寄贈
俺こと桐ヶ谷和人は、知らぬ
気がつけばこの世界に現界していた。見慣れぬ植物と見慣れぬ景色。なのに胸には懐かしいという感情が湧き上がっていた。〈アンダーワールド〉にいたはずもないのに、そんな感情が溢れたことに首を傾げたものだ。森の中で何故か目覚めた俺は音が聞こえる方角に向かい初めて人間と出会った。
西洋人とも東洋人とも似て似つかない容姿の少年。彼だけではない。この世界の人々はみんなそうだった。髪色も人によれば赤や茶など、〈現実世界〉では自然に発生しない色でも当たり前のように暮らしていた。そんなこんなで苦労しながら俺は、内部時間において2年間を過ごした。山あり谷ありの日常だったが、自信を持って誰かに報告したくなるほどの充実した日々でもあった。
右も左も分からない俺に最低限の知識と世界の情勢を教え、ずっと支え続けてきてくれた最初に出会った〈アンダーワールド人〉のユージオには感謝している。あの瞬間から剣術院に入るまでは二人三脚でやってきた。屈託のない笑顔と安らぐ声だって忘れるもんか。
もちろんカイトのことだって大切だ。学院に入ったときに、まさかユージオが再会したいと願い続けていた人物に会えるとは思っていたかったからさ。1年ちょっとを隣で見ていてなんでユージオがあんなに会いたがっていたのかを理解した。ユージオとは違う懐の広さと強い言葉であって、傷つけない優しさを持つ不思議な声音がある。そして何より剣技が尋常ではなかった。〈アインクラッド流〉を教えて1ヶ月後には、〈ルーリッド〉にいた頃から教えているユージオと同等の腕になった。
1年後には、いつの間にか師である俺や兄弟子であるユージオを超える腕前になっていた。今思えば〈整合騎士〉となってから8年間みっちりと剣技を仕込まれていたのだから当たり前である。
俺は〈現実世界〉で少しの間だけ剣道を、〈ソードアート・オンライン〉で2年間、《ザ・シード》企画を導入した〈アルブヘイム・オンライン〉で1年と2ヶ月。そして〈アンダーワールド〉での2年間を合わせた5年程度が俺の剣技を鍛えた期間なのだ。
特に〈ソードアート・オンライン〉での2年間は、生きるために必死だったから濃密な時間であったのは確かだ。でもカイトはそれ以上に長い期間、〈人界〉の守たる〈整合騎士〉から直接仕込まれていたのであれば俺より上なのは理解できる。
きっと俺が思っている以上に厳しい訓練をしてきたのだろう。この世界を護るに値する力を蓄えるためにきっと。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〈カーディナル・システム〉のサブプロセスであり、〈転生神〉でもある女神様にこの世界と支配者について教えてもらいながら、俺はこれからのことを考えていた。カイトが俺の世界の外の世界からやってきたことをとやかく言うことはしない。俺とは違う人間であったとしても、この世界が間違っていて傷つくとわかっていながら反逆するということに重大な意味を持つからだ。
本来〈整合騎士〉なる存在は、〈人界〉を守護するためにいるのだ。間違っても守護するべき世界の最高位の存在に対して反逆することなどしない。「できない」というわけではなく、「する」という考えにさえ辿り着かない。それは〈フラクトライト〉に刻み込まれた絶対的存在である〈公理教会〉に対する恐怖故に。
「〈自我保存〉について詳しく教えてくれないか?そんな特典を与えた理由は教えてもらったが、〈整合騎士〉になるからといって自我を奪い去る必要はないだろ?」
「クィネラが必要とするのは思い通りに動く手駒よ。手に入れれば今まで蓄積した記憶は必要ない。貴方はここに来るまでに可笑しなものを見たと思うのだけど?」
「ああ、エルドリエの額から出てきた三角柱の物体を見た。あれが記憶の欠損とどんな繋がりが?」
「それは《
だろうな。自分が抜き取るべき記憶に狙いを定めて他を残しながら、それだけを取り出すなんて不可能だ。いくら〈アンダーワールド〉始まって以来の天才であったとしても、他人の〈フラクトライト〉に作用するなど苦労という言葉では表せない。
「1回で上手く行くはずがない。きっとそれまでに何度も失敗をしているはずだ。たとえ〈アンダーワールド〉に存在するコマンドを、自分の〈フラクトライト〉に焼き付けていた存在だったとしても」
「その通り。さすがのクィネラにもそれはコマンドを唱えるだけで上手く行くはずもなく、幾度も失敗を繰り返していったわ。でも数十回程度の失敗で諦めるほどクィネラは可愛くないの。思惑通りに行くまで諦めない欲望は、ついにその不可能を実現させてしまった」
「…それまでに失敗した人達はどうなったんだ?」
嫌な答えが返ってくるとわかっていながら俺は聞いた。
「貴方は
「あれが失敗した人の成れの果てなのか?」
「今では違反者を取り締まるための道具としか扱われていないけど」
ぞっとしない話だ。俺はテーブルの下に置いた両手掌を擦りあわせて恐怖を誤魔化した。落ち着きを取り戻すに要した時間は、数秒程度だが俺には数分に感じられた。
「実験最初の成功者の名前はベルクーリ、ベルクーリ・シンセシス・ワン。〈ルーリッド村〉に伝わる御伽噺の本人よ」
「…本当にいたんだなその人は」
「〈整合騎士〉となった人間は、《禁忌目録》に違反した罪人か剣術大会の優勝者のどちらかだから実在した人間なのよ。《敬神モジュール》は、〈絶対忠実〉させることが可能なのだけれど。どういうことなのか知ってる?」
問われても困るんだよな。俺はこの世界のことを知らないし、《禁忌目録》の知識も1割に満たなければ〈整合騎士〉の誕生のことを知ったのもつい数分前なのだ。だが今の口ぶりからして俺は既にそれを眼にしているらしい。
…〈公理教会〉に疑問を持てば何かしらの事象が起こる。
空中に現れた人の顔だろうか?いや、違うな。あれは実験に失敗した人間の成れの果てだから、話の流れを考えればそれ以前に起こっているはずだ。思い出せ。それ以前に何があったのかを。おそらくライオスたちがいた部屋であったはずだ。俺が部屋に着いたときには剣がユージオに振り下ろされる瞬間だった。
そのときの部屋の様子はどうだっただろう。
部屋にはあいつらが好む香がこれでもかとばかりに漂っていた。薄暗い部屋のベッドに寝転がされ縄で縛られているロニエ・ティーゼ・ユウキ。後ろには右眼を閉ざし、俺を見上げているユージオ。
閉じている右眼?
そうか…そういうことか。
「…枷とかそんなものだろう?右眼に何か仕掛けられたものによる束縛」
「それには2つの意味合いが含まれているわ。1つはクィネラが世を統べるため反逆させないようにするためのもの。もう1つが外界の者によるもの」
「外界の者によるもの?一体どういうことなんだ?」
「それは貴方が自分の眼で確認してほしいの。私にはどうこうできる問題ではないのだから」
仕方ないよな。干渉することが制限されている以上、破ることはできない。
「最後になりますがキリト、貴方には帰還してもらった際にあちら側の責任者に伝えて欲しいことがあるの。『最終負荷実験が差し迫っている。即座に援軍を〈アンダーワールド〉にダイブさせろ』と」
「『最終負荷実験』?援軍?」
「クィネラと対峙し言葉を交せばその意味を理解できると思うわ。それから貴方には、アリスを〈現実世界〉に保護するという目的を果たしてもらう」
「アリスを?〈人工フラクトライト〉を持ち出せってことなのか?そんなことをしたらアリスはこの世界からいなくなってしまう。それだけじゃない。カイトから大切な
カイトは俺にとって友でありもうひとつの家族だ。苦楽を共にした親友の大切な女性を奪うなんて事俺はしたくない。そんなことが許されるわけがないんだ。大切な存在を失うということがどれほど辛く悲しく虚しい事なのかを知ってほしくない。
「勘違いはしないでね。アリスといってもいなくなるのは、アリス・シンセシス・サーティワンであってアリス・ツーベルクではないわ」
「同じじゃないか!アリス・ツーベルクに宿ったアリス・シンセシス・サーティワンでもアリスはアリスだ。カイトにとって大切な女性なのには変わりない!」
「では貴方はこの世界がなくなってもいいと言うの?貴方が出会った人々が皆殺しにされても良いと言うの?」
「っ!嫌だ…。みんなが殺されるのは嫌だ。でもアリスがいなくなるのも嫌だ」
「…2つの選択肢を与えられ、どちらかを選ばなければならない事態に陥らないとは限らないのよ。それが自分の命と大切な人の命の選択を迫られたときとか」
「なら俺は自分の命を捨てる。俺にとって大切な人は俺の命より尊い。だから俺はそうなったら潔く捨ててやる!」
俺は〈アインクラッド〉で自分の命を優先して多くの命を奪った。直接手にかけたのは3人だが、間接的に殺した人は数え切れない。〈月夜の黒猫団〉メンバーだって、俺が嘘をつかなければ今も生きていたはずなのに。
「その答えが聞きたかったの」
「は?」
「その言葉を忘れないように」
意味がわからないが満足した表情を浮かべる女神様を見ると、反論する言葉を口にはできなくなる。この世界で俺が死のうと、〈現実世界〉に横たわっている俺には一切の影響は及ばない。死ぬなら誰かの力になってから死にたいものだ。
それが俺の罪滅ぼしの一歩になるのであれば。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
話はさっきので終わりらしく、ユージオが消えていった風呂場の近くにあるテーブルに場所を移した。足を向ければユージオが本を読み終えた直後らしく、三冊ほど分厚い本が床に置いてある。
「ごめんよ集中しすぎたみたいだね」
「気にするなよ。誰だって好きな物があれば夢中になるもんだからな」
「キリトの集中力には負けるよ」
「この野郎」
床から立ち上がるユージオは、売り言葉を笑みを浮かべながら口にした。買い言葉でキリトが反論しようとしたが、その時間はないとばかりにキリトの顔が引き締められる。
「本に書かれていることはほとんど同じでさ。面白いけど物足りないんだよね」
「ここにあるのはあった事象をあるがままに保存したものだからな。面白みに欠けるのは仕方ないさ」
「カイト、後ろの女性は?」
「紹介するよ。俺とアリスに居場所を与えてくれてユージオやキリトに手を貸してくれるカーディナル。この人にも目的があるから共闘作戦でいこうってことだ」
とても簡単な説明だが、優しいユージオはそれで納得してくれたようだ。危機を救ってくれた人に対する感謝をするために動くことを決めたのだろう。
「どう動くかは決めたのかい?」
「カーディナルはこの部屋から出ると最高司祭様に見つかる。最終局面になるまでは俺たちだけで動くさ」
「どうやって辿り着くんだい?2人がいるっていっても僕らには剣がないんだよ?戦うにもこれだけじゃね」
カーディナルに風呂へ入る前に外してもらっていた鎖を、手元に持ち上げながら嘆息するユージオにキリトも難しい顔をする。剣がなければ実力は半減というよりゼロにまで落ちている。〈神聖術〉を使えるといっても。〈人界〉を守護する〈整合騎士〉に院を中退したキリトたちでは無様に散るしかない。
2名の〈整合騎士〉がいるといっても、向こうには大勢いるのだから火力不足なのは否めない。まずは取り戻すことから始めるのが最優先なのは間違いないだろう。
「剣を手に入れるのが最初だろうな。あれがなきゃやりたいこともできないし」
「それなら武具庫にしまってあるぞ」
「カイトが入れたから知っているのか?」
「入れたのはアリスだけどな。場所は覚えているから任せろ」
「そういえばカイト。君の隣にいるアリスは誰なんだい?」
何も言わず3人の会話を聞いていたアリスに視線を向けるユージオ。言っている意味がわからないとばかりにアリスが首を傾げる。首の動きと共に肩に掛かった髪がさらりと流れ、ユージオの眼を釘付けにした。
「説明してなかったな。アリスはアリス・シンセシス・サーティワンであってアリス・ツーベルクでもあるんだ」
「「なっ!」」
カイトが説明しながら右手の指を鳴らした。するとアリスを目がくらむほどの光量が包み込み姿を覆い隠す。
「いきなり呼び出すなんてどういう了見なのカイト?」
「怒んなよ。会わせたい人がいるから呼んだ」
「会わせたい人?…え?」
若干起こり気味なアリスは、カイトが指差すその先にいる人物を眼にしてその蒼い瞳を見開く。会えるとは聞いていたもののこんなに早くだとは思っていなかったのだろう。驚いて何も口にできずにいた。
「アリス?」
「ユージオ?」
互いに両手を少しずつ持ち上げながら足を一歩ずつ前に出す。
「アリス、…なんだね?」
「ユージオ、ユージオなのね?」
互いに互いを確かめるために名前を呼び合う。
「アリス!」
「ユージオ!」
互いに同時に走り出し抱き合う。これでもかと思うほど力込めて抱き締め合う。ユージオにとっては想いを寄せる女性、アリスにとっては幼馴染で婚約者であるカイトの親友。自分の手で触れれる事と再会できた歓喜で、2人の頬には二筋の川ができあがっていた。
「アリス!やっと会えた!」
「ユージオ!二度と会えないと思ってた。でもやっと会えた!」
「…ごめんよ。あの日〈整合騎士〉に立ち向かえていたらこんなことにはなってなかったのに」
「違うわ。あの日ユージオ
確かに〈整合騎士〉に反抗していたら、それも《禁忌目録》違反でユージオ
「今のも〈自我保存〉なのか?」
「ご名答。何も自分だけが残るわけじゃなくて、他人にも作用できるのが特徴であるかな」
カイトの耳にこそっと聞いたキリトの声は、再会の喜びに浸っている2人には聞こえなかった。聞こえていたとしてもユージオには理解できなかっただろう。カイトはユージオに教えておきたいが決して言わないと決めている。大切な友人には包み隠さず教えたいこともあるだろうが、大切な友人だからこそ伝えられない、伝えたくないこともある。
伝えられない罪悪感を感じながらも、カイトは今もこれからも口にはしない。
「さてと再会できた感傷に浸るのもそこまでだ2人とも。次にやらなきゃいけないことがあるからな」
「「やらねばならないこと?」」
「力を得ることさ。2人が苦戦したエルドリエが使ったのを覚えているだろ?」
「蛇になった奴か」
キリトが神器《霜鱗鞭》にやられた傷に触れながら呟く。
「ああ、あれは《記憶解放》といって神器の糧となったものの性質を色濃く受け継いでいるからな。俺とアリスのだって同じだ。あれより上の《完全支配術》を使う術式の高速詠唱の練習を含めて、〈整合騎士〉は完全に会得している」
《記憶解放》と《武装完全支配術》という意味を知るはずもない2人が首を傾げている間に、カーディナルが着々と準備を進めていく。
「ここに座って想像しなさい」
「「何を(ですか)?」」
「この世界の力は単なる腕力の源である筋力だけでは決まらないわ」
確かにそうだよな。俺より華奢な体格のリーナ先輩には何度も負けたし、弟子であるユージオにも押し負けることもあった。俺はカーディナルが示した椅子に座りながら思案に暮れていた。力で全てが決まっているなら、女性より筋肉量が多い男性が勝ってしまう。力によって決まるのでなければ、それ以外の原因があるはずなのは明白だった。
だが何によるものなのかまではわからなかった。今思えばカイトが言っていた言葉に答えはあったんだ。元首席だったウォロ・リーバンテイン先輩と立ち合う前にカイトはこう言った。
『最後にキリトが勝つために必要なのは《思い》だな。それがすべての命運をわける』
《想い》それはつまり《イメージ力》。願えば願うほど筋力では出せない力を得ることができる。ライオスらが強かったのは、上級貴族に生まれたという自尊心からだったのだと今考えれば納得がいく。平民上がりの俺たちが力を得ることを恐れるあまり思い出したくもない暴挙に出た。
《イメージ力》であるならば俺は負けない自信がある。俺が〈アンダーワールド〉に来てから無意識のうちに鍛え上げた眼に見えない力。ゴブリンと戦っている間に見つけた〈ソードスキル〉を使うために必要とした力。意識せずに手にした力ではあったが意味がなかったわけではないのだから、今まで気付かなかったことに残念がる必要はない。
「自分の中で想いなさい。それが何処で生まれ何処で育ちどのようなことを経験してきたのかを。貴方たちが知らなくても剣は知っている。手にしたこの2年間の間に培った共に過ごしたことで貴方たちの中にはここになくともそれは存在する。〈呼応せよ 相反せよ 汝の身に潜むその力 今一度現界せすべし〉」
遠くから声が聞こえるが気にはならない。
今の俺の目の前にあるのは一本の樹だ。黒くて太く、畏怖するほどの存在感を持った〈それ〉が枝を伸ばして俺に纏わり付く。
違う、纏わり付いているんじゃない。俺を取り込もうとしているのではなく俺の中に入ろうとしている。
痛みを感じず異物感も感じない。〈それ〉が入ってくることで自分に足りなかった何かが増えた気がした。見つからず探していたパズルのピースを見つけ、はめ込んだように清々しい爽快感が胸を満たす。
…なのに何故悲しいんだろう。虚無感が胸を蝕んでいく不快感が体中に広がっていく。ああ、きっとこれが《ギガスシダー》が味わってきた感情なんだ。「孤独」という俺も感じたことのある負の感情。望んでも望んでも拒絶され、いるだけで不気味なもの扱いされることへの怒り。
『復讐だ。蔑んだことへの復讐として全てを奪う』
根に力を込めて土から栄養分を吸い上げる。
『そうだこれはしても可笑しくないことだ。人は傷つけた何もせず唯此処に根を張っているだけで。…でもあの時は嬉しかった。誰かの力になれることが嬉しかった。…でも今は悲しい。必要としてくれる誰かが離れていくのが。二度とあの頃のような思いはしたくない。だから側にいさせてほしい』
俺は自分の中に入ってきたそれの感情を身を以て知った。いつまで経っても減ることのない、むしろ増えていくだけの孤独感を癒やしてやれるのは俺だけだ。だから俺に力を貸してくれ《夜空の剣》。俺はお前を見捨てたりはしない!
そう誓った瞬間俺の体が光を発した。いや、違う。発している〈それ〉は俺の中にある。《ギガスシダー》が俺を求めてくれた認めてくれたのだと直感的に察した。行こう。俺とお前が力を合わせれば負けることはない。
「…そこまで。貴方たちが描いた《剣の記憶》はしかと受け取ったわ」
「ふい~、疲れたぞ」
「あれ?いつの間にか戻ってる」
どうやらユージオも同じように《剣の記憶》と出逢えたみたいだ。眼に浮かぶ光がさっきまでとは違って明るくそして何より強い。
「これがキリトのもの。そしてこれがユージオのもの」
「うげっ」
「これは難問だね」
声が出たのは許してくれ。【system call】から始まって【enhance armament】で終わるそれを数えると、実に25個もの英単語が並んでいるのだ。英語にそこそこ慣れている俺でも眼を背けたくなる量だ。
「持ち出して良いですか?」
「許可するとでも?試験で教科書見ながら書くことなど許されない。恥を知りなさい」
「「「キリト…」」」
隣と背後から情けないとばかりに3人の声が聞こえた。ん?待てよ?3人だって?可笑しいんだけど…。
「暗記時間は30分間。覚えなければ負けると覚悟しなさい」
うおぉぉぉ!疑問を抱いている場合ではないぞこれは!覚えるぞ俺は記憶容量を限界にまで圧縮してでも詰め込んだらぁ!
俺は脳細胞をフル動員して懸命にコピー&ペーストした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「じゃあ行ってらっしゃい。時が来ればそこで会いましょう」
背後からカーディナルが楽しそうな笑みを浮かべた後に扉を閉めた。30分間の暗記を終えた俺とユージオは、コマンドが書かれた羊皮紙をカーディナルに返して、カイトとユージオと共に開けてもらった扉から出たという次第である。
背後を見れば扉はない。何の変哲もない長い廊下がずっと奥まで続いている。
「ついに入っちまったのか」
「世界を取り戻すんだから思い詰めるなよ。さてとのんびりはしてられないぞ。24時間を過ぎれば剣の所有者がリセットされるからな」
「ああ。行こうぜ」
「覚悟はできているんだから。カイト・キリト・アリス、行こう」
ユージオの掛け声に合わせて、3人は数多の〈整合騎士〉がひしめくダンジョンへと歩を進める。自分たちとここにはいない友人たちの平和を取り戻すために4人は剣を手に持ち振るう。
己の覚悟と想いを刃に乗せて。
試験嫌です。誰もが抱く気持ちでしょうが作者はそれ以上です。