アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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テスト終了〜。同時に大学生命も終了かも...。そうならないよう願うばかりですね!

では文才のない物語の再開です。


真相

未だ手に残る不愉快な感触に吐き気を催すが意志力で抑え込む。人を斬ることは2度目だというのに慣れる様子はない。むしろ慣れてはならないものではあると理解していても、守るためにはやむを得ない場合も有ると無理矢理納得させる。

 

感情を察したのか〈青薔薇の剣〉がもう一度冷気を放ち、刀身に付着していた返り血を霜に変えた。剣を振るうことで霜を払い、落とし鞘に納めてから目の前に倒れている騎士を見やる。切り裂かれた肩口や弓を握ったままの拳には、霜がまとわりついて緋色の霜柱を作り上げていた。凍りついた左手を見て動くこともままならない騎士は諦めたのか。最後の力を振り絞って周囲に放出していた威圧を解いた。

 

「...よもや我が負けるとは思わなんだな。ここまで心に刻まれた敗北の味など数える程度のものだった。...小僧は唯の反逆者ではないと申すか?」

「...罪人で反逆者なのは否定しないよ。でも僕たちは自分のためだけに剣を教会に向けてるわけじゃない。みんなのために戦ってる」

「大勢のためだと?」

「貴方が任務としてやっていることと同じだよ」

 

僕たちの会話に割り込んできたのは、制服のあちこちに焼け焦げた痕を残しているカイトだった。傷口は塞がっているようだけど、減少した〈天命〉までは回復していないみたいだ。〈空間リソース〉の少ない此処じゃ、〈天命〉を回復させるより傷口を塞いだ方が効率はいい。それも2人分ともなれば尚更ね。

 

「怪我はいいのかい?」

「アリスのおかげで傷は塞がってるよ」

「俺じゃあ片手の数しか塞げないからな」

 

僕とカイトの会話に割り込んできたのは、同じように火傷痕を残しているキリトだった。

 

「キリトに治されたら痛みが倍増する気がするけどな」

「そ、そこまで下手じゃないぞ!」

 

...売り言葉に買い言葉の2人だってことは、怪我の具合を気にしなくていいみたいだね。心配して損した気分だけど、それぐらいの軽傷で済ませた2人が凄いのか。はたまたそこまで回復させたアリスの腕前が良いのか。

 

どちらに投票するか迷うところだよ。

 

「カイト・シンセシス・サーティ、それはどういう意味なのか教えてもらえるだろうか?」

 

切り裂かれた痛みもあるだろうに、無理矢理右腕を動かして兜を脱いだ騎士は、真剣な眼差しでカイトを見つめる。

 

「貴方は民を守ることが任務ですよね?」

「然り。我だけではなく多くの騎士はそうである」

「俺も民を守りたい」

「では何故エルドリエ・シンセシス・サーティーツーをたらしこんだのだ!?」

 

激怒しながらカイトに詰め寄る騎士を止めようと、僕とキリトがカイトの前に立ちはだかろうとしたけど、カイトが肩に手を置いて何もするなと言ってきた。〈整合騎士〉であれば今のような瀕死の状態でも至近距離であれば、カイトを殺すことだってできるはずだ。それをカイトだってわかってる。でも僕たちに動くなと言っているということは、この騎士がそんなことをしないとわかっているからなのかな。

 

「たらしこんでなどいないさ。俺はありのままのことを口にしただけだ。奪い取られた大切な記憶を呼び起こすために」

「奪われた?誰に何をだ」

「最高司祭アドミニストレータによって。愛する人の記憶を」

 

強面の騎士の顔が驚愕に歪む。誰もが恐れ敬う存在でありこの世界を統括している人が、そんなことをしているなど到底信じられないことだろう。最古参の〈整合騎士〉であるなら尚更に。

 

「...最高司祭猊下がそのようなことを?有り得ぬ。何故そのようなことをしたのか」

「貴方には過去の記憶はありますか?」

「...ない」

「それは貴方にとって大切な記憶を抜かれているからだ。アドミニストレータを見た貴方は恐らく最初にこう聞いたはずだ。『貴方は神によって召喚された。記憶が無いのはそのためです』と」

「...」

 

沈黙は肯定。もし違っているのであれば否定すればいい。しないということは、それが正しく間違っていないということだ。

 

「それは嘘だ。貴方を自分の思い通りに動く駒として扱うためについた嘘。だが記憶のない貴方は、それが真実だと信じ込み今まで生きてきた」

「そのようなことをして何の意味があると言うのだ!?我は何のために今此処で地面に這いつくばっているのだ!?」

 

誉れある騎士からすれば、地に手をつくことは屈辱以外何物でもないはず。それを気にしていないのは、それ以上の衝撃が騎士を襲っているからだ。

 

「...命を絶て、〈天命〉を消してくれ」

「デュソルバートさん...」

「...ふ、ふざけるな!」

 

普段の自分からは想像もできない怒りを含んだ声が発せられた。誰が口にしたのかさえわからなかったのか。カイト・キリト・アリスまでが互いに目を合わせ、最後に視線を僕に向ける。よろよろと上体を揺らし、膝から崩れ落ちている騎士へと歩み寄る。恐ろしく感情のない顔と冷徹な瞳がデュソルバートを貫いた。

 

「命を断て?...〈天命〉を消せだって?勝手なこと言うなよ...。たった11歳の子供2人を鎖で連れ去った奴が勝手なこと言うなぁ!」

 

僕は怒りに任せて抜刀し、《青薔薇の剣》を大上段に構えた。

 

「自分から罪を犯したくて犯したわけじゃない子供を連れ去った奴が何を言うんだよ...」

 

僕の感情に触発されたのか刀身を霜が覆っていく。それだけではない。空気が冷え息が白くなる。空間をそのまま凍結させそうな勢いの冷気がここら一帯を侵略する。絶対に許されない言葉を吐いた騎士の左肩から右脇腹までを切り裂けるほどの力を込めて振り下ろそうとした刹那。暖かな温もりを持った手が僕の左肩に触れた。

 

「...なんで止めるんだいカイト!?こいつは君とアリスを連行して、当たり前の生活を奪い去った張本人なんだよ!?」

「知ってるさ。でも記憶が無い人にそんなことを頼んでも酷だ。もしデュソルバートさんが〈整合騎士〉じゃなくて、何かしらの権力者だったら俺は止めなかった。記憶が無いならそんなことをするのは許されない」

「我はそのようなことをした記憶はない」

「記憶を消されたって言ったろ?だから俺とアリスを連行した記憶が無いのに命を絶つなんてできないよ」

 

悲しげに目を伏せるカイトに僕はなんて言えばいいのかわからなかった。でもそれと同時に疑問が浮かんだ。何故カイトはアリスは記憶があるのだろう。〈整合騎士〉となれば、記憶がなくなるのなら僕たちのことを覚えていないはずだ。

 

「ねえ「デュソルバートさん」...」

 

カイトに尋ねようとしたけど、発せられた言葉に込められた意志力に引き下がるしかなかった。

 

「俺は当たり前の日常を貴方に奪われたことを絶対に許さない。貴方に記憶がなくとも、俺とアリス・ユージオは覚えてる。でも俺とアリスは貴方を責めることはしない。〈人界〉を守護する〈整合騎士〉が、罪人を連行することは間違ってないから」

「記憶がない...か。確かに我には青二才であるそなたらを連行した覚えはない。記憶と呼べるかどうかはわからぬ...だが、だが忘れられぬものが一つだけあった。〈人界〉に降り立った頃から何度も見たのだ。眠る我を優しく揺らして目覚めさせてくれる優しい声と小さな手を。指に光る銀色の指輪が何度も脳裏をかすめた。顔は逆光でいつも見えず、手を伸ばしてもいつの間にか消えている。目が覚めるとそこには誰もいない...」

 

思い出そうとしても思い出せない様子で語る〈整合騎士〉は辛そうだ。

 

「その先はきっと思い出せない。何故ならそれが貴方にとってもっとも大切な記憶であり、アドミニストレータに奪われたものだから。これから俺たちは〈セントラル・カセドラル〉を上ります。俺たちの言葉が信用ならないのであれば、傷を癒やし追ってきて始末すれば良い。これからの生き方を決めるのは貴方自身です」

 

カイトは告げるべき言葉だけを残し踊り場から離れていく。その背中を僕とキリト・アリスの順番で追った。

 

 

 

 

 

我は階段を駆け上がっていく4人の無防備な背中を、自身の弓で射貫くこと可能であったにもかかわらず行動しなかった。騎士としての誇りもあったが、何より戦う意思のない者に武器を向けることができなかった。カイト・シンセシス・サーティの言葉を全て信用したわけではない。最高司祭猊下が〈整合騎士〉の記憶を改竄し、人間ではない存在にしていたなど信じれるはずもない。

 

だが…。

 

ただ霞みである我を揺する華奢な手。我を「あなた」と呼ぶ声が脳裏を掠める理由だけがいつもわからなかった。

 

〈人界〉に降り立ってから幾度も夢に出てきたそれを掴もうとしたが、手を伸ばせば消え去ってしまっていた。疑問を感じ猊下に問うてみようと思ったが決してしなかった。尋ねてしまえば消されるのではないかと危惧したからだ。我はその夢が見れなくなることを恐れた。

 

それは長きにわたって〈人界〉を守護してきた我にとって、時たまに眼にして耳にしていた心安らぐものだった。〈整合騎士序列一位〉の御方と食事を共に話をしていたときにも感じなかった感情。それを夢にしただけで安堵できた。カイト・シンセシス・サーティの言葉が本当であれば、何故そのようなことをしたのか疑問が浮かぶ。気にしすぎだと言うこともできたはずなのに口にはできなかった。

 

それは心の何処かで我の気付かない場所で芽生えていた〈教会〉への疑念だったのであろうか。

 

「ぐっ!」

 

そう自覚した途端、右眼に今まで感じたことのない痛みが走った。眼をえぐられるというよりは、内部から圧迫されていると表現した方が正しく感じる。責務として〈ダークテリトリー〉からやってくる《暗黒騎士》と戦い、傷を負ったことを凌駕するほどの痛みだ。この痛みに比べれば、《暗黒騎士》に負傷させられた痛みなど可愛いものだ。

 

〈人界〉に召還されてから、〈教会〉へ不信感を抱くことなど一度たりともなかった。〈教会〉こそが善であり考えが異なれば、悪と信じこれまで全うしてきたつもりであった。だが〈教会〉への不信感を抱いた瞬間、右眼に走る痛みと記憶の曖昧さを考えるとあのカイト・シンセシス・サーティの言葉が正しいと思えてくる。

 

だが気になるのはカイト・シンセシス・サーティが何故そのことを知っているのだろうか。記憶を消されているのであればないはずであろう。

 

 

カイト(・・・)よ、何故貴殿は最高司祭猊下が記憶を改竄したと知っている(・・・・・)のだ?」

 

デュソルバートは膝をつき誰もおらず返答する声もない空間において、白亜の天井に向かって心からの疑問を1人呟いた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

しばらくの間、4人の靴音と息を吸い息を吐く音だけが響いていた。それ以外は耳が痛くなるほどの静寂に包まれ、戦闘を終えた後なのかと思うほどである。先頭を走るカイトの表情は見えず、ユージオ・キリト・アリスもカイトが何を思い何を感じているのかわからなかった。ただ黙々と上へと脚を動かすので、遅れぬように同じく脚を動かす以外に方法はなかった。

 

「なあ、今何階?」

 

沈黙に耐えられなくなったのか、はたまた普通に疑問に感じたのかキリトが疑問を口にした。

 

「二十九階です。数えていなかったのですか?」

「階数表示は書いてあって然るべきだと思うんだけどな」

 

アリスの情けないとばかりに返答する声に、キリトも居心地が悪いようで視線を逸らしていた。疑問を口にした理由はおそらく両方だったのだろう。

 

「それは思わなくはないが。取り敢えず五十階まで行けばわかるだろうさ」

「なんでだい?」

「五十階は《霊光の大回廊》って名前がついてて、〈セントラル・カセドラル〉における岐点の1つだから。そこには絶対的に強い〈整合騎士〉が待ち構えてる」

 

久々に聞いたカイトの声は何処か重々しい。これから先の戦いは、デュソルバートより遙かに辛いものになることが予想させた。

 

「その騎士はどれくらい強いかわかるかい?」

「そうだな。デュソルバートさんより強い人としか言えないかな」

「うげ、あの人より強いのかよ」

「〈整合騎士〉が弱いはずないと知っているはずです。先程の戦闘も然りですが、貴方の頭はお花畑ですか?」

「し、辛辣ぅ~」

「「…」」

 

アリスの棘が生えまくった言葉に、キリトは精神的大ダメージを受けたらしく、首だけをガックリと沈めながら階段を駆け上がるという秘技を身につけた。

 

「…まあ、行けばわかるだろうさ」

 

カイトの慰めかどうか微妙な台詞を受け流し3人は脚を動かす。

 

「ムギュッ!?」

 

突然、前方を走っていたカイトが立ち止まったので、ユージオはブレーキが間に合わずに背中へ突っ込んでしまった。鼻がつぶれた痛みと鍛えられた背中に触れた嬉しさの混じった微妙な表情で、ユージオはカイトの背中越しに階段上に立つ人物を見上げた。

 

「初めまして。あたしじゃない。私は〈公理教会修道女見習い〉のフィゼルと」

「り、リネルです」

「お、女の子?」

 

ユージオの眼に入ったのは、不安そうな表情で踊り場に立つ年齢が10歳前後に見える少女2人だった。




文才ほしくてたまらないですね。こればかりは書き続けないと増えないのか元からあるのか分かりませんが。

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