アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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今週で今年の学校も終わりかぁ早いなぁ。

アリシゼーションも1クール終わるし、始まったのが10月と考えるとあっという間だったなぁ。


相談①

予定時間の8時になっても起きなかったキリトを無理矢理起床させたのが1時間前。ユウキたちと森へ向かい始めたのが30分前。爆睡していたところを起こされたことで、不機嫌だったキリトであったが、ランチタイムとなると機嫌の悪さが嘘のようになりを潜めていた。

 

「お口に合うかどうかはわかりませんが」

 

食事用のシートを敷いてそこに座ったカイトたちに、緊張した様子で声をかける。ティーゼたちが恐る恐ると差し出した籐かごには、さまざまな料理が詰め込まれていた。色鮮やかなとは言わないまでも、普段食堂で口にするものと色合いが違うので美味しく見える。3人が心を込めて作ってくれたのだから不味いはずがない。〈アヴィ・アドミナ〉を唱えてから手に料理を握る。

 

「ではご賞味させていただきましょうか。キリト・ユージオ、準備はいいな?」

「おうよ」

「もちろん」

「「「コクン、いっただきま~す!」」」

 

息を合わせて料理へとかぶりつく。ほどよい量の肉汁が漏れだし、口内を満たしてくれる。香料にしっかりとつけてから揚げられた肉は、口のなかで崩れ去りながらも飽きることなく楽しませてくれる。

 

「うむ、〈跳ね鹿亭〉に勝るとも劣らない素晴らしい味だぞ3人とも」

「なんで上からなんだよ」

「普段は逃げ腰なのにね」

 

愚痴りながらも内心は同じ評価なので否定しない2人であった。そのことを気にせずキリトは、さっさと1つ目を食べ終えて2つ目へと突入していた。それからは和気藹々としながら籐かごにつまっていた料理をすべて片付けたカイトたちは、食後のティータイムへ入っていく。ミルクティーに似た味のお茶を飲んでいると、ティーゼが僕に疑問を投げ掛けてきた。

 

「失礼だとは思いますが、ユージオ先輩方はどのような関係だったのですか?詳しくお聞きしたいです」

「前に話したように僕とカイトは幼馴染なんだ。8年間の間離れ離れだったけど。キリトは2年前からずっと一緒にいる相棒だよ」

「カイト先輩とは何故離れ離れだったのですか?」

「え~と…」

 

言っていいのかわからなかったのでカイトに目配せする。視線を逸らされたので、詳しく言わなければ大丈夫という意味だと解釈した。

 

「事情があって別々に暮らしてたんだよ。詳しくは言えないけどね」

「詮索はしません!再会できてどうでした?」

「最初は驚いたよ。まさかここに来てるとは思わなかったからね」

 

そう、あの日まさか〈整合騎士〉に連行されたカイトに出会うことになるとは思っていなかったから。

 

 

 

 

1年前…。

 

ノーランガルス北帝立修剣学院に入学した日。学院の説明を聞き終えた僕はキリトと一緒に、上級修剣士が稽古する修練場へと来ていた。いるのは僕たち2人だけではなく、初等練士上位12名が集められている。今日が自分たちが〈傍付き〉として仕える上級修剣士との初対面(はつたいめん)の日なんだ。

 

上級修剣士首席の傍付きから教員が発表するんだけど、僕たちがいつ呼ばれるのかが不安だった。初等練士上位12名にいる以上、どなたかの傍付きになるのは決定しているのだけれど、怖い人だったらどうしようと悩んでしまう。

 

『セルルト・ソルティリーナ上級修剣士次席指名。入学試験第七位キリト初等練士、前へ』

『…え?』

 

予想外の順位の先輩に選ばれていたことにキリトが間の抜けた言葉を発している。僕も驚いているけど、呼ばれた本人が一番驚いているんだろうなぁ。

 

『キリト、前に行かないと』

『あ、ああ。キリト初等練士ですよろしくお願いします!』

 

元気よく大きな声で傍付きとして仕える先輩に挨拶したことで、キリトの驚愕もどこかへと吹き飛んだみたいだ。緊張しているけれど、喜びに満ちた笑みを浮かべているから間違った人選じゃないみたいだ。

 

『次、ゴルゴロッソ・バルトー上級修剣士三席指名。入学試験第八位ユージオ初等練士、前へ』

『は、はい!』

 

まさかキリトの次に呼ばれるなんて。さすがに予想はしてなかったなぁ。連続で選ばれるなんてどんな確率なんだろうと思いながらゴルゴロッソ・バルトー上級修剣士三席の前に歩を進める。そして僕はあんぐりと口を開けた。目の前に立つ先輩は、肩幅がとてつもなく広く隆起した筋肉が制服越しにも感じられる。よく見れば筋肉が制服を押し上げている。

 

制服が小さいわけではなく、先輩の筋肉が巨大すぎて小さく見えているみたいだ。それほどまでに鍛え上げられた肉体から、繰り出される技とは一体どれほどなのだろうか。1年間この人の傍付きをしていれば、いつかはその強さを知ることができるのではないかと思うと、体が歓喜で震えるのを感じた。

 

『ユージオ初等練士ですよろしくお願いします!』

『うむ、いい声だ。生半可な鍛え方をしておらず必要最低限、それ故に無駄のない修行を行っていたのだとわかるぞ』

 

挨拶だけでそこまで読み取れるものだろうか。いや、三席に名を連ねる猛者であり肉体を鍛え上げた人だからこそ気付けたのだ。同じように努力をして手に入れた〈強さ〉があるから。

 

四席と傍付きの対面が終わり、次は五席の順になって僕は自分の眼を疑った。残った6人の初等練士の中にその人はいた。僕が守りきれなかった大切な友人の1人に瓜二つの青年。茶髪(・・)に少し鋭い眼、右目に少しかぶるように垂れ下がった前髪に柔らかな面差し。それは紛れもなくあの人の成長した姿だ。

 

五席の位置にいる先輩は、誰もが初めて見れば「変人」だと言うであろう様子をしている。何故ならその場でつま先だけで回転しているのだから。僕は見た目だけで人を判断しないけど、何人かはあの人に選ばれていませんようにと願っているのが見えた。

 

そしてその瞬間が訪れる。

 

『ベンサム・アンドラ上級修剣士五席指名。入学試験第五位、カイト(・・・)初等練士前へ』

『はい』

 

名前と声を聞いて、僕の体はさきほどとは違った意味で震えた。それはさきほどとは違う《魂》からの喜び。

 

『カイト?』

 

キリトもまさかと思っているのだろうか。名前を口に出して復唱している。

 

『カイト初等練士です。剣術が少しできることしか特徴のない自分ですが、精一杯勤めさせていただきます』

 

僕は礼をしたカイトという名の生徒の仕草を見て確信した。相手を見上げる際、失礼にならない程度に右手を腰にあてる癖。それは紛れもない幼馴染のカイトの癖だ。

 

『な、なんで君がここに…』

『ユージオ、彼はお前が言ってた奴なのか?』

『うん、間違いないよ。あの癖は幼馴染のカイトだ』

『癖?あの腰に右手をおいたあれか?』

 

さすがキリトだ。初めて見るはずなのに無意識に癖を見つけているだなんて。観察力が高いのは出会ってから否応なく見せられていたけど、こうして言われるとやっぱり凄いなと思える。

 

『あとで聞かなきゃね』

『ああ』

 

隣だからこそ聞こえる程度の声量で会話をしていたけど、最後の発表が終わるまで僕たちは一言も発さなかった。対面が終わるまで僕とキリトの眼はカイトに向けられていたから。

 

 

 

傍付きとして仕えることになったゴルゴロッソ先輩と、最初の会話を終えて色々したあと僕は206号室の広間に座っていた。同席しているのはキリトとあのカイトだ。カイトはソファーに座りながらキリトの煎れたコヒル茶を味わうように飲んでいる。あと10分もすれば、消灯時間なので端的に話を終わらさなければならない。だから僕は思いきって言葉に出してみた。

 

『…君はカイトであってるよね?』

『ああ、俺の名前はカイトだ』

『出身は〈ルーリッドの村〉かい?』

『その通りだよ。…ユージオ(・・・・)久しぶり。いや、ただいまと言った方がいいか?』

『…カイト』

 

昔と変わらない優しい笑顔を向けられて、僕は年甲斐もなく涙を流しカイトに抱きついていた。カイトの温もりを確かめるかのようにカイトの胸にすがり付く。

 

『カイト!カイト!』

『甘えん坊だなユージオは』

 

僕の名前を呼ぶカイトの声も震えていた。

 

『この温もり。この匂い。この安堵感。カイトだ…。二度と会えないと思っていたカイトだ』

『泣くなよユージオ。俺まで泣いちゃうじゃないか』

 

言葉通り、カイトの涙が頬を伝って僕の頭頂部に落ちてくる。それだけで僕は満たされる気がした。

 

 

 

 

 

…思い出したら自分が恥ずかしくなってきた。今なら笑い話になるけど、あのときはそれぐらい嬉しかったんだ。

 

「…ぱい」

 

どうしてもっと早くに気付けなかったのだろう。そうすればもっと長くいれたのに。

 

「…先輩」

 

こんなことティーゼたちに話したらなんて言われるんだろう。

 

「…オ先輩」

 

ティーゼたちが知ってたら僕はもう顔向けできない気がする。

 

「ユージオ先輩!」

「は、はい!?」

「聞こえてますか?」

「え、何が?」

「聞いてないじゃないですか!」

 

どうやら僕は去年のことを思い出しているうちに、ティーゼの話を聞き逃していたらしい。平謝りを続ける僕をよそに、隣でカイトは手作りパイを食べさせようとしているユウキに脅されていた。

 

「カイト先輩、あーん(・・・)してください」

「え、なんで?」

「約束破ったからです」

「や、約束?」

「キリト先輩の起こし方です」

「起こし方?あ…」

 

今日の起こし方を思い出してからユウキとの約束を思い出す。確か「雑な起こし方をしたらロニエが挙動不審になる」だったな。完全に忘れてたよ。ん?待てよ、そのことを何故ユウキが知っている?まさか…。

 

「…おいキリトさんよぉ。ロニエに話してねぇよな?」

「な、なんのことやら。フヒューフヒュー」

 

吹けない口笛を吹こうとして眼を逸らすキリトにヘイトが溜まる。

 

「何告げ口してんだてめぇはぁ!」

「うるせぇ!あんな起こされ方したら告げ口したくなるわ!」

「〈神聖術〉で起こして何が悪いんだよ!」

「悪いわボケ!気持ちよく寝ている人の顔面に〈風素〉をバーストさせるか?普通!」

「そうでもしねぇと起きないからだろうが!」

「普段の起こし方でいいだろ!」

「それじゃあ時間がかかるんだよ!」

 

ったく言い合ってたららちがあかねぇ。事態を収集するためにはどうしたらいいだろうか。

 

「…矛先を収めるにはどうすればいい?」

「ユウキのあーんを受け入れるんだ」

「…斬る(kill)ぞこら」

 

アリスに知られたら俺の命は真面目にないぞ。両方から殺される。前と後ろからの《時間差ダブルラリアット》を喰らわされる。

 

「カイト、甘んじて受け入れようよ」

「ユージオまで…。わかりましたよ。すればいいんだろ?すればさ。...あーん」

「あーん」

 

ユウキの満面のしかし恥ずかしそうな笑顔を、意識的に遮断して食べる。

 

パク。

 

ピキーン!

 

「ヒッ!」

「カイト先輩?」

「だいひょふ…」

 

絶対今視線向けられたぞ。氷柱とかそんなんじゃなくて氷属性の《ゲイ・○ルク》だわ今の。

 

 

 

セントラル・カセドラルside

 

「む?」

 

私は剣を向けていた相手から視線を北に向ける。

 

「どうした?嬢ちゃん」

「いえ、カイトによからぬ何かがあったように感じたので」

「よからぬこと?」

「命とかそういうことではなく、私の存在意義に関わる何かです」

 

そう、まるでカイトが他の女性と仲良くしている(・・・・・・・・・・・・)ような乙女の直感。

 

「…俺にはわかんねぇぜ。そら続けっぞ」

「はい、よろしくお願いします」

 

カイト、何があったのかを戻ってきたら説明してもらいますからね。

 

「セアァァァ!」

「よっ!」

 

雑念を気合いで追い出し、指導してくれている恩師に斬りかかった。

 

セントラル・カセドラルsideout

 

 

 

罰ゲームによって大ダメージを喰らったカイトはともかく、キリトとユージオも澄み渡る池のほとりに寝転んで初夏の日を浴びている。その後ろの木陰では、3人の傍付きが仲良く女子トークを蹴り広げていた。

 

「毎日こんなふうにゆっくりできたらいいのにな」

「メリハリつけるならそれでもいいが、キリトの場合は寝ることを優先しそうで却下だ」

「そう邪険にするなよなぁ。ユージオはどう思う?」

「カイトに一票だね」

「…俺の味方はまたゼロかよ」

 

味方がいないことにキリトが口を尖らせて、「俺は拗ねてます」と見せつけるかのように寝返りを打つ。そんなキリトにユージオは同情する笑みを浮かべ、淡い微笑みを浮かべながら地面に腰を下ろして、水面を見ているカイトの横顔を見る。

 

去年、再会したときよりさらに大人びた雰囲気を見ると、アリスがカイトを好きになった理由がわかる気がした。ふざけることがあってもやるべきときはやる。メリハリのある行動に鋭い感と洞察力、観察力で誰もが考え付かない案を掲示することがある。

 

そしてその頭脳に比例するかのように、容姿もまた〈カイト〉という人間をより魅せていた。

 

シャープに見える顔立ちはさらに鋭くなっているが、微笑むと年相応の愛嬌があって優しくなる。形のいい唇に凛とした面差しは、見るものすべてを癒してくれるかのようだ。群青色の制服の下には鍛え上げられ引き締まった肉体が隠れている。〈整合騎士〉に連行されたあとに、何かしらの理由があって釈放され、8年間の間ずっと鍛えていたのではないのだろうか。

 

僕はカイトを真似て座り直し池の水面を眺める。

 

アリスを護れなかった自分の不甲斐なさを呪いながら、きっと僕以上にカイトは悔やんでいるはずだ。あのとき力があれば、アリスを止められて僕と離れることはなかったと。アリスが連行されることもなかったと。水面の波紋を見ていると、自分の不安が泡のように沸き上がってきた。

 

でもそれは仮定の話であってもう過去に戻ることはできない。できないならその悔しさを糧にしてこの先、二の舞を演じないよう生きていかなければならない。〈整合騎士〉になれば何があっても強くいられるのかな?僕はそう疑問に思った。

 

「ユージオ、ロニエたちが呼んでるから戻ろうぜ」

「え?うん、わかった今行くよ」

 

声をかけられて顔をあげると立ち上がった2人が僕を見下ろしていた。カイトが差し出した手を握って立ち上がる。3人でティーゼたちが待つ場所に向かいながら、僕はこんな何の変哲もない普通の日常が卒業するまで続くことを願った。




あと2話ぐらいでセントラル・カセドラルに入れるかな?

年末までか新年明けるまでに入りたい。

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