アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス
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こうなってしまって良かったのか?戦闘シーンがないがそれで良かったのだろうか…


英雄

アリスの危機を救った矢の来た方向に視線を向けて驚いた。「原作」では決してここに立つことのなかった騎士。武具庫前で敗北してから戦争に至るまでのことを俺は知らない。

 

共に〈人界〉を死守することを決意した民に剣の手解きをしたということ以外知り得ない。だがこうしてアリスの危機を救ってくれたこと、ファナティオさんに対して勝負を挑んだことを考慮すれば疑う余地はない。

 

俺たちの心意気に感動したかどうかはわからない。それでも俺たちに味方してくれるというだけで十分だ。背を無防備に見せているが、それは俺たちを信頼しているからであって「いつでも倒せ」と言っているわけではない。

 

だから信じてみよう。どうやってこの状況を切り抜けて俺たちを(いざな)ってくれるのか。右眼を失っていても精密射撃ができるこの人の雄志をこの眼に魂に刻み込むのだ。

 

それが俺、俺たちにできるそしてするべき義務だ。

 

 

 

 

よもやここまでの強さとは。業火を纏った…違うな業火そのものが媒体とみた。デュソルバート殿の意思を繁栄したそしてそれ自体を武器とした〈人界〉に2つとないデュソルバート殿独自の〈神器〉。

 

あまく見ていたわけではない。むしろ最大限に近いほどの警戒を抱いて対峙していたがここまでとは予想外であった。連射ではないのが唯一の幸運と言えるべきほどの技量を有していた。

 

それでも速射は困る。私の《記憶解放》は攻撃の予兆を見せることなく発動することが可能だ。逆にデュソルバート殿は業火の弦を握り引くという行動をしなければ攻撃を繰り出すことができない。

 

狭い空間とはいえ、絶えず動き続ける高速戦闘では一瞬の判断間違いや行動が命取りになるのは必須。だというのに何故デュソルバート殿の攻撃回数が私とそれほど変わらないのだろう。それと同時に何故私の不可視の攻撃を業火で撃ち落とすことが可能なのだろうか。

 

理解できぬ。最古参の騎士同士でも副騎士長の私が追い詰められることがあるはずがない。《記憶解放》を使用している私が《完全武装支配術》を使うデュソルバート殿に押し負けるはずがないのだ!

 

「隙有り!」

「ちっ!」

 

余計な思考を行った所為だろう。攻撃に緩みが生じた隙に絶え間なく矢を放ってくる。それを脚による回避と《記憶解放》での相殺で直撃を避ける。だが相殺したというのに周囲に散った小さな炎が私の鎧を焦がしていく。痛みや熱は全く感じないが不快だ。

 

まるで鎧を熱することを目的にしているようだ。暑さに耐えられなくなり鎧を脱ぐことを狙っているのだろうか。だがこの程度の熱で私が鎧を邪魔な物として捨てるわけがない。鎧は武器であり防具なのだ。

 

〈整合騎士〉が所有する鎧は優先度が高い。耐水性、耐火性に優れ防御力を備えた鎧をその程度の貧弱な火の粉で貫通するわけがない。むせかえるような熱も業火矢を弾いた瞬間に発生する余波である。

 

「これほどとは腕を上げたのだなデュソルバート殿」

「貴殿に屈していた頃の軟弱者ではないのだ!」

 

今の言葉は余計に彼を勢いづけさせる結果になるとは予想もしていなかったな。あの頃のように召喚されたばかりのように右も左も知らない騎士ではないというわけか。どれほどの時が経ったのか数えることさえ忘れていた事を思い出した。

 

騎士長の次に召喚された私は7番目に召喚された彼より若かった。〈神界〉で生まれたのが私が遅く彼が早かったのかわからない。〈神界〉での記憶は消され〈人界〉を守護する誉れある騎士となった以上過去の出来事はないに等しい。

 

思い出せない記憶など自身の剣を鈍らせるだけの異物である。だから私は敵となってしまった彼を本当の責務を全うするための騎士に戻すために全力で戦う!

 

「いいだろう貴殿のその精神しかと受け取った!こいデュソルバート・シンセシス・セブン!貴殿のその汚れきった魂を我が浄化する!」

「我の魂は汚れてなどいない!我は護る!失わない!人であった頃(・・・・・・)に護れなかった命を!」

「何!?」

 

デュソルバートが誓いを口にすると《熾焔弓》が一際強く、そして大きく明るく煌めいた。それは誰よりも強く願うからその《想い》に〈神器〉が応えたのだ。

 

《想い》すなわち《イメージ力》は全ての力の源となる。どんな不可能なことでも諦めず強く願うから応えてくれる。それは人間だろうと動物であろうと植物であろうと例外はない。《想い》は不可能を可能にし可能性を現実にする。

 

剣の腕が未熟だったとしてもある程度極めた者に勝つきっかけだけではなく、その先へと続く道を手に入れることにも繋がるものだ。

 

「人であった頃だと?ふざけるな!我ら〈整合騎士〉に過去などない!あるのは未来をそして〈人界〉を守護するそれだけだ!〈穿て《天穿剣》〉!」

「なんの。...《リリース・リコレクション》!〈絶ち昇れ《熾焔弓》〉!」

 

ファナティオの剣先にこれまで以上の光が凝縮する。それと同時に《記憶解放》を発動したことで、大理石の床に敷かれていた絨毯が円を描きながら炎を立ち上る。くすぶっていた、そして煙を少しずつ発生させていた火種が息を吹き返したように大きな炎となってファナティオを包み込んだ。

 

「我も覚悟を決めた身故殺すかもしれぬ。その時は許しを請うしかないのだ覚悟なされよ」

 

炎の壁と熱波によってデュソルバートの声は聞き取れなかったが、おそらく殺すかもしれないということを口にしているのだろう。私が負けるだと?私が死ぬだと?誰に向かって口を利いているのだ。私は〈整合騎士〉ファナティオ・シンセシス・ツーである。

 

負けるなどあり得ぬ!死ぬなどあり得ぬ!

 

「我は〈整合騎士〉序列二位副騎士長ファナティオ・シンセシス・ツーである!敵にそそのかされ神聖な場である〈セントラル・カセドラル〉に剣を向けたことを後悔するがいい!〈光は熱 光は無 目指すは最果ての境地 滅せよ〉!これが私が放つ最強の《記憶解放》である!ぜあぁぁぁぁ!」

「《燄陣望楼(しじんぼうろう)》を破るとでも言うのか!?カイト、アリス、そして咎人共逃げよ!余波が届かない遠くまで!これほどの圧力眼にしたことがない!」

「馬鹿言うな!デュソルバートさん、貴方1人で勝てないのは自分自身が一番わかっているはずだ!」

 

普段は物静かで怒りは見せても怒鳴ることなど少なかったカイトが、最古参の騎士に無礼を承知の上で喰ってかかる。その様子に3人が眼を見開いてカイトを見上げた。

 

「貴方は何もわかっていない!あの女性(ひと)がどれほど強くどれほどの存在なのか貴方なら知っているはずだ!なのに貴方はそれでも勝てるとでも言うのか!?」

「わかっていないのは貴様の方だ!」

「何ぃ!?」

「ここで全員が攻撃を受ければ終わりだということを理解していないのか!?そこまで未熟な奴に育てた覚えはないぞ!それでも貴様は〈セントラル・カセドラル〉に剣を向けると決意した人間か!?ぬぅぅぅぅ!」

「っ!」

 

振り向かず鋭い声音で言われてカイトは悔しそうに黙り込むしかなかった。どれほど自分が言葉を口にしても想いを口にしてもきっと騎士の決意は揺るがない。そのことを声音と立ち振る舞いで直感していたカイトはそう理解していた。

 

自分が〈セントラル・カセドラル〉に剣を向け、アドミニストレータを倒すことを決意したのと同等程度の固さを持っているのだと理解していた。だから何を言っても無駄だと理解し、それを踏まえて左隣に立ち剣を抜く。

 

「貴方が自分と同じくらいの決意を固めているのを知りました。ですがこの戦いをただ後ろでそして見えないところで終わるのなんか見たくも知りたくもない。貴方をアリスをユージオをキリトを失わないために。だから父さん(・・・)、俺も戦うよ」

「...まったく父親(・・)の言うことを聞かない息子だ」

 

ファナティオが《燄陣望楼》を破ろうとしているのを前にしても、デュソルバートは不器用な薄い笑みを浮かべかぶりを振った。その様子にカイトは嬉しそうな笑みを浮かべて自身の〈神器《翡翠鬼》〉を身体の中心線に構える。

 

「ぐぬぅぅぅ!これ以上は保たぬぞ。破られた瞬間は火の粉で進めぬだろうが、一拍おいてからお前の技で決めろ」

「わかりました」

 

そう言いつつデュソルバートはカイトの援護をするために弦から矢を形成する。破られる寸前の陣を維持しながら矢を創り出す精神力は生半可なものではない。この瞬間のために全精神力と集中力を注ぎ込んでいるのだ。

 

「ぐあっ!今だ!」

 

そう言ってデュソルバートが指を離す。

 

「はあぁぁぁぁ!なっ!何を!」

 

業火矢は引き絞られた弦の反動で発射されると同時に2本に分離した。1本は陣を破ったばかりで無防備なファナティオへ。そして片方はカイトの背後へと進行速度を急転換させ襟首を射貫く。その勢いは留まるところを知らずカイトをアリスたちが伏せている場所へと運び込んだ。

 

「何を!?っ!」

 

文句を口にしようとしたカイトだったが、デュソルバートのさらなる行動で辞めざる終えなかった。

 

見えないはずの右眼(・・・・・・・・)を向けるように首を向けてくる。

 

普通なら左から振り向くはずなのに右から振り向いた。

 

その意味を理解できないカイトではない。右眼の代償がカイトとアリス(自分たち)を護るためであったということを。

 

「デュソルバートォォォ!」

 

爆音と共に熱波をも吹くんだ爆風と爆煙、火の粉で視界を奪われ見えなくなった人物に声を届ける。轟音で人間1人の声が届くとは自分も思っていない。いや、それは肉体の聴覚(・・・・)であって魂の聴覚(・・・・)にではない。

 

《想い》を乗せた声ならば届くはずだ。どれほど怪我をした者にでも届くと信じていた。だがどれほど経っても返事どころか鎧の動く金属音さえ聞こえない。爆煙が晴れていくと腹部を紅くしたファナティオが立っているのが見えた。

 

「ファナティオさん!」

 

グラッと体勢を崩したのを見て駆け出し、床に直撃するまでにどうにか抱き留める。口からは血が流れ出し腹部はえぐられたような傷口になっている。だが出血は全くといっていいほどないので〈天命〉の減少は気にしなくていいだろう。

 

「アリス!治療を頼む!」

「わかりました!」

 

アリスにファナティオさんを預けてもう1人の存在を探す。

 

「デュソルバートさんいたら返事をしてください!デュソルバートさん!」

 

返事が…ない。まさか…。そんなはずがない!きっと吹き飛ばされて俺たちの背後にある階段に落ちていったんだ!そうに違いない!事情を飲み込めないキリトとユージオの側を駆け抜けて、風圧で大破した扉を抜けて階段を見下ろす。

 

「う…そだろ。そんな、そんなことがあってたまるかぁぁぁ!あああぁぁぁぁぁ!」

 

俺は泣いた。泣き叫んだ。これでもかと思うほど嗚咽を漏らして、涙が階段に敷かれた絨毯に吸い込まれていくことさえ認識する暇もなかった。

 

ただただ額を地面に擦りつけ両手を叩き付けた。

 

「何が決意だ!何が戦うだ!何もできていないじゃないか!誰1人護れないような奴がそんな言葉を軽々しく口にするな!このクソ野郎がぁぁぁ!」

 

自分への罵りと罵倒を口にしているカイトの背中を3人は眺めるしかなかった。そのカイトの先には主を失い、ただそこにあるだけの物となった〈神器《熾焔弓》〉が悲しく寂しく横たわっていた。




書いていて予想外だなと思っていました。流れは一緒なのに途中退場する人が重要人物だっていうのはマズいのでは?

楽しんで読んで貰えるのであれば願ったり叶ったりではありますが。


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