さてさて一気にUAが増えてビックリしています。それとついでに評価はジェットコースターですが…。
いいのさ書くのである。我は書く。
不安を感じたのは鐘の音が聞こえてからだった。それまでは愛剣磨きに精を出していたという言い訳もしてはならない。鞘に入れているだけで、〈天命〉は回復するが見栄えは変わらない。俺の場合は、愛剣の機嫌取りも含まれるのではあるが。
それはともかくとして。違和感というより危険を感じた俺は、キリトと二手に別れてユウキたちの捜索に乗り出した。窓から跳び出し、大きな樹を伝って地面へ降りる。強風によって銃弾と化した雨粒から顔を庇いながら、初等錬士寮に向かった。
上級修剣士寮から初等錬士寮までは歩けば10分。走れば5分で着くというのに、何故かそれ以上かかっている感じがした。錯覚だとはわかっている。だが頭で理解していても体が納得しない。まるでゴムを体に巻き付けたまま走り出して、その場に引き戻されるような不快感を。
それでも俺は走り続けた。それを忘れるために。気のせいであると誤魔化すために。
「アズリカ寮官、自分はカイト上級修剣士四席であります!至急のご用のため、謝罪と罰は願わくば後日に!」
初等錬士寮の玄関をノックせずに駆け込む。返事を待つ時間さえ惜しかった。その人の存在の確認さえできればそれでよかった。
「そんなに慌ててどうされたのです?そこまで濡れているとは傘もささずして…「緊急の用であります!」…わかりました。どのようなご用でしょうか?」
「ユウキ・ティーゼ・ロニエ初等練士はおられますか?」
「いえ、1時間ほど前に外出許可がほしいということで許可しましたが」
1時間前?いくらなんでもそれにしては遅すぎる。
「名目は聞いていますか?」
「自分の指導生ではない上級修剣士に面会しに行くと」
「その上級修剣士は誰ですか?」
「確かウンベール・ジーゼック次席とヒョール・マイコラス三席と」
「くそっ!」
俺は毒づいてから来た道を駆け戻った。
「カイト上級修剣士!」
呼び止めるアズリカ寮官の声を無視して、俺は〈天命〉が減るのも気にせず走った。
1時間も前に面会へ行ったにしてはあまりにも帰宅が遅すぎる。前日に面会の許可を取らなければ失礼だが、1時間前に行かなければならない理由があったのだ。だが何故それが1時間前だったのか。何故今日だったのか。あまりにも不可解なことが多すぎる。
嘆願するだけで1時間もかかるものだろうか。かかるはずがないのだ。お願いをするだけなのだから、突然の面会に対しての謝罪。2人への対応の改善を願い出るだけなのだから。だが俺たちが注意喚起してもまったく意に返さなかったのだ。初等練士であるユウキたちの嘆願を受け入れるはずがない。
平民と下級貴族という階級差があったとしても、上級貴族であるあいつらが首を縦に振るはずがない。しびれを切らしたユウキが言葉を誤ってしまえば、あいつらは階級にものを言わせて何かをするかもしれない。
何かをする…まさかそれが狙いなのか?…さすがに〈人工フラクトライト〉であり、《禁忌目録》に違反できないのだからそこまでするだろうか。
…有り得ない。ことではないか。
あいつらは『自尊心の塊』だ。己の欲を最優先にし他人を見下すことで自己を保っている存在。もしかしたらユウキたちに修剣士懲罰権で事に及ぶかもしれない。
今までの行動を考えれば辻褄が合う。
①自分の話題を持ち出させてそこから立ち合いの話を繋げる。②屈辱的なことを自分の傍付きに命令して、俺たちの傍付きに相談させる。③ユウキたちがそのことを俺たちに話す。④それを聞いた俺たちが注意喚起しに行く。⑤俺たちがユウキたちに報告する。⑥間隔を開けて俺たちを油断させる。⑦そしてもう一度自分たちの傍付きに屈辱的な命令をしてユウキたちに相談させる。⑧ユウキたちに嘆願させに来る。⑨そして最後に捕縛する。
最初からユウキたちが狙いだったのだ。気にくわない存在を消すために。3対3では勝てるかどうかわからない俺たちの存在を亡き者にするために。だからユウキたちに狙いを定めた。監督が行き届かなかった責任をかぶせて、俺たちを学院から排除するのがあいつらの真の目的だったのだ。
「クズ共が!」
カイトは悪態をつきながら走る。下りるときに使った樹を手慣れたように上り、流れるように部屋に入る。知らない女子生徒が2人ほどソファーに座ってこちらを見ている。容姿の幼さから初等練士だろうと決めつけ、前髪を伝い落ちてくる水滴を手で拭き取ってから声をかけた。
「君たちは?」
「フレニーカ・シェスキ初等練士です」
「同じくシオン・エニルです」
「君たちがユウキたちが言っていた被害を受けている傍付きか。何故ここに?ユージオはいないしキリトもいないじゃないか」
そう、机の上に置いてあったはずの2人の剣がないのだ。10分前までは置いてあった〈神器〉に迫る業物が。
「ユージオ上級修剣士は10分前に。キリト上級修剣士は5分前に首席方の部屋に行かれました。血相を変えて剣を持ちながら」
「…ありがとう。それから頼みがある。アズリカ寮官と学長をその部屋まで連れてきてほしい」
「今すぐにでしょうか?」
「ああ、今すぐだ」
2人が出て行ったあと、俺は愛剣を掴んで休む暇も無くライオスらの部屋へと走った。心臓が嫌な意味で高鳴る。それと同時に体の奥から黒い何かが沸き上がってくるのを感じた。ライオス・ウンベール・ヒョールの顔と声。ユウキたちの叫ぶ声を思い浮かべる度に、その黒い何かはあふれ出す。
あいつらの部屋に近付くほど俺の体を満たしていく。だがそれと同時に頭は冷えて行っている。冷静さを取り戻した俺は、それが何によるものなのか理解した。
ノックもせず扉を開けて中に入ると、鼻孔をつく香が部屋中に充満している。それがさらに俺の冷静さを取り戻させる。人の気配がする方へと視線を向けると、扉は閉められてはいるが中から抑えきれないほどの戦闘臭が漂っている。
手で開けるのももどかしかった俺は、右足で目の前の扉を蹴り飛ばした。
「ごはぁ!」
〈整合騎士〉にされてから強化された筋力によって吹き飛んだ扉は、何故か宙を飛翔していた何かともろとも寝室の奥へと吹き飛んでいった。吹き抜けとなった場所から内部を見なくとも、流れ出る空気で何があったのかは推測できた。
「舐めた真似してくれたなてめぇら」
自分の口から出たとは思えない声音だったが、何故かそれが心地良い。面を上げると室内の様子が視界に入り込む。硬直するウンベールとヒョールの表情が俺の心を満たす。
「さあ始めようか俺たちの復讐を」
俺が一歩踏み出す度にクズの顔を恐怖が満たしていく。それが気持ちいい。今まで俺たちを見下して優越感に浸り、快楽を得ていた存在が命乞いをする様子は滑稽だった。
「貴様らの命は俺の掌だ。逃げ切れると思うなよクズ共が」
「カイト…」
自分の名前を呼ぶ幼馴染の顔を見て、自分の発言が周囲を凍り付かせていたことに気付く。ユウキたちは3人で肩を寄せ合い、化け物を見るかのような視線を自分に向けている。そう見られても仕方がない。今の俺は性別を抜きにしても、恐怖するほどの怒りに包まれているだろうから。
「ごめんなユージオ・キリト。俺が浅はかだった。お前らに心の傷を負わせてしまった。許して貰えるとは思っていない。でもこれだけは言わせてくれ。ありがとう」
「「カイト…」」
2人から視線を外して元凶に眼を向ける。
「さてお前らをどうやって処罰しようか」
「血がっ!〈天命〉がっ!血がっ!〈天命〉がっ!」
「五月蠅いな。〈システムコール・ジェネレート・ルミナス・エレメント。フォーム・エレメント、ダブルロープ・シェイプ〉」
床でわめいているライオスに対して〈神聖術〉を唱えると、縄が2本俺の掌に現れた。それを痛みでうめいているライオスの両腕に強く巻き付ける。
「簡易的な処置だ。最終的には医者に診てもらうんだな」
「貴様も仲間入りをするつもりか!」
「仲間入りも何も。俺はお前らを処断するためにここへきた」
「平民風情がぁ!」
ヒョールが剣で斬り込んでくるのを愛剣で弾いていく。怒りに任せて剣を振るうため、奥義を使うことなく来る軌道に置くだけで仕事は終わる。
「何故だ!何故なのだ!貴様如きが何故俺たちに楯突く!?平民が何故上級貴族に楯突くのだ!?」
「楯突いているのはお前たちだけにじゃない。他にも色々とな」
「そこまで楯突くには理由があるのだろう!納得できる理由をを言え!」
よもや『自尊心の塊』であるはずのこいつが人の話を聞こうとするとは。もしかしたら俺はこいつを見誤っていたのかもしれない。
「お前らのように我欲を優先し、他人を見境なく見下すような人間が嫌いだ。そんな存在がこの学院で自由に振る舞えばどうなる?それこそ学院の歴史を穢し、あったことがなくなってしまう。俺はそれが嫌だった」
「そのためだけに我々に剣を向けるのか!?大罪であるとわかっていながらも!」
「生憎俺は罪とか法とか気にしない性分でな。もっとも過去には貴様らには理解できない
「俺には理解できぬ!何故法を破ってもいいと言えるのだ!法こそが全てだ!法こそが善だ!法を犯すものこそが悪だ!」
ヒョール、お前が言いたいことはわかる。
それはお前が〈アンダーワールド人〉であるということを如実に示しているから。だが「法こそが全て」という時代は終わっていた。いや、最初から存在なんざしていなかった。《禁忌目録》が創られた瞬間からこの世界の秩序は崩れていた。秩序が形成され維持されているように見えながら、その裏では崩壊を始めていた。だが信仰に厚く抗うことを知らない〈人工フラクトライト〉たちは、それこそが神の思し召しだと信じ疑わなかった。
だがそれでも300年以上もの月日の中で、一度たりとも謀反が起こらなかったのは、アドミニストレータが誰よりも気高く支配していた賜物だから。それでも俺は抗いこの世界に生きる。決めたからには果たす。それはこの世界のことを上辺だけでも知っている《外の世界》からやってきた俺にできる唯一のことだから。
「…贅に溺れた人間は、二度と質素な生活に戻ることはできない。俺はそんな奴らを嫌というほど見てきた。それを見る平民の顔が苦痛に歪んでいるのを幾度も見てきた。辛かった。苦しかった。苦しみから解放できたら、どれだけの人々が幸福になるかずっと考えていた。でも俺だけでは無理だった。力がなかった。人の心を動かす力が圧倒的に劣っている俺にはできなかった。それでも俺のことを親友だと言ってくれる友がいる。俺のことを好きだといってくれる
「っその少数の人間のためだけに上級貴族全てを敵に回すのか!?貴様に何ができる!剣の腕でさえ我々に勝てぬ貴様に、世を変えることができるというのか!?」
その通り俺にはできないさ。でもそれは俺が
結局俺は甘えていたのだ。
ユージオと再会し、憧れのキリトと一緒に過ごす日常を当たり前だと思っていた。本来の目的を優先しているつもりで当たり前のことを楽しんでいた。だけどそれら全てが嘘だったとは言わない。
嬉しかった。罪を犯した大罪人ではなく、
傍付きとしての生活も。キリトに剣術を教えて貰う時間も。ユージオと一緒にキリトに〈神聖術〉を教える時間も。どれもがかけがえない思い出だ。全ては無駄なんかじゃない。全てに意味はあった。だからそれを壊さないために俺は前を見る。今見えている道を歩く。たとえそれが茨の道であっても、1人では乗り越えられない壁であっても乗り越えてみせる。
「俺は諦めない。不可能だったとしても必ず乗り越えてみせる。そう俺は誓った!」
「ステイシア神にか?ソルス神か?テラリア神か?はたまたベクタ神か?貴様は誰に誓ったというのだ!」
「自分自身にだ!俺の魂にこの命に代えても俺はみんなを護る!」
「できるならやってみろ!貴様にそれだけの力があるというのならば、それだけの権利があるというのならば!」
「俺は…」
言うんだ。今言わなきゃ誰が俺の決心を認めるのだろうか。アリスはわかってくれている。俺の目的を言っても正体を話しても首を縦に振ってくれた。ユージオやキリトが俺を嫌いになってくれてもいい。短い間でも2人を護れるならいいんだ。そう決めたんだ2人のために。この世界を敵に回してでも救ってみせるって。
「俺は…俺はセントリア市域統括、〈公理教会整合騎士〉カイト・シンセシス・サーティだ!これより〈整合騎士〉特権により貴様らを処断する!」
あと2話で終わると言っておきながら長々と続いていますね。
頑張ってあと1話で修剣学院2年生編終わらせます。というより終わります。