヒョールは地面へと倒れる。顔面に剣先を突きつけるとライオスが声を出す。

 

「生憎、誰も剣術以外を使ってはならないと言ってないのでな。遠慮なく使わせてもらったよ」

「そこまで。その勝負カイト上級修剣士の勝利とする!」

 

立ち上がったヒョールと〈騎士礼〉をして、ユージオの試合を見る。といっても振り返った瞬間に、ユージオが放った《バーチカル》がウンベールの木剣を吹き飛ばしていた。

 

「それまで。この勝負双方引き分けとする!」

 

やけに芝居じみたセリフだが、ここで納めてくれるのであればありがたい。負けたことや引き分けたことに文句言おうとするヒョールとウンベールをライオスがたしなめる。

 

「なかなか興味深い戦法であったぞ。これからも精進すると良い」

 

嫌みたっぷりにそう言うと、ライオスはご機嫌斜めな2人を連れて修練場を後にした。

 

「なんでライオスたちはいつも毛嫌いしている僕たちに勝負をしようって言ったんだろう」

「様子見か〈アインクラッド流〉に興味があったか。はたまた偶然怪我をさせて、6月の検定試験に万全な状態で挑ませない作戦とかかな」

「それが嘘であることを願ってるよ。そろそろ食堂に行かないとキリトに怒られちゃう」

「キリトの自業自得だから我慢しろって言えばいいのさ」

 

試合をしていたのかと疑問に思えるほど、穏やかな会話が修練場に木霊した。

 

 

 

その後、部屋に帰ると案の定夕食を持ってくるのが遅れたことで腹を空かしたキリトに不満を投げつけられた2人であった。

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