アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス
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調子乗ってこんなの書いちゃいました


覚悟

召還されてから早数百年の月日が過ぎ去っていた。

 

愛竜の背から見える眼下の景色は、どれほど時が過ぎても相も変わらず素朴なものだった。

 

〈整合騎士〉であるからして民との接触は言わずもがな。言葉を交すことも同じ土を踏むことさえ許されなかった。自分自身関わることを忌避していたのかもしれない。自分が気付かない心の奥深くでいつのまにか芽生えていた民への不信感。

 

眼にすることも声さえ耳にすることを避けていた我は、〈人界〉を護る〈整合騎士〉の任務として幾度も〈果ての山脈〉を越えて《ダークテリトリー》へと赴く。隙を伺い僅かに捜索の目が緩めば侵入してくる悪鬼どもを、最高司祭猊下直々に頂戴した〈神器〉で葬っていた。

 

上空から矢を番え狙いを定め放つ。命中したかどうかは長年共に過ごした愛弓が教えてくれる。悪鬼とはいえ命ある者の〈天命〉を奪うことは、始めて赴いた際にも苦痛でしかなかった。感情が希薄が故に、精神異常をきたすまではいかなかったがそれなりには苦しんだ。

 

〈整合騎士〉として召還され、〈人界〉を護ることだけに全てを費やしていた我は、ある日新しく召還された2人の整合騎士を見て疑問に感じた。

 

1人は金色(こんじき)の髪に薄青水晶のような瞳をした幼い少女。1人は茶髪で他人を庇護するような光を瞳に灯す少年。

 

『何故こんなにも幼い子供が召還されるのだ?これが〈人界〉を守護する〈整合騎士〉になれるはずがない。切り捨てしまおう。そうすればこの子らが苦しむことなく天に召される』

 

何も知らなかった我は〈天命〉を奪う機会を模索していた。他の〈整合騎士〉に見られず、知られることのない場所と時間を任務の合間に模索した。

 

そしてついに我はその機会を得た。〈セントラル・カセドラル〉80階別名《雲上庭園》にて、甘い香りを吐き出す木にもたれ肩を寄せ合っている2人の新人〈整合騎士〉を。

 

低木に身を潜め瞬時に、そして同時に〈天命〉を消せると我は確信していた。直系5メルはあるであろう巨木の幹の奥にいる2人に狙いを定め駆け出そうとした瞬間、少女の肩が震えているのが見えた。笑っているのかと疑問に思っていたが、微かにすすり泣くのを聞いて泣いているのだと察した。

 

幼くとも〈整合騎士〉たる者が泣くとは情けない。やはり子供には過ぎた地位であり、天に還すべきであると考えた。息を深く吸い呼吸を止め腰に携えた愛剣に手を添える。

 

だが我は抜刀することも、間合いに接近することができなかった。怖じ気づいたのではなく躊躇ったわけでもない。ここで自分が成さねば2人のためにも、他の〈整合騎士〉のためにもならないとわかっていた。なのに中断せざるを得なかった。

 

見えたのだ。感じたのだ。少年の瞳から発される光が我を貫いたのが。涙をこぼす少女を抱き寄せ、何かを呟いている少年の行為は別段普通だと我にもわかった。何かを堪えるようにまばたきをするのも奇妙な事ではない。

 

〈整合騎士〉は任務の過酷さ故に傷を負い痛みを無論感じる。傷が深ければあまりの痛みに涙を流すことさえある。我も最初の任務ではこっぴどくやられ、命からがら逃げ帰ってきたのだから。

 

だからその様子が奇妙とは思わなかった。だが何故我の動きは止まり背を向けてその場を去らねばならなかったのか、理解できなかった。

 

 

 

 

翌日からの様子は特に変わったこともなく、最古参の1人である我を見かければ丁寧に挨拶をしてくれる。笑顔で〈セントラル・カセドラル〉内を駆けていく幼い2人の背中を見て、今まで感じたことのない感情が少しだが湧いてきた。

 

その時は気のせいだと忘れるようにしていたが見かける度に、言葉を交す度にその感情は膨れ上がていき、いつの間にか自覚しないうちに行動や表情に表れるようになっていた。

 

〈神聖術〉や剣技で苦戦していれば、自分のやるべきことを途中で切り上げ自ら教えたりした。

 

〈神聖術〉が苦手であった茶髪の青年も、その甲斐あってかそれなりには行使できるようになった。といっても〈整合騎士〉にしては二流や三流もいいところではあったが。

 

行使権限がある程度上昇し、最高司祭猊下が満足できる程度になったときには、満面の笑みを浮かべお礼を言ってきた。

 

その笑顔は普段から兜を被り顔の見えない我を変えた。その時は自覚するまでには至ってはいなかったが、口角が僅かばかり上がっていたのだと今だとわかる。

 

あれだけ無邪気に喜んでいるのを見るとどこか安心できた。

 

金色の髪をした表情の起伏がない少女に、手を差し伸べることは一度もなかった。断られたのではなく自ら教えなかったわけでもなく、唯教えることがないほどの〈神聖術〉や剣技が完成していたからだ。いつの日か我をも越える〈整合騎士〉になるのではと危機感を抱くほどに。

 

それから月日は流れ、2年ほど前に少年は最高司祭猊下直々の任務ということで下界つまりは〈人界〉へ。〈神器〉と己の身体一つで旅立っていった。

 

その旅立つ日に見た少年の背を見て成長したと感じた。初めて眼にしたときは頼り甲斐のない、一目見ただけではこれといった特徴も、なかった幼子が今は1人で任務を果たそうとしている。

 

それを自覚すると胸に熱い何かが込み上げてきた。背が見えなくなる瞬間声が聞こえてきた。

 

「今までありがとう父さん」

 

幻聴だと、そんなことを言われる立場でも筋合いもないと切り捨てた。

 

 

 

しばらく経って、少年が帰ってくると聞いたときには握り拳をつくったものだ。

 

ようやく再会できるのかと年甲斐もなく内心高揚していたが、それをぶち壊すとばかりに〈公理教会〉に反旗を翻し、〈セントラル・カセドラル〉に宣戦を布告した。

 

当初は罪人と共に捕縛し罰を下すだけで抑えようと思ってはいたが、罪人を救出しそればかりか罪人に武器を与えるのを知った我は、処分すると決心し少年少女と罪人の前に姿をさらした。

 

最古参の〈整合騎士〉である我の実力を知らぬはずがない。投降するかもしれないと思わなかったといえば嘘になる。

 

心の何処かでそうなるのではと期待した。だが此度も裏切られ少女に至っては《武装完全支配術》を行使し、我に接近するための道を造り上げた。

 

〈人界〉の端から端までを飛び交った我でも見たことのない流派に恐怖した。矢筒が空になり我も《武装完全支配術》を発言させ戦った。

 

4人の連携は見事であった。《記憶解放》を使わなかった我に敗北をもたらすほどの連携は、よほどの信頼度がなければ成り立たない。おそらく4人は言葉を交す必要もないほどの信頼を寄せ合っているのだと認識した。

 

〈整合騎士〉には必要のない感情。

 

だが現にそれは〈整合騎士〉に勝った。打ち破り騎士に勝てるものである強さを証明して見せた。

 

負けたことに悔しさや自分への嫌悪感はまったくなかった。むしろ自分を打ち負かした4人に、祝福をしたいという謎の感情に苛まれた。

 

そして少年らは我にとって信じられない言葉を残して去って行った。

 

我は神によって召喚されたのではなく、〈人界〉に住まう我ら〈整合騎士〉が護るべき存在と同じであること。記憶がないのは最高司祭猊下が付けた枷であること。逃がさぬように自分の駒であることを認識することで、優越感に浸っていると。

 

聞いたときは信じられなかったいや、信じたくなかった。あの御方がそのような非人道的行為をするはずがないと。だが疑問に感じたことは幾度となくあったのは確かだった。顔も知らず名も知らない誰かが我を揺すっている夢を何度も見ていたから。

 

そのことを気にしだすと、そればかりが頭を駆け回り思考がままならなくなる。考え込みすぎると右眼に痛みが走った。

 

えぐられるような痛みではなく、内部から圧迫するような不快な痛みを感じた。きっとそれが少年らの言う最高司祭猊下が付けた枷なのだ。

 

走り去る4人の背中からは覚悟がにじみ出ていた。それもただならぬ中途半端な覚悟ではなく、自らの命を犠牲にしてでも突き進むといった覚悟が。

 

〈整合騎士〉でさえ死は恐ろしく、避けたい代物であるのに罪人である2人と若い〈整合騎士〉が抱くなど有り得ない。

 

見間違いで勘違いだと思い込もうとした。だが何故こんなにも胸をえぐられるような辛い哀しみが暴れ回るのだろう。張り裂けそうな哀しみが全身を駆け巡る。

 

あの2人がいなくなってしまうのを危惧しているのか?

 

馬鹿なそんなことは有り得ない。

 

我は騎士。〈人界〉を《ダークテリトリー》の悪鬼から守護する〈整合騎士〉デュソルバート・シンセシス・セブンである。人のような感情を抱くことはない。そのはずだ。

 

なのになのに何故少年の笑みが脳裏に浮かび上がるのだろう。何故少女が初めて自分に見せた僅かな微笑みが、走馬燈のように駆け巡るのだろう。

 

…あぁ、そうか。我が抱いていた感情は庇護欲でも哀れみでもない。生き物が己より弱きものに抱く、そして失いたくないものに抱く《愛情(・・)》だったのだ。

 

護りたかった失いたくなかったのだ。あの汚れのない純粋な気持ちを表した笑顔を微笑みを。

 

「これより我デュソルバート・シンセシス・セブンは〈公理教会〉に反逆し、騎士カイト・シンセシス・サーティ、騎士アリス・シンセシス・サーティワン及び罪人とともに行動を開始いたす!」

 

高らかに決意を露わにすると、痛みを発し続けていた右眼が吹き飛び、右半分の視界が失われ暗闇に染まる。このくらいの痛み、この程度の代償。2人を失うことに比べればかすり傷にもならぬ!

 

きっと我が求めていたのは、我に対価を求めず正の感情を惜しみなく、そして重すぎない程度に与えてくれる存在だったのだ。

 

少年らが言っていたことが正しければ、夢に出てきた女性と我は未来を共に約束した者同士だったのだろう。そして我の腕とその女性の腕には、今にも散りそうな儚い命を大切に抱いていたのであろう。

 

そんな日々を奪った最高司祭猊下否、極悪人よ。我はもう迷わぬ。己が決めた道を歩き、何者にも邪魔されない幸福と呼べる当たり前のような生活を取り戻すのだ。

 

たとえこの安き命散ろうとも。我が意思はきっと彼らが引き継いでくれる。

 

そして未来へと語り継いでくれることだろう。

 

何より我の愛しい子供たちなのだから。

 

「今()くぞ!」

 

そうして我は愛弓《熾焔弓》を強く握り駆け出した。




キャラ崩壊してるなぁ。でもデュソルバートさんって厳しいけど優しいお父さんなんじゃないかなっていうイメージが作者の中にはあります。


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